ハリー・ポッターと運命を貫く槍   作:ナッシュ

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 更新していなかったのにブックマークしてくれた方が突然増えていて驚いています。もしかして投稿しない方が評価される⋯⋯?(困惑)
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第8話 決闘

 

 授業も全て終わった放課後。

 夕焼けの美しい茜の光が差し込む教室で、二人の少女が向き合っている。

 

 片や、緑色のタイをした華奢な少女。

 腰先まで伸ばされた黒髪は陽の光に反射して仄かな朱色を纏わせている。小さく上向きな鼻や唇とは裏腹にパッチリと大きな瞳は、まるで空模様を映したかのように暖かな緋色を灯していた。スラリと引き締まった長い足はため息が出るような脚線美を描いており、同年代と比べても明らかに小さい身長を補っている。その背の低さも、幼さを感じる顔立ちといい意味でマッチしており、小動物じみた可愛らしさを演出している。

 

 もう一方は、赤色のタイをした背の高い少女。

 先の少女とは趣の異なる整った容姿で、身体のパーツ一つ一つが派手な印象を受ける少女だ。眩いばかりの黄金の髪を赤色のリボンでツインテールに結い上げている。その一見幼さを感じさせる髪型に反して、顔立ちは彫りが深く端正に整っている。吊り上がった蒼海の瞳は生来の勝ち気な性格を如実に示していた。

 黒髪の少女を可愛いと評するなら、こちらは綺麗と称えるのが正確だろう。

 

 両者ともに非常に優れた容姿をもった少女たちだ。きっと後数年もすれば、周りの男が放っておかないような眉目秀麗な女性に成長することだろう。

 だが、この光景を見ればきっと男たちは顔を引き攣らせて逃げ出すだろう。鋭い眼光で火花を散らす二人の顔には、それだけの気迫と敵意に満ち満ちていた。というかアレステットもできれば眼をそらしたいような光景だった。

 

「⋯⋯カウントを3数えたら開始だ。準備はいいか?」

「はい」

「さっさとしなさいよ」

 

 

 なぜこんなことになったのか。アレステットはここに至るまでの経緯を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの待ち合わせ場所にやってくると、シルフィが奇行を取っていた。

 その小さな体躯をライラックの生垣に隠し、コソコソと中の様子を伺っている。時折「ひゃー」やら「うわぁ⋯⋯」と感心するような、照れるような独り言を呟いている。

 その姿は正しく不審者そのもの。

 

「⋯⋯何してるんだ?」

「ひゃうっ!」

 

 びくりと大きく肩を跳ねあげ、焦ったようにバッとこちらを振り向く。アレステットの姿を認めるとさらに狼狽の色を濃くした。挙動不審すぎる反応に思わず眼をパチクリとさせる。

 

「あ、アレステット⋯⋯」

「入らないのか?」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

 横をを通り過ぎようとするアレステットのローブをシルフィが慌てて掴み、制止した。訝しげに後ろを振り向くと、シルフィの視線が分かりやすく宙を泳いだ。

 

「えーっと、今日は別の場所にしませんか? た、たまにはいいでしょう? ここも勿論素敵な場所ですが、最近は少し寒いですし、校内とかで暖まりませんか?」

「いや、まあ、それは構わないけど⋯⋯」

 

 どうも様子がおかしい。まるでライラックの箱の中をアレステットに見せたく無いようで、視線を遮るようにして立ち、早くこの場から離れたいと言わんばかりに早口で急かす。

 

 もしかして、またスリザリン生たちがやってきたのだろうか。アレステットの脳裏にあの日のことが蘇る。今思い返せば随分とつまらない⋯⋯というか、臆病とも言える手段をとったことを彼は恥じていた。

 

 義憤に駆られたアレステットは、シルフィの制止を振り切ってライラックで象られたアーチの中を覗いた。

 

 

 

 そこでは、二人の男女がまぐわっていた。

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 気まずい。その一言に限った。11歳とはいえ、先の行為が何を指し示すかくらいは大体察しがつく年頃である。

 二人の間に横たわる重い沈黙は、思春期の子どもが親と映画を観ていたらいきなりセクシーなシーンが流れ出した時のリビングのそれに近しい。

 

