白と黒の世界   作:水鏡 零

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10話

会社の送迎バスから飛び降りると、千枝は玄関へと急ぐ。

顔は酷く青ざめ、バスが走り去るよりも早く家へと入った。

 

そうでもしないと、その場から怖くて立てなくなりそうだからだ。

 

「お母さんっ!!」

「千枝っ!!」

「千枝っっ!!あぁ、よかった!」

思わず玄関先で転びそうになりながら、千枝はヒールの靴を脱ぎ棄てて居間へと駆け込む。

中では両親が寄り添うようにソファに座り、テレビを見ていた。

千枝はどう二人に説明していいのかわからず、そのまま座り込んでしまう。

その姿に驚きつつ、母は泣きだしそうな彼女の背をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

会社のロビーからバケモノ達を避けて逃げた千枝は、外の惨状に声を失ってしまった。

隣に建っているビルからは、窓を突き破ってバケモノが降ってくる。

道端にも、影からはい出るようにバケモノが出現し、うめき声をあげていた。

異常すぎる現状に、もはや恐怖心しか残らなかった彼女たちを守るように、武器を構えた職員や市民たちがバケモノと対峙する。

あまりにも現実味がない情景であったが、怪我をしてうずくまっている者を見たとたんに、それが“夢ではない”と痛感された。

 

血を吐き散らして倒れる女子高生。

腕を抑えながらも矢を放つ初老の男性。

 

発狂しそうになった自分の頭を抑えて、千枝はその場に座り込んでしまう。

つい先ほどまで、自分たちが“記事”にしようとしていた“モノ”が、想像以上に“不可解”で“不気味”であったことに気が付き、彼女は昨日までの自分を呪いたくなった。

「こんなの・・・。どうしろっていうの・・・!」

思わず誰にいうわけでもなく、悲鳴に近い声が口から勝手に出てしまう。

周りでは悲鳴と怒涛が混ざり合い、目を開くことさえやめてしまいたくなる。

今まで色々な現場に取材に行ったとはいえ、こんな“馬鹿げた”ことに遭遇したことなどない。

体験もしたこともなければ、理解もできるはずなかった。

「アァ・・・ウァ・・・・」

「ッッッ!!!!」

ふと頭の上からうめき声が聞こえ、彼女は弾かれるように顔を上げる。

そして、目の前に迫っていたバケモノを見て、気が遠くなるのを感じた。

「(こんなところで・・・死ぬ?)」

バケモノの腕が動き、次の瞬間には地面を自分の身体が転がったのに気が付く。

服は破け、腕から血が滴れているのがわかる。

痛みよりも恐怖心が強く、悲鳴を上げることもできない。

「動いたら危ない!!」

「先輩っ!」

後輩の声だろうか?もうろうとする頭の中で、色々な人の声が響き渡った。

目の前には自分を襲ったバケモノが、黒い爪を血に染めて近くまで迫ってきている。

「なんで・・・。」

千枝は上半身を起こし、迫るバケモノを睨むしかない。

 

しかし、目と鼻の先にバケモノが迫った瞬間、見た事が無い程の“業火”が上空から降り注いだ。

 

その音と熱の量に驚いて、あちこちから驚きの声があがる。

 

的確にバケモノだけに降り注ぐ“業火”に、天の助けだと叫ぶ者まででてきた。

 

千枝は目を見開いて立ち上がり、傷む腕を抑えながら辺りをみる。

 

悲鳴一つ上げることなく倒れたバケモノ達は、黒い塊となって風に舞うように姿を消した。

ビルの隙間から出てきた新手に対しても、同じような炎が上空から容赦なく降り注ぐ。

歓声の様な声が辺りから聞こえ始め、千枝はゆっくりと炎から離れた。

遠くからサイレンの音が鳴り響き、だんだんと近くなってくる。

「警察だ!」

肩で息をしていた男性が、近くで倒れこんでいる人を助け起こしロビーの入口へと人々が集まってきた。

先まで遠くに聞こえていたサイレンが近づき、パトカーの姿が見える。

道端に急停車させると、中から警官たちが駆け寄ってきた。

後方からは、同様に警察車両や救急車が角を曲がり、こちらへとスタッフが走ってくる。

今までの緊迫した空気が糸を切るようにはじけた。

「怪我人は、あちらへ!!」

「さぁ!こちらへ皆さん!!」

大小さまざまな傷を負った者達が、大きく手をふる救急隊員へとかけてゆく。

千枝も腕を抑えながら、皆が走る方へと向かった。

 

