ハリー・ポッターと運命を貫く槍   作:ナッシュ

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 早速前書きに書くことがなくなってきました。


第2話 ホグワーツ特急

 

 9月1日。今日はついにホグワーツの入学式だ。

 

 因みに、アレステットは今日までに(殆どの新入生と同様)教科書は一ページも開いていない。別に本を読むこと自体は好きなのだが、教科書というワードを聞くだけでなぜか読む気が失せてしまうのだ。

 

 とはいえ、別にただだらけていたわけではない。

 家にある魔法の専門書を読み耽ったり、母の残した『課題』に取り組んだり、魔法の練習を使ったりと実に有意義な生活を送っていた。

 

 まあ、マグルの世界で買ってきたゲーム機に没頭して寝食を忘れて楽しんだ時間の方が明らかに長かったが。

 

 マグルの世界にはこちらには無い嗜好品が数多くある。こういうものを知ったら世の中から純血主義はいなくなるのでは無いか、とアレステットは思ったほどハマっていた。マグル製品はホグワーツでは唯のガラクタと化してしまうために持っていけないのが残念である。

 

 

 検知不可能拡大呪文をかけたトランクを引きずりながらキングズ・クロス駅の構内を進む。

 

 アレステットは昔からマグルの世界に遊びに行くことが多かったため、彼らの格好にはそれなりに知識があり然程目立っていない。勿論寝癖もキチンと直してきた。

 

 しかし、周りには同年代くらいの同族と思しき少年少女やその親が衆目を集めていた。魔法族はマグルの世界を知らないためか、変装が大抵奇妙な格好になってしまっている。中には下駄にハッピ、頭に鉢巻を巻いてハトの入った檻を運ぶいい年の大人もいた。丁度巡回中の警官に職務質問を受けているところだ。

 

(⋯⋯ここだな)

 

 入学案内には、ホグワーツ行きの列車は9と4分の3番線出発と書かれている。なんのことはない。9番線と10番線の間の柵に突っ込めばいいだけなのだが、マグル生まれの学生には何とも不親切な書き方だ。出発までに辿り着けない生徒がいたらどうするつもりなのだろうか。

 

「⋯⋯⋯ん?」

 

 迷うことなく間の柵に向かうと、その前に立ち往生している小柄な少女がいた。バサバサと暴れるフクロウが入った小さな檻を右手に、左手にはパンパンに詰められた大きなトランクケースを引きずっている。

 

 間違いなくアレステットと同じくホグワーツに向かう新入生だろう。

 戸惑うように手元の紙を見ては視線を彷徨わせる様子から、案の定マグル育ちの新入生が戸惑っているようだ。

 

「⋯⋯どうかしたのか?」

 

 驚くように振り向いた黒髪の少女が、アレステットの手に握られた入学案内を見て瞳を希望に輝かせた。

 

 アレステットは思わず言葉を詰まらせた。

 

 腰先まで伸びる美しく長い黒髪は癖一つ無く、陽光を反射して僅かに赤みがかっている。大きな瞳とは対照的にツンとした鼻や唇は小さく、その顔立ちはとても整っている。

 同年代と比べて随分と身長は小さいが、すらりと細長い脚が彼女を見た目以上に高身長に見せていた。

 

 あまり人と関わることのないアレステットにも分かる程可愛らしい女の子で、文句のつけようもないくらい美少女だった。

 

「あ、はい。もしかして、貴方も、その⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯ああ。ホグワーツの新入生だ。行き方が分からないんだろ?」

「はい⋯⋯。4分の3番線というのは勿論存在しませんし、駅員に訊いても変な顔をされましたし⋯⋯」

 

 重いため息を吐く少女は何とも沈痛そうだ。入学への緊張も相まって精神的に参ってしまっているのだろう。

 

「まあ、あの手紙だけじゃ分からないよな⋯⋯」

 

 見ていてくれ、と言い残してアレステットは4分の3番線の入り口である柵へと突っ込んだ。

 

「ちょ、ちょっと───ッ⁉︎」

 

