ハリー・ポッターと運命を貫く槍   作:ナッシュ

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 感想、評価、ブックマーク、誤字修正誠に有難うございます。
 今回で一年生におけるアイリーン編は多分一旦終了です。というかオリジナルのストーリー書きすぎて全然原作ストーリーが進まない⋯⋯。

追記
 今更気づきましたが、推薦されてました。ありがとうございます。


第10話 恐怖

 

 シャフィク家には、住み込みで働くアイリーンと同い年のメイド見習いがいた。

 ジェーンと言い、その名前の通りどこにでもいるような普通の少女だった。

 

 彼女の母もメイドで、執事の一人と結婚して生まれたのがその娘だった。両親はどちらも身寄りのない孤児院出身だったため、純血主義のシャフィク家の使用人たちのヒエラルキーの中でも最下層だった。当然、ジェーンもまるで屋敷しもべ妖精のような扱いだった。

 

 しかし、アイリーンはジェーンを自分の妹のように気に入っていた。例え『穢れた血』であっても、この少女だけは特別なんだと信じていた。アイリーンの両親も、愛娘の頑なな態度に事実上の白旗を振っていた。

 

 ジェーンもそんなアイリーンを姉と呼んで慕い、ちょこちょこと後ろをついてくるようになった。本当に妹ができたようで、アイリーンは一層彼女を可愛がるようになった。両親が苦虫を噛み潰したような顔をするのも気にならなかった。

 

 しかし。そんな幸せな時間も僅かな間しか続かなかった。

 

 9歳の誕生日を来月に控えた頃、ジェーンに魔法力が発現した。

 その数ヶ月前に先んじて魔法力を認められていたアイリーンは歓喜し、妹と共にホグワーツに通う姿を想像して飛び跳ねるように喜んだ。

 

 浮かれていたのだろう。アイリーンは深く考えることもなく、両親の部屋から拝借した杖を使ってジェーンと決闘の真似事を始めた。

 かつて家庭教師が実演してくれたものを見よう見まねで真似てみせた、子供のお遊戯。それは本当なら無茶苦茶に杖を振り回して終わるだけのはずだった。

 

 しかし、魔法は実際に発動してしまった。ジェーンの杖から発せられた火花がアイリーンの胸を撃つといいう、最悪の結果で。

 

 幸いなことにアイリーンは軽傷だった。放っておいても跡の残る火傷でもなく、ヒステリックに泣き叫ぶ母が施した治癒呪文で傷は瞬く間に消え去った。

 

 アイリーンの両親は当然激怒した。もちろん娘に対してではなく、娘に杖を向けるどころか傷をつけたメイドの少女に対してだ。家訓に則って面倒を見てやっているというのに、汚らわしいマグル生まれ風情が愛娘に傷を負わせたのだ。まさに恩を仇で返された気分だっただろう。

 

 それを庇ったのはアイリーンだった。妹を守るのは姉の役目、と涙目でヘタリ込むジェーンを背にして両親の前に立ちはだかった。

 両親は驚いたような顔をしたが、アイリーンの決意の顔を見て渋々引き下がった。

 

 その時、彼女は気づかなかった。一切の感情を灯さない淀んだ瞳で冷酷に何かを思案する父の姿に。

 

 

 その事件の翌日、アイリーンは少女の姿を見なかった。ジェーンの母曰く、昨日のことを気に病んで体調を崩したのだという。アイリーンは少し寂しがったが、治ったら昨日のことは気にしていないと告げて仲直りしようと思った。

 

 さらに次の日、アイリーンは父に呼ばれて書斎に入った。

 そこで待っていたのは父と、妹のように可愛がっていたジェーンだった。

 思わず抱きつこうとしたが、どうも様子がおかしい。アイリーンの姿を見ると、びくりと全身を震わせて視線を逸らした。

 

 まだ熱が下がっていないのだろうか。ジェーンを心配そうに見つめるアイリーンに、父が仮面のように張り付いた笑みでアイリーンに杖を渡した。父が持っている杖だ。

 ジェーンも杖を持っていた。先日使った母のものでもなく、見たことのない柄のものだ。小首を傾げるアイリーンに、父親はそれがジェーンの母親のものであることを教えた。

 

『いいかい、二人とも。よし、それじゃあ、昨日の続きをやるんだ』

 

 突然のことに、アイリーンは困惑した。なぜ、と問うても父はその超然とした笑みでアイリーンの疑問を全て黙殺した。

 