 

 

 

 

一通りの話を両親にして、千枝は腕に巻かれた包帯へと手を伸ばす。

幸い、傷はかすり傷程度であり、簡易な処置ですんだ。

同じ場所で倒れていた女子高生や重傷を負った者達は、運ばれた病院先で別の部屋へと連れ込まれた事を思いだす。

「お母さんもお父さんも・・・何事もないのね?」

自分の頭を整理しきれないまま、千枝は涙をふく母親に声をかける。

小さく頷いた彼女は、父親と顔を見合わせて笑った。

「お母さんはたまたま家にいたから、まさか街中がそんな事になっているなんて・・・テレビをつけて驚いたの。」

「職場で不審者が出たって出先で聞いてからね。父さんはそのまま遭遇することなく避難誘導されてしまったからね・・・。」

「そう・・・なんだ。」

千枝が話した内容に対して、二人は少し困惑しているらしい。

実際にあの“バケモノ”を見たわけではない二人は、他者からの言葉を聞いても疑問が沸くだけなのだろう。

 

それに、考えてみれば“一般市民が武器を持った”という事でさえも、千枝でさえ今も考えられない状況だ。

何かのアトラクション。と言ってしまえば、そう信じてしまいそうにもなる。

 

ただ、腕の傷を見ればそんな事は言えなかった。

 

大きくため息をついた千枝は、倒れるようにソファに座り込む。

目の前に付けられたテレビでは、どうやら今日の異常事態についての特番しか放送していないようで、何度かテレビ局を変えてみたが、同じようにコメンテーターが話をしているだけだ。

画面が変わり、色々な中継先が映し出される。

その中継映像は録画らしく、後方に見える空は茜色に染まっていた。

「―続いては、桜丘第一中学校の様子をもう一度・・・・」

「っっ!!!」

テレビから聞こえた声に、千枝は弾かれるように立ち上がる。

驚いた両親は、彼女に声をかけるが反応が無い。

千枝は血相を変えて部屋の中を見た。

 

妹の姿がない。

 

「―現場は窓ガラスが飛び散り、外からでも酷い惨状がわかります。付近の住民の証言によりますと・・・・」

「千枝?」

「おい。どうしたんだ?」

急いで部屋を飛び出して、彼女は二階へと駆け上がる。

しかし、“妹”の部屋はモノ家の殻で、入り口は開け放たれたままだ。

千枝はそのまま居間へと戻ると、両親の顔を交互に見る。

二人は困惑した表情で、同じように自分を見ていた。

「ね。ねぇ。・・・るりはどこ?」

何故か震える声で千枝は、二人におずおずと問う。

嫌な予感が頭の中をよぎってしまい、千枝は背中がヒヤリとする。

「るりね・・・。あの子から、大丈夫よ。」

「え・・・。だ、大丈夫って!・・・どこに!どこにいるの?!」

「千枝落ち着きなさい!」

両親の後ろでは、テレビの映像で中学校の悲惨な状況が流れている。

泣きじゃくる学生や、怪我を追って搬送される姿。

尋常ではない程の警官の数を見て、思わず声が大きくなってしまう。

引っ込み思案な妹の事を考えてしまうと、さらに不安が増してきた。

「るりなら、お友達の家にいるわ。」

「友達の家に?」

「えぇ。」

千枝を落ち着かせるためなのか、母親が何度も彼女の肩を叩く。

ゆっくりとソファに座り込んだ千枝は、両親の顔を今一度交互に見る。

こんな一大事に、友人の家にいるというのが、千枝には信じられない。

未だぬぐえない不安を胸に止めながら、両親の次の言葉を待った。

「交通規制がひどくて、ここまで戻って来れないらしいの。」

「それで、先に迎えに来たお友達の家族に誘われ、今日は向こうの家に泊まることにしたんだ。」

「・・・・。」

二人の話は確かに納得できる内容だ。

千枝自身も、家にたどり着くまでに、何度もバスが交通規制にかかり、長い時間をかけて帰宅できたのだ。

 

が。それでも、“戻って来られない事はない。”。

 

