桃源郷を目指して ※ボツ   作:ツヅラP

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②:旅は情け人は心、夜に花咲く月光花

 

 

 こころの発言からあれよあれよという間に準備は進められて、気付けば俺たちは弦巻家自家用の大型バスの中に居た。

 

 この大型バス、見た目は普通だが中は長い部屋と短い部屋を二つ連結したような感じになっており、部屋間は扉で隔たれている。

 長い部屋はパーティルームで短い部屋は物置といった感じだ。

 

 何故こんなものがあるのかとこころに聞いてみたところ、『皆んなとバスで遠出って楽しそうじゃない!』とのことらしい。

 この理由で納得してしまった俺はもう駄目かもしれない。

 

 とまあ、そういう訳で、現在俺たちは別荘に向けて出発していた。

 

 見慣れた街並みからビル群へ、ビル群から山並みへと景色が流れていく様は、旅独特の仄かな寂しさを感じさせる。

 

 そんな中で俺は一体何をしているのかと言うと──

 

 

「いいですか、別荘に着くまでの間は反省の証として此処で正座をしていなさい」

 

「今回は流石にあたしもキレたから。別荘に着いたらこころ達の面倒はしっかり見てもらうからね」

 

「私もキレてっからな。ちょっとやそっとのことじゃ、ぜってー許さねぇから」

 

「…………はい」

 

 

 _______折檻を受けていた。

 

 

 俺の悪ふざけは三人の逆鱗に触れるどころか引っ剥がすが如き暴挙だったようで、拳骨だけで済んだと思ってバスに意気揚々と乗り込んだ俺を待っていたのは、恐い笑顔を浮かべた三人の修羅だった。

 

 殴る蹴るの暴行が無かったのがせめてもの救いだが、延々と続くかと思われた紗夜の叱咤と、美咲と有咲が間間挟んでくる小声は相乗効果を発して、今に至るまでにメンタルはゴリゴリ削られた。

 

 

 それから三人は最後に此方を一瞥すると、パーティルームへと去っていった。……黒服さんを残して。

 

 

「……あの、どうしてここに」

 

「隠れて護衛するのが私……いえ、私たちのモットーですから。それに、九十九様の見張りをしなくてはいけませんし」

 

「……頼まれたんですか?」

 

「いえ、全く」

 

 

『何でやねん!!』ってツッコミたくなったが、今の俺にそんな元気はなく、溜息を吐くだけで終わった。

 

 

「はぁー……。昔から変わりませんね、クロさんは」

 

「そ、その呼び方はおやめ下さい」

 

「いいじゃないですか、他に誰も居ないんですし」

 

 

「……仕方ないですね」

 

 

 そう言ってクロさんはサングラスを取ると──美女が現れた。

 

 漆に塗られたような艶のある黒髪のポニーテール、鋭い三白眼の双眸と日焼けサロンで焼かれたような褐色の肌、出るところは出た均整のとれたプロポーションとそれを包む黒のスーツは扇情的なエロスを感じさせる。

 

 そんな彼女の姿に俺はつい見惚れてしまった。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

 すると、クロさんはにんまりとした表情でそんなことを聞いてきた。

 

 

 わかっているくせに。

 

 

「……いえ、別に」

 

「ふふっ、そうですか」

 

 

「……やっぱサングラスない方がしっ『ピロリンピロリンピロリン♪』……」

 

 

 

 言葉の途中で俺のスマホが鳴った。

 

 

「どうぞ」

 

 

 クロさんは確認を促してきたので、俺はスマホの画面を見る。

 

 

 サヨポテト『ちゃんと反省したら許してあげますから、別荘まで我慢して下さいね』

 

 羊毛ミッシェル『ああ言ったけど、こころ達の面倒を1人で見るのは大変だろうからキツくなったら手伝うよ』

 

 ツッコミ芸人『……一緒に新しい盆栽の世話をしてくれたら許す、名前は2人で考えるからな』

 

 

 瞬間、俺の目から滝が流れた。

 

 チクショー……。涙が……涙がとまらねぇよ……。

 俺は彼女らの底知れぬ優しさで感涙に咽ぶ。

 

