ファンタシースターオンライン2外伝 翠緑の残滓 作:水上小夜
・A.P238 3/12 9:30
「ここが惑星リリーパ…」
テレポーターから出てきた長身の女性、水上小夜は、辺り一面の砂の海を見て、感嘆混じりに呟く。
『惑星リリーパの砂漠エリアです。見ての通り、一面砂に覆われており、砂嵐などで視界が悪くなることもある地域です』
腕に取り付けてあるデバイスを起動する。妙齢のツインテールの女性が、モニターのように映し出される。
「うへぇ、砂嵐も起きるの?髪、痛まないかな…」
彼女は後ろに縛ったツインテールを手で軽くはたく。深い緑色をした短めのおさげが小さく揺れる。
『かつて文明が存在していたようで、ところどころに巨大な建造物が発見されています』
「ふむふむ…ブリギッタさん、もしかしてあそこでウロウロしてるロボットも、その文明の名残り?」
彼女の指差す先には、四足歩行型のロボットが4機、隊列を組んで徘徊している。
『そうです。あのようなエネミーを、アークスでは総じて[機甲種]と呼んでいます。』
「エネミー…ってことは、敵?」
『はい。生物であれば、アークスでもダーカーでも見境なく襲いかかってきます。きっと、先の文明で生み出された防衛用兵器なのでしょう』
「主なき後も施設を守っているって訳ね。はた迷惑というか、なんというか…」
そう言いながら彼女はデバイスを切り、腰を低くしてライフルを構える。
『機甲種は人間さながらの連携攻撃を行ってくる事もあるそうです。ご注意を』
「了解」
岩陰に隠れた水上は、息を吸い込み、そのまま吐かず…
タタタァン
フォトン特有の射撃音が響くと同時に、4機いた機甲種、スパルダンAのうち1機の青いコアに3か所の穴が空き、機能を停止した。
「まずは1つ…」
水上は呼吸を再開しながら次の的に狙いを定める。敵は撃たれた方向を察知したらしく、3機とも散開して発砲音の方に接近していく。
しかし臆せず再び発砲。コアを撃ち抜かれた1機が再起不能になる。
2機はこれまでの攻撃で水上の位置を把握したらしく、的確に距離を詰めてくる。
水上は再度敵に狙いをつける。しかし今までのパターンを読んだのか、こまめに左右にステップを踏むため狙いを絞りきれない。
そして機甲種の片側が跳躍し、岩を飛び越えて水上に襲いかかる。
「やっば…」
右に回避。しかし回避した先にはもう一機が同じくこちらに飛びかかってきていた。
「でもこれは!」
水上は跳躍していた機甲種に銃口を合わせてトリガーを引く。至近距離で散弾を受けたスパルダンAは反対側に吹き飛んでいく。
「逃さないよ」
左脇に通すように片手でもう一発。徹甲弾を撃ち込まれたロボットは、次の動作を行う暇もなく機能を停止した。
『凄い…あ、いえ、お見事です、小夜さん』
「えへへ…褒めても何も出ないよ」
デバイスを再び起動し、倒した敵の残骸を撮影、記録していく。
「これが機甲種…意外と厄介ね。これは油断してると危ないかも」
『幸い、このエリアは機甲種の出現が少ないようです。…その代わりにダーカーの出現報告が多いのですが』
「ダーカーってホント何処でも湧いてくるんだね。…よし、この辺かな」
水上は地面にポイントマーカーを設置する。
「ブリギッタさん、お願いしまーす!」
『採掘機の転送要請を確認しました。これより転送を開始します』
設置した場所に採掘機が転送される。
「さーて、本業の方を始めますかね!」
・A.P238 3/12 10:45
「これはもうウッハウハね!」
採掘を始めて1時間ほど。ナベリウスの時とは比べ物にならない程快調であった。
「鉱石に宝石にフォトンドロップ…これがどこを掘っても出てくるなんて!この辺は鉱脈なの?」