「お父さんも・・・迎えには行けなかったの?」

「・・・。」

市内広しといえど、通れないような道は家の近くにはない。

それは父親でさえも知っていることだ。

それに、一番家から遠い場所で勤務している自分でさえもこうやって帰宅できている。

父親は困ったように視線をそらし、千枝から顔を背けてしまう。

 

まるで言えない理由でもあるかのようだ。

 

「ねぇ。何・・・何を隠しているの?」

「千枝・・・。」

「教えてよっ!!納得いかないわっ!」

声を荒げて父親に問いかける彼女に対して、母親がなだめるように声をかけた。

千枝は傷む腕を抑えて、更に父親を睨みつけてしまう。

この家の中で“一番力がない”のは、妹だ。

そんな彼女がここにいなくて“何かがおかしい”と思わない両親が不可思議で仕方がない。

一目散に彼女を学校に迎えに行き、家に連れてくるのが最善ではなかったのだろうか。

千枝の頭の中では、父や母に対する不信感がどんどん募ってゆく。

テレビ画面は場所が変わり、ひしゃげた手すりが見える中学校の体育館近くが映った。

自分が経験した“事”よりも、はるかに“酷い”事になっていた事が、それだけでも想像できてしまう。

生徒たちのインタビューが再び映り、両親の肩にすがりながら泣いている女子生徒が画面いっぱいに映し出された。

彼女は涙ながらに状況を説明し、両親に支えられながら学校を後にしてゆく。

途中、後方から警官が怒声を上げながら近寄り、アナウンサーを学生から引き離した。

緊迫した雰囲気が、テレビでさえも伝わってくる。

「るりを迎えに行ってくる・・・。どこにいるのよ。」

「ち、千枝っ・・・。」

いっこうに何も言わない父親にしびれを切らし、千枝は低く言い放つ。

震える足に鞭を撃つように立ち上がり、今度は母親へと視線を移した。

母親は首を大きく横に振り、彼女を制止させる。

「だって!じゃぁ!どうして教えてくれないの!!」

あふれ出しそうな涙をぬぐい、歯を食いしばるように叫ぶ。

その声に肩を小さく震わせた父親は、ゆっくりと彼女と向かい合うように座った。

「あの子はね。“あちら”にいる方が安全なんだよ。」

「・・・どういうこと?」

曖昧に話す父親に、千枝は間髪入れずに質問する。

視線を落とした母親は気になったが、それに気が付かないふりをした。

「るりは、山間の“武藤家”さんにお世話になっているんだ。」

「っ・・・え。」

「父さん達より長く暮らしているお前なら、その名前を“理解”しているだろう?」

父親の思わぬ言葉に、千枝は今度こそ力が抜けて座り込んでしまう。

娘のそのような姿を見た両親は、何故か顔を見合わせてホッとため息をついた。

表情は安堵に溢れている。

「よくは・・・わかっていないけれど。“桜丘市の四大家系”の一つってことは・・・。」

「その武藤家のお嬢さんと、るりはお友達なんだそうだ。」

「そ、そうだったの?」

知らなかった。と千枝は付け足し、ひんやりと冴えてきた頭を小さく振る。

不安感が少しずつ揺らぎ、傷口を抑えていた手がゆっくりと離れた。

テレビの画面は更に場面を変えて、市役所の全体を映し出している。

「父さん達も理解はできていないが、昔からこの地に住んでいる同僚に電話で確認をしてみたよ。・・・そしたら、“何も心配することはない。任せておいた方がいい”と言われてしまってね。」

「お父さんも、最初に連絡を貰った時には迎えに行くつもりだったのよ。」

「そうなんだ・・・。」

やっと落ち着いた千枝の顔を見て、母親がテーブルの上にマグカップを置く。

鼻にふんわりとあまり香りが入ってきて、思わず千枝はため息をついた。

 

―桜丘市四大家系

数年前にこちらに単身引越してきた時に、上司から最初に教わった事だ。

市内に古くから栄える家系で、代々この市を影ながら“見守っている”という家らしい。

年に何度か開催されるお祭りでは、決まってその“本家”が立っている山に明かりが灯り、色鮮やかな提灯が市内に向かって伸びてゆく。

市内の重要な催事や事業には、決まって四家の代表が顔を出すことになっていた。

 