 戸惑うようにジェーンを見ると、彼女はもう既にこのこと事前に聞かされていたのか、真っ直ぐに杖をこちらに向けている。しかし、その腕は可哀想になるくらい震えていたし、唇は蒼白だ。

 

 何かがおかしい。幼いながらも、アイリーンはその異常な雰囲気に気づいていた。

 しかし、父がカウントを数え始めると、異議を唱えることはできなかった。

 

 二人の戦いは、一瞬だった。前日のそれとは打って変わって、アイリーンが振った杖からは強力な呪いが指向性を持って放出され、ジェーンの小さな身体を吹き飛ばして壁に叩きつけたのだ。

 

 泣きながら苦しそうに地面に蹲るジェーンに慌てて駆けよろうとしたアイリーンの肩を、父親が止めた。

 娘から向けられる驚愕の視線を無視して、父親の視線が真っ直ぐにジェーンを射抜いた。ジェーンはそれに気付いたのか、全身から冷や汗を垂れ流しながら無理矢理に頬を引攣らせ、口元に笑みを浮かべた。

 

『さ、流石はお嬢様です⋯⋯。私のようなげ、下賎な血の流れる者では、敵う筈もありません⋯⋯。どうぞ、昨日のことはお許し下さいませ⋯⋯。ひ、卑怯な手を使い、御身に傷をつけたことを、深く、深く⋯⋯しゃ、謝罪いたします』

 

 全身を子鹿のように震わせ、媚びるように笑って深々と謝るジェーンに、アイリーンは呆然と立ち竦む。

 

 満足そうに父親が深く頷き、ジェーンに部屋から出るように促した。身体を無理に引きずりながら横を通り過ぎようとした妹に、我に帰ったアイリーンが反射的にその腕を掴んだ。

 

『は、はい。なんでしょうか?』

 

 振り向いた彼女の瞳には、かつてのような親しみの色は微塵も残ってはいなかった。そこにあるのは純然たる恐怖だけ。それを証明するように、握った腕からは微かな震えが伝わってきた。

 

 二の句を継げずに固まるアイリーンにもう一度媚びるような笑みで深々と頭を下げたジェーンが部屋から出て行っても、アイリーンは標本のようにその場から動くことができなかった。

 

『これでわかっただろう、アイリーン。さっきのあの娘の憐れな姿を見たかい? 君の魔法力に、あの穢れた血の少女は手も足も出なかっただろう? 前に君にあげた本に書いてある通りだっただろう』

 

 反射的に違う、と叫ぼうとした。だが、三日月のように口をぱっくりと開いて邪悪に嗤う父親の姿を見ると、脳みそがぐらんぐらんと揺れて言の葉が音を乗せることはなかった。

 

 

 それからしばらくして、ジェーンたちは屋敷から姿を消した。両親は使用人を辞め、シャフィクから逃げるようにして去っていった。アイリーンは全く知らされていなかった。

 

 それから、父による徹底的な純血主義思想の刷り込みが始まった。まるで今までのジェーンとの日々が何かの間違いであり、それを塗り潰すように過密であった。

 

 アイリーンも最初は抵抗しようとした。だが、嘘も100回言えば真実となる。『教育』によって、次第にアイリーンも父親と同じように差別的で利己的な純血主義者になっていった。

 

 父がかつてジェーンにしたことを聞いても、『穢れた血』相手なのだから当然のこと、間違えていたのは自分の方だったと恥じる程にその思想は歪められて、無垢だったキャンバスは真っ黒に染め上げられた。

 

 だが。

 その根底にあったものは────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感情の籠らない口調で、かつて起きた出来事をポツポツと話した。今までずっと秘していた記憶を、なぜ仲がいいわけでもないアレステットに話したのか、アイリーン自身よく分からなかった。

 別に彼でなくても良かったのかもしれない。ただ、彼の言う『恐怖』の正体を知りたいと思ったから。もう自分でも分からなかったから、誰かに聞いて判断して欲しかったのだろう。

 

「⋯⋯それで、さっきの質問の答え、わかったの?」

「ああ、多分」

 

 長い、話だった。長々と喋っているからか言葉足らずで分かりづらいところもあったし、彼女の主観的な印象で語られているために首を傾げるようなところもあった。

 

 それでも、アレステットは彼なりに答えを出していた。彼女が怖れるもの、その正体を。

 

 

 

 

 

 

