激闘のバトミントンの後、夕食までの間を自由時間として各々過ごすこととなり、俺は割り振られた個室でまったりとしていた。
なんとも親父臭い自由時間の過ごし方だが、色々あって疲れたのだ。許してほしい。
それにしても──
「ふかふかだなぁ……」
俺はベッドに大の字になりながら呟いた。
このベッド、家にあるのとは比べ物にならないくらい寝心地がいい。うっかりしてると寝てしまいそうだ。
「ふぁ〜ぁ……」
おっと、いかんいかん。言ってるそばから寝そうになってしまった。
時間は有限なのだ。この施設のような別荘を楽しまねば。そうと決まれば、少しだけ休んでから遊ぼう……
──────
──ー
──
「……ぉーぃ」
声が聞こえる。
「おーい」
有咲の声だ。
「おーい、起きろー」
起きろ? …………あ。
「お、目が覚めたか」
「……有咲、今何時だ?」
「時間? 3時過ぎだけど……」
随分寝たと思ったけど、そうでもないようだ。起きたら夕食でしたっていう最悪の展開にならなくて良かった。
俺は安堵の溜息を吐いた。
「起こしてくれてありがとな、有咲」
「お、おう。別にいいけどよ……」
有咲はそう言ってぷいっとそっぽを向いた。
お礼言っただけで何を照れてるんだか……ホント可愛いやつ。
「……てか、寝るほど疲れたなら私達を頼れば良かったじゃねぇか」
有咲はそう言ってくれるが、それは無理な相談だった。
「普段なら頼ったかもな。でも今回は屋敷のこともあるし。……それに怒られた後のrineで改めて実感したんだ、愛されてるなぁって。だから、ちょっとした恩返しのつもりだったんだけどな」
俺は照れ臭そうに頬を掻きながらそう言うと、有咲はぼっと火が出そうなほど顔を赤くした。うん、有咲は照れ顔が一番だ。
「ち、ちげーし!! 別にあ、愛してなんか……」
「違うのか?」
「ち、ちがくな……ってあ──ー!! もう!! なんでそんな恥ずいこと言わなきゃなんねぇんだよ! てか、なんでお前は言えんだよ!!」
「旅の恥はかき捨てって言うだろ?」
「それ使い方間違ってっからッ!! 周り知り合いだらけだっつーの!!」
「ハハッ。そうだっけ?」
「〜〜〜!! ったく………………ん」
有咲はベッドに上がって正座をしながら恥ずかしそうにしている。
え? もしかして……。
「……有咲、お前まさか……膝枕……?」
「……か、勘違いすんな! 言葉で言うのが恥ずいからって訳じゃねぇからな! 疲れてんなら膝くらい貸してやるってだけだからなッ!!」
はいはい、ツンデレ乙。
「じゃ、遠慮なく……ドーン」
俺は有咲の膝に飛び込んだ。
「ちょままッ!!!」
おお……。おっぱいで顔が見えねぇ。恐るべし乳神様。
「……ちっとは躊躇いとかねーのかよ」
「そんなものはオッちゃんに食わせとけ」
「はあー……。おたえに殺されるぞ……ほら、気持ちいいか?」
有咲は俺の頭を撫でながら具合を聞いてきた。
そんなん最高に決まってますやん!
