ぼっち、異世界へ行く。   作:オーバーうらら

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第6話 戦闘なのに俺、空気

 スズカが見つめていた林に素早く目をやると、枝が揺れ、その先についた葉がガサガサと音を立てていた。

 まあ、見つめていた林というのも10メートルぐらいは離れていたが。

 そして、しばらくすると4本足を持ち、背中に幾重もの刺を有するモンスターが現れた。

 体長は俺ら人間の身長より少し高いくらいであり、――俺の身長が170センチであるに――2メートル弱と推測される。

 いうなれば、巨大ハリネズミってところであろうか。

 気性は、見た目鋭い背中の針同様に刺々しく荒っぽいもののようで、目の前に現れた俺たちを鋭い目つきで威嚇している。

 

「なんだ。レベル一桁台の初期モンスターじゃないの」

 

 その様相を目にしたスズカは余裕綽々の様子で、モンスターの右上に表示されているモンスターコマンドを眺めている。

 そして、堂々たる面持ちで鞘から剣を取り出すと、目前のモンスターに向ける。

 しかし、ふと何故か構えるのを止めてしまう。

 

「ま、これくらいのモンスターだったら、アタシが倒すまではないわ。アンタが倒してみなさい。お手並み拝見といこうじゃない」

 

 そう言うと、スズカは剣を下ろして、俺に顎で催促する。

 なんで俺がやらなきゃなんないの? 面倒くさいんだけど。

 

「まあ、そう言わずにお願いできますか? 一応、同じパーティを組む身としては互の戦力状況を把握しておきたいのですよ」

 

 横でやや呆れながら微笑む優男もといシルバも、スズカと同様のことをのたまう。

 ホントにやりたくないのだが、今の状況は圧倒的に俺に不利。いわゆる、やらなきゃいけないムード。

 であるからに、不本意ではあるが一応同意しておくことにする。

 

「へいへい。やりゃいんだろ、やりゃあ……。ま、当然のことだが、実戦経験皆無の俺に期待はすんなよ」

 

「大丈夫よ。ハナっから期待なんて一ミクロンもしてないから」

 

 いや、そんなキッパリ言わなくてもいいんじゃないの、スズカさん……?

 今のは謙遜だから。実際はマジで本気出すかんな。実力を思い知るがいい。

 

 そうこうしているうちにも、モンスターがこちらにターゲットを向け、動き出すのが視界に入る。

 俺は、ゆっくりと剣を出し、適当に構える。

 だが、相手の狂気迫る状況に危機感を感じたので、すぐにきちんと構え直し、振る。振りかざす。

 

「どりゃあ、どりゃあ、どりゃ!」

 

 素晴らしい。これぞ、かのレア「キバシシ」をも倒し、レアアイテムを手に入れた俺の必殺技、『振り回す』!!

 その光景を傍から眺めていたシルバが少々引きつらせた笑顔で疑問を口にする。

 

「よもや、それで『キバシシ』を倒したんですか」

 

「――無論だ!」

 

 そう堂々と振り回しながら答える俺に、スズカが呟く。

 

「そんなアンタに倒された『キバシシ』も、アンタに倒されてしまったことをさぞや悔やんでいるでしょうね」

 

 なんかさっきから、ずっとけなされ続けているんだけど。なに、俺を徹底的に貶めたいの?

 とにかく、今は自身の剣術に集中することにしよう。

 振る。とにかく、振る。できるだけ素早く、そして、隙をつくらないように。

 一心不乱に黙々と剣を振っていると、敵モンスターの姿は既にすぐそばにまで迫っていた。

 

「よし、来てみやがれ。レベル3の力を!」

 

 敵が俺の攻撃範囲に入ったことで、はっきりとカーソルが見える。

 

 

 モンスター名:ハリーム

 レベル:9

 HP:300

 

 

 れ、レベル9!?

 ちょっと待って。レベル違いすぎじゃん。

 俺が相手との思わぬレベル差に驚いている間にも敵は迫る。

 そのハリームなるモンスターは、徐々に速度を上げ、そして――

 

 ――俺の横を一目散に通り過ぎていってしまった。

 

 そして、ハリームが攻撃対象にしたのは、俺の背後に佇んでいたスズカであった。

 あれ……? これは、どういうことでしょうかね。何故か、俺はスルーされているんですが。

 もはや、俺はモンスターにさえ相手にされない程度の人間ってことかい?