千枝の知っている事はそれぐらいだ。

大きな権力を持っているであろう武藤家に助けられているのなら、それを利用するのも悪くない。

それに、“あまりにも不可思議な事”が起こっているのだ。

土地勘や“何か”を知っていそうな者達を頼った方が、ここにいるよりは安心だろう。

「武藤さんのお家は、山の“鳥居”を越えた先にあるそうよ。」

「明日の朝になったら、本人を連れてきてくれるそうだ。」

「・・・そう。」

どうやらテレビでは、市長の中継が始まるらしい。

気晴らしにチャンネルを変えてみたが、どのテレビ局も同じように会見場を映しているだけだ。

画面の隅には、関係各所の上層部に位置する者達が並んでいる。

雑誌やテレビで見たことがある顔ぶれがずらりと揃っていた。

「とりあえず、会見が始まる前に、千枝が戻ってきた事をるりに知らせないと。」

「うん。・・・ありがとう。」

母親は思い立ったように立ち上がると、電話機へと歩いてゆく。

急にどっと全身を疲労感が包み込み、千枝はテーブルの上に置かれたマグカップに手を向けた。

自然と包帯が目に入り、一瞬ひやりとする。

「・・・整理できないことばっかり・・・。」

ふと、両親には聞こえないほどの小さな独り言をつぶやいた千枝は、天井を見つめる。

後方で、母親が電話機に向かって話し出すところだった。

 

 

――

 

 

 

桜丘市某所。

部屋の中も外も、人で溢れかえり、世話しなく人々が行きかっている。

皆、手に持った資料や携帯を片手に走りまわり、辺りに緊張感が溢れていた。

少し離れた場所にある控室で、“一族”はしんと静まっている。

「父さん。どこまで・・・話すつもりなんだろう。」

「そうね・・・。」

光士はテレビの画面を睨むように見つめていた。

隣では祖母と母親が同様に不安げな表情で画面を見ている。

画面の向こうでは、市役所職員が事前の注意事項を読み上げているところだった。

質疑応答はすべて終わってから。

市内全土に中継されている為、できれば時間厳守でお願いしたいということ。

そして、市長が話し終わるまでは、“絶対に口を挟まないように”。

中継が開始されていることは、スタッフも理解しているようで、最後に各家庭や視聴している者達に向けて簡易的な説明がされていた。

「四大家系の方々も、お父さんと同席してくださるのだから・・・。」

「そうですね・・・。そうですよね・・・。」

全身を震わせている祖母の肩を、母親が安心させるように撫でている。

しかし、優しく話している彼女自身でさえも、手が震えていた。

光士自身も、自分が何と言ってする訳でもないのに、何故か息が詰まる程の緊張感を覚える。

「奥様。大奥様・・・。」

後方で控えていた家の使用人が、倒れそうになった祖母に駆け寄った。

祖母はゆっくりと身体を起こすと、使用人たちに支えられながらテレビの画面を見る。

一際シャッターの音とフラッシュの光が激しくなり、扉の向こうから数名の男たちが入ってきた。

皆同じように難しい顔をしているが、凛とした表情は崩していない。

和服姿の男性が最後に席に座ると、中央に座った“光丘市長”が小さく手を上げた。

とたんに、シャッター音やフラッシュの光が止まり、静まり返る。

誰かの咳払いが聞こえるくらいで、機材のきしむ音が酷く大きな音に感じた。

資料を開いた市長は、辺りをぐるりと見まわして咳払いをする。

「父さん・・・。」

「あなた、がんばって。」

彼には無論、光士達の声など聞こえていない。

しかし、使用人も同様に応援の言葉を画面に向けて言っている。

祖母は手を合わせて、震える身体を必死に抑えていた。

”家族“が念を送りたい程、この状況はとても苦しいことなのだろう。

会見が終われば、自ずとメディアの質問が飛び交うはずだ。

どのような事を疑問に思われ、それを“どう答えるか”。

“今回の件”については、とても難しいことだろう。

光士はぐっとこぶしを握り締めると、口を開いた“父親”をしっかりと見た。

 

 

――

 

 

 

市民の皆様、こんばんは。

桜丘市市長“光丘 勝士”です。

さて、まず初めに私から言わなくてはならない事。

それは、市民の皆さんに多大なる不安感を与えてしまったこと。深くお詫び申し上げます。

迅速な判断が遅れ、負傷者が出てしまったことは、今後の課題です。

この度の件で負傷されたご家族の方、お早い怪我の治りを心よりお祈り申し上げます。

 