 

 嗚呼、俺はなんて幸せ者なんだろう。

 

 俺は泣きながらも表情が明るくなる。

 そして、それを見て居たクロさんは暖かな顔で見守っている。

 クロさんにはこれまでに何度も泣き顔を見せているために、照れ臭いというよりも寧ろ心地良さを感じていた。

 

 

「優しい方達ですね」

 

「……察しが良過ぎじゃありません?」

 

「いえ、こういう時の九十九様は分かりやすいですから。……これをお使い下さい」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 クロさんに渡されたハンカチで涙を拭きながら、俺たち二人は別荘に着くまで久しぶりに昔話に興じた。

 

 もちろん正座はそのままで。

 

 

 ────────────────────

 

 

 九十九さんにrineを送ってから一息ついて周りを見れば、奥沢さんと市ヶ谷さんも私と同じ様にスマホで何かを打っていた。

 多分、やっていることは私と同じでしょう。

 

 そう言えば、奥沢さんと市ヶ谷さんとは親交はあまりありませんでしたね。

 

 折角の機会ですし、仲を深めるのもいいかも知れません。

 

 ふふっ、以前の私でしたらこの様なことは決して考えなかったでしょうね。

 

 

「奥沢さん、市ヶ谷さん。少しよろしいですか?」

 

 

 私がそう言うと、二人ともびくっと身体を震わして『ギギギ』と擬音が付きそうな動きで此方を向く。

 

 

「あ、あの紗夜先輩。あたし達何か気に障ることでもしたでしょーか……?」

 

「え、えと謝りますからッ! どうか怒らないで下さい!」

 

 

 恐がらせるつもりはなかったのですが……。

 如何やら先程の九十九さんへのお説教が尾を引いている様ですね。

 

 

「二人とも落ち着いて下さい。私は誰彼構わず怒るほど短気ではありませんし、そもそも怒るつもりもありません」

 

 

 怒るのは九十九さんと日菜くらいです、と内心呟く。

 

 私の言葉を聞いて二人は『ふぅー……』

 と安堵していた。

 

 

 そんなに私は恐そうに見えたのでしょうか……。

 

 

「そ、それじゃ何で私達に声をかけたんですか?」

 

「いえ、その……れ、連絡先を交換したいと思いまして」

 

 

 私は市ヶ谷さんの問いに対して気恥ずかしげにそう答えると、二人とも口を開けて『ポカーン』としている。

 

 な、何か変なことを言ったでしょうか? 

 

 私は自分の言葉に不安を感じていると──

 

 

「さ、紗夜先輩が連絡先を……」

 

「交換したいだなんて……」

 

「市ヶ谷さん……あたしのほっぺ抓ってもらっていい?」

 

「わ、私のもよろしく頼む」

 

 

 そして二人はお互いのほっぺを抓り合う。

 

 

「「イデデッ!!」」

 

 

 コントの様な二人の姿を見ていると、馬鹿にされている様な気がしてきた。

 

 

「……二人共……私を馬鹿にしてませんか?」

 

「「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ!!!!!!」」

 

「連絡先の交換ですよねッ!!」

 

「すぐしましょう!!」

 

 

 二人はあっさりとスマホを差し出してくる。

 少し釈然としませんが、まあ、いいでしょう。

 

 私もスマホを出して二人と連絡先を交換する。

 

 

「……これで完了です、紗夜先輩」

 

「奥沢さん」

 

「えーっと、まだ何か?」

 

「いえ、大したことではないのですが。そ、その〝先輩″ではなく〝さん″付けで呼んでくれませんか? 市ヶ谷さんも同様に。これからは先輩後輩という関係ではなく、友人として付き合いたいですし……」

 

「紗夜先輩……」

 

「氷川先輩……」

 

「で、ですから二人共〝さん″付けで……」

 

「あ、ああ、すみません。あの、ならあたしのことも名字じゃなくて名前で呼んでくれませんか?」

 

「わ、私もその方がいいです」

 