「そういやー、有咲はどうして俺の部屋に来たんだ?」
「……今はいいよ。膝で休んどけ」
「そっか」
まあ、予想はついているんだがな。
「仁淀川」
「ん? 何だ急に川の名前なんか出して」
「盆栽の名前だよ。そのために来たんだろ?」
有咲の手が止まる。わかりやすいなー。
「どうだ? 有咲に合ってると思ったんだけど」
「〜〜〜〜///」
有咲は返事の代わりに撫でる力を強めてきた。うん、嬉しそうで何よりだ。
俺はそのまま有咲に撫でられ続け、再び訪れた気持ちのいい睡魔に意識を手放した。
“仁淀川“ 仁淀ブルーとも呼ばれる日本でも屈指の美しい川である。
「スー……スー……」
膝から寝息が聞こえる。
如何やら九十九は寝てしまったらしい。
此処からでは胸が邪魔でよく顔は見えないため、九十九の頭を膝から降ろす。
そして、私は馬鹿の寝顔を見ながら思っていたことを吐露した。
「……ばーか、無茶しやがって。そんなことしなくても恩なら返して貰ってるっつーの」
そう、九十九が変に恩返しなんてする必要はない。
だって、私にとって九十九が側に居てくれるだけで十分恩返しになっているのだから。
他の奴だって私みたいなのが多いだろう。
だから、無理して九十九が気を遣う必要はないのだ。
「はあー……。好意には鋭いのにそういうのは気付かねーんだな」
私は何気なしに馬鹿の頬を突く。
すると、馬鹿は『うーん』と唸った。
その反応が面白くて、私は何回か繰り返した。
「ふふっ。おらおら、惚れさせたバツだ」
そして私は一頻り楽しんだ後、多分穏やかな表情で、先ほど言えなかった言葉を爆睡中の馬鹿に囁いた。
「……ぁぃしてるよ、馬鹿九十九」ボソッ
「「九十九(つーくん)遊びに来たよぉー!!!」」
「し〜〜〜〜! 今九十九寝てっから! 大きな声出すなー!」
◇◇◇
「今から天体観測をしに行くわよ!」
夕食と風呂を済ませて大広間で大富豪をしていた俺達に、クロ服さんに耳打ちをされたこころはそう言い放った。
そう言えば、今回のプチ旅行の目的は天体観測だった。今朝に日菜とこころが獅子座流星群が如何とか言ってた気がするが、今までが濃すぎたためにすっかり忘れていた。
それから俺達はクロ服さんに連れられて、ゴルフカートを大きくした様な乗り物に乗り込んだ。
あれ?
「こころ、案内の時こんなの乗ったっけ?」
俺がそう言うと、こころはきらきらした瞳を向けながら言った。
「ふふっ。実は皆んなを驚かせようと思って今から行く場所は案内から外したの! きっと驚くわ♪」
「まったく、弦巻さんは……」
「アハハ……。なんかごめんね、紗夜さん」
「いえ、ただ弦巻さんらしいと思っただけですよ」
隣に座ってる紗夜と、その後ろの席の美咲がそんなことを仲良さそうに話していた。
その様子に未だ違和感を覚えるが、微笑ましいのは確かだった。
「こころ」
「何かしら?」
「改めてありがとな、皆んなを誘ってくれて」
「ええ♪」
──────
──ー
──
「おお……」
車から降りた俺達の目の前に現れたのは、床以外ほぼ全面ガラス張りの現代アートの様な建物だった。
車の中のこころの発言通り、皆んな一様に吃驚し、口々に驚きの声を上げる。
そんな俺達を見てこころは嬉しそうだった。
「では皆様、中へどうぞ」
そう言われて俺達は中へ入り、又しても驚愕する。
「わー! あったかいね!」
はぐみの言う通り、中は快適な温度に保たれていたのだ。床暖房の進化バージョンだろうか。弦巻家の科学力、恐るべし。
しかし、驚きはそれだけに留まらない。
「ねー! 有咲! このソファふかふかだよー!」
「こらッ! 香澄! 暴れるんじゃねー!」
一人掛けのソファベッド人数分に、複数人用の大きなソファも幾つか設置されており、触ると滅茶苦茶柔らかかったのだ。香澄の気持ちもよくわかる。……奥のスペースには何も置かれていないがそういう設計なのだろうか。
「なんかプラネタリウムみたいだね」
「そうだな、花音」
そう、此処は正にプラネタリウムの様だった。
違いがあるとすれば設備のグレードと、観るのは本物の星か如何かってくらいだ。
それから、俺達は何故か割り振られていたソファベッドにそれぞれ向かうと……
「皆んな、ソファに付いてるランプを点けてみてちょうだい!」