 戸惑い、次いで驚愕を背に、ずんずんと進んでいく。勿論、衝撃は無い。視界が一瞬の暗転とともに切り替わる。おそらく、『移動キー』の応用だろう。

 

「わっ⋯⋯‼︎」

 

 背後からこけるように飛び出してきた少女を抱き止める。折れてしまうのでは無いか、というほど華奢な身体つきだった。

 

「大丈夫か?」

「⋯⋯⋯⋯すごい⋯」

 

 少女の視線の先にはマグル製の蒸気機関車がプラットホームに停車しており、多くのホグワーツ生で賑わっていた。

 

「これが魔法⋯⋯」

 

 アレステットにしてみればそこまで物珍しいようなことではない。だが、初めて見るだろう魔法の現象に目を輝かせながら破顔する美少女を見ていると、こちらまで気分が良くなる気がした。

 少女はしばらく物珍しそうに辺りを見回していたが、チラチラと微笑ましそうにこちらを見るような視線に困惑の表情を浮かべる。

 

 そして、やっと自分がアレステットの腕で優しく抱きしめられるような格好になっていることに気付いた。

 

「⋯⋯⋯ッ!?」

 

 ぼふんっ、と羞恥に顔を赤らめ、慌ててアレステットの腕から逃げ出す。両手で自分の身体を掻き抱くようにしてアレステットを睨みつけた。

 

 そんなつもりは無かったのだが。

 苦笑いを零しながら肩を竦め、アレステットは列車の中へと入っていった。

 

 少女も慌てたようにアレステットの背を追いかけた。

 

 

 その様子を見ていた辺りの大人が向けてくる生暖かい視線には気づかないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はシルフィ・コールフートと言います」

「アレステット・フォウリーだ」

 

 空いていた奥のコンパートメントに入り、自己紹介を交わす。丁度汽車が動き始めた頃だった。

 対面に座る少女はやはりマグル育ちのようで、それからしばらくの間アレステットに魔法界に関する質問を投げかけてきた。

 

 ホグワーツに関すること、寮に関すること、魔法に関すること、魔法生物に関すること。その度にアレステットは知りうる範囲内で答えた。

 

 だが、困った質問もあった。

 

「クィディッチとはどういう競技なのですか?」

「⋯⋯箒を使う競技だ。魔法界では一番ポピュラーなスポーツなんだが⋯⋯」

「? どうしました?」

「いや、実は俺はクィディッチにはあまり詳しくないんだ。どうもあの競技は好きになれなくてね」

 

 皮肉げに笑って肩を竦める。

 このくらいの歳の男の子であれば大抵クィディッチに夢中なものだ。どこそこのチームのファンだの新作の箒が発売しただのとはしゃいでる年頃だろう。

 

 しかし、アレステットは箒自体にそれほど興味が無かった為か、クィディッチのルールすら覚束ないのが現状だった。そのルール自体割と無茶苦茶だったのも好きになれない大きな要因の一つである。

 

「まあ、箒を使った授業は一年からあるからな。クィディッチについて自慢気に話してるやつは沢山いるだろうから、その時にでも訊くといい」

「⋯⋯わかりました。それにしても、本当に箒で空を飛べるんですね⋯⋯」

 

 箒に乗って空を駆ける。アレステットにとっては常識でも、シルフィにとってはまるで御伽噺の世界だ。

 質問に答える度に新鮮な反応を返してくれるシルフィはアレステットにとっても新鮮で、随分と教えがいがあった。

 

「凍れる時間の秘法とか極大消滅呪文とか使えるんですか?」

「そんなものは存在しない」

 

 

 

 アレステットが車内販売で買い込んだお菓子を二人して分け合いながら魔法界に関する一問一答を続けていると、突如コンパートメントが勢いよく開かれた。

 入ってきたのはボサボサの栗色の髪にリスのような前歯が特徴的な少女と、小太りでべそをかいている少年だ。

 

「誰か、ネビルのヒキガエルを見なかった?」

「ヒキガエルですか? いえ、見てませんけど⋯⋯」

「俺も見ていないな」

 

