白と黒の世界   作:水鏡 零

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むかしむかし
一人は白の女神様 もう一人は黒の女神様
後々に世界各地へと解き放たれた
小さな双子の女神様たちのお話

彼女たちは父上様に言われました

すてきな世界を作りなさい ルールの決まった世界を作りなさい

父上様の仰せのままに 女神様は世界を作りました

二人の作った世界は 外界から隔たれた特殊な世界になりました

父上様の気まぐれと 女神様の気まぐれが
ぐるぐる混ざってできた世界

他の神々は言いました

あぁ、なんて不思議な世界でしょうか?
あぁ、なんて黒き世界なのでしょうか?

いいえ、なんて白き世界なのでしょうか?
いいえ、なんて厳しきルールの世界なの?

女神様たちは成長し 立派で素敵な女神になられました

これは、そんな気まぐれで作られた世界のお話
これは、気まぐれな世界と混ざり合う世界のお話

どうぞ ごゆるりと
どうぞ ごゆるりと


ヒトはこの世界をなんと呼ぶのでしょうか?
私は、こう呼んでおります。

“黒色の世界”と呼んでおります。

悪い意味ではございませんことよ?

私の住んでおりました世界とは、少々違っているのです。

神聖なる色は“黒”と“白”とされておりますの。

“黒”は神々と繋がり、世界を見守る為に生きなくてはならない色。
“白”は黒の者たちと繋がり、世界の円満を助けなくてはならない色。

混ざり合い、美しく生きることで、この世界は繋がり行くのです。

しかしながら、あぁ・・・なんてことかしら。

“黒”と“白”が混ざり合うことができず、崩壊してしまうことがありますのよ。

その時代が訪れた時、“世界は終焉”を迎えるのです。

でも、ご安心くださいな。

また新しい“黒”と“白”が生まれれば、世界は再生をしてゆくのです。

私がこの“地位”になった時には、一つの“終わり”と“始まり”がございましたわ。

とても興味深いことでしたから・・・あなた様にも教えて差し上げますわね。

この“狂神”と、姉上様がよく知るお話でしてよ?

ご興味はお有りかしら?


序章

 

空なのか地上なのかもわからない漆黒へ、ボクはフードを深くかぶって降り立つ。

姿を見せまいと全身に“術”を施した後は、いつものように偵察だ。

踏みしめた大地は砂だらけで、地表に生えた草花なんてものは見つからない。

 

ここも、数か月前までは草原だったというデータはある。

でも、そんなふうには見えないな。

 

ボクは物陰に隠れながら、荒れ果てた街を進み続ける。

生気のない人々の顔を見上げながら、ほんの少しだけ明るい空を見上げた。

 

今日も変わりなく、真っ暗で昼なのか夜なのかもわからない。

 

「ヒーリカ。全然だめだ。」

ボクは小さな声でフード越しにつぶやく。

その言葉は、行き交う人々には聞こえない。

「―おかしいわね。この辺だって聞いたんだけど。―」

「座標間違いじゃないのか?」

「―あ~、ガセネタってやつなの?!―」

「知るかっ」

ボクは姿の見えないヒーリカに向かって、悪態をつく。

いやいやちょっとまてまて。と、彼女はぶつくさと言っている。

「―いったん戻って、作戦会議やり直しかもね。―」

「またか・・・。」

これで何度目だろうか?ボクはそんなことを考えてしまった。

大きなため息をつくと、適当な路地へと姿を隠す。

 

この時代は荒れ狂っていた。

 

なんでも、“今期のなんとか”という者たちが酷く、“時代が長続きしなかった”のが原因だというらしい。

本来ならば、長きにわたって“時代を作りあげ”そして“終焉という名の優しき最期”を迎えるのが・・・その・・・“なんとか”という人物らしい。

ボクには全く興味が未だにわかなくて、“なんとか”が“なんとか”なのがわからない。

そもそも、興味がわく対象はあまりない。

 

今までも、これからも、興味がわくことはないんだと思う。

 