 

 

◆◇◆

 

 

 俺には目もくれず、一直線にスズカを狙ったハリームを、スズカは軽くあしらうようにひと振りで颯爽と切り込んだ。

 ハリームのHPは一瞬にして、レッドゾーンを通り越してゼロとなり、やがて、身体は光の粒子になり消え去った。

 そして、その刹那、呆然とその光景を見つめる俺の前にレベルアップとかかれたコマンドが出現した。

 これで、俺のレベルは3から5に一気に上がった。

 無論、これは俺が勝利したわけではないのだが、パーティである以上、スズカの獲得経験値が自動的に割り振られたのだ。

 

 

 俺が呆気にとられていると、シルバも顎に手をやりながら考え込むような表情を浮かべる。

 そして、驚きを隠せない表情で呟く。

 

「すみませんが、貴方のレベルはどのくらいだったのですか?」

 

「そりゃあ、実践ほぼ皆無なんだから、3に決まってるだろ。まあ、今ので5に上がったけどな」

 

「3、ですか。かなり弱いですね。いえ、弱すぎます」

 

 いや、そんなもの解ってるんだから二度も言うなよ。喧嘩売ってんの?

 

「いえ、決してそのような言動ではありません。ただ単純に驚いているんですよ。先程の光景に」

 

 そう言うと、すぐにシルバはまた考え込むように黙ってしまう。

 だから、なんだよ。さっきの俺の空気状態を拡散したいの?

 しばらくの沈黙の後、じっと考え込んでいたスズカが恐る恐るといった体で質問する。

 

「もしかして……。ねえ、アンタ、スキル見てみなさいよ」

 

「す、スキル……? この世界には、スキルがあんの?」

 

 スキルってアレだろ。自分の能力だよな。

 スキルって、俺、ぼっちスキルしか持ってないし。

 

 俺は言われるがままに、自身のメニューコマンドを指で操作し、表示された項目を目で追う。

 そして、そのなかから自身のステータス表示ボタンを押してみる。

 

 

 

 ネーム:渡月向日

 レベル:5

 HP:120

 スキル:剣術スキル10

     隠蔽スキル800

     探索スキル500

 

 

 

 見たところ、スキル名が羅列されており、その横に二桁三桁の数字があるのみだ。

 剣術は、剣による攻撃スキルだろうし、探索スキルって探す能力? で、隠蔽スキルってなに? さっぱり解らないんだけど。

 しかも、隠蔽スキルだけ800もあるぞ。

 

「……なんか、スキル名と数字が並んでいるだけだぞ? この数字って、そのスキルの強さか何かなの?」

 

「そうよ。その数字はスキルの強さ、レベルを示しているわ。スキルは様々な種類があって、攻撃スキルだけでも、剣・弓・槍というように三種類。その他スキルは山ほどあるの。レベルは上限1000まで。まあ、そこまである人なんてこの世にいないけどね」

 

「上限1000レベ、ねえ……。ちょっと聞くけど、800レベってどんくらい強いの」

 

「800? この世界に数多あるギルドのうち、最大規模を誇る五大ギルドのギルドのトップでも、持っていて500から600ね。アタシの剣術スキルは、500ちょっとあるわ」

 

 ふうん。って、強くて500から600なんですよね。俺の隠蔽スキル、800もあるんですが……。どゆこと?

 

「まあ、アンタみたいなレベル3程度のスキル値なんてふた桁程度よ。800なんてあるわけないわ」

 

 いや、800あるんだけど。これ、見間違いかな……?

 

「それで、聞くけど、アンタの隠蔽スキルはどのくらいあるのよ。200ぐらい?」

 

「それが……、隠蔽スキル800ってあるんだけど」

 

 恐る恐る呟く。

 すると、スズカは少々戦慄した表情を浮かべる。それに続き、シルバも考え込むような表情を浮かべる。

 

「は、800!?」

 

「驚きですね。僕の知る限り、800ものレベルの数字を保持した人物とお目にかかったことがありませんね」

 

 スズカの驚き声の後に、シルバも驚きながら呟く。

 しかし、すぐにスズカはニヤリと不敵の笑みを浮かべ、シルバも事態を理解したかの如く、笑みを浮かべながら肩をすくめた。

 

「やっぱりね。これほどまでの高さだとは思わなかったけど、これでさっきの現象について合点がいったわ」

 

「ええ、驚くべきことに、ですね」

 

 だから、なんなんだよ。ふたりとも解ったような顔しやがって、俺だけハブるなよ。

 中三の時に友達できなくて、修学旅行の班決めでハブられて、結局ホームルームの時間中ずっとそのことに気づかれずに班が決定しちゃったときのことを思い出しちゃったじゃないか。

 まあ、その後、気づいた教師が余っていたところに無理やり押し込んだんだがな。

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