 そう答えると、小太りの少年──恐らくネビル──はますますしゃくりをあげてぐずり始めてしまった。

 

「そう⋯⋯。なら一緒に探してくれない? もう小一時間探してるのに全然見つからないのよ」

 

 率直に言うと、かなり面倒くさそうだ。チラリとシルフィを見ると彼女も同感なのか、露骨に嫌そうな顔をしていた。というよりこの少女の高圧的な物言いに苛立っている様子だ。

 

「そういう魔法はないのですか? 無くしものを探したりするような」

「私、教科書は全部暗記してるけど、そんな呪文は載ってなかったわ」

 

 二人は思わず顔を見合わせあった。

 

 教科書を暗記した? あの分厚い本の束を? それも全部?

 もしかしてそれが常識なのだろうか。新入生は皆それを熟して入学するのか。

 シルフィがそう目で問いかけてきたが、勿論アレステットは首を振った。間違いなくこの少女が特殊ケースなだけだろう。アレステットに関しては教科書のタイトルすらうろ覚えである。

 

「フォウリー、どうしますか?」

「あー⋯⋯」

 

 正直、断りたいというのが本音だ。しかし、そうればこの栗色の髪の少女が烈火の如く怒り出すのは目に見えている。

 僅かな思案の後、アレステットはネビルと目を合わせた。

 

「⋯⋯ネビル、だっけか」

「う、うん。ネビル・ロングボトム」

「じゃあ、ロングボトム。そのヒキガエルの名前は?」

「えっと、トレバーっていうんだけど⋯⋯」

 

 アレステットは小さく頷き、無言で右手をかざす。

 出っ歯の少女が怪訝そうにこちらを見つめた。

 

「何してるの? そろそろホグワーツに着くから、早くしないと────」

 

 少女の言葉を遮るように、勢いよく室内に小さな物体が飛び込んできた。その茶色がかった緑の物体は減速しながらアレステットの手に収まった。

 

 アレステットはぬるぬるした感覚に顔を顰めつつネビルにそれを手渡す。

 

「トレバー!」

 

 大喜びでそれを受け取るネビルを見て、突然のことに固まっていたハーマイオニーがアレステットに食ってかかってきた。

 

「今の、どうやったの⁉︎ 魔法よね? そんなの『基本呪文集』には載ってなかったわ! それに、杖も呪文も無しにどうやって?」

「一年じゃ習わないんじゃないか?」

 

 ぞんざいに返した答えに、少女は口をパクパクさせながら顔を真っ赤にした。気のない返事に、バカにされたように感じたようだ。

 

「もういいか? 俺らもそろそろ着替えなきゃいけないし」

 

 少女は妬ましげにアレステットを一睨みすると、大きく鼻を鳴らしてコンパートメントから出て行ってしまった。

 アレステットとしては別に悪意があった訳ではなく、唯の提案だったのだが、彼女はそうとは受け取らなかったらしい。

 小さくため息をつくアレステットに、シルフィが同情のこもった視線を向けた。

 

 大切そうにトレバーを懐に潜り込ませたネビルがアレステットに向き直って大袈裟に頭を下げた。

 

「本当にありがとう‼︎えーっと⋯⋯」

「アレステット・フォウリーだ。別にこのくらい気にしなくてもいい」

「私はシルフィ・コールフートです。ロングボトムも着替えなくていいんですか?」

 

 ネビルは自分が未だにマグル(のような)服装をしていることに気づき、アレステットに何度も礼をしてから慌てて自分のコンパートメントに戻っていった。

 

「コールフートから着替えていいぞ」

「分かりました。⋯⋯覗かないで下さいよ?」

 

 シルフィがジト目でこちらを睨む。どうやらまだ先程の事を根に持っているらしい。

 

「勿論だ」

 

 扉から出て、入り口の脇にもたれかかる。

 こんなに誰かとの会話を楽しんだのはいつぶりだろう。たった数時間だが、アレステットにとってはとても刺激的な時間だった。思い返してみれば、同世代の年の子とこうして世間話をするのも初めてのことだ。