「あー、えーと⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 うまくいつも通りに振る舞えない。口をついて出た意味のない言葉は、静謐な空気に呑まれてか細く消えてしまった。アレステットは困ったように頭をかいた。シルフィも所在なさげに手を彷徨わせている。

 

 遠目にクィディッチの試合に向けて練習するグリフィンドール生達が見える中庭をアテもなく歩く。沈黙は時間を増すごとに重みを増してきているような気がした。

 

 

 そんな微妙な空気を打ち破ってくれたのは、アレステットの背中目掛けて勢いよく投げつけられた一冊の本だった。

 

 振り向きざまに右手を振るい、飛来物を叩き落とす。煙を上げながら廊下に落ちるそれは、随分と見覚えのあるものだった。

 

「⋯⋯俺の教科書?」

「あら、手が滑ったわ。悪いわね、デート中に」

「⋯⋯シャフィクか」

 

 仁王立ちする金髪お嬢様の暴挙に眉を寄せるアレステットだが、それ以上に隣の少女がアイリーンに食ってかかった。

 

「何の用です? 友達のいないぼっちの貴女と違って、親友である私たちはこれから楽しくお話しする予定なのです。あ、ひょっとして私たちと友達になりたいのですか? 絶対にごめんですけど」

「そんなわけないでしょ! わたしもアンタみたいなマグルのちんちくりんなんて願い下げよ!」

「だったら何をしにきたんです?」

 

 冷たいシルフィの視線を憎々しげに睥睨し、アイリーンはどこからか取り出した手袋をシルフィの足元に投げつけた。

 

「今日は宣戦布告をしにきたの。入学式の日に言ったことを証明してあげるのよ。

 わたし、アイリーン・シャフィクはシルフィ・コールフートに決闘を申し込むわ!」

 

 思わず目が点になる。あまりに突拍子のない挑戦状に、困惑しながらも脳内で無数の反対意見を浮かべる。

 

「ダメに決まっ───」

「望むところです。メッタメッタにしてあげましょう」

「おい?」

 

 鼻息を荒げながら息巻くシルフィは、もうアレステットのことすら見えていないようだった。

 

「待て、他人への私的な敵意をもった魔法の使用は────」

「ふん、威勢だけはいいじゃない。時間は来週の金曜日の放課後、場所はいつもアンタ達が魔法の練習をしている教室。それでいいわね?」

「随分と余裕じゃないですか。もしかして負けた時の言い訳のつもりですか?」

「はあ? わたしは『慈悲』を家訓とするシャフィク家が次期当主。魔法力の弱い憐れなマグル生まれのために1週間待ってあげるって言ってるのよ。せめて杖の一振りで倒れないように無駄な努力を積むことね」

 

 小馬鹿にするような笑みを浮かべ、颯爽と立ち去るアイリーンの背を、親の仇のようにシルフィが睨みつける。まるで嵐のような一幕だった。勢いという意味でも、予期せぬ天災という意味でも。

 

「⋯⋯⋯⋯さて、コールフート」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんです」

 

「どうするつもりだ?」

「どうしましょう」

 

 一転して不安げな顔で縋るように見てくるシルフィに、アレステットはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 アレステットは、別にわざわざ決闘に付き合ってやる必要はない、と何度かシルフィに説得を試みたが、猛る少女は聞く耳を持ってくれなかった。親友のあまりの単純さと負けず嫌いに思わず目眩がした。

 

 しかし、そうなったらもう仕方がない。彼女が勝つためにサポートしてやるしか道はない。

 

 翌日の放課後、例によってマクゴナガルから借りている教室でアレステットは個人レッスンを行なっていた。傍らには図書館で借りてきた攻撃呪文に関する本がいくつか積まれている。

 

「いいか。今のまま戦ってもコールフートの勝ち目は薄い」

 

 不満を押し殺した顔でシルフィが頷く。

 

 少しでも練習の期間が確保できたのは僥倖だった。呪文学の授業に関して、シルフィはそれほど良い成績を誇っているとは言えない。対して、こと呪文学でのアイリーンの成績は(色々爆破させてはいるものの)目を見張るものがある。シルフィも変身術では好成績と言えるが、一年生レベルの変身術では戦闘には使えないだろう。

 

