幼いころに、一度だけ“罪”をしたことがある。
「君。どこから来たの?」
薄暗い道を抜けた先に、母から教えてもらった花畑があった。
父に叱られたり嫌な習い事があったりしたら、すぐにそこへと逃げ込む。
毎回そんなことをしているから、家の者達にはそこにいつも隠れていると知られていた。
世界で色々な事があったせいもあり、母が大切にしていた花畑には家族以外が訪れる事がなかった。
しかしある日、そこに知らない女の子が立っていた。
黒い髪、可愛らしい洋服。小さな身体。
そして彼女のまわりでは、仮面をつけた気味の悪い大人が不気味な笑い声をあげている。
女の子へと手を伸ばした彼らを見て、冷やりと背筋が凍る様な感覚を覚えた。
そして、気が付いた時には彼女の手を掴んで走り出していた。
「怖いの・・・お兄さん・・・どうしよう・・・」
大粒の涙を流して泣き出した少女に、自分は声をかける。
そして言ってしまった。
「大丈夫だよ。僕がそばにいるから。」
その言葉が彼女と自分にとってどれだけ重たいのか。
自分はその時、気が付けなかった。
――
大きなため息をついたアリスは、隣で何も言わないディルへと視線を送ってみる。
しかし、ディルは気が付かないと言わんばかりに、顔を背けた。
先の現世で起こった事件から数時間後、ヒーリカに無理やり連れ込まれるようにこの場に来た二人だったが、とても居心地は良いものではない。
自分たちの住む世界とも現世とも違ったこの場所は、何でも“とある神”が管理している場所だという。
その者達に交流がある為、この“狭間の世界”へと来られたらしい。
とはいえ、一時期のしのぎとして移動しただけであり、時間が経てば元の世界へと戻らなくてはいけない状態だ。
「現世の事も一応は片が付いたと言えるだろうな。」
「親父にも報告はしなくちゃ・・・だな。」
「当たり前だろう。」
「・・・。」
冷たくディルにあしらわれ、アリスは苦々しげに笑うしかない。
ディルは風でなびくストールを直し、呆れたようにアリスを見る。
彼が言わんとしたい事は痛い程分かっていた。
だが、それを今答えることができないのもわかっている。
「あの子・・・。の、ことだろ・・・。お前が言いたいの。」
「わかっているなら、腹をさっさとくくれ。」
「いや・・・そういう訳には・・・」
鋭い口調でディルに言われ、アリスはびくりと肩をゆらす。
昔からどことなく刺々しいとは思っていた幼馴染ではあるが、ここまで鋭く更に冷たく言われた事はない。
それなりに、先の状況を見て怒っているのだろう。
目を覚ましたるりに言われた言葉が、アリスの中で形を形成できないまま何度も響く。
自分なりに彼女を思っていった言葉だったのだが、どうやら的外れだったらしい。
「巫女になるためには主帝が必要で、その主帝がいないるりちゃんは、今回の件が済めば普通の生活に戻れるだろ・・・。」
「・・・。」
「俺達の世界に干渉しなくても、彼女は自分の世界を守れたんだし、これで良いにしてあげれば・・・いいんじゃないかと・・・」
「・・・・・。」
チラチラとディルの顔を覗きながら、アリスは歯切れが悪い言い方をするしかない。
何を話しても、彼は鋭い目つきでこちらを見るだけだ。
「・・・あのディルさん?何か言いたい事があれば・・・」
「お前はな・・・」
呆れたように大きなため息をついたディルは、切れ長の目でアリスを睨みつける。
その視線だけで、心臓に穴が開くのでは、と思うくらいの威圧感が、アリスを圧迫した。
「お前、今回の件に首を突っ込んだ理由を考えてみろよ。」
「え・・・そ、それはさぁ・・・」
どこまでも続いている森へと視線を泳がせ、アリスはディルから視線を逸らした。
「現世でバケモノに襲われていたるりちゃんを助けた。」
「で。」
「そのるりちゃんが、白様の鍵を持っているのを知って、これはそのままにしては良い案件じゃないなって思った。」
「で。」
「更に深く頭を突っ込んで状況を聞いちゃったんで、親父を怒らせてでも聖職者や管理者に協力した。」
「・・・。」
物事を紐解くかのようにアリスは呟き、ディルが相打ちをうつ。