『いえ…この辺りでは、標準的な採掘量のようです』
「これで標準!?しゅ、しゅごいぃ…」
掘り出した鉱物を恍惚な表情で眺める水上。まるでおもちゃの山の前を目にした子供のようである。
『でもこの辺りの鉱石は……これはまともに話を聞いてくれそうにありませんね…』
「ブリギッタさん!」
鉱石を眺めていた水上が、突然声を上げる。
『は、はい!ブリギッタです!何か問題が起きましたか?』
「悪いんだけど、無線を10分ほど切っていいかな?これから使う機材が無線機と相性が悪くって…」
『分かりました。もし何かありましたら、いつでも呼び出してくださいね』
「ありがとねー!」
無線を切ると、水上は無線機の電源を落とす。
「ブリギッタさんには悪いけど、これはバレるとマズイって、カスラさんからしつこく言われたからねぇ…」
左脚のポーチから金属製の筒を取り出す。側面の蓋を開けると、そこには青白いの光を放つ結晶が入っていた。フォトンジェネレーターの心臓部である。水上は光る結果を取り出す。光は消え、元の薄緑色の結晶になった。
「予備があるとはいえ、かなり摩耗してきちゃったなぁ…早く代替品を見つけなきゃ。先に宝石の方をはめてみてっと…これはトパーズかな?」
先程の結晶のあった位置に宝石をはめ込む。…しかし、先程見られたような変化は全く無い。
「ナベリウスの時と同じく変化なし…宝石類はダメって見た方がいいのかな?」
石を外し、次はまばらに黄色く光る黒い鉱石を付ける。すると、黄色い光が強くなった。
「こっちは反応アリ!よしよし、これを仮にリリーパロックと名付けてっと…出力は…」
「おい、そこの女」
不意に後ろから声をかけられる。水上はジェネレーターを仕舞い、振り返る。そこには顔に刺青を入れた大柄の男と、対照的なほど小柄な女の子が居た。
「一般人が1人で何してやがる。死にてぇのか?」
「失礼な…これでもアークスなんですけど」
「フォトンも無い癖に何をふざけたことを…ん?」
「ゲッテムハルト様、この方…」
2人が訝しんだ様子でこちらを見る。
「おい…そのふざけたフォトンはなんだ?」
「…はい?」
「なんでてめぇからこの辺のフォトンと全く同じものが出てるんだって聞いてんだよ!」
「…!」
(しまった、元の石に戻すの忘れてた…!というかフォトンって星によって違うの!?そんなの知らないよ…!)
「黙ってねぇで答えろってんだよ!」
不意にゲッテムハルトと呼ばれた男が距離を一気に詰めて殴りかかってきた。
水上は慌てて回避して距離を取り、ライフルを構える。
「な、何を…私はあなた達と同じアークスだって…!?」
しかし男は再び距離を詰め、攻撃を続ける。
「てめぇみたいな不気味な奴が味方とは思えねぇよ!ダーカーが模倣した姿かもしれねぇからな!」
拳から繰り出される怒涛の攻撃。水上はギリギリ躱したり銃を盾に受け流している。反撃しようにも近過ぎて狙いが定められない。
(マズイマズイマズイ、どうしよう…説得しようにも話聞いてくれなさそうだし、戦うにも全然隙がないし、そもそも武器が使えるかどうか分かんないし…)
「ちったぁ反撃したらどうなんだよ!」
男の渾身の一撃。銃を盾にして受け流そうとするも、逆に弾き飛ばされてしまう。
「しまっ…!」
「呆気ねぇ最後だなぁ!」
ガァン!
男が追撃を放つ。しかし…
「てめぇ、その防具はなんだ…!」
水上は咄嗟に取り出した左腕の盾で受け止めきった。
「これも武器よっ!」
受け止めた拳を払い、盾に仕込んだ剣を抜く。十手を長くしたような形状の青い刀身が現れる。DBの剣と盾。水上がこの世界に持ち込んでいた武器である。
(一か八か出した甲斐があった!流石にフルパワーとはいかないみたいだけど…これなら十分やれる!)
