新訳・とある時王のハイスクール   作:海神アグル

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episode6

場所は変わってリリーシャ宮殿の応接室。

 

忘れそうになるが、彼らは和平条約とミラーワールドの再封印についてという話で、ここに呼ばれている。

 

第一王女のリメエアは占いが載っている複数の雑誌を広げながら言う。

 

「和平はともかく、ミラーワールドを閉じる方法とは?」

 

「うむ。順を追って説明するか。問題の発端は今から8日前に起こった、ミラーワールドを封印していたオーディンのデッキが盗まれた事だ」

 

娘である第一王女の言葉に、女王のエルダは軽く頷く。

 

「オーディンのデッキはミラーワールドの入り口を閉ざす役目を持つと同時に、そこに住むモンスター達を操る役割もこなしていた。それを盗むという事はすなわち、この国を混乱の渦に陥れるという事。そんな事をやって得があるのは、テロ組織の『カオス・ブリケード』だけだ」

 

「……証拠は、あ・る・の・か・な?」

 

口を挟んだのは、第二王女のキャーリサ。

 

ただし、それは懐疑的なのではなく、さっさと戦争という名の殲滅をしたい──そう言っているような、物騒な口調と表情だった。

 

女王は首を横に振った。

 

「そのために招集したのが、『魔術派』の中でも第二位の実力を持つ魔術師、坂巻千鶴子だ。デッキを保管していた場所には厳重に封印魔法をいくつも施していたが、何らかの破壊術式で強引に壊された形跡がある。それを調べてもらいたい」

 

「了解ですわ」

 

千鶴子が深窓の令嬢のように頭を垂れると、リメエアが言う。

 

「しかし、仮に関わったテロリスト達を潰したところで、本当に解決するのかは疑問の一言ね」

 

今回の件は確かに『カオス・ブリケード』が関わった可能性が高いが、その背後には真なる敵である『右方のフィアンマ』やトレギアが控えているはずだ。

 

ことりが挙手しながら言う。

 

「あの、私達と何度も敵対してるチームのメンバー。彼女達も魔術を何度か使ってたよ」

 

それにあんじゅと月も同意する。

 

「そう言えば……」

 

「それらしいの、使ってたような……」

 

「それは本当か? 騎士団長」

 

女王が手塚に訊ねると、手塚は「はい」と頷き、説明する。

 

「俺達の妨害をしてくる者達で、未成年の少女が四人、男が1人のチームです」

 

千鶴子が目を細めて訊ねる。

 

「着ている衣服や、使ってた魔法は分かる?」

 

「魔法は分からんが、衣服は少女達全員、青っぽい色のミニスカートに、スポーツ用のシャツか白いジャケットを着ていたな」

 

「となると……結社予備軍の『新たなる光』ね。殿方の方は、新人さんかも」

 

「なんだ、その結社予備軍ってのは?」

 

冬麻が訊ねると、千鶴子は人差し指をクルクルさせながら簡潔に言った。

 

「簡単に言えば、同好会みたいなものですわ」

 

『結社予備軍』というのは、魔術結社と呼ばれるほど洗練されている訳でも、大規模であるわけでもない集団のことだ。

 

恋占いのようなクラブ活動、あるいは同好会と呼んだ方がふさわしい集まりが100~200ほど確認されており、大抵は『瞑想』などの精神的活動に終始される。

 

しかし、中には金の卵が集まった、洗練された精鋭たちの集団も存在するのだ。

 

そして今回の渦中にいるのが、先程挙げられた『新たなる光』。

 

正規の構成メンバーは4人の少女であるが、その洗練ぶりは他を圧倒している。

 

どちらかといえば、実力は足りているものの、身軽な立場を確保するために『結社予備軍』という立場に甘んじているような組織であるようだ。

 

千鶴子は続けて言う。

 

「しかも厄介なことに、この『新たなる光』はシャドウバース由来の魔法だけでなく、他の地方の魔法も扱うの」

 

キャーリサの表情が、サディスティックに歪む。

 

「敵は外だけではないのか」

 

レイヴェルは一誠にコソッと意見を伺う。

 

「どう思います? 我が魔王」

 

「相手が『シャドウバース陥落』という認識を持っているのかいないのか……。もしも前者ならば、それは相当の覚悟がある奴ということになるが」

 

「ミラーワールドの事だけでも頭が痛いのに、国内にも独立した危険分子が存在する、と。そういう訳ですか?」

 

「ふむ。私もそう考えている」

 

手塚が一誠の言葉にそう答えると、女王は同意を示した。

 

すると、そこで第三王女のアレインが、部外者の一誠達よりもオドオドしながら口を開いた。

 

「あの、テロリストである彼らにしても、伝えたいことがあるからこそ、行動を起こしているはず。その意見に耳を傾け、武力以外の方法で解決に導くことはできないのでしょうか」

 

「無理に決まっている」

 

キャーリサが断じると、リメエアも続いた。

 

「私はキャーリサほど物理的な方法は好まないけれど、この局面を手早く切り抜けることには賛成。なに、勢力間の遺恨も最小限にとどめる術も存在するので、ご心配なさらずに」

 

その言葉を聞いたアレインは、何か言いたげであったが黙ってしまった。

 

自分の言葉が理想論に過ぎないと突きつけられたように感じたのであろうか。

 

その様子を見ていた女王が、やがて口を開く。

 

「ともあれ、我々のやるべき事は2つ。1つ目は、ミラーワールドを封印する為に、オーディンのデッキを探すこと。そして2つ目は、内敵である魔術師の狙いを探り、必要であれば撃破する事だ」

 

「優先順位は?」

 

キャーリサが口を挟む。

 

「私としては、1つ目の方がいい。『武力的な外交』の為に、とっとと戦力の準備を始めたい事もあるし」

 

