桃源郷を目指して ※ボツ   作:ツヅラP

3 / 21
2話:登校

「それでね、こころちゃん──」

 

「それはとっても楽しそうね──」

 

 

 現在、俺はこころの送迎車の中で会話をしている見目麗しき二人の姿に癒されながら、それぞれの学校に向かっていた。

 

 二人とも人目を惹きつける程の美貌で、その魅力はそこらのモデルを凌ぐ。

 日菜、こころ……お前たちがNo. 1だ……‼︎

 No. 1が二人って可笑しい気がするが、気にするなかれ、他の娘にも思ってるし今更である。

 皆んな可愛くて皆んな一位、それで良いじゃないか。

 

(てか、よく仲良くなれたよなぁ)

 

 そう思って浮かび上がるのは小学生の頃の俺と今は亡き親父の姿。

 

 

 俺はそこまで考えると、目を閉じながら少しの間物思いにふけた──。

 

 

 ▽▽▽

 

 

 親父は俺が小学生に上がる前に他界した。

 

 優しく豪快だった親父はその最期の瞬間まで苦悶の表情を見せずに笑顔だった。

 

 しかし、俺は泣いた。泣き続けた。

 

 泣いたって親父は戻らないのはわかっていたが、止められなかったのだ。

 

 

 ──俺は親父を本気で慕っていたから。

 

 そして声が枯れ、涙が枯れ、精も根も尽き果てた俺に残ったのは親父の最期の言葉だった。

 

『沢山の嫁さん貰えるくらい、でっけぇ男になってみせろ』

 

 それは篝火となり、暗く沈んだ心を激しく照らして…………俺は決意した。

 

 それからの俺は正に行動力の化身だった。

 

 親父の遺言をそのまま解釈した俺はでっけぇ男になるために気になるスポーツや武術を学び、習い事や学校が無い日は美少女と関わりを持つために様々な場所を自転車で行ったり来たりしていた。

 

 

 その成果が今の状況というわけだ。

 

 正直馬鹿だったと思うが、それと同時に感謝もしている。

 こんな冴えない見た目の俺でもここまでのし上がることが出来たのは、間違いなく親父とその時の残念な頭のおかげなのだから。

 

 だが得るものもあれば、失ったものもあるわけで。

 

 俺の場合、それは男の友情だった。ウホッ

 

 進学先を地元の奴が殆ど選択しなかった学校にしたことで、それに纏わる色々なごたごたは解決したのだが、その頃には俺の身も心も色々な意味で限界を迎えていた。

 万が一、バレてまた面倒なことにならないためにもその学校では陰キャの振りをしている。…………振りだから、プロじゃないから。

 

 因みに、そのことを彼女達は知らない。

 俺も知って欲しくはないので、これからも言わないつもりだ。

 

 

 

 △△△

 

 

 

「つくもーん」

 

 

 

 昔を振り返っていたら、日菜に呼び掛けられた。

 どうしたんだろう。

 

 

「ん? どうした日菜?」

 

「どうしたじゃないよ。学校に着いたからあたし行くね」

 

 

 もう着いていたのか。

 

 知らないうちに時間がっていたようだ。

 

 日菜との時間を無駄にするなんて……。

 もっと日菜を眺めたかった……! 俺としたことがっ……! クソッ! 

 

 だが、そんな邪な考えはおくびにも出さずに、満面の笑みで別れの挨拶をする。

 

 

「そっか、また今度な日菜」

 

「うん、またね。つくもん、こころちゃん」

 

「またね! 日菜!」

 

 

 

 そうして、日菜が去った後、今度はこころの学校に向かう。

 

 これ以上は時間を無駄にしまいと、俺はこころと二人きりの時間を楽しむことにした。

 

 

 ──どのように楽しむか、だって? 

 紳士()の皆様方、無粋なこと聞かないで下さいよ。そんなの決まってるじゃないですか。グヘヘ。

 

 

「九十九どうしたの? 顔がにやけてるわよ?」

 

「……!? ……何でもないよ。ただ、こころが可愛いなと思ってさ」

 

 

 危ない危ない。思考がトリップしてしまうところだった。いや、してたか。

 

 慌てて反応してしまったが、今の返答は絶妙なカウンターになっただろう。

 宮田選手も吃驚のジョルトカウンターだ。

 

 これには流石のこころも顔を真っ赤に──

 

 

「フフッ、ありがとう。けど、九十九にそんなキザなセリフは似合わないわ。だってかっこよくないもの!」

 

 

 ──グハッ!! 

 

 カウンターにカウンターを合わせてきただと!? これには宮田選手もダウンだ! ついでに俺の心はKOだ……。

 

 

「そんなに落ち込まないで! 九十九の魅力は顔じゃないわ!」

 

 

 そう言って、こころはニコッと微笑んでくる。

 

 

 アーン! カ・ワ・ウィ・ウィ──!! 

 

 おお、聖母こころよ。貴女は砂漠に咲く一輪の花のように美しいお方だ。どうか変わらずそのままでいて下され。

 

 

「SM嬢のように飴と鞭を使いこなすなんて、やるなこころ」

 

「SM嬢? 飴と鞭? 何のことかしら?」

 

 あ、しまった。

 

「いや、何でもない」

 

「とっても気になるわ!」

 

「なら、美咲に聞いてくれ。俺ど忘れしちゃった」

 

「ええ、そうするわ!」

 

 

 楽しい時間は、あっという間に過ぎて行くもので、こころともすぐにお別れになってしまった。

 

 そして、俺は遠ざかって行くこころの背中を見ながら、心の中で懺悔した。

 

 

「(美咲ごめんな。今度何か奢るから許してちょ)」

 

 

 奥沢美咲──やれやれ系美少女でこころが属すバンドのマスコット兼DJだ。

 しかし、着ぐるみを着ているため、メンバーの大半は中身が彼女であることを知らない。

 ハロー! ハッピーワールドで一番の苦労人である。

 泣けてくるぜッ……!! 

 

 苦労人のあいつなら上手く乗り越えてくれるだろう。

 

 その後、車は親切に、俺の通う学校の近くまで送ってくれた。

 こころが来る日は毎回そうなのだが、本当に黒服さんには頭が上がらない。

 

 

「黒服さん、いつもありがとうございます」

 

「いえ、お気になさらずに。今後ともお嬢様をよろしくお願いします。では、これで」

 

 

 そう言って、黒服さんは帰っていき、俺の携帯には美咲からお怒りメッセージが届いていた。

 

 ピロリン♪ 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。