「……ッ!! そ、そうですね。私だけ呼び方を変えてもらうのもフェアじゃありませんし。……美咲さん、有咲さん、これからは友人としてよろしくお願いします」

 

「「……ッ!!」」

 

「……こちらこそ、紗夜さん」

 

「さ、紗夜さん、よろしくお願いします……」

 

「ふふっ、何だか照れ臭いですね」

 

「まあ、最初はそんなもんですよ」

 

 

 

 それから私たち三人はたわいのないことを語り合った。

 友人が少ない私にとってその時間は何だか貴重なものに感じたけれど、これからはそれが増えていくと思うと嬉しくて堪らなかった。

 

 

「おねーちゃ〜ん♪ 何の話ししてるのー?」

 

「ふふっ、日菜には関係のないことよ。ね? 美咲さん、有咲さん」

 

「アハハ、そうですね、紗夜さん」

 

「はい、紗夜さん」

 

「えー!? 何か仲良くなってるー!!」

 

 

 日菜はとても驚いている様だ。

 その表情を見ると何だか日菜に勝った様な気がして心地良かった。

 

 

「日菜、こっちへ来て」

 

「……え……? いいの?」

 

「何言ってるの、私たちは姉妹じゃない。遠慮なんてする必要ないわ」

 

「うぅぅ……!! おねーちゃーん!!!」

 

 

 日菜が飛び込んでくる。

 私はそれを何とか受け止めると、日菜を優しく撫でる。

 

 本当に私は丸くなりましたね。

 一体誰が私をこんな風にしたのでしょうか。

 思い浮かぶのはRoseliaのメンバーと、今着けている日菜とお揃いのネックレスをくれた一人の男。

 ふふっ、何時か恩返しをしないといけないですね。

 男の方には特に念入りに。

 

 そこまで考えて一旦思考を切り上げ、私は撫でられてる日菜を見ていると、ある古い記憶を思い出した。

 

 それは、幼稚園で幼い日菜を撫でている私だった。

 

 そう言えば、幼稚園に通っている頃は良くこうして日菜を撫でていた。

 まだその時は私達は仲良し姉妹で、甘えてくる日菜がどうしようもなく可愛かったのだ。

 でも、段々と離されていくことに嫉妬や恐怖などの悪感情を覚えて何時しか撫でるのをやめていた。

 

 そのことを思い出すと身体が強張って撫で方がぎごちなくなるが、日菜はそれを敏感に感じ取り囁いてくる。

 

 

「大丈夫だよ、おねーちゃん」

 

 

 日菜は優しい笑顔で撫で返してくる。

 私は恥ずかしくてその顔を直視することが出来ず、顔を横に向けると──

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 ________二人と目が合った。

 

 私は赤面して『見ないでッ!!』と叫びそうになるが、ぐっと堪える。

 目の前で勝手に撫で合いを始めたのは私と日菜であるから彼女達は何も悪くない、寧ろいきなりこんなのを見せられて迷惑を被っている側なのだ。

 だから、叫ぶ資格など私にはない。

 

 

 ならせめて、日菜の撫で回す手を頭から離そうとするが……離れない。

 日菜は『絶対離れない!』とでも言いたそうに私に抱き付いている。

 

 

 私は如何したものかと頭を悩ませるが、二人はそんな私のことなど露知らず、微笑ましそうな顔をしている。

 

 

 

「ひ、日菜、二人が見ているのだし、そろそろ……」

 

「えー? 大丈夫だよー? 二人共駄目かな?」

 

「「いえいえ、どうぞどうぞ」」

 

「あ、あなたたちぃ……!」

 

 

 その後、私の公開羞恥プレイは日菜が満足するまで続き、観客は何時の間にか九十九さんを除く全員となっていた。

 

 くっ、いっそのこと殺して……ッ!! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「美咲さんは羊毛フェルトが趣味なんですね」

 

「はい、結構楽しくて。言われれば何か作りますよ?」

 

「そうですか、でしたらフライドポテトをお願いしてもよろしいですか?」

 

「……え? ポテ……ト……?」

 

「はい」

 

 

 

 

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