「シャフィク。ジェーンが辛い目に合ったのは、彼女が傷ついたのは、お前のせいだ」

 

 

「────────」

 

 

 

 そのあまりにも致命的な一言は、正しくアイリーンの呼吸を止めた。

 

「な、にを⋯⋯⋯⋯」

「純血はマグルよりも優れた存在だ。だからマグルを傷つけてもいい。だからジェーンを傷つけた。自分は悪くない。なぜなら、純血だから、尊いから、優れているから」

「ち、ちが⋯⋯⋯」

「逆説的に言えば、純血は『優れていなければならない』だからお前は、シルフィを倒してそれを証明しようとしたんだろ」

 

 蔑むでもなく、同情するでもない。しかし強い感情の篭った瞳が大海の瞳を捉えた。

 

 ペキペキと心を覆っていたメッキが剥がれていくような気がした。自分の醜悪極まりない本性が露呈することに言いようのない嫌悪を感じる。

 しかし、一方で心の奥底で誰かに見破られることを望んでいた自分にも気がついた。

 

「それが崩されれば、お前は認めざるをえない。ジェーンを傷つけた自分の罪を。シャフィク家の一人娘の無知な行動で、義妹をそんな目に合わせてしまった事実を。

 ──お前が真に恐怖していたのは、純血主義の毀損じゃない。自分の過去に向き合うことだ」

 

 それがとどめだった。

 在りし日の義妹の色んな笑顔が脳裏に蘇る。あの、花のように笑う少女の未来を奪ったのか。他ならぬこの手で。

 

「ち、違うわ! お、お父様のせいよ! お父様がジェーンを脅して、杖に細工をして⋯⋯! それに、わたしはまだ幼かったわ!」

「そうだな。最大の元凶はお前の父親だろう。俺も、お前にすべての非があるとは思えない。

 だが、俺がお前の罪を赦したらお前は納得するのか? 重要なのは、お前がどう思っているのかなんじゃないか」

 

 

「わたしが、どう思ってるか⋯⋯⋯⋯」

 

 

 

 

 そんなもの。

 最初から、答えなんてわかりきっていた。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、なさい⋯⋯」

 

 

 ポロポロと涙が頬を伝った。

 

 本当に自分は悪くないと考えていたなら、こんな行動はとっていなかった。いや、そもそもジェーンのことだって忘れてしまっていただろう。そうすれば完璧な純血主義者になれただろう。

 

 だが、アイリーンは忘れたくても忘れられなかった。否。忘れてはいけないのだと本心では気付いていた。

 

「ごめ、ん。ごめん、なさい、ごめんなさい⋯⋯⋯⋯」

 

 顔を皺くちゃに歪め、滂沱のように流れる涙で掛け布団を濡らしながら誰かに謝るアイリーンの姿に、アレステットは拳を強く握った。

 ある意味で、彼女もアレステットと似ていた。純血主義という旧態然とした思想の哀れな被害者。

 

 アレステットはしゃくりを上げながらわんわんと泣くアイリーンに背を向ける。それでも、彼女の嗚咽が止まるまでその場から動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、どうすればいいのかしら⋯⋯」

 

 普段の勝ち気な眦が見る影もなく腫れ、すっかりとツインテールを萎ませたアイリーンがボソリと呟いた。

 

「どうしようもないだろ。そもそもジェーンたちの足取りも掴めてないんだろ?」

 

 きっと彼はオブラートという言葉を知らずに育ったのだろう。

 だが、少なくとも今は変に同情されて甘い言葉をかけられるよりはマシだった。

 

「でも、それじゃ⋯⋯今までと何も変わらないわ」

 

 自覚してしまった以上、もう今までのようには行かない。本当は今すぐにでも謝りに行きたいところだが、ジェーンたちがフランスに渡ったいうことくらいしかアイリーンは知らされていないため、実行に移すのは難しい。

 

 だが、途方も無い罪の意識に苛まれている状態で何もしないという選択肢を選ぶことなんてできそうになかった。

 

「⋯⋯『本当に謝りたいと思った時、その相手がいることはまずない。しかし、いずれ適切な時がくることもある』。これは、昔俺の師が言っていたことだ。

 もしお前がジェーンに謝罪する時が来るならば、それまでその思いを抱き続けろ。それが今のお前にできる償いってやつなんじゃないか」

 