「と言っても、シャフィクがそれほど実戦的な攻撃呪文を使えるってわけじゃない。お得意の炎系の魔法も、ちょっと火傷する程度のレベルだろう」

「ですが、私にそれを防ぐ手立てはありません。自慢じゃありませんが、浮遊呪文もまだ一発じゃ成功できないんですよ?」

「盾の呪文にしろ変身術での防御にしろ、今は時間がなさなさすぎる。今回の戦法はただ一つ。相手より先に呪文を当てての瞬殺、それに限る。戦いが長引けば有利なのは確実に向こうだからな。だから、教える魔法も一つだ」

 

 アレステットが杖を振るうと、一つの机が瞬く間にのっぺらな顔のマネキンへと変身し、続いて羽ペンが棒切れとなって人形の手に握られた。

 

「手本をするからしっかりと見ててくれ」

「はい」

 

 一応決闘の作法に則って一礼し、杖を構える。しっかりとシルフィに見えるように杖先を真っ直ぐ人形の胸元に突きつける。

 

「エクスペリアームス、武器よ去れ!」

 

 ゆっくりと、かつ聞き取りやすい発音とともに、黒い杖の先から鮮血のような光線が一直線に飛び出して白い胴体に直撃する。

 

 シルフィが固唾を呑んで見守る中、マネキンの掌から木の棒が宙に飛び出し、二、三回ほど回転しながらアレステットの手に収まった。

 

「派手な爆発でも、恐ろしい呪いでもない、地味ではあるが魔法使いにとっては必殺とも言える魔法──武装解除呪文。決闘においては基礎中の基礎とも言える魔法だ」

「杖を奪う⋯⋯なるほど、たしかに、それは確実ですね」

 

 アイリーンが杖を奪われて狼狽する姿を想像したのか、シルフィは愉悦に顔を歪めた。

 

「ただ、この呪文は本来来年以降習うらしい。だから、1週間で覚えるのは至難の技だと思うが⋯⋯」

「やってみせます」

 

 どうやらやる気は十分のようだ。瞳の中でメラメラと燃え上がる闘志に呼応するように、彼女の手の内のクマシデの杖もその存在感をアピールしているような気もする。これだけの熱意があれば、きっと杖の方も答えてくれるだろう。

 

「よし、じゃあまずは理論の方を理解しなければいけない。つまり、書き取り。羊皮紙と羽ペンを出してれ」

「⋯⋯えー⋯⋯⋯」

 

 その日から、二人の対アイリーン魔法訓練が始まった。

 

 

 

 

 

 

 回想終了。

 とはいえ、やはり何度思い返してみてもなぜアイリーンがこんな決闘を挑んできたのかについては謎だった。

 

 単にシルフィが気に食わなかったと言えばそれまでだが、どうも違和感を感じる。それだったら別に同じくマグル生まれのハーマイオニーでも良かった筈だ。喧嘩してる回数だけ言えばあちらの方が多いのだし。

 

 今のアレステットではいくら考えてみても答えは出そうになかった。それに、今は呑気に思考に耽っていられるような時間はない。

 

 小さく二人がお辞儀したのを見計らい、右手を高くあげる。

 

「3」

 

 両者ともに奇を衒うことなく杖の照準を真っ直ぐに相手の胸へ向けている。どうやら戦略は向こうも同じようだ。

 

「2」

 

 アイリーンの使う呪文に関しては検討もつかないが、彼女も魔法の修練を積んできたのは間違いない。この1週間、毎朝彼女の元にはフクロウ便で手紙が届いていた。おそらくは両親に魔法について教えを請うていたのだろう。

 一筋縄ではいかないのは間違いない。

 

「1」

 

 だが、シルフィも負けてはいない。彼女のこの1週間の努力は、アレステットが一番よく知っている。少なくとも、寮に帰る度に談話室で優雅に紅茶を飲んでいたアイリーンよりも頑張っていたのは疑いようもない。

 

「0!」

 

「フリペ──」

「エクスペリアームス!武器よ去れ!」

 

 ゆえに、この結果は必然とも言える。

 

 何十回と練習し、それこそ身体に染みこむまで繰り返したその動きは、明らかにアイリーンのそれを上回っていた。アイリーンが呪文を唱え終わる前に、シルフィの杖から放たれた赤色の光線がアイリーンの胸に直撃した。

 驚愕に顔を引き攣らせながら後退するアイリーンに、勝利を確信したシルフィが顔を綻ばす。

 

「やった────ッ⁉︎」

 

 だが。

 

 今度は、シルフィの顔から血の気が失せる番だった。

 アイリーンの手には、未だにその豪華な装飾のなされた杖が握られていたのだ。

 

(失敗か⋯⋯!)