「結果的に現世の事件を解決する手助けをした。が、俺達の世界は状況が変わらない。それに、いつ奴らが戻ってくるかわからない・・・」
「つまり、事件は解決していない。」
「お前さぁ・・・何が言いたいんだよ・・・。」
まるでアリスにその先を言わせたいが為に、ディルはあえて決定的な事を言わない。
モヤモヤとした感覚をアリスは感じ、ストールで表情がわからないディルを見つめる。
頭を抱えたディルは、咳払いをした。
「アリス。お前・・・るりという少女に何も感情が湧かないのか?」
「は?」
あっけらかんとした表情で見てくるアリスに、ディルは肩を震わせて怒りを露わにする。
あまり人前で感情を高ぶらせない彼だが、親しい人の前ではたまにあることでもある。
こうなってしまうと、いつ爆発するかわからない。
「お前・・・鈍感だな。」
「意味がわからん。」
「鈍感馬鹿野郎。・・・人の気持ちはガリガリ削り取り、勝手に入り込んでくるくせに・・・そういう部分は皆無なんだな。鈍感魔族野郎。」
「はっ?」
自分の怒りを鎮めたいのか、ディルの言葉が棘を増す。
言葉が発せられると、それに連なって彼はだんだん落ち着きを取り戻していった。
変わりにアリスが、怒りを露わにしてゆく。
「だから言っている通りだ。お前は自分がなんで此処までしているのかよく考えろ。お節介か?お節介だけで動いているのか?」
「っあぁ!そうだって言ってるじゃねぇかっ!」
「・・・嘘ついてんじゃねぇよ・・・馬鹿野郎・・・。」
「なっ?」
ため息交じりに言葉を発したディルは、怒鳴り声を上げているアリスを置いてその場から立ち去ろうとする。
困惑した表情を浮かべるアリスは、それ以上何も言わなくなったディルの背中をじっと見つめるしかない。
「お前さ・・・。アリス。気が付いてないかもしれないが・・・」
「なん・・だよ・・・。」
ふいに立ち止まったディルは、憐みにも蔑んだようなようにも見える視線でアリスを見る。
小首を傾げ、声を震わせたアリスは黙り込んだディルを見返した。
「・・・ここ最近。ずっとあの巫女の卵・・・るりって子の事ばっかり話しているぞ。」
「・・・。」
ディルはそれだけ言うと、その場から風と共に姿を消す。
木々のざわめく音にまぎれて消えたディルを見つめながら、アリスはその場に残された。
「・・・そう・・・なの・・・か?」
唖然とした表情で佇むしかないアリスは、見えなくなった親友の影に向かってぽつりと呟くしかなかった。
――
木々と鳥の声が混ざった森を見つめながら、るりはベンチに腰をかける。
足元に咲き誇った花々へと視線を落としてみれば、見た事が無い花ばかりだと気が付いた。
「何であんなこと・・・言っちゃったんだろう・・・。」
頭の中を整理するかのように色々な場所を歩いてみたが、足を止めれば嫌でも自分が発した言葉を思い出してしまう。
「アリスさんに・・・会えなくなる?」
自分が言った言葉を復唱するように、るりは水路に映った自分に問いかけた。
唖然と自分を見つめるアリスの顔が脳裏に浮かび、同時に何も言わずに部屋を後にした彼を思い出す。
それが良い意味なのか、それとも悪い意味だったのかはわからない。
ヒーリカやランゼフ達に気を使ったのか、居心地が悪くて出て行ったのかは、彼にしかわからないだろう。
不安感がのぼせる様に湧き上がってしまい、るりは指定された時間まで部屋に戻るのを止めていた。
「散歩か?」
「へっ?!」
ふっと頭上から声が聞こえ、るりは驚いて倒れそうになる。
振り返れば、後方にディルが立っており小首をかしげていた。
気配が無いとはいつも思っていたが、ここまでとは思わなかったこともあり、るりは目を白黒させてしまう。
そんな彼女を気にしていないのか、彼は首に巻いたストールを手で直す。
「悪かったな。アリスと話をしていたのに、俺達が部屋に入ってしまって・・・。」
「え、い、いえ。あの・・・。」
「俺が止めてやればよかったな。」
「・・・。」
ディルの言葉にうまく答えられなかったるりは、彼の言葉に一瞬ぎょっとしてしまう。
彼の言葉尻では、部屋の中でアリスとどのような話をしていたのかディルにはわかっていたと感じ取れてしまう言い方だ。