では。本題と参りましょう。

 

事の始まりは数週間前から始まります。

知っている方も多いかと存じますが、とある出版社で“怪事件”の報道があった事・・・それが、そもそもの始まりです。騒動はとても小さく、気が付けば“オカルト”として片付けられ、この件についても終結するはずでございました。

しかしながら、事態は悪化する一方で・・・結果として本日のような事件へとエスカレートしてしまったのでございます。

“一部のご家庭”では、事態を早急に“解決しようと動いた”方々もいらっしゃるかと思います。また、真逆にこの話自体も困惑されている方もいらっしゃるのも事実です。

そのため、我々はよく相談し、“二つの事”を皆さんにお伝えさせて頂きます。

 

一つは、今後の“相手”についてです。

実際に対峙し、見られた方々はおわかりでしょう。そう・・・“あれら”は“人ならざる者”でございます。にわかに信じがたいことかもしれませんが、“そう納得してもらうしか道はない”のです。・・・申し訳ないことです。

彼らにも、何らかの理由があるようですが、これについては捜査中です。“関係各所”と連携を取りつつ、一刻も早く市民の皆様に安全を取り戻したいと尽力致します。

そして・・・“もしも出会った時”には、以下の事に注意して頂きたいと思います。

まず、“能力”を持たぬ市民の方、速やかに現場から避難する事を第一に考えてください。

絶対に“関わってはなりません。”

“能力”を持つ市民の方も、自分の身を守ることに専念してください。

一部の地域では、“強化型”が確認されています。それによって、負傷者が増えたことも事実。自らの命を一番に考え、時と場合によっては“逃げる”事も視野に入れて頂きたい。

あまりに手を焼くことが起これば、ここにいる“四大家系”へ連絡をしてください。彼らが後は処理を致します。絶対に・・・絶対に・・・無理はしないでいただきたい。

 

さて、二つ目に関しては“一部市民の方が疑問に思っている”であろう“我々の能力”です。

ご友人や会社の同僚など、本日“様々な能力”を目の当たりにした方もおりますでしょう。

今でさえも理解できず、困惑されている方も多いかと存じます。

ですが・・・これについては他言厳禁。・・・申し訳ありませんが、“皆様を守る為の秘策”と思ってください。

どんなに質問をされても、申し訳ありませんが・・・お答えできません。

それは我々だけでなく、“能力を有する者”や“それらを知りうる者”の方々全員が同じように皆様へと説明されるでしょう。

時と場合によっては、今後“全く知らない方”にも説明をしなくてはならない場面が出てくるかもしれません。

もし、そのような場面が出てくるのであれば“我々、能力を有する者、知り得る者”はお答え致します。

 

 

疑問や質問は数多くあるかと思います。

ですが、この後の質疑応答に関して・・・本当に申し訳ないが、“他言厳禁”とされることについてはどのような理由があったとしても“いう事はできない”のです。

それだけは、ご了承いただきたい。

 

最後に、これから夜の時間を迎えます。

四台家系により“守護”されている今に関しましては、皆さまご安心頂いて大丈夫です。

どのような者であっても、あのようなバケモノは“今はこの市に入れません”。

これだけは断言できます。

・・・色々と不可解な事が重なり、皆さま安心できないかと思いますが、明日の事もございます。

どうか、本日はゆっくりお休みくださいませ。

 

 

 

 

――

 

 

 

 

