ハリー・ポッターと運命を貫く槍   作:ナッシュ

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 気づけばお気に入り登録者が100人を超えておりました。誠にありがとうございます。お気に入りや評価というのは非常にモチベーションを上げるものですね⋯⋯。

 誤字報告ありがとうございました。なぜかこれまでの話でマクゴナガル先生がマ「グ」ゴナガルになってました。多分最初に打った時に気づかずそのまま予測変換を使い続けてました。修正ありがとうございます。


第6話 飛行訓練

 

「マグルは『ひこうき』とかいう仰々しい鉄の箱に乗らなきゃ空も飛べないのでしょう? 1人じゃ何もできない、全くもって惨めな生き物ね。いっそ憐れでもあるわ」

「飛行機は箒と違って同時に何十人も運べるわ。それも、箒よりも高い位置を、箒より速くね」

 

 

「⋯⋯間違いなくアンタは箒を使えないわ。飛行術は才能がものをいうもの。足りない魔法力をお勉強で補うのとはわけが違うわ」

「あら、杖で劣っている自覚はあったのね」

 

 

 隣で繰り広げられるアイリーンvsハーマイオニーの舌戦を無視しながら、もそもそとパンを咀嚼する。

 もうグリフィンドール生はすっかり見慣れたものなのか、こちらに見向きもしない。仲裁役を押し付けられたアレステットは早々に匙を投げていた。

 

 毎回アイリーンが何か嫌味を言い、それにハーマイオニーが言い返して口論になるというのがお決まりのパターンだ。今日の論題はどうやら午後に控えた飛行訓練のことのようである。

 みなもそのことで頭がいっぱいなのか、そこかしこで口々に自分の箒について自慢しあったり、クィディッチ談義に花を咲かせたりしていた。

 

 正しくその授業への不安でいっぱいだ、という顔をしたネビルが眉を八の字にしてアレステットの傍までやってきた。

 

「アレステットは箒に乗ったことある?」

「ああ。まあ、あんまり得意じゃないけどな」

「⋯⋯僕、一度も箒で空を飛んだことが無いんだ」

 

 珍しいな、と少し驚いた。魔法族の子どもであれば年端もいかない頃から箒に乗るのが普通だ。マグルの小学生みんなが自転車に乗れるのと同じように。それもロングボトム家という純血の大家とくれば尚更だ。

 

 どうやら話に聞くネビルの祖母は何だかんだ過保護すぎるきらいがあるようだ。

 あんなことがあった後だから仕方のないことかもしれないが。

 

「しかも、スリザリンの奴らと合同授業だなんて! 飛べなかったら、きっと、マルフォイにすごくバカにされる!」

「だったら練習して見返してやればいい。あいつの自慢話は9割9分嘘だろうからな。あのほら話ほど上手くはない」

 

 しかしそんな言葉もネビルには届かない。どこからか取り出したクィディッチ今昔という分厚い本を穴が空くほど読み始めてしまった。

 肩を竦めて食事を再開する。

 

「純血!」

「マグル!」

 

 隣ではもはや悪口かも分からない罵声が飛び交っていた。

 結局、二人は今日も朝食を食べ損ねたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに箒の飛行訓練の時間がやってきた。

 

 場所は校庭からは黒々とした「禁じられた森」が遠目に見えるクィデッチ練習場だ。平坦な芝生の上には古ぼけた箒がずらりと整列されていた。

 

「本当にこれで飛べるのですか?」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 ゴミ捨て場に落ちていても不思議ではない程オンボロの箒をしげしげと見ながら不安そうにシルフィが呟く。アレステットは即座に答えられなかった。

 クィディッチ界ではそれなりに有名な『流れ星』と呼ばれる箒だ。抜群の安さと桁外れの不安定性をもつ逸品である。

 

「おや? 誰かと思えば、スリザリンに入り損ねたフォウリーくんじゃないか。相変わらずそのマグル生まれにご執心のようだね」

 

 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら、銀髪をオールバックにした少年が話しかけてきた。両脇にはガタイのいい男子をまるでボディーガードのように従えていた。

 

 ドラコ・マルフォイ。簡単に言えばパンジー・パーキンソンの男バージョンである。ハリーやロン相手ほどじゃないが、事あるごとにアレステットに絡んでくる、嫌味なやつだ。

 