ボクはローブ越しに“コンソール”を叩きだす。

場所と位置を保存しながら、帰路に付こうとしていた。

 

「聞いたか?あの噂・・・。」

「あぁ。聞いたぜ?」

ふっと、最後のエンターを押そうとした瞬間、ボクの指はぴたりと止まった。

同時にヒーリカの声が重なる。

「次回の“巫女”様は、女神様の選抜によるものらしいな。」

「なんでも・・・“別世界のモノ”を呼び込むらしい。」

住民たちの近くへと寄ったボクは、彼らの会話をひっそりと聞く。

彼らには、ボクの姿は無論見えていない。

だから、彼らが会話を止めることはなかった。

「次期の“主帝”も見当つかず。・・・まぁ、こんな時代なんて早くおさらばしたいからなぁ。」

「 “マーラ様”の恐怖もまだまだ各地に根強く残っているらしいし、今回は一筋縄ではならんだろうなぁ。」

「―ほうほう。まさかのビンゴ情報ゲットね。―」

ヒーリカの場違いな嬉しそうな声に、ボクは思わず嫌そうな顔をしてしまう。

集めたい情報が出てきたのは、嬉しいことだが・・・同時にあまり嬉しくもない。

 

ボクの仕事が始まるからだ。

 

住民たちは、こそこそと隠れながら会話をし続ける。

誰かに聞かれたらまずいのだろう。

「 “候補者”のほとんどは、由緒正しき家柄ばかりらしいな。・・・とはいえ、最終的な判断を下すのは “あの方々”。どういう結末になるのやら・・・。」

「 “別世界の候補者”に関しては、噂では“白の女神様”が候補としてあげている方なんだとか・・・。本当にそうならば、“争い”は避けられないだろうな。」

部外者からしたらまったく理解のできない話を淡々とし、住民たちはそっと家へと入ってゆく。

いらぬ期待をした自分たちに落胆しているのか?それからは家から出てこなかった。

ボクは、フードをかぶりなおすと、今度こそ“コンソール”のエンターを押す。

すぐさま身体を光が覆い尽くした。

 

目の前が白く輝き、瞬きをした時には別の場所へと移動している。

ゆっくりと地面へと足を付ければ、“家”に帰ってきたのだとほっとした。

 

“部外者”とはいえ、あの世界は居心地が悪い。

それだけ、空気も悪いという事なのだろう。

 

「お帰り。ランゼフ。」

「ただいま・・・ヒーリカ。」

画面に映し出された資料をまとめたヒーリカは、嬉しそうにボクへと振り返る。

茶色の髪が揺れ動き、瞳の緑が鮮やかに見えた。

相当、彼女は嬉しがっているようだ。

「すっごい情報だったと思わない?」

「あぁ・・・うん。」

「これで、バンバン話が進んじゃうわよ?!データの収集はかなり進んで、今は“あっち”の絞り込み中なんだから。」

「・・・早いな。」

画面を軽くヒーリカが叩くと、通信をしていた相手が優しく微笑む。

さすがは“この会社の副社長”。ブレアの仕事は本当に迅速だ。

それだけ、彼女の部下たちも行動力があるということなんだけど・・・。

「あんまり嬉しそうじゃないわね。」

「うん。」

「でもさぁ、ランゼフのこれからには大事なことなのよ?」

「・・・理解しているつもり。」

近くにあった椅子に座り、ボクはフードを取ってヒーリカを見る。

彼女は困惑しているようだけれど、それでも笑顔は絶やさない。

 

いっつも、そうやってボクを安心させてくれる。

やっぱりというか・・・ヒーリカは優しい。

 

ヒーリカは、小さくため息をつくと画面へと向き直った。

そして、ブレア達が作ってくれた資料を見つめている。

 