フラッシュの光と、シャッター音が画面越しに鳴り響く。

多くの記者たちが怪訝そうな声をあげ、質問が雨のように飛び交うが、どれに対しても市長は首を横に振るだけだ。

それどころか、隣に座る男たちが、記者をなだめる場面も見える。

「・・・そりゃぁないぜ。」

「どういうことなの?」

警察署のロビーに置かれたテレビ前で、周りに集まった署員たちのほとんどが困惑した表情をしていた。

その中でも、仕方がないよな。と口々に言う者もおり、反応は様々だ。

優志は腕を組むと、未だ鳴りやまないシャッター音にあふれるテレビを横目にしながら、妙に落ち着いた署員達を見る。

「まぁ、仕方ないよな。」

「・・・私達も明日から質問されても答えれないし・・・」

皆同様に、同じような言葉を言うと、その場を去って行く。

「仕方ないって・・・。こんな曖昧で理屈が無いような会見をみて、あいつらは何を言ってるんだ。」

その場を後にしてゆく署員に向かって、苦々しげな表情を向けている者達がぽつりと言う。

確かに、優志自身も同じような意見だ。

会見とは名ばかりで、これでは“一部の理解している者達”に“確認”を取るようなものだけだ。

一体何が起こっていて、このような騒ぎを起こしている者が何者なのか。それは組織的なモノなのか。某国のテロリストが起こしたのか・・・

口々に意見を述べている署員達は、一向に落ち着く様子はない。

テレビの向こうでは、半強制的に会見会場が閉められる。

場面が変わり、唖然とした表情のコメンテーターとキャスターの顔が映し出された。

彼らは顔を見合わせるだけで、何をいう訳でもない。

仕方がないだろう。まとまりのない話をただ聞いただけに過ぎない状況に誰がまともな事を言えるのだろうか。

「なぁ。先、画面の隅に立っていたのって、署長だよな?」

「あぁ・・・たぶん。そうだと思うけど・・・。」

ぽつりと隣で呟いた署員の声が耳に入り、優志は肩を小さく動かす。

遠い昔に聞いたような感覚になっていたが、“彼”から話を聞いたのは間違いなく“今日”だ。

色々な情報や考えられない現実に翻弄されていたが、優志にとってすべての始まりは“今日聞いた彼の言葉”からである。

「明日・・・。署長からも話があるんじゃないのか?」

「部長。」

賑やかになってきたロビーに誰にいう訳でもなく、司が声をあげた。

隣に立ってテレビを見ていた彼の娘も、ふと顔を上げている。

「今日はもう遅い。お前らも明日に備えて帰れ。」

「え・・・。」

「は、はい・・・。」

納得いかないような表情で立ち尽くす署員達に、司を皮切りにその場にいた他部署の上司たちも、人をはかせるかのように声をあげる。

彼らに質問をぶつけている者もいるが、まるで会見会場のように話を逸らされてしまっていた。

どうやら、彼らは“事の原因”を理解している者達らしい。

優志も司に話しかけようとするが、その場を後にされてしまった。

しかし、ここで止まっている訳にもいかない。

 

恐らく、このままにしたらそれで“迷宮入り”だ。

 

「部長!ちょっと、いいですかっ!」

「なんだ?」

自分のデスクから荷物を持って階段を降りてきた司に、優志は意を決して声をかける。

気だるげそうな顔をしながら、司は優志へと近づいてきた。

「先の・・・先の会見も含めて、聞きたいことがあるんですが・・・。」

「あぁ。そう・・・か。」

「・・・。」

やっぱりなぁ。と彼は苦笑いをして腕にはめた時計へと視線を移す。

優志はぐっとこぶしを握りしめ、司の言葉を待った。

「ここで言うのもなんだ。・・・お前、今日は俺の家に泊まれ。」

「はっ?」

しかし、司から発せられた言葉は思いもよらぬもので、優志はあっけらかんとするしかない。

目を何度も瞬きさせ、困惑した表情を向ける。

「武田。お前一人暮らしなんだろう。だったら、いいじゃないか。たまには家族に囲まれての食事もいいぞ?」

「いや!そ、そうじゃなくて・・・」

「なんだ?年頃の娘がいるからって、遠慮することじゃないぞ。」

「え・・・いや・・・だから・・・。」

声をあげて笑い出した司に、優志はがっくりと肩を落とす。

このまま話をしていても、らちが明かないだろう。

大きなため息をついた優志は、司と交差するように階段を登り始めた。

そんな彼の背中を、司が視線だけで追う。

「荷物・・・。取ってきますので。少し待っていてください。」

振り返る事無く優志はそういうと、そそくさと自分の荷物を取りに、未だ人の減らないフロアへとかけていった。

彼の姿が見えなくなると、司は深呼吸をする。

「さて・・・。どう、説明してやったらいいもんか・・・。」

窓の外へと視線を移すと、ぼんやりと山の方に明かりが灯りだしていた。

視線を変えれば、別の方向に位置する山肌にも同じような明かりが灯る。

「こりゃぁ・・・。じいさんに頼むか。」

階段を駆け下りてきた優志を見て司は独り言を呟くと、ゆっくりと歩き出した。

 

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