「お望み通り、反撃してやろうじゃない!」
水上は両手で剣を持ち、叩き斬る。相手は両腕で攻撃を防ぐ。
「せいっ!」
受け止められた剣を少し引き、ガードした両腕のクロスした位置目掛けて突きを放つ。
「チィ…調子に乗るな!」
ゲッテムハルトは突きを真っ向から受け止め、そのまま押し返す。
「狙い通り!」
剣先を再び少し引き、今度は下から上へ斬り上げる。これは予期していなかったらしく、ガードが上へ崩れる。
「ゲッテムハルト様!」
「締め!」
水上はすかさず、左手に取り出した拳銃…ヤスミノコフ2000Hをゲッテムハルトに向け、引き金を引く。ゲッテムハルトは拳銃に撃たれ…
「………」
「………あれ?」
トリガーを引いた金属音が虚しく響く。弾は出なかった。
「嘘でしょなんで…!?」
撃てなかった事を考える間もなく、男から強烈な一撃が放たれる。盾でガードするも踏ん張る事が出来ず、近くの岩場まで吹き飛ばされてしまう。
「けほっ…背中いったぁ…」
「虚仮威しが…調子に乗りやがって」
ゲッテムハルトがとどめを刺しに水上にゆっくり近づいていく。
「ち、ちょっとタンマ…って後ろ!」
「あ?…シーナァ!」
「…!」
男が連れていた女の子の後ろから、禍々しい鎌のようなものが2本、地面から生えていた。慌てて飛び退くと、その直後に鎌がハサミのようにクロスした。
水上は慌て無線機の電源を入れる。
「ブリギッタさん、緊急事態!大型のダーカーに襲われてる!」
『何ですって!?エネミーデータ照合…グワナーダです!地中に潜り、大型の顎で切り裂く危険なダーカーです。触手を絡めた攻撃にも注意してください!』
「了解!って言ってる傍から!」
足元から気持ちの悪い触手が伸び、足をすくってくる。それを躱し、持った剣で切り裂く。触手は真っ二つに斬られ、消滅する。
(ダーカーの攻撃を受けると侵食されちゃうんだっけ。フォトンで中和出来るらしいけど、今のジェネレーターでどこまで中和出来るか分からないし、出来るだけ攻撃を受けないようにしないと…)
「シーナァ!それと女!援護しやがれ!」
「誰が女よ!サヨ ミズガミっていうちゃんとした名前が─」
「ミズガミ様、ここはどうか共闘を」
「…分かってるわよ!」
グワナーダが姿を現す。禍々しく鋭い顎を前に押し出し、こちらに突っ込んでくる。
「うおおおおおお!」
ゲッテムハルトが真正面から突撃を受け止める。
「貴方ほんっとどんなパワーしてるのよっ!」
この隙に水上は胴体に連続攻撃。しかしグワナーダに目立ったダメージはない。
「ゲッテムハルト様!」
シーナはゲッテムハルトに近づき、自身の周囲に竜巻を起こす。グワナーダが怯んだ隙に2人は距離を取る。蟻地獄のようなダーカーは再び地面に潜る。
『グワナーダの弱点は、地中に隠れた腹部のコアです!それを地上に露出させる事が出来れば倒せるはずです!』
「そんな事言われても…」
水上はまだ地上でうねうねしている触手3本を見る。
(そういえばあいつの胴体に管みたいなのが4本ついてたような…もしかして!)
一気に触手のうち1本に近づき、斬りかかる。しかし、地面に足を取られ、空振りしてしまう。グワナーダが頭だけを出して、蟻地獄のように水上を吸い込もうとしていた。
「ちょ…!」
逃げようにも逃げられずグワナーダに吸い寄せられる。そして、横に真っ二つにするように大顎が振られる。水上はすんでのところで盾を挟み込ませ、防いだ。
「ミズガミ様!」
「シーナちゃん!触手を全部切って!早く!」
「は、はい!」
メルフォンシーナは風テクニックを唱える。風の刃が触手を切り裂く。残り2本。
「ぬおおおおお…」
必死に大顎を抑え続ける水上。盾が軋む音が聞こえる。
「もう一本…」
少女は風の刃でまて1本触手を切る。残り1本。
「も、もうそろそろ限界…!」
盾にヒビが入り始める。フォトンが足りず、防御機能が機能不全に陥っているのだ。
「ここはミズガミ様の救援を…」
「余所見してるんじゃねぇぞシーナァ!」
ゲッテムハルトが触手を根元から引きちぎる。全ての触手が潰された。
グワナーダは呻き声をあげ、水上の拘束を解いてひっくり返る。弱点のコアが地上に露出した。
「こんのぉ!」
水上はすぐさま剣を抜き、下から上へ飛び上がって斬り上がる。深い傷を与えたが、致命傷とまではならない。
「くたばれ、この化け物が!」
ゲッテムハルトが傷の上から必殺の一撃を撃ち込む。風を切るように放たれた裏拳は、グワナーダのコアに風穴を開けた。グワナーダは絶命した。
「し、死ぬかと思った…」