「マルフォイか。何の用だ?」

 

 そのどうでも良さげで素っ気のない返事に一瞬怒りに顔を歪めるが、マルフォイはすぐに貼り付けたような笑みを浮かべた。その視線は明確に隣のシルフィを蔑んでいる。

 

「マグル生まれに媚びを売ってまでスリザリンとの繋がりが欲しいのかい? キミがどうしてもというなら父上に掛け合ってあげてもいいけど?」

「不要だ。そういうお前の親父は相変わらず権力に媚びを売っているようだな。流石、アズカバン逃れしただけのことはある」

 

 今度こそ明確にマルフォイの顔に朱が差した。横で控えていたクラッブとゴイルが前に出てきてアレステットを威圧する。

 

 いつにも増して攻撃的な姿勢を崩さないアレステットに、シルフィは困惑を隠せない様子だった。

 遠巻きには遅れてやってきたグリフィンドール生がこちらの様子を伺っていた。

 

「僕の父上を愚弄するのか、血を裏切る者め!」

「へえ、マグルの富裕層に媚を売りまくっていたマルフォイ家の言とは思えないな」

 

 マルフォイは何のことか分からない、という表情を浮かべた。案の定マルフォイ家は今の自分たちに都合の悪い事実を抹消して生きているようである。

 

「わけのわからないことを────」

「何をぼやぼやしているのですか!」

 

 気色ばむマルフォイを鋭い女性の声が遮った。教科担任のマダム・フーチだ。マルフォイは一瞬アレステットとシルフィを睥睨し、慌てて取り巻きたちを引き連れてスリザリン生の下へと戻っていった。

 

 当然のことだが、シルフィは全く戻る気配もなくアレステットの隣にいる。例のごとくグリフィンドール生達から痛いほど視線が突き刺さった。

 

「あら? 何でここに『スリザリンの面汚し』がいるのかしら」

「おや、『グリフィンドールの恥晒し』ではありませんか。奇遇ですね」

 

 偉そうな歩みで優雅に歩いてきたアイリーンとシルフィが視線で花火を散らせながら睨み合う。いつだかアレステットが予測していたのと同じ状況だ。もっとも、立場は反対だが。

 

「そこ、何を騒いでいるのです! みんな箒の傍に立って。さあ、早く!」

 

 二人は同時に視線を切り、極力視界に入れないよう意識しているように振る舞った。何度かアレステットは無視するように進言しているのだが、シルフィはいつも売り言葉に買い言葉で喧嘩を始めてしまう。どうやら心底アイリーンのことが気に食わないらしい。

 

「杖腕を箒の上に突き出して。そして、『上がれ!』と言う」

 

 意外にもシルフィは一発で手元に箒が収めた。対してアイリーンは焦ったように何度も声を上げるが、コロコロと芝の上を転がるだけだった。

 因みにアレステットの方はうんともすんとも言わない。

 

「おや、シャフィク家次期当主様は箒を掴むこともできないのですか?」

 

 その無様な様子を目ざとく見つけたシルフィがニヤリと笑い、これ見よがしにアイリーンを馬鹿にする。何というか、その表情はたしかにスリザリン生らしいものだった。

 

「うるさいわね! このボロ箒が悪いのよ! それに、フォウリーもできて無いじゃない!」

「アクシオ、来い」

「ちょっと‼︎」

 

 その後、フーチが一人一人に杖の握り方を指導していった。

 シルフィはフーチからその見た目に似合わぬ懇切丁寧な説明を受けた。流石に握り方は正しかったのか、アイリーンはフーチにその姿勢を褒められ、先のお返しと言わんばかりにドヤ顔をかましていた。初めてなのだから当たり前なのだが、何故かシルフィは猛烈に悔しがっていた。

 

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐ降りてきてください。笛を吹いたらですよ───一、二の──」

「うわぁぁあっ⁉︎」

 

 緊張に耐えられなかったのか、ネビルがフライングで空を舞ってしまった。箒を制御できていないのか、空中をぐるぐると不規則に回転している。みるみるうちにネビルの背中が小さくなっていった。

 

「こら、戻ってきなさい!」

 

 マダム・フーチが焦ったように懐から杖を出そうとするが、気が動転しているためかその動きは緩慢だ。既にネビルは箒から投げ飛ばされ、十メートル程の高さから自由落下を始めていた。このままでは間に合うまい。