「場所は、桜丘という“日本”の街みたいね。」

「そこまで割り出したのかっ?」

「えぇ。早いわよー。よ!さすが副社長様!」

「―ちょっと・・・!からかわないで。―」

ヒーリカの言葉に、ブレアは怒る。

後ろにいたスタッフたちが笑っているのが見えた。

和やかなチームだなっていつも思う。

「―“桜丘市”。日本では大きな都市になるようね。その中に“候補者”が入っているのは確かな様子よ。・・・まぁ、これも“どこかの誰かさん”情報なんだけど。―」

「さっさと“こちら”に来て、ちゃんと説明すればいいのに。“エナミ”も変わった奴だわ。」

「 “あんな状態”なんだ。こっちに来るのは難しいだろ?」

「ん・・・。まぁ、そうね。」

さっくりとボクに一刀両断され、ヒーリカは苦笑いを浮かべる。

大きくため息をついたブレアに促され、人物のリストが目の前に並べられた。

「この中で“何人か”とは、“コンタクト”は取れそうなの。どうやら、“繋がり”がある人もいるようだからね。」

「―この“桜丘市”自体が、“黒色世界”と昔からつながっているみたいなの。・・・不思議なことよね。“私達”には一切干渉されず、今まで交流をしていたのだから。―」

「さすがの“我々”たちにも、理解できない領域ってやつかしらね。」

「・・・。」

ブレアとヒーリカの会話を、ボクはじっと静かにきくことにした。

何人かのピックアップされたリストを見て、名前と顔を覚えてゆく。

それほど、“癖のある者”は多くないようだ。

 

ほんのひと固まり、“あんまり関わりたくないモノ”が混ざっていたが、目をそらすことにする。

少し前にコンタクトを取った者たちだったけれど、正直あまり会いたくもない。

“癖”が強すぎるし、何よりもつかみどころがまったくない連中だ。

そんな理由よりも、“彼女たち”があちらの世界でどう呼ばれているのかを考えると、普通の人でさえも会いたくはないだろう。

と・・・ボクは心底悪態をついてしまった。

 

貰った資料をデータ化させると、自分の“端末”へと収納させる。

いくらボクの物覚えが良いからと言って、全員の顔なんて早々ずっと覚えていられない。

「まずは、桜丘市の現状を調査する必要性があるわね。」

「 “向こう”の世界があんな悲惨な状態なんだし、それとなく色々と動いているんじゃないの?」

「そう思いたいところだけれど、エナミの情報だと、桜丘市自体には“影響”が出ていないみたいなのよね。」

「・・・そうなんだ。」

ブレアから送られてくる情報を見ながら、ボクとヒーリカは増えてゆく資料の数に何も言えない。

彼女たちの仕事の早さはすごいけれど、ここまで来ると出てくる言葉も見つからなかった。

とはいえ、事態はそれほどゆっくり待ってはくれないだろう。

 

ボクの決心とかそんなのは関係なしに、事は進んでゆくんだ。

 