 

 ホグワーツに入学する目的は、図書館にある希少な書籍と卒業生という箔を貰うことだけだった。だが、こういう友人関係というのも悪くない。

 

 アレステットは間もなくホグワーツに着く旨を伝える放送を聞きながら、静かに胸を高鳴らせた。

 

 

 

 

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ! ハリー、元気か?」

 

 見上げるほどの大男の元に、汽車から降りた新入生が集まる。2年生以上の生徒は別経由で行くらしくここにはいない。

 

「凄く⋯⋯大きいですね⋯」

「ああ。もしかしたら先祖に巨人族か何かがいるのかも知れないな。⋯⋯⋯ん?」

 

 その髭面の大男にはどこかで見覚えがあった。

 視線の先にいる眼鏡の少年を見て、合点がいったように頷く。オリバンダーの店で出会った二人組だ。

 

 いや待て。

 

 あの男は今、『ハリー』と言ったか。

 ──あの、ハリー・ポッターか。思わず眼鏡の少年を凝視した。

 

 アレステットと同じことを思ったのか、周りの生徒もヒソヒソと小さな声で話しながら件の少年に視線をやる。少年──ハリーは恥ずかしそうに縮こまった。

 

「⋯⋯? どうしたのですか?」

「⋯⋯ああ、そっか」

 

 周囲の反応に不思議そうに首を傾げるシルフィに、小さな声で事情を説明してやった。

 

 

 ───かつてヴォルデモート卿と呼ばれる男がいた。史上最悪と悪名名高い闇の魔法使いだ。

 

 彼は他の追随を許さない圧倒的な力と、狂信的な純血主義の下に『魔法界の浄化』を掲げマグル、マグル生まれの魔法使い、混血、敵対する者達を無慈悲に殺戮した。

 

 その危険極まりない思想に同調する者や恐怖に屈した者や服従の呪文にかけられた魔法使い達が『死喰い人』として彼の下に集まり、闇の陣営として一大勢力を築きあげた。

 その勢いたるや凄まじく、イギリス魔法界は陥落寸前にまで陥ったという。人々は畏怖を籠めてヴォルデモートを『名前を呼んではいけない例のあの人』だとか『闇の帝王』と呼び、その呼称は今もなお使われている。

 

 そんな彼を打ち倒したのは、信じがたいことにまだ一歳になったばかりの赤ん坊だった。如何なる奇跡を起こしたのかは定かではないが、少年は魔法界の英雄として歴史に名を刻んだ。それが10年ほど前の話だ。

 

 

「⋯⋯その英雄が彼、ですか?」

「ああ、そういうことになる。ハリー・ポッターの名を知らない者は多分魔法界にはいないだろう」

 

 シルフィは疑わしそうにハリーを見つめる。何せ、どこからどう見ても普通の、どこにでもいそうな少年だ。そんな大仰な人物には到底見えない。

 

「それ、本当なんですか? 赤ちゃんがそんなことできるなんて⋯⋯」

「さあな。もしかしたら、生まれた時から呪いに対する強力なカウンターを持っているのかもしれないな。死の呪文を跳ね返す程の」

 

 そう考えれば辻褄が合う。実際、彼の額についた稲妻の傷痕はその時についたものとされている。

 ───もっとも、この仮説は的外れだろう。母親曰く、かの帝王は死の呪文をその身に受けながらも哄笑をあげていたという。そんな化け物がただ単に死の呪文を跳ね返されただけで敗北するとはとても考えられない。

 

 

 遠目でも見えるハグリッドの背を列をなして追いかける。険しく狭い上に真っ暗で足元が覚束ない小道を歩いている内に、みんなだんだん喋る余裕が無くなってきて静かになっていく。2人もそれに倣って黙々と歩いた。

 

「うぉーっっ‼︎」

 

 あちこちから大きな歓声が湧き上がった。一気に開けた視界の先で、美しい夜空に浮かぶように壮大な城が聳え立っていた。眼下に広がる巨大な泉も相まって、まるで絵本の表紙のような光景だ。シルフィとアレステットも思わず息をするのも忘れて見入ってしまう。

