美咲に謝罪メッセージを送った後、何事もなく時間が進み、俺は帰宅途中だった。
この後も特に予定がある訳ではないので、久しぶりに秘蔵のDVDを一気見しようかと思っていたら──
──ダキッ!
背後からいきなり誰かに抱きつかれた。所謂あすなろ抱き状態だ。
だが相手は変質者と思われる。ワロエナイ。
「アヒャ」
思わず奇声をあげてしまったが、こんな状況だし、仕方がないだろう。
俺は拘束から逃れるために腕に力を込めるが、次の瞬間にはその力を抜いていた。
何故なら──
「____やっと捕まえたよ。私のジュリエット」
犯人は薫だったからだ。
この芝居くさった口調の持ち主は彼女以外にありえない。
薫──彼女は瀬田薫といって、羽丘女子学園ではこの王子様キャラと中性的な美貌で女子からモテモテらしい。
俺より一つ学年が上だ。
ついでに言うなら、日菜も同じ学園の二年生である。
さて、話を元に戻すが、薫だとわかったら、俺には振り解く理由がないし、逆に振りほどきたくなくなってしまった。
しかし、せっかくの茶番なので、ここは薫に乗ることにしよう。
薫から仕掛けてきたんだ。覚悟はできてるよなー?
抱きついていいのは抱きつかれる覚悟がある奴だけだからなー!? グヘヘ。
俺は一旦薫から離れ、シスターが祈りを捧げるようなポーズになり、目を潤ませながら精一杯庇護欲をそそりそうな表情で薫に告げる。
「ああ、ロミオ。やっときてくれたのですね。(裏声)」
「ブフッ!!!」
薫が吹き出したが、気にせず続ける。
「私はこの時を待っていました。(裏声)」
そう言って、俺は薫に抱きつく。
一応言っておくが、これはセクハラではない。
向こうから先にしてきたので、文句を言われる筋合いはない。
だから、誰が何と言おうとセーフだ。セーフったらセーフだ!
「キャッ……//」
カワエエノ〜。ギャップ萌え最高じゃ〜。
薫の表情は伺えないが、顔が真っ赤に染まっていることだろう。肩があったかいし。
どんなにキャラ作りしてても、やはり薫は薫だ。攻められるのは弱い。
俺は、その昔から変わらぬ弱点にほっこりしつつも、もっと薫の素が見たくなり、調子に乗ってしまう。
「ロミオ! 私はもう貴方なしでは生きていけない。ずっと一緒にいろ!」
思わず本音が漏れて、漢らしいジュリエットになってしまったが、気にしない。
「あ……う……//」
薫は俺の腰に手を回して、 ラブロマンスのワンシーンのように密着してくる。
肩に感じる熱が強まるが、俺は気にせず抱く力を強める。
もう俺の頭には薫の抱き心地のことでいっぱいだ。
アッタカイナリ〜! ヤワラカイナリ〜! カワイスギルナリィィィィィィィィィ!!!
俺の紳士()な部分も喜んでいるようで何よりである。
この時間が永遠に続きますように。
俺はそう天に願──ーハッ!!!!???
俺は失念していた。
性欲が有り余っている健全な男子高校生が女と、しかもとびきりの美少女と抱き合ったらどうなるのかを。
どうやら俺もその例には漏れなかったようで、 俺のちんすこうが既にテントの設営を開始していた。
ペニちゃーん! キャンプしよー!
非常にまずい状況だ。
バレれば引かれること必至。何とかしなければ!!
俺は薫を引き離し、その場に蹲る。
「あっ……」
そんな名残惜しそうな声を出さないでくれ!
俺は息子の癇癪を鎮めるために、四八手ある特技の内の一つを使う。
その特技の名は……〝無限のオネエ″ 。
脳内に大量のオカマのイメージを浮かべ性欲を消し去り、擬似賢者モードに至る技だ。
俺は適当に役になり切りながら、大量のオカマをイメージする。
オカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマ「ロミオ! そんなに拒むならいいわ! 何処へでも好きに行ったらいいわ! (裏声)」オカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカ「ジュリエット! 何てこと言うんだ! 私が君を拒む訳ないじゃないか!」オカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマダオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマオカマ
フゥー……
どうやら無事に息子は落ち着いたようだ。
茶番も薫が覆い被さるように抱きついているし、何とかなったのだろう。
俺はそのままの態勢で薫に言う。
「……で、なんか用か?」
「……こんな状態でそれを聞くかい?」
薫は呆れたように言ってきた。ごもっともで。
俺は態勢を直しながら薫に答える。
「ごめんごめん。久しぶりに薫を揶揄いたくなって」
「たったそれだけのために、わざわざあんなことをしたのかい……っ?」
薫は肩を震わせながら言ってきた。
どうやら少し怒っている。そりゃそうだ。
しかし、全部が薫を揶揄うかめに行ったわけではない。
俺は真剣な表情で言う。
「まあな。でも、途中の台詞とか抱きついたのは結構本気だったぜ?」
「なっ……!」
すると薫はまた赤くなる。トマトみたい。カワイイ。
「その表情、俺好きだよ」
薫が相手だとグイグイいけるのは、揶揄い易いからだろうか。
でも、これ以上は流石に道端だし、俺の心も保たないし、先程から薫の表情にキュンキュンしてリビドーが溢れそうになっているし。つーか限界。悶え死ぬ。
名残惜しいがそろそろ退散しよう。
「じゃーな! 薫!」
俺はそう言って、その場から素早く立ち去る。
家までダッシュじゃっ!!
そして、一人残された薫はぽつりと呟く。
「…………ずるいじゃないか、あんなこと言うなんて。はあ、喫茶店に誘えなかったな……」
その時の薫は、まさしく王子様を想うお姫様のようだった。