こころがそう言うので、俺達は席に着くと同時にランプを点ける。
同じタイミングで建物周りの照明もゆっくりと消えていき、ランプの淡い光だけが優しく俺達を包みこむ。何か良い香りがする。
あっ……もしかして、このランプって──
「こころちゃん、これってアロマランプ?」
「ええ、前にあなたに聞いて思いついたの。如何かしら?」
「凄いよ! こころちゃん! すっごくるん♪ ってきた!」
「ふふっ♪ よかったわ♪」
褒められたこころも褒めた日菜も、どちらも満面の笑顔だった。そのやり取りを見ていた俺達も何だかほっこりしていた。癒されるなぁ〜。
「お嬢様、そろそろお時間です」
「ええ、わかったわ。……皆んな! そろそろ流星群が見えるわ! 天体観測をしましょう!」
俺達はその言葉で腰掛けていた状態から寝転がる。
________そして、そのあまりにも美しい夜空の絶景に圧倒された。
雲一つない夜空に煌々と輝くのは、数えるのも馬鹿らしくなる幾千もの星々。純黒のカーテンに散りばめられたその様子は、まるで星が生きているかの様だった。そう、百万ドルの夜景が人々の命の灯火だとするならば、この夜空は星の鼓動だった。
香澄の言う『星の鼓動』とは違うのかも知れないが、俺にとってはそうだった。
「なあ、香澄」
俺は隣のソファベッドで寝転んでいる香澄に言った。
「俺も『星の鼓動』ってやつがわかったかも知れない」
「ッ! うん!」
俺は再び夜空に視線を向ける。
________すると…………
「……わぁ」
隣の香澄が溜息に近い感嘆を漏らした。
他の面々もそれに追随する様に言葉にならない感嘆を漏らす。
________遂に、始まったのだ。
細い、けれども強い輝きを放って光は堕ちていく。儚くも美しいその一瞬の出来事はまるで星から見た人の一生の様だ。そして、一つ終われば次へ、それが終わればまた次へ、また、また、また……と何時しか夜空は流星でいっぱいになった。星が降っている様なその景色は、宛ら夢の様で、俺は瞬きを忘れて釘付けになっていた。
──────
──ー
──
「うぅ〜! 弾きたいッ!!」
流星群を眺めていたら突然放たれた大声に、殆ど全員が吃驚した。花音なんて『ふえぇ!』と言って隣の美咲に飛びついていた。サンドされたい……。
そして、驚かなかったこころは『待ってました!』と言わんばかりに香澄に続く。
「香澄ならそう言うと思っていたわ!」
こころはそう言って、何時の間にか握っていたリモコンのスイッチを押した。
________ウィーン
静かなギミック音がしたと思ったら、次の瞬間には建物内を絶叫が満たした。
『えぇぇぇぇぇぇ!!』
なんと先程不自然だと思った空きスペースからステージとドラムが、ソファベッドの脇からそれ以外の各々の楽器が、それぞれせり出してきたのだ。
だが俺は楽器を弾けないからか、カスタネットが代わりに出現していた。解せぬ。
「事前に皆んなのと同じものを用意したわ! ここなら誰にも迷惑を掛けないし、それに星空の下で弾くのってすっごく素敵じゃない?」
「こころん名案だよ! じゃ、皆んなで弾こう!」
香澄のこの宣言で、今夜限りの音楽祭が開催された。
皆んな思い思いに楽器を弾いていく。
紗夜がギターを弾いていたら日菜が乱入したり、香澄とこころが突然きらきら星を歌い始めたりと、其処にまとまりなんてあったもんじゃない。 だけど、気持ちいいし楽しい。
その証拠に楽器を弾いている皆んなの顔は明るかった、頭上に輝く星に負けないくらいに。
「「「〜〜♪ 〜〜♪」」」
そうして、夜は更けていく。
だが、俺達の音楽祭はまだまだ……終わらない。
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翌日の朝、帰りのバスに乗る直前に日菜がある提案をした。
「ねー! 最後に皆んなで写真撮ろうよ!」
それに同意した俺達は、最後に全員で共有できる思い出を作り、長かったようで短かった旅を締めくくった。
◆◆◆
「クロさんも最後に記念に撮りませんか?」
「ええ、構いませんよ」
「案外すんなりOKしてくれるんですね」
「私は気まぐれですので」
「……そうですか」
「はい」
「あと、頼みたいことが____ 」