 

「4人ずつボートに乗って!」

 

 大男のしゃがれた声にやっと正気を取り戻した新入生達が順繰りにボートに乗り込んでいく。船頭はおらず、魔法をかけられているようで、全員が乗り込んで大男が掛け声をかけたのと同時にゆっくりと湖面を滑り出した。

 

 アレステットとシルフィは、丁度前にいた2人と一緒に乗ることになった。2人とも女の子だったので、アレステットは肩身の狭い思いがした。

 

 1人は金髪のおさげと間延びした口調が特徴的な女の子で、見るからに優しそうな子であった。

 

 問題は、もう1人の少女であった。

 

 容姿だけであれば、思わず息を呑むような非常に可憐な少女だ。

 

 暗闇にあっても輝くように美しくシミひとつない金髪をツインテールに結っている。その髪型にも関わらず、この年頃の女子にしては非常に高い身長が彼女を決して幼くは見せない。

 

 彫りの深く、目鼻がハッキリとした顔立ちは可愛いというよりはその歳にして美人と形容した方が正しいだろう。シルフィとはまた違ったベクトルで整った顔の造りで、一言で言えば豪奢な印象を受ける顔立ちである。吊り上がった勝気な瞳がキツそうなイメージを受けるが、一部の男子生徒には非常に受けが良さそうだ。

 

 同い年とは思えないほど発育がよく、既に若干ではあるが要所要所で丸みがあるような気さえした。だというのに、手足はすらりと細長く、無駄な肉はついていないようだ。

 

 周りの男子生徒の視線がチラチラと向けられるのも頷ける、派手な容姿の美少女だった。

 

 が、しかし。

 

「アイリーン・シャフィクよ。言うまでも無いと思うけど、間違いなく純血と謳われる聖28一族の一つであるシャフィク家、その次期当主よ。貴方たちは?」

 

 これがまた、『いかにも』な純血主義のお嬢様であった。汽車の中で会った女の子が可愛く見えるレベルの高圧的な口調だ。その吊り上がった眦はどうやら彼女の性格をそのまま映しているらしかった。

 

 純血主義を好まないアレステットは眉を顰め、シルフィも早速苦手意識を持ったのか口をへの字に曲げている。

 

 唯一ニコニコ笑っているのはおさげの女の子だけだ。

 勝手な憶測だがこの子はハッフルパフに行きそうだな、と思った。同時にこのアイリーンという少女はスリザリンに行くだろうと確信した。

 

「ハンナ・アボットだよー」

「⋯⋯アレステット・フォウリー」

「⋯⋯⋯⋯シルフィ・コールフートです」

 

 満足そうに頷いていたアイリーンは、シルフィの姓を聞いて、ただでさえ鋭い眦をさらに吊り上げた。

 

「コールフート? 聞いたことが無いわね」

 

「それはそうですよ。父も母も魔法なんて知りもしませんでしたし。この魔法界と言うところでのマグルの生まれですから」

 

 それを聞いて、明らかにアイリーンは馬鹿にするように鼻で笑った。瞳に宿る嘲りの色を隠そうともしていない。

 

「ふん。ホグワーツは世界一優れた魔法学校よ。そんなところに貴女のような下等な生徒が入学するなんて、恥ずべきことだわ。ホグワーツの名に泥を塗るつもりかしら」

 

 これにはさしものハンナも憤慨するようにアイリーンを睨んだ。シルフィは突如浴びせられた謂れのない中傷に戸惑っている様子だ。

 

「ちょっと! なんでそんなことを言うの⁉︎ わたしのママだってマグルの生まれだけど、すっごく優秀な魔女よ!」

 

 すると、今度はその蔑むような視線がハンナに向けられた。

 

「アボット家は聖28一族の一つと聞いてたけれど、どうやらそれも過去の話だったようね。混血を生んだ、血の裏切り者。純血の風上にも置けないわ」

 