「いいや」

 

対して、エルダは首を横に振った。

 

「すでに起こった事件の調査と、これから起こる事件の阻止だ。優先すべきは国内の魔術結社の排除とする」

 

「チッ」

 

キャーリサは露骨に舌打ちをしたが、それ以上は食い下がらなかった。

 

その様子を見ながら、女王は続ける。

 

「ここはセオリー通りに進めるか。オーディンのデッキ探しは『騎士派』に一任、残りの者は『新たなる光』のメンバーを探し出してくれ」

 

女王が指揮官として必要なことを、最低限の言葉だけで提示していく。

 

「いずれの懸案にしても、素早く終わらせる事にしよう。何せ、事件は同時に1つしか起こらない、などという優しい法則はどこにもないのだからな」

 

そこで今まで黙ってたリアスが挙手しながら訊ねる。

 

「あの、エルダ女王。和平の方は?」

 

「ん? ああ、そうだったな。すまないすまない。和平の方はこの事件に協力して、無事解決してくれたら条約に入ろう」

 

「えっ!? そんな事で良いのですか?」

 

リアスは思わずギョッとする。

 

それは朱乃も一誠もレイヴェルも同じ心境だ。

 

リアスとしては、もっと長々した話し合いの末に決まるものだと思っていたが、まさかこの事件に協力して解決するだけで和平に応じてくれるとは思わなかったのだ。

 

拍子抜けも拍子抜けだ。

 

そんな心境が見て取れたのか、女王はにこやかに笑いながら言う。

 

「構わんさ。我々も元から和平を結ぶつもりだった。カオス・ブリケードというテロ組織はとても巨大だと聞いている。これから先、とてもじゃないが我々だけで対処は出来んからな」

 

「っ……ありがとうございます!!」

 

破顔したリアスは頭を下げながら礼を言った。

 

話し合いの末には交渉決裂する未来もあったが、これにて和平の事は良い方向に向かう事が決定した。

 

これには朱乃も安堵した笑みをリアスに向け、一誠はリアスの背中を優しく撫でた。

 

その様子を見ながら、女王は次に、ことりに問いかけた。

 

「所で朱雀ことり殿。貴女に双子の姉妹はいるか?」

 

「はい?……いませんけど……」

 

キョトンとすることりは、それはどういう意味の質問なのか、という視線を投げかけるも、エルダはお茶を濁すように言った。

 

「いや、いないならいいんだ。…………ではあれは一体……?」

 

エルダは最近見かけるのだ。

 

別の場所にいる筈のことりが、宮殿内を闊歩している所を。

 

しかもことりとは思えない程に、攻撃的な笑みを浮かべながら。

 

それでも今は、目の前の事件に集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

『新たなる光』のメンバーを探し出す為に、宮殿を出て散会した後、冬麻は赤いオープンカーの助手席にいた。

 

シャドウバースの持つ何百年単位の歴史的な街並みの景色をぶち壊しにするようなその車の所持者は、紫髪爆乳の先輩お姉さんである。

 

「しっかし、ここでも先輩と一緒になるとはな」

 

「あら、私としては嬉しいですわ」

 

千鶴子はウフフと微笑みながら言う。

 

彼女はこう見えて、肉弾戦でも魔術戦でも優れている魔術師である。

 

100人規模の魔術師が所属するシャドウバース『魔術派』の中でも二位に君臨する強さは、伊達じゃないのだ。

 

「……つーか、一誠はリアス先輩と姫島先輩とレイヴェルと組んで、ことりさんはあんじゅさんと月さんと組んで、ジルバさんと矢崎さんは別の任務に行くなんてな」

 

「私は貴方と2人っきりになれて嬉しいわ♪ なんなら、冬麻ちゃんの為に~、たっくさん汗を流してあげても構わないのよ? フッ…」

 

甘い息を吹きかけられて、思わず冬麻は体をガチガチにする。

 

この色っぽい先輩は、思春期の男子高校生にとっては色々と刺激が強いので苦手なのだ。

 

しかも着替えたのか、今は上下共にトラ柄のビキニのような衣装を着ており、その爆乳がはみ出してこぼれ落ちそうになるという、歩く18禁な姿をしていた。

 

それはともかく、新たに何かを『発掘』した霊装を持っている魔術師を見つけ、撃破するのが千鶴子に与えられた仕事である。

 

本人が言うには、逃げる技術と追跡する技術は全くの別物であるらしいのだが、その辺りは本職の人でなければ分からないものなのだろう。

 

手がかりは、シャドウバース国内に仕掛けられている防犯カメラ。

 

その内の1つに僅かに映っている自動車の影があったのだが、その影を生み出しているはずの自動車が何故か、どこのカメラにも映っていなかったのだ。

 

「これは数十万台あるはずのカメラの配置を全て把握した上で、その死角となるポイントを選んで移動し、車を止めた。……偶然で片づけるのは、ちょっと難しい状況ですの」

 

「でも、それだけで、本当に魔術師って分かるのか?」

 

「分からないから、調べに行くのよ」

 

千鶴子はカーナビを、ビデオからナビへ戻しながら言う。

 

「シャドウバース自体は網の目のように道路が走ってるけど、交通の要所となるポイントは限られているわ。まして、カメラの死角を縫うように進むなら、尚更なの。大丈夫、すぐ追い付きますわ。気になる事があったら調べて確かめれば良いのです。そうやって、ヒットするのを待つのです」

 

後手になるようだが、事実なのだからそうするしかない。

 

何しろ、冬麻達はまだ『新たなる光』という集団が、ここで何をしようとしているのかも分からないのだから。

 

「……そんなんで見つかんのかよ?」

 

「あら。一から十まで狙いが分かった上で追いかける方が、現実には珍しいですのよ」

 

 

 

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