 

 やはり時間が無かった為に、シルフィの武装解除呪文の成功率は100%とは言い難い。それにさらに決闘という大きなプレッシャーがかかれば、当然確率も格段に落ちる。

 その結果はご覧の通り。シルフィの魔法は、閃光こそ放ったものの本来の効果を示さなかった。

 

 呪文が当たった事で気を抜いてしまったためか、シルフィの動きは緩慢だ。対して、余裕の笑みを掻き消して反撃に転ずるアイリーンの動きは素早い。

 

「フリペンド、撃て!」

「──ッ!」

 

 衝撃呪文によって勢いよく突っ込んでくる机を、大き身体を傾かせて間一髪のところで避ける。

 けたたましい音を立てて頭の横を跳ねる大質量の物体にシルフィの顔に焦りが浮かんだ。

 

「インフラマーレイ!」

 

 ここぞとばかりにアイリーンが畳み掛ける。リンドウ色の火の玉が、シルフィ目掛けて勢いよく撃ち出された。

 

 反撃の隙を与えないように次から次へと放たれる火の玉を、咄嗟に倒れた机を盾にすることでどうにかやり過ごす。この時ばかりは自分の小柄な身体に助けられた。紫炎の弾丸の直撃と同時に、僅かばかりの熱気と衝撃がシルフィの頬を撫でた。

 

「ふん、小癪ね! インフラマーレイ! 燃えよ!」

 

 だが、突進しながら火の玉をまるで機関銃のように連射するアイリーン相手に、その薄い木の板程度ではあまりにも心許ない。高速で叩きつけられる無数の火の玉に、机はすぐさま悲鳴をあげてバキバキと嫌な音を立て出した。

 

「くっ──ッ」

 

 ついに煙を上げ、パチパチと音を立て始めた机の影から転がるように離れる。視界の端でローブの裾が僅かに焦げているのが見えた。

 

「フリペンド、撃て!」

 

 だが、それを狙っていたのか、正確にシルフィ目掛けて衝撃呪文の閃光を放たれた。目では追える程度の速度の光線を、我武者羅に地面を転がる事で、すんでのところで躱す。

 

「くっ⋯⋯エクスペリアームス!」

 

 グラグラと揺れる視界。次弾が迫る前に、再度武装解除呪文を放つ。しかし、その不安定な体勢から放たれた苦し紛れの一撃が当たるはずもなく、見当違いな方向を直進して教室の壁に虚しく吸い込まれた。

 

 遂に晒した、あまりにも致命的な隙。体勢は崩れ、杖はあらぬ方向を向いている。そのチャンスをみすみす見逃すほどアイリーンもバカではない。

 

 杖の先がピタリとシルフィの鼻先を捉えた。

 まるで、景色がスローモーションで動いているように見えた。決して極限状態における思考の加速ではなく、処理落ちによる認識の遅延によるものだ。来たる衝撃に備えて眼を固く瞑り、奥歯を噛み締める。

 

「インフラマーレイ‼︎」

 

 ──だが、アイリーンの魔法もまた、シルフィの身体から大きくズレた位置に着弾した。明らかに停止している的そのものを外したのだ。

 

 舐められているのか。

 シルフィは激情のままに杖を向ける。そこで初めて、彼女の異変に気づいた。

 

「くっ──⁉︎」

 

(魔法の使いすぎか⋯⋯)

 

 先ほどの魔法の連続行使は、明らかに一年生の範疇を超えていた。その代償として、アイリーンは魔力の過剰使用によりこのごく短時間では考えられないほど疲弊してしまったのだ。

 

 苦しそうに顔を歪ませ、肩で荒々しく息をする彼女には、もはや魔法をまともに当てるだけの精神力も魔法を躱すだけの体力も残されてはいなかった。

 

「エクスペリアームス!」

 