るりは頬を赤くすると、ディルと視線を合わせるのが難しくなった。
「とはいえ、まぁ・・・あいつ・・・アリスも不器用な奴だ。あまり、言葉を深く取らないでやってほしい。」
「あ・・・。」
彼なりの謝罪なのか、ディルはため息交じりに小さく頭を下げる。
るりは困惑した表情で頭を左右に振るが、それ以上は彼に言うことができなかった。
「君たちはこれからどうするんだ?」
「わ、私達・・・ですか?」
「あぁ。先の管理者・・・ヒーリカと言ったか。あいつが言うには、現世に戻るよりは俺達の世界に行った方が事が進みやすい・・・とは言ってはいたが・・・。」
「そう・・・でしたね。」
ディルに促されるようにベンチに座り直したるりは、手に持った“鍵”を握りしめる。
ヒーリカが提案した内容はこうだ。
このまま現世に戻れば、向こうの人々に説明をするのが難しい。
るりの両親には現世側で対応をしているので、アリス達の住む“黒色世界”へとるりとランゼフは向かってほしいとのことだ。
現世でのるりに対する一連の事件に関する情報はヒーリカ達が対応するので心配はいらない。という話だったが・・・。
「巫女様になる事を考えるよりも、今できることをして欲しい。とヒーリカさんは言ってましたが・・・。」
「ようは、巫女になるべき存在が行う事を、向こうの世界でやれ。ということだろうが・・・な。」
「・・・。」
るりの隣に座ったディルは、長いストールを取り外す。
初めて見た彼の顔を見て、るりは何度も瞬きをしてしまう。
顏の半分がストールで隠れていることもあり、人間味があまり感じられなかったが、今の彼はどことなく優しささえも表情に感じられる。
彼女が自分を見ていることに気が付いているのか、ディルは小さく口元を緩めた。
「この狭間の世界は、“敵”がいないからな。・・・それに、不安感を相手から無くすにはコイツを外すのが一番だ。」
「す、すみません・・・怖がっている訳じゃ・・・」
「いや、いい。気にするな。」
うろたえる様に話するりに、ディルは何故か笑い出す。
彼が何故そのような表情をするのか、るりには到底わからなかった。
「あいつが守ろうと思うのも、分かる気がするな。」
「え・・・?」
ストールを膝に降ろしたディルは、おもむろに空を見上げると更に言葉を続ける。
「アリスはな、あぁ見えて鈍感でまどろっこしい奴なんだ。・・・守るだの、大丈夫だの、そういう言葉を自分で使うと後々まで引きずる馬鹿だ。」
「引きずる?」
「あぁ。」
苦笑いを浮かべたディルは、更に続ける。
「昔、現世の子供が絡んだ事故があって・・・その時に、大丈夫だ。俺が守るから。とか言ったのに、結果的にアリスは何もできなくて、領主様・・・あいつの親父様が解決してな。それからだ。」
ちらりと何もない空間を見つめたディルは、何故か更に声を大きくする。
「守るだの。俺がなんとかするだの。そういう事を口で言ってはみたものの、それらができなかったと自分で思い込むと、いつまでもいつまでも後を引いて考え込む癖がある。あの時、もっとこうすればよかった。とか・・・な。」
「そう・・・なんですか。」
口元だけで笑ったディルは、小首をかしげたるりを横目で見ると、ゆっくりとストールを首に巻き直す。
「その昔助けようとした現世の子に、あいつはまだ未練をもってるんだ。何度も話を聞かされたさ・・・。呆れるくらい。」
「へぇ・・・。」
おもむろに立ち上がったディルは、風にストールをなびかせながら思い出す様に目を閉じる。
そして、ぽつりと言葉を発した。
「母さんと一緒に行った花畑にいた黒髪の女の子。迷子だって言っていたな。だが、実際は俺達の世界で悪戯を起こしていた連中が、勝手に連れてきてしまったんだろう。」
ディルの言葉に、何故かるりは目を見開く。
手に持った鍵を握りしめ、彼女は身体がふらつくような感覚に襲われた。
「結局色々あったが、未熟だったアリスは何もできず、領主様が女神様に掛け合ってなんとか事なきを得た・・・。でも、あいつは、それが悔しくて悔しくて・・・自分が何もできなかったって・・・」
耳の中が痛くなり、るりは喉さえも渇きを覚える。