 

 

 瞬間、アレステットの右腕が閃いた。

 

 目にも止まらぬ速度で腰から引き抜かれた杖がぴったりとネビルに照準を引きしぼられる。

 周りの生徒がその動きに気づくよりも速く、正確に魔法が行使された。

 

「アレスト・モメンタム」

 

 芝生の数十センチ上で、まるで時間が止まったようにネビルの身体が空中に縫い付けられた。

 杖の動きに合わせてゆっくりと芝生の上に横たえられるネビルに、しばし固まっていたフーチがようやく再起動した。

 慌ててネビルのそばまで駆け寄って抱き上げる。

 怪我はないようだが、あまりのショックに気を失ってしまっていた。

 

「私がこの子を医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ。

 それと、フォウリー。素晴らしい機転と魔法でした。グリフィンドールに10点差し上げましょう」

 

 わっ、とグリフィンドールが湧いてアレステットを褒め称えた。さっきまでアレステットを疎んでいたというのに、全く現金なやつらである。一方でスリザリン生たち(とハーマイオニー)は親の仇を見るような形相でアレステットを睨んでいた。

 

 

 

 おそらく魔法で軽くしているのだろう、ネビルを軽々と抱えたフーチが見えなくなると、ネビルが危惧していた通りドラコを中心としたスリザリン生達が笑い声をあげた。

 

「あいつの顔を見たか? あの大間抜けの」

 

 嘲るマルフォイに、パーバティ・パチルが苦言を呈する。一瞬だが、マルフォイが言葉を詰まらせた。美人に弱いのは年齢に関わらず男の性らしい。

 マルフォイに代わり、パンジーが冷やかすように言い返す。結果として、いつものように二つの寮生達は真っ向から睨み合った。

 

 

「ごらんよ! ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」

 

 マルフォイが草むらから取り出したのは、今朝フクロウ便でネビルの下に届いたビー玉より少し大きいガラスの球体だ。

 

「アレは何ですか?」

「『思い出し玉』だ。何か忘れモノや忘れてる予定とかがあると赤く光る」

「へえ、それはなんとも便利な⋯⋯ん? それって便利ですか?」

 

 光るだけである。肝心の内容までは思い出せない。マルフォイがバカ玉というの分からなくもない。

 

 しかもネビルの場合あの玉すら何処かに忘れてくるのは目に見えていた。『思い出し玉思い出し玉』が必要かもしれない。いや、『思い出し玉思い出し玉思い出し玉』、『思い出し玉思い出し玉思い出し玉思い出し玉⋯⋯

 

「ここまで取りに来いよ、ポッター」

 

 アレステットが下らないことを考えていると、ハリーを挑発しながらマルフォイが軽やかに宙を舞った。あの質の悪い箒をあそこまで乗りこなす辺り、大口を叩くだけのことはあったようだ。今のアレステットには逆立ちしても箒であの芸当はできそうになかった。

 

 だが、それ以上に驚きだったのはハリーだ。マルフォイ以上の身のこなしで鋭く空を駆け抜け、彼の前に躍り出た。

 

 その動きは、箒に関してほぼ同レベルと言えるアレステットとシルフィから見ても天賦の才を感じさせるのに十分なものだった。

 果てには、マルフォイが放り投げた思い出し玉を追って凄まじい速度で急降下し、アクロバティックな動きで玉をキャッチして見せた。

 

 グリフィンドール生からドッと歓声が沸く。スリザリン生達は何が起きたか分からない様子で口をパクパクとさせていた。

 

「ハリー・ポッター!」

 

 が、歓声をあげていられたのも束の間。ドカドカと走ってきたマクゴナガルの鋭い声がグリフィンドールのお祝いムードを吹き飛ばした。

 

「まさか──こんなことはホグワーツで一度も⋯⋯⋯」

 

 ブツブツと独り言を呟いていたマクゴナガルはパチルやロンの弁明を一顧だにせずハリーを連れて城に向かって大股で去っていってしまった。

 

 

 鬼の副校長の姿が見えなくなると、マルフォイ達が耐えきれないとばかりに爆発したように笑い始めた。

 

「はは、そら、見た事か! 英雄ポッター様もこれで退学だ!」

 