水上はその場にへたり込む。フォトンが切れ、剣の刃も消えている。
「ミズガミ様!大丈夫ですか!?」
「何とかね…武器がちょっと壊れかけちゃったけど…」
ヒビの入った盾を見る。全壊はしていないが、このままでは使えないだろう。
「修理できるかな…。シーナちゃん…で間違ってないよね?そっちこそ怪我はない?」
「メルフォンシーナです。自己紹介が遅れてすみません。お陰様で無傷です。助けていただいてありがとうございました」
「気にしないで。アークスは、助け合わないとね!」
水上はゲッテムハルトに向かって大きめの声で言う。
「フン…おい、ミズガミとか言ったな」
「な、何よ…」
「てめぇ、自分のフォトンの質くらい把握しておけ。行くぞシーナ!」
「はい、ゲッテムハルト様。ミズガミ様、それでは失礼します」
ゲッテムハルトと呼ばれていた男と、メルフォンシーナは去っていく。
「フォトンの質…か。あいつ、完全に気付いてるわね…」
水上はフォトンジェネレーターを取り出し、触媒を確認する。入れっぱなしだったリリーパロックは、輝きを完全に失っていた。
「もう少し、ちゃんと調べないとなぁ…」
『水上さん、その装置は一体何ですか?』
「わわわっ…!こ、これは地質調査の道具で、あんまり見せちゃいけないんだけど…」
水上は適当な嘘をついてその場を誤魔化したのであった。
・A.P 238 3/13
「ふーむ…ナベルロックがテクニック関係のフォトン、リリーパロックは打撃関係のフォトンの触媒になる…この辺は個人差があるかもしれないから要検証だけど…自分の場合はこんな感じかな?」
アークスシップに戻った水上は、研究室の一角で、今まで採取してきた鉱石をフォトンジェネレーターはめ込み、一つひとつ性質を再確認し、結果を細かく記録していた。
「宝石系はどれを試しても反応なし…でも他の使い道があるかもしれない…この辺も要検証と…」
「やぁ、サヨ君。捗っているかな?」
「アキ博士!ようやく進捗アリって感じです」
「それは何より」
「これも設備を貸してくださっている博士のおかげです、ありがとうございます!」
「気にしないでくれたまえ。六芒のカスラ氏からの頼み事の引き換えに、研究費を多めに貰っているだけさ。君の秘密も、口外するつもりはないよ」
アキは椅子に座り、持ってきた飲み物に口をつける。
「しかし君のその装置、便利なように見えて不便なものだな。元々使っていた鉱石も手持ちに殆どないのだろう?」
「ストックはあったんだけど、ほぼ全部私の世界に置いてきてしまいましたから…」
「なるほど。サヨ君、そのジェネレーターというのは、君の世界では一般的なものなのかな?」
「ジェネレーター自体は一般的ですけど、この鉱石駆動のタイプは珍しいというか、古いというか…」
「ふむ…その綺麗な彫刻を見る限り、工芸品と見たけど、当たっているかな?」
「その通りです!実は両親からの誕生日プレゼントで……」
水上の表情が曇る。
「大丈夫かな、パパ…ママ…みんな…」
「…無事な姿を見るためにも、まずは戻る手段を見つけなければね」
「…はい」
「…すまない、お詫びに飲み物を取ってくるよ。コーヒー、砂糖2、ミルク1だったね」
アキが研究室を出ていく。
「博士、よくそこまで覚えてるなぁ。…凹んでる場合じゃないや、気合い入れ直しますかね!」
「頼もー!」
作業を再開しようとした直後、聞き慣れない声が響く。
「君がサヨちゃんだね!」
「は、はい、私がミズガミです…けど…」
研究室に入ってきたのは赤髪の快活な女性だった。
「うんうん、カスラさんから聞いてた通りのいい子そうだね!」
「はぁ…え、カスラさん?」
カスラの名前を出されて不安そうな水上をよそに、赤髪の女性は話を続ける。
「早速だけどサヨちゃん!新クラスの試験運用、頼まれてくれないかな?」
「し、新クラス!?」
「おっと、自己紹介がまだだったね!私の名前はアザナミ。新クラス、ブレイバーの創設者になる予定の者さ!」
……To be continued
・A.P238 3/12 15:00
「ち、ちょっと!これだけの鉱石がたった6000メセタってどういうことなの!?」
「嬢ちゃん、この鉱石はもっと純度の高いものが、アークスの採掘基地で大量に掘られてるんだよ」
「そんなぁ…で、でも、こっちのトパーズは!」
「リリーパでボロボロ取れるから、みーんな取ってくるもんだから、値段が暴落しちゃってるんだ。すまないね
」
「そ、そんなぁ…私の…私の優雅な晩御飯の予定がぁぁぁ……」