ディルの話す言葉がるりの頭を駆け巡ってゆき、自分の中で弾け出した。
彼が語る中で昔の情景が重なり、それが色濃くなると身体が震えてくる。
「だからあいつは、ずっとその子を探している。・・・まぁ、どんなに探しても見つかるかは星のかけらほどの希望しかないだろうが・・・な。」
風で棚引くストールを手で押さえ、ディルは何も言わずに座ったままのるりをちらりと見た。
目を見開き、何も言おうとしないるりに、彼は小首をかしげるしかない。
「(訳が分からない昔話をしてしまった・・・な。)」
自分が今彼女に話した事を考え、ディルはため息をつくしかない。
全く関係もない彼女に何故その話をしたのか、彼自身もわからないが、今のるりを見ていると、言わなくてはいけないと思ったのだ。
とはいえ、歯切れの悪いこの状況では、お節介でありアリスの事を知るにはいい話だとは思っても、理解不明だったかもしれない。
忘れてくれと言いかけたとたん、ディルはその言葉を言う事が出来なくなる。
「夢じゃ・・・ないんだ・・・なかったんだ・・・」
急に糸が切れたように身体をうずくまらせ、るりは小さな声で震える身体を抑え込む。
頭を左右に振った彼女は、微笑みつつも瞳からは涙があふれていた。
「そうだったんだ・・・」
「どうした・・・?」
溢れ出る涙を手でぬぐい、るりはディルを見上げる。
その顔は清々しく、嬉しさで溢れているようだった。
「アリスさんに、良かったら・・・伝えてほしいです。」
るりの言葉に今度はディルが目を見開く。
「その現世の子は、元気です。彼女も・・・貴方を探しています。って。」
顏を赤らめて笑ったるりの手元で、うっすらと鍵が光を帯びていた。
――
青々と茂った森を眺め、ランゼフは一人空を見上げる。
気持ち良い空と言うのは、こういうものをいうのだろう。
「気持ちは決まった?」
自分の背後に立った彼女に、ランゼフは振り返らずに問いかける。
ゆっくりとランゼフへと歩み寄った彼女は、同じように空を見上げた。
「うん。決まったよ。」
「そっか。」
声の主に答えるべく、ランゼフは立ち上がる。
そして、振り返ると彼女の姿に目を見開いた。
凛とした目つき。
手に持った“鍵”を首にかけ直し、黒髪が風でそよぐ。
その瞳は、今まで見た中で一番力強く感じた。
「私、向こうの世界に行く。」
「・・・うん。」
るりは新しく袖を通した服を風でなびかせ、ランゼフの顔をしっかりと見つめた。
ランゼフも彼女の表情を見て大きく頷く。
「私、叶えたい事ができたんだ。」
「叶えたいこと?」
「うん。」
風がるりの髪をなびかせ、額の紋章が前髪の間から見え隠れする。
薄らと浮かび上がっていた紋章は、今はくっきりと浮かび上がっていた。
心なしか、るりの周りから漂う雰囲気や力も、安定しているように思う。
「私が一番今助けたい人を助けたい。・・・って事かな。」
「ふぅん。」
にっこりとほほ笑んだるりを見て、ランゼフは小首をかしげるしかない。
ただ、彼女の横顔を見つめていると、同じように微笑んでしまう。
「向こうの世界はもっと大変だよ。・・・仲間も作らないといけないだろうし・・・何より状況は最悪だ。」
「うん。わかってる・・・つもりだよ。」
少しばかり不安げな表情をしたるりだったが、それを振り払うかのように首を左右に小さくふる。
「大丈夫。そんな気がする。ランちゃんもいるし。」
「・・・ボク、頼りないかもしれないけれどね。」
「そんなことないよ。」
蔑んだように言ったランゼフに、るりは強く言う。
「ランちゃんは、たくさん私を助けてくれたよ。凄くかっこよかった。」
「なんか・・・恥ずかしいからもういいよ。」
「そう?」
ローブを口元まで引き上げ、ランゼフは赤らむ自分の顔をるりに見せまいと、そっぽを向いた。
小さく笑ったるりは、瞳をゆっくりと閉じる。
「大丈夫だよ。大丈夫・・・。」
「そう・・・だね。」
瞳を開けたるりは、ランゼフと共に後方を振り返った。
そこにはヒーリカが立っており、彼女の後ろにはディルとアリスの姿も見える。
表情がさえないアリスを、ランゼフは不思議そうに見るしかない。
短い時間とはいえ、今まで彼があのような不安げな表情を浮かべているのは珍しく感じるのだ。