「しばらくは、こちらと“桜丘市”を往復する必要性があるわね。」

「―そうね。ヒーリカにも悪いけれど、“あちらの世界”へランゼフと一緒に行ってもらった方がいいかもしれないわ。―」

「えっ。ひ、ヒーリカも一緒に?!」

ボクは思いもよらないブレアの言葉に、隠すことなく嬉しい声をあげてしまった。

本当だったら、もっと感情なく言えた・・・のかもしれない。

画面の先でブレアが笑ったのが見えた。

目の前ではヒーリカがため息をついている。

「まぁ、たまにはいいかもって思ってたのよ。“あいつ”にも連絡して協力を要請したいし。」

「―ふふ。エナミにはこちらから言っておくわ。住むところも必要でしょうから。―」

こほんと咳払いをしたヒーリカを見て、いよいよボクは恥ずかしくなってきた。

ブレアの顔を見る限り、恐らくこの会話を聞いているスタッフも同じような感情なんだろう。

ヒーリカは大きく背伸びをすると、自分の端末を操作してゆく。

「長旅になりそうな予感もするわ・・・。ランゼフのデータに関してはあたしが持っていくようにするわね。」

「・・・それって・・・。ブレア達に危害が及ばないように・・・」

「―ヒーリカ。逆に危険だわ!もし、“アイツ”に見つかりでもしたら・・・―」

端末を操作し終えたヒーリカは、“この世界”の服を瞬時に変更させる。

軽装にも見える“あちらの世界”に適応した服装に着替えると、自分の端末の一部にロックをかけた。

きっと、“ボク”の今までの記録に対して、彼女はロックをかけたのだろう。

画面越しに見えるブレアが不安げにこちらを見ていた。

ボクも、正直とても不安だ。

「大丈夫よ。こっちの機密情報だってハッキングされていないんだから。それに・・・“会社”にもしもの事があったら、ランゼフもあたしも目も当てられないわ。」

「―ヒーリカ・・・―」

場の雰囲気に似合わない笑みを浮かべて、ヒーリカはブレアに力強く頷く。

そして、意味もないんだと思うんだけれど・・・ボクの頭を撫でてくれた。

「いざとなったら、エナミでも“狂神の姉様”でも、なんでも盾にしてやるわよ。」

「・・・それは勘弁。」

「―それはやめてちょうだいね。―」

ヒーリカならやりかねない冗談に、ボクもブレアも同じように呟いてしまう。

そう、ヒーリカならやりかねないのだ。

「・・・とりあえず、こっちの心配よりも“黒色世界”に対する心配をしてちょうだい。あたし達が専属で見れない以上、そちらのスタッフチームにお願いするしかないし。」

「―えぇ。その件については、責任を持って随時連絡していくつもりよ。―」

ありがとう。と付け足して、ヒーリカは転送シーケンスを起動させた。

ブレアもそれ以上いう事がないのか、画面越しにこちらを見ているだけだ。

 

ボク達が転送されれば、自動的にヒーリカの部屋もロックが掛かる。

そして、今まで使用していたデータベースや、目の前にある大きなスクリーンセットの電源も落ちるだろう。

そうなれば、この部屋に干渉できるヒトはいなくなる。

“社長”や“副社長”であるブレアの二人以外は、恐らく・・・。

それは、ある意味では“今後の安全”に対して、必要付加価値なことだ。

 

“あいつ”がボクの足取りを一時的にでもつかめなくなる。

それはボクやヒーリカ、そしてボクを保護してくれたみんなを守る為に重要な事だ。

 

転送シーケンスが作動して、ブレアの姿がモニターに映らなくなる。

恐らく、この今いる部屋のシステム自体が、最小限で起動している状態になったんだと思う。

ボクはヒーリカの隣に立つと、ローブをしっかりと着こんで、ボタンをとめた。

ヒーリカが更にコンソールを操作して、ボクの身体も淡い光に包まれ出す。

「まずは現地に付いたらエナミと接触するわ。そのあと、状況を整理して“こちら”に連絡をいれるわね。」

「―了解しました。ヒーリカ、あまり無理しないでね。・・・ランゼフもよ?―」

システムのカウントダウンに混ざるように、ブレアの優しい声が聞こえてきた。

彼女の後ろからは、スタッフたちの同じようにボク達を心配する声が響いている。

 

本当に、みんな優しい。

 

「わかってるわ。これが、本当の任務ではないんだから。まだまだ、無理無茶はしないわよ。」

ヒーリカの言葉に、思わずスタッフたちから呆れた声がもれるのが聞こえた。

ブレアも呆れているのか、クスクスと笑っている。

「それじゃぁ、行ってきます。」

「行ってきます。」

「―行ってらっしゃい。ヒーリカ、ランゼフ。―」

カウントダウンが終わり、全身を眼が痛くなるほどの光が覆った。

ブレアの声も、スタッフの声も聞こえない。

隣にいるヒーリカの感覚がかすかに感じられるだけだ。

 

ボクは眼を閉じると、次に訪れる“世界”を少しの時間だけ思い浮かべていた。

そして、まだ見ぬ“ボク達とは違う人たち”の事を、ふと考える。

 

ボクを“大切にしてくれるヒト”。

その人を探すために。

ボクは“世界を護る旅”に出た。

 

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