 今度こそ、リンボクの杖が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 気を失ったアイリーンを医務室に送り届け、夕食の席へと向かう。

 シルフィも彼女ほどではないが相当消耗しているのか、勝利の愉悦に浸ることもなく、ふらふらと覚束ない足取りで隣を歩いていた。

 

「お疲れ、コールフート。それと、おめでとう」

 

 心からの賛辞だった。虚をつかれたようにこちらを向くシルフィだったが、すぐに疲れを感じさせない満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。⋯⋯そういえば、フォウリー」

「なんだ?」

「これだけ頑張ったのですから、何かご褒美があってもいいとは思いませんか?」

 

 なるほど、たしかに。

 この1週間、来る日も来る日も何時間もかけて彼女は練習を積んできた。しかも、きっと寮に戻った後も自主練習を重ねていたとアレステットは推測していた。その結果、彼女は魔法の世界で育った生粋の魔法族に打ち勝ってみせた。

 彼女の言う通り、何か報酬があって然るべきだろう。

 

「そうだな、何か欲しいものでもあるか? うちの家系はそれなりに資産家でな、それなりのものを用意できると思うぞ」

 

 聖28一族の大体の例に漏れず、フォウリー家は非常に裕福だ。アレステットがこれまでの生涯で使ってきたガリオンすら総資産のうちでは本当に微々たるものだ。それに、イギリスに限らずヨーロッパ中に広く持っている土地の貸付で、毎年目が飛び出るほどの資金が舞い込んでくる。

 シルフィが想像できる程度のものであれば軽く用意できるだけの自信があった。

 

「⋯⋯欲しいものはあります。ですが、私が欲しいのは高価な物じゃありません」

「ん、そうなのか。なんだ?」

「⋯⋯⋯⋯シルフィ」

「え?」

 

「これからは、私のことをシルフィって、名前で呼んでください」

 

 それは、いつかのハロウィーンのパーティーで話したこと。あの時はトロールの乱入によって話が流れてしまって、アレステットも今の今まで忘れていた。

 

「⋯⋯それだけでいいのか?」

 

 拍子抜けしながら問う。しかし、シルフィは至極真剣な表情でじっとこちらを見つめながらしっかりと頷いた。

 

「⋯⋯わかったよ、シルフィ。これでいいか?」

 

「! ええ、アレステット! これかも、よろしくお願いしますね!」

 

 踊るように軽やかなステップでアレステットの前に回り込み、花が咲くようににっこりと笑いかける。そのあまりに眩しい笑みに、アレステットの頬も緩む。

 

 本格的な冬を前に構内は既に寒々しい冷気を漂わせている。だが、二人の間にはまるで春の陽気な風を思わせるような穏やかな空気が流れていた。

 




まぐわう男女
→穴場スポット()

気まずい二人
→年齢的に小学5年生。放っておいても勝手に性知識を蓄えている年頃。そうでなくても保健体育の授業で知っている。

決闘
→次回はアイリーン視点で経緯が語られると思われます。

白い手袋
→投げつけるだけで決闘を強制する闇の魔法具⋯⋯とかではない。だけど世界観的にあってもおかしくない。

エクスペリアームス
→作中屈指の魔法。死の呪文に対抗できる(笑) アームズの方が言いやすい。

クマシデの杖
→芯材は一角獣の毛。短め。
 ちなみにクマシデの杖の持ち主は一途に情熱を注ぐ性質があるとされる。その情熱は、あるいは執着とも呼ばれる。

瞬殺
→(成功していたら)瞬殺。

フリペンド
→効果がイマイチはっきりしない魔法の一つ。今作では衝撃呪文という扱い。

インフラマーレイ
→本当はインセンディオとかコンフリンゴとかエクスパルソとか使わせたかったけど、一年生レベルじゃないので使えず。なので、作中で明記されている一年生から使える炎の魔法としてチョイス。スネイプのローブを燃やした魔法。

資産家のフォウリー家
→流石にマルフォイ家とかほどではない。

名前呼び
→作者は忘れて普通にセリフの中で名前で書く時がよくある。


 前書きでも書きましたが、感想、評価、ブックマークをくださった方にこの場を借りてお礼を申し上げます。誠にありがとうございます。これからも更新頑張りますので、じゃんじゃん感想をお待ちしております。

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