 嘲笑を浮かべるスリザリン生に、グリフィンドール生達は揃って苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。意外なことに、アイリーンも若干暗い顔をしている。

 

「ポッターは退学になると思いますか?」

「いや、それはないだろう。マクゴナガルはフーチの忠告を聞いていない筈だ。もし聞いていたとしたら、ポッターが飛ぶより先にマルフォイが捕まっていただろ? なら、罰則目的で連れていったって訳じゃないと思う」

 

 それに、例え彼女がなんと言おうとダンブルドアが確実に引き止めるだろうという確信もあった

 

「では、一体⋯⋯?」

「さあな。もしかしたらマクゴナガルが重度のクィディッチ狂いで、ポッターの箒の才能を見てグリフィンドールの代表選手にするために連れて行ったのかもしれない」

 

 そんな冗談を飛ばすと、クスクスと楽しげにシルフィが笑った。自分で言って何だがあまりにマクゴナガルのイメージからかけ離れた妄想に、アレステットも思わず吹き出してしまった。

 

 

 その後の飛行訓練はグリフィンドール生達の落ち込みようは酷かったものの、滞りなく進行した。

 

 因みにアレステットの箒はやはり全く言うことを聞いてくれなかったので、こっそり魔法を使って空を飛んでいるように見せかけた。きっと見るものが見たら発狂する超絶技能であるが、誰も気づいた様子はない。

 

 だが、それも慣れなもので、特に面白みもなかった。アレステットは早々に切り上げ、木陰の下で寝転がった。得意な呪文の一つである目くらまし呪文をかけ、全身を弛緩させる。

 フーチは生徒のサボりに気づく気配はない。まだ初回の授業だし、一人いなくなっても分からないだろう。

 

 

 空ではシルフィとアイリーンが何度目かもわかない競走を繰り広げていた。

 

 しばらくぼーっとその様子を眺めていたが、この角度はマズイかもしれない、と今更ながら気がついた。高度がある上に逆光ではあるが、目が慣れてきたら『あれ』が見えてしまいそうだ。

 

 そっと目を瞑る。

 全身を擽ぐる気持ちのいい風に、アレステットは気づかないうちに意識を手放していた。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、ひんやりとした空気に肌寒さを覚えて身震いをした。むくりと起き上がり、辺りを見渡す。

 西の山間に美しい黄昏の帯が織られ、反対側には宝石のように輝く無数の星がそのヴェールをはだけさせていた。

 

 

「⋯⋯しまった」

 

 昨夜こっそり校内を『散歩』したツケが回ったのか。どうやら、かなり長い間寝入ってしまっていたようだ。

 腰から懐中時計を取り出す。黒色のその時計はかなり年季が入っており、一見ただのガラクタのようにも見える。だが、アレステットにとってはある意味杖より価値のある時計だった。

 

 時間的に、走ればギリギリ夕食にはありつけるだろう。

 まあ最悪厨房にでもお邪魔すれば良い。

 

「⋯⋯にしても、誰か起こしてくれてもよかったんじゃ──あ」

 

 身体にへばりつく妙な感覚に、やっと自分に目くらまし呪文をかけていたことを思い出した。

 

 それは誰もアレステットに声をかけてこない筈だ。みんなからすれば突然姿を消したのだから。まさか芝生に同化して眠りこけているとは夢にも思うまい。

 

 思わず、乾いた笑みが溢れた。なんとも情けないとは思うが、フレッドやジョージあたりにこの話をすればおおいに爆笑してくれることだろう。

 

(持ちネタが一つ増えたな)

 

 呑気にそう考え、ホグワーツに向けて踵を返した、その時だった。

 

「────フォウリー!」

 

 その瞬間、アレステットめがけて黒い何かが突っ込んできた。勢いよく振り返って咄嗟に杖をとろうとしたが、聞き馴染みのある声がその手を止めた。

 

「ぐぇっ」

 

 黒い弾丸は勢いを落とすことなくアレステットの腹に突っ込んだ。

 あまりの衝撃に、カエルが潰れたような間抜けな声が漏れた。

 

「フォウリー! フォウリー! どこへ行ってたんですか! いえ、それより怪我はありませんか⁉︎」

 

