桃源郷を目指して ※ボツ   作:ツヅラP

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12話 前編:乙女を全うするは上となし、乙女を破るはこれに次ぐ

 

 

 翌日の午後、俺は手土産を持ってとある場所に来ていた。其処は家で、こころ邸と比べるべくもないが其れでも知り合いの中では大きい方だった。

 

 ──胸も。

 

 

 ピンポーン

 

 

『はーい』

「すみません、八原九十九です」

『あらー、久しぶりじゃない。ちょっと待っててね、すぐ開けるから』

「はい」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ふふっ、本当に久しぶりねぇ。最後に来たのはいつだったかしら?」

 

 

 目の前にいる女性はある人の母だ。だが、その身体的特徴で誰の母なのかは一瞬で察することが出来る。落ち着いた雰囲気に黒髪ロングと白い肌、そして……

 

 ────主張が強過ぎる神の寵愛を受けし神乳。

 

(はぁ、親子揃って素晴らしい)

 

 俺はその御姿に見惚れつつも、若干皮肉の篭った質問に答える。この人は親バカなのだ。

 

 

「中学三年の……冬ですかね。すみません、中々来れなくて」

「いえ、いいのよ。またこうして来てくれたんだし、燐子も喜ぶわ」

 

 

 ──そう、この人は燐子の母だ。

 

 

「そうですか? 今更な気が……それに外ではよく会いますし……」

「はあ、まだまだね。女の子ってのはそういうものなのよ、覚えておきなさい」

「は、はい……」

「いい? 乙女心はね、とっても繊細なの──」

 

 

 如何やら俺はまだまだ乙女心が理解出来ていなかったらしい。其れに関しては結構自信があったのだが……。いや、元乙女がそう言うのだし事実なのだろう。己を知り乙女心を知れば百戦危うからず、精進せねば。

 

(……っと、それはそれとしてそろそろこの手土産渡さないと)

 

 そして俺は乙女心について語り始めた実年齢40オーバー、見た目20代のリンコママに手土産を渡した。中身はウチの近所で評判のケーキだ。

 

 

「あら、ありがとう。……九十九君は本当にこういうのマメよね。ふふっ、誰に仕込まれたのかしら?」

 

 

 貴方からですよ、とツッコミたいが抑える。この人はツッコミを望んでいるようだが、其れをすると更に話が長くなるから要注意だ。燐子と違って饒舌なんだよね、この人は。

 

 それから少しの間会話をした後……

 

 

「じゃあ、そろそろ燐子呼んでくるわね。…………ふふっ、お泊まりするって言ってきた時のあの子、嬉しそうにしてたわよ」

 

 

 リンコママはそう言って、燐子を呼びに行った。

 

(そっか、燐子喜んでたか)

 

 今回の訪問の目的は燐子に会うこと──ではない、迎えに来たのだ。リンコママの言った通り、燐子は俺の家でお泊まりをするから。何故そうなったのかは詳しく説明すると長いので省くが、お泊まりのメンバーは巴、あこ、ひまり、燐子だ。オナ禁二日目、泣きたくなるよ……。

 

 因みに燐子が泊まることを他のメンバーは知らない。

 

(あいつら驚くかなー)

 

 

 と考えていたら……

 

 

 

 ──ガチャ

 

 

 

「九十九君、お待たせ」

 

 

 リンコママの声で我に返った。そしてリビングの扉に目を向けると……

 

 

「つ、九十九くん……おま、たせ……」

 

 

 腰まで伸びた純黒の髪、精巧に造られた人形の様に整った容貌と白く透き通った肌、そして厚手の服の上からでも分かるグラビアアイドル顔負けの艶めかしいスタイル。おっぱい。

 

 

 

 ────深窓の令嬢。

 

 

 

 

 ゲーマーだけど、俗世間にずぶずぶだけど、彼女──燐子を見て真っ先に浮かんだのは、その一言だった──。

 

 

「か、可愛い……あ……」

「ッ‼︎ か、かわいくなんて……ない、よ……」

 

 

 そう言って、燐子は頬を染めて俯く。おっふ。

 

 

「あらあら、うふふ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 リンコママに笑顔で見送られて暫く、俺達はウチまでの道を並んで歩いていた。

 

 

「……」

「……」

 

 

 俺達の間に会話は少ない。……いや、全く無いと言っても過言ではないだろう。だが、この沈黙に辛さは感じない。寧ろ安心感に満たされるような、そんな気さえする。隣の燐子も同様であるために、無理に話し掛けることはない。

 

 

 ……ただ、まあ──

 

 

「……燐子、手を繋いでもいいか?」

「……うん……いいよ……」

 

 

 ──このくらいは、ね。

 

 

 そして、俺達は残り僅かな道を手を繋ぎながら歩いた。……恋人繋ぎで。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ピンポーン

 

 

(お、来たかな?)

 

 時刻は午後四時過ぎ、燐子とゲームをしてから二時間といった処だ。巴達と約束した時間とは少し違うが、まあ誤差の範囲である。

 

 さてと……

 

 

「じゃ、いくか」

「うん……でも大丈夫、かな……私がいて……」

 

 

 燐子は自信無さそうに、そう言った。

 

 

(ったく、燐子のネガティブシンキングは筋金入りだな…………よしっ、決めた)

 

 

 俺は俯いている燐子に躙り寄る。

 

 

「…………」ジリジリ

 

 

 すると、燐子は無言で迫ってくる俺に気付いて後退りをする……

 

 

「……つ、九十九……くん…………ぁ……」トン

 

 

 ──が遂には壁に退路を阻まれ、か細い声を上げた……。

 

 

 

 ぐへへ。

 

 

 

 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 

 

「開いてるぞー」

 

 

 俺は玄関の扉に向けて、そう声を掛けた。今は手を満足に使える状態では無いので致し方無いのだ。

 

 そして外から『おう』と巴の声が聞こえると同時に、扉が開かれる。

 

 

 ──ガチャ

 

 

 

「つく兄──!!!!」

 

 

 開き切っていない隙間から紫色の髪をした少女──あこが飛び出して来たが、俺……いや、燐子を見て驚きの声を上げた。

 

 

「えぇぇぇ⁉︎ ──」

 

 

「おいあこ危ないだろー……ってどうしたんだ? ──え? ──」

「九十九おくれてごめーん! ……ってふたりともどうしたのぉぉぉぉぉぉ⁉︎ ──」

 

 

 続く巴もひまりもあこ同様に驚愕した。

 

 

『──燐子さん(りんりん)‼︎⁇』

 

 

 ──お姫様抱っこをされている燐子の姿に。

 

 

「……み、見ないで……ください……!」

 

 

 燐子は堪らず赤面した。

 

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