「じゃぁ。行きましょうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
るりの言葉に、ヒーリカは答える様に空中へとコンソールを出現させる。
アリスとディルの足元が光りだし、二人を緑色の光が包んだ。
「とりあえず、先に二人を転送するわ。・・・同じ場所に送ることは貴方達の立場上よろしくないのでしょう?」
「そうだな。」
「・・・。」
何も言わないアリスに変わり、ディルが頭を縦に振る。
視線の合わないアリスへとディルは肩を叩くが、これと言った反応が無い状態だ。
そんな彼を不思議そうに見たヒーリカは、ため息をつく。
「向こうの世界で会えるかは分からないけれど・・・お別れのあいさつは良いのかしら?」
「え・・・。」
「っ・・・。」
ヒーリカの言葉に反応したるりとアリスの声が重なり、彼女は苦笑いを浮かべてしまう。
お互いの顔を見合ったるりとアリスは、どちらと言う訳でもなく何も言わない。
「あ・・・っと。」
何か言おうとアリスが顔を上げると、るりは首を左右に振る。
「色々とありがとうございます。・・・あの、向こうの世界でもし会えたら・・・嬉しいです。」
「え・・・。」
まるで自分の意思をつぶしているかのように、るりは満面の笑みを浮かべてアリスに言う。
ディルとヒーリカのため息が聞こえるが、ランゼフは小首をかしげるだけだ。
ヒーリカが発動させた転移紋章が更に光を増し、時間が迫っている事を告げる。
「さぁ。そろそろ時間ね。」
淡い緑の光がディルとアリスを包み込み、辺りに風が巻き起こりだす。
「あのっ!アリスさん!」
「・・・っ?」
はっきりとしない表情でるりを見たアリスは、ぼやけた視界の先で笑ったるりと目が合う。
コンソールを静かに叩いたヒーリカは、ランゼフとるりに少し下がるように指示を出した。
急いで後方へと下がったるりは、眩しい程の光で見えなくなったアリスに向かって声を張り上げて言う。
「今度は・・・“頂いた花の名前を教えて”・・・くださっ」
るりが言葉を言い終わる前に光が帯状に変わり、ディルとアリスの姿が消える。
光の粒が辺りに散らばり、しんと辺りが静まり返った。
るりの言葉に驚いたヒーリカとランゼフは、彼女を見つめるしかない。
「言えなかったけど・・・いいの?」
「今の・・・何?」
ヒーリカとランゼフは、胸を押さえてたたずむるりに向かって、おずおずと問いかける。
るりは小さく首を左右に振ると、ゆっくりと顔を上げた。
「いいんです。・・・また、会えた時に“答えを聞きたい”から。」
目にたまった涙をぬぐい、るりはにっこりと微笑む。
そんな彼女を気にしつつも、ヒーリカはコンソールを静かに叩きだした。
ランゼフは困惑した表情を浮かべ二人を見るしかない。
咳払いをしたヒーリカは、コンソールから手を外す。
「・・・えっと、とりあえず。これからの事を話すわね。」
出現させたコンソールを引き寄せながら、ヒーリカは大きくため息をつくと、自分の端末にるりの情報を隠れる様にダウンロードし始めた。
――
唖然と立ち尽くしたアリスに、ディルは言葉をかけようとしない。
見慣れた薄暗い森が辺り一面に広がり、所々から気味の悪い何かの声が響きている。
前方には同じように見慣れた屋敷が見え、入り口には人影がうっすらと確認できた。
その人影は二人に気が付いたのか、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「先手を取られたか。」
「・・・・。」
ディルはアリスの背中を叩くと、屋敷の方へと歩いてゆく。
一歩も踏み出さないアリスは、ディルの背中と屋敷から近づいてくる初老の男性を見つめる事しかできない。
「あぁそうだ。先の巫女の卵である少女からの伝言だ。」
「え・・・。」
歯切れの悪い声を無視し、ディルは続ける。
「お前が助けた現世の少女は元気に過ごしていて・・・」
アリスの目が大きく見開き、手元が震えだす。
「アリス・・・お前を探しているそうだ。」
ディルの言葉を聞いたアリスは、その場で佇むことしかできなかった。