 シルフィだ。ペタペタとアレステットの安全を確認するように全身をまさぐり回し、頭の先からつま先まで異常がないか何度も視線を往復させた。

 よくよく見てみると、シルフィの目元は泣き腫らしたかのように真っ赤だ。頬には涙の跡がくっきりと残っている。アレステットの身体検査の間にも、目尻に溜まった雫が新たに頬に線を引いた。

 

「えっと⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」

 

 正直、アレステットには全く状況が理解できなかった。説明を求めるようにシルフィを見やるが、彼女はアレステットの胸に顔を押し付けたまま動かなくなってしまった。

 まるで、離れたらどこかへ消えてしまうと思っているかのようだ。

 

「シルフィは君を探しておったのじゃよ」

「ダンブルドア先生?」

 

 シルフィの後ろから静かに歩いてきた校長の姿に、アレステットはますます混乱した。なぜ多忙な筈の彼がこんなところにいるのか。

 

「いやはや、心底驚いたものじゃ。夕食に向かおうと廊下を歩いとったら、その子が泣きながわしに縋り付いてきたのじゃからのう。

 その子はの、アレス。授業が終わってからもずっと君を探し続けておったのじゃよ」

 

 衝撃的なその内容に、アレステットは思わず絶句する。

 しゃくりをあげながら両手を背に回して強く抱きしめるシルフィを呆然とした表情で見つめる。その華奢な身体は、汗冷えですっかりと冷たくなっていた。

 

 ギュッと唇を強く結ぶ。さっきまで呑気に眠りこけていた愚かな自分を殴り飛ばしてやりたい気分だった。

 

「す、すまない、コールフート。その、本当に、すまない⋯⋯」

 

 すっかりボサボサになってしまっていたシルフィの髪を撫で梳きながら何度も謝る。

 

 その二人の様子を、キラキラと輝く青い瞳が優しげに見守っていた。

 

「良い友をもったな、アレス。寮を超えた友情を評して、『今回は』減点は無しにしておこうかのう。

 さあ、二人とも。広間へ急ぐといい。夕食の時間もそろそろ終わってしまうのでな」

 

 ダンブルドアは一言ことさら強調してそう言い残し、その年齢からは想像もつかないような確かな足取りで去って行った。

 

「その、コールフート、本当に悪かった。もうどこにも行かないから、少し離れてくれないか? 取り敢えず、夕食を食べに行こう」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「コールフート⋯⋯?」

「⋯⋯⋯⋯すぅ⋯⋯すぅ⋯⋯」

 

 泣き疲れたのか、シルフィはアレステットの胸の中で小さな寝息を立てていた。

 その疲弊しきった姿に、また罪悪感が湧いてくる。肩を揺らすことも、目覚めの呪文を使うこともできそうになかった。

 

「おい、これ、どうすればいいんだ⋯⋯」

 

 結局、二人は夕食を食べ損ねた。

 

 

 

 因みに、アレステットが事の顛末を語ると、あまりの怒気で殺傷力すら感じさせるよう冷え切った視線を向けられた。その日から夜間外出を控えるようになったのは言うまでもない。

 

 




 
杖で劣ってる
→才能という一点ならハーマイオニーとアイリーンにそこまで差はないですが、ハーマイオニーの努力が成績に大きな差をつけています。

絡んでくるマルフォイ
→嫌味7割。残り3割は後々語られるかもしれない。

『スリザリンの面汚し』
→純血主義者の生徒(特にスリザリン生)によるシルフィへの悪口。

『グリフィンドールの恥晒し』
→純血主義者からもグリフィンドール生からも煙たがられるアイリーンへの悪口。

アレスト・モメンタム
→昔どこかで見た海外版のアズカバンの囚人の映画でのダンブルドア先生の発音が堪らなく好き。

マクゴナガルはクィディッチ狂
→合ってた。

飛行魔法
→母から教わる。母が知ってた理由はいつか作中で語られる。

『あれ』
→見たくないわけではない。

爆睡
→ホグワーツ入学以来主人公最大の凡ミス。

お散歩
→夜の学校を徘徊。

心配シルフィ
→涙目黒髪ロングロリっ娘。かわいい。

ダンブルドア先生
→アレステットの友人関係に安堵、僅かに警戒(?)を解く。

『今回は』
→夜間の無断外出は当然の如くバレている。

冷たい視線
→一部の業界ではご褒美。


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