 それは、ある意味で最も辛い罰だ。

 彼の言葉は、会えない可能性の方がずっと大きいということを意味している。自分を許すこともできず、胸が張り裂けそうな罪悪感を抱えながらこの先の人生を歩んでいけと言うのか。それならいっそ、ジェーンに真正面から罵声の限りを尽くされた方がマシだとすら思えた。

 

 けれど、今のアイリーンは救いなど求めてなどいなかった。巡礼者のような面持ちで深く頷く。

 

「⋯⋯⋯⋯けど、何も一人で抱え込む必要はない」

 

「⋯⋯え?」

 

「たしかに、その思いはお前が背負うべきものだ。だが、お前を支えることや慮ることはできる。そう言ったやつのことをなんていうか知ってるか?」

「⋯⋯それは?」

 

「友人ってのは、そういう存在のことを言うんだろ。⋯⋯ありきたりな言葉かもしれないけど」

 

 彼の脳裏によぎっていたのは、唯一無二の友人の笑顔。彼女はアレステットの過去を知らないけれど、その存在はアレステットにとってひどく尊く大切なものだった。

 思っても見なかった優しい言葉に、思わず目をパチクリとさせた。アレステットも柄ではないと自覚しているのか眉間に皺を寄せながら顔を逸らした。

 

 まるで照れを隠すようなその姿を見ていると、胸の奥からじんわりと暖かい感情が湧き出してきた。その気持ちをどう形容すればいいのか分からなかったが、冷え切った心を溶かすような気がした。

 心にのしかかる鉛のような重みは変わらないけれど、たしかに隣に誰かがいてくれれば、それだけでうまくやっていけるように思えた。

 

「ふん、ならアンタがわたしを支えてくれるってことね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい?」

 

「よろしくね、アレステット」

「⋯⋯待て。友達ってのは強引になろうとしてできるものじゃない。親交を深めた結果に付随して構築される関係であって────」

「なによ、今さら知らん顔するつもり? 乙女の秘密を全部暴きたてたのよ?責任とりなさいよ!それとも、他の人にもペラペラこの話をしろって言うの⁉︎」

「いや、お前が勝手に話し始めたんだろ⋯⋯。というか、また責任か⋯⋯」

 

 露骨に顔を顰めるアレステットに、ちょっぴり傷ついた。涙腺が馬鹿になってしまっているのか、枯れたはずの涙が染み出すように大きな目の縁に溜まった。

 涙目でジトッとアレステットを睨むと、バツが悪そう視線を逸らした。アイリーン自身は気づいていないが、その姿はさながら捨てられた子猫のようだった。

 

「何を騒いでいるの⁉︎」

 

 ただ頷けばいいだけなのに、口ごもる彼に再び本格的に涙が出てきたそうになってきた時、校医であるマダム・ポンフリーが鬼の形相で2人の下にやってきた。

 

 ベッドの上で上体を起こし、目を真っ赤に泣きはらすアイリーンと、焦ったような顔をするアレステット。

 

 その姿をポンフリーがどう解釈したのかはさておき、患者のためならあらゆる犠牲を払う白衣の天使()にアレステットは追い立てるように退出させられた。

 

「⋯⋯なら、絶対にアンタを友達にしてみせるわ!」

 

 驚いたようにアレステットが振り向く。

 

 答えは聞かず、布団に潜り込んで背を向けた。

 彼がなんと言おうと、絶対に友達だと認めさせてやる。アイリーンの瞳は決意の炎でメラメラと燃えていた。その感情の源泉が何かは分からなかったが、深く考えず、己の心に従うことにした。

 

 アレステットの受難がまた一つ増えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮対抗のクィディッチ杯。カードはスリザリンvsグリフィンドール。その日は、シルフィ・コールフートにとって待ちに待った土曜日だった。

 

 別にクィディッチが楽しみだったわけではない。いや、元いた普通の世界にない競技は新鮮で面白いとは思うのだが、如何せんシルフィはどちらの寮にも思い入れはない。

 

 スリザリンはシルフィがマグル生まれというだけで差別するし、グリフィンドールはスリザリンというだけで目の敵にする。どっちの寮がどうなろうが彼女にとっては毛ほどの興味もなかった。むしろ、可能ならばどっちも何らかの酷い目に遭えばいいのに、とすら思っていた。

 

 それでもその日が彼女にとって楽しみだったのは、試合観戦そのものにある。

 言わずもがな、唯一にして無二の友であるアレステットと一緒に試合を観ることである。一人で見るとつまらない映画でも、友人と一緒なら楽しめるのと同じことだ。

 