 ハンナはショックを受けたように顔を青白くさせて俯いてしまった。

 まるでハンナの生まれそのものを否定するような発言に、アレステットも我慢が効かなくなってきた。

 腕につけた銀の腕輪が悲鳴をあげるようにチリチリと振動し、身体から僅かに漏れ出した魔力が湖面を小さく波打たせた。

 

「おい────」

 

 

「さっきから黙って聞いてれば何ですかその言い草は‼︎ しかも、私だけじゃなくてアボットまで⋯⋯‼︎ たかだかちょっといい家に生まれただけで人を馬鹿にして! 純血の何がそんなに偉いって言うんですか⁉︎」

 

 ガバっと顔を上げてシルフィが立ち上がり、大声でアイリーンに怒鳴り散らす。あまりの剣幕に、アレステットは口から出かけた言葉を飲み込んだ。

 

 アイリーンは一瞬鼻白むような顔をしたが、負けじと屹立して真正面からシルフィを睨みつける。

 

「純血はみんなマグル生まれなんかよりもずっと優れた魔法力を持っているわ。きっと貴女みたいなけが、⋯⋯マグルで育った生徒はすぐに落第するに決まっているわ!」

 

 アイリーンの言うことは学術的に全く根拠のないものだ。

 純血が魔法力において優れている、というのは昔からよく純血主義が口にする考えだが、現実は寧ろ逆。純血を維持する為に近親交配を繰り返した結果、純血の家系は一般的な魔法族よりも遥かに奇形児やスクイブの割合が大きい。純血主義の将来は先の見えた袋小路だ。

 

 ⋯⋯と長々とアイリーンに説明したところで、きっと彼女は聞く耳を持たないだろう。

 

 だが、これは別にアイリーン個人が悪いわけではない。

 恐らくは親から捏造された話を聞かされて育ったのだろう。それが正しいかどうか判断する能力を養うのは親による教育なのだから、鵜呑みにするのも仕方がない。純血主義の親の子が純血主義なのは必然とも言える。

 

「⋯⋯もし純血が魔法力で優れていたとしても、そんな差、すぐに努力で覆して見せます。見てなさい、きっと貴女に吠え面をかかせてやりますよ!」

「なんて汚い言葉遣いなのかしら! これだからマグルは⋯⋯」

 

 強烈な眼光を放ち睨み合う二人にハンナはオロオロしている。かなり大声で怒鳴りながら喧嘩をしていたためか、周りのボートに乗った生徒たちはみんなこちらを見ていた。

 

「⋯⋯とりあえず、二人とも座ってくれ。このままだとボートが転覆する」

 

 予想では、きっと自分は彼女と同じ寮に行くことになる。なら、これから先アイリーンのような生徒と沢山関わることになるだろう。

 

 そう考えるだけで重苦しいため息が溢れた。

 

 

 二人は船から降りるまでまでずっと睨み合っていた。

 




マグルのゲーム
→時代的に多分ファミコン。ただし作者はファミコンを見たことがない。アメリカ旅行中にアレステットが購入したという設定。

シルフィ・コールフート
→ヒロインその1。プロット時のイメージはめぐみん。純然たるマグル生まれ。先祖にすごい魔法使いがいたりとかそういう裏設定は存在しない。

クィディッチを知らない
→ブラジャーがどうのこうのとかそういうレベル。

アクシオ トレバー
→生物の呼び寄せ呪文は出来ないと思ってたけど、ファンタビでやってたので採用。知性のある生物には出来ないという設定。こっそり開心術でトレバーの外見を盗み見ている。

凄く⋯⋯大きいですね⋯⋯
→(背が)

ヴォルデモート
→超やべーやつ。何がやばいってもうやばすぎてやばい。

アレステットの考察
→的外れ。

アイリーン・シャフィク
→ヒロインその2。今のところただの嫌なやつ。純血主義だけどドラコ達とは一味違う。それは後々。

ハンナ・アボット
→アボット・ハンナではない。間延びした口調というオリジナル設定。原作で話してた記憶があんまりないので勝手に改竄。
 
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