桃源郷を目指して ※ボツ   作:ツヅラP

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7話:パン屋の恋は二次発酵

 

 さっぱりとした秋晴れの朝、頬を撫でる柔風の心地良さに和みながら、私──山吹沙綾は少し離れた広場でキャッチボールをする九十九達を、紗南と一緒にレジャーシートの上で眺めていた。

 

 キャッチボールをしているのは九十九と純、それとあこの三人。

 当初の予定にあこはいなかったんだけど、ここに来るまでの途中で何故かランニングをしていたあこに偶然会って、そのまま一緒に遊ぶことになったんだ。

 何でも、巴にドラムのことで相談したら体力をつけた方がいいと言われたらしい。

 確かにドラムをずっと叩くのは疲れるし、私も走ろうかなー。

 

 

 それはそうと、キャッチボールをしている九十九達はとても楽しそうだ。

 

 

「受けてみよッ! 我が闇の波動をッ!!」

 

 

「フハハハハ! そんなもので俺様の鉄壁の守備を崩せるとでも? 片腹痛いわッ!!」

 

「なッ……! 何、だと……っ!?」

 

「……つく兄……あこねーちゃん……何か恥ずかしいよ……」

 

 

 …………うん、とてもタノシソウダ。

 ごめんね純。私と紗南にはレベルが高すぎるよ……。

 

 

 そういえば、こうやって九十九を眺めるのは久しぶりだな。

 最近はポピパの練習とかで忙しかったし、九十九も高校では部活に入らずウチでバイト始めるし。

 ……九十九がウチでバイトを始めた理由、本人はお金を貯めるとか人生経験だとか言ってたけど、本当は違うんだよね? 

 だってバイトを始めた時期と、私が香澄達と出逢った時期が同じだもん。普通嘘って気付くよ。

 しかも、バイトをするなんて私は聞いてなかったし、怪しさバリバリだよね。

 

 けど、事前にバイトをすることを九十九から聞いていれば、私は止めていただろうな。

 ウチの事情で関係ない九十九を巻き込みたくないって言って。

 

 でも、それは叶わなかった。

 九十九にはお見通しだったみたいで、バイトの初日まで両親に口止めをお願いしていたみたいだから。

 だから吃驚したな、エプロン姿の九十九を見た時。

 開いた口が塞がらないってああ言うことを言うんだね。

 

 

 それから暫くして、香澄達がバンドの勧誘に来たけど、その時の私には『はい』と頷くことが出来なかった。

 確かに九十九がバイトに来てくれる様になったおかげで、母さんの負担は激減したからバンドの活動に関しては問題なかった。

 だけど、CHiSPAを自分勝手な理由で抜けた私にそんなこと許されるわけないって、そう思ってたから。

 

 

 でも、今の私はポピパの一員として活動している。

 如何してだとおもう? 

 

 ふふ♪ それはね、九十九が私を無理矢理引っ張りだしてくれたから。

 何処で知り合ったのかわからないけど、なつを呼んで。

 

 あれは凄かったなー……。

 話し合いと言うよりは最終的には怒鳴り合い? で、なつと私は今まで言えなかったことを泣きながらぶつけ合った。

 でも、最後にはすっきりして、二人して泣きながら笑ちゃった。

 

 あれがきっかけで私は吹っ切れることが出来たし、母さん達の後押しもあってポピパに加入することが出来た。

 初めての活動は文化祭のライブだったけど、大成功したしすっごく楽しかった♪ 

 

 それでね、その時に気付いたんだ、九十九がバイトを始めた理由。

 私に、前に踏み出して欲しかったんだよね。

 

 

 ──ありがとう。おかげで私は毎日が楽しいよ。

 

 ……それと、もう一つ気付いたことがあった。

 それまでは胸の奥に靄がかかっていたんだけど、ライブ後にはすっかり晴れて。

 それでようやくわかったんだ。私は九十九に恋をしているんだって。

 

 友愛から恋愛に変わった瞬間、私は一生忘れることはないだろう。

 誰かを想うってことが、こんなにも幸せなことだなんて思いもよらなかった。

 ふふ、 こんな気持ちにさせた責任は、きっちりと取ってもらうつもりだ。

 

 ……恥ずかしくなってきちゃった。

 私は改めて九十九の顔を眺める。

 やっぱり、かっこよくないなー♪ 

 その辺を歩いている男の人の方がよっぽどかっこいい。

 でも、私が惚れたのはそんな上っ面の格好良さじゃない。

 

 私が九十九に恋した理由、それは──

 

 

「_______おねーちゃん、にこにこしてどーしたの?」

 

「紗南、九十九ってかっこ悪いよね?」

 

「……え? ……ううん! つく兄はすっごくかっこいいよ!!」

 

「ふふ、だよね♪」

 

「???」

 

 

 ──そう、つまりはそういうことさ。

 

 ……いけない、つい薫さんの真似しちゃった。

 

 

 

 それから私は、三人が戻って来るまで紗南と眺めているのだった。

 

 

 

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