 だが、彼との待ち合わせ場所にやってきたシルフィのテンションは正に箒星のように急降下した。

 

「⋯⋯⋯⋯なぜ、貴女がここにいるんですか?」

 

 アレステットの隣をドヤ顔で占拠するアイリーン・シャフィクを鋭く睨め付ける。

 

 ここ最近、なぜか彼女は今までと打って変わってアレステットに絡むようになっていた。

 その豹変振りにシルフィも最初は唖然としたものだ。だが、放っておいたらアレステットの親友の座を追われるのではないか、自分の友達がとられてしまうしまうのでないかと危惧した。

 結果的として、シルフィとアイリーンの間の溝は深まるばかりであった。

 

「何よ、わたしがここにいちゃまずいわけ?」

 

 反抗するようにアイリーンも睨み返す。2人の間にピリッとした緊張感が走った。あの決闘から数日、何度目か分からない光景だった。アレステットが第2ラウンドを止めたのも一度や二度ではない。

 

「ええ、マズイですね。アレステットは()()()私と一緒に試合を観戦するので、貴女は他のグリフィンドールの友人と観戦するといいでしょう。もしいるなら、の話ですけど」

 

 今度はアイリーンが目を細めた。

 

「バカじゃないの? この試合は寮対抗の試合よ? スリザリン生はスリザリンを、グリフィンドール生はグリフィンドールを応援するの。アンタこそスリザリンの友達と観戦すれば? もっとも、もしいるなら、だけど」

 

 2人は同時に杖を抜いた。アレステットが無言呪文で2人の杖を取り上げる。これももう何度目かわからなかった。

 

「はあ、仕方ない。3人で観るか」

 

 本音を言えばアレステットとしてはシルフィと2人で見たい。

 それは彼女が親友であると言うのもそうだが、アイリーンのように喧しいのが隣にいると目立ってしょうがないというのが大きな理由だ。

 だが、まさか馬鹿正直にそのまま告げるほどアレステットはデリカシーが無いつもりはない。もう彼女の涙目は見飽きている。

 

 渋々、といった様子のアレステットに、アイリーンが目尻を吊り上げる。シルフィも邪魔者が引っ付いてくることに不満げな様子である。

 

「なによ、嫌なの?」

「そうですよ、アレステット。はっきり言わないと、この女はいつまでもアレステットのことを友達だと勘違いし続けますよ」

 

 高速で顔の向きを戻してまた睨み合う2人に、アレステットは大きなため息を吐く。

 

 逃げるように視線を逸らすと、その先には今回もお世話になる予定のハッフルパフの一団がいた。

 その中には勿論ハンナの姿がある。しかし、なぜか彼女を筆頭に女子学生たちがうっとりした表情でこちらを見ていた。楽しげに笑い合って何事かを囁き合っている。悪意のある感じは見受けられないのに、なぜかアレステットの中で猛烈に嫌な予感が膨れ上がっていた。

 

 そこからまた逃げるように視線を横にずらすと、ハーマイオニーが手を振りながらこちらに駆け寄って来ていた。その隣には白い大きな筒をシェーマスと2人がかりで抱えて恨めしそうにこちらを見るロンもいる。

 

 

 ホグワーツに入学してからと言うものの、日を追うごとに賑やかになっていく周囲に、アレステットは苦い顔を浮かべた。

 

 

 




※まだアイリーンは落ちていません。彼女はまだまだツン要素強めです。少し丸くなった、程度に解釈してもらって構いません。


ジェーン
→名前はジェーン・ドゥから。再登場するかは未定。一応ボーバトンに入学した設定なので炎のゴブレットで出る可能性は高い(作者が忘れていなければ)

アイリーンの罪
→アレステット本人としてはアイリーンも被害者だと考えているが、本人は罪の意識を持っている。

友人がいれば
→実体験。主人公もシルフィの存在に大きく救われているので。

責任
→アレステットはいったい幾つの責任を負わされるのか⋯⋯。

友達の私と〜
→最近やっと傍点の使い方を知りました。

ハー子
→トロール事件以来トリオの中でも特によく絡んでくるように。

アイリーン
→若干のチョロイン属性がある気がしなくもない。一目惚れとかよりはマシだと思いますが。


 相変わらず深夜テンションで書き上げたので、修正があるかもしれません。
 それと、賢者の石が終わったら簡易的な登場人物表くらい作ろうかな、と思っています。

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