酷く穏やかな景色が広がっている。
何事も無かったといえば、それで終わってしまいそうだ。
「流星。そろそろ、行くぞ。」
「あぁ。」
病院の待合室に入ってきた輝光に向かって流星は短く答える。
足の処置も終えた流星は、自宅へと退院することになった。
「―ご覧ください。空を覆い尽くしていた謎の暗闇は無くなりました。一部の情報では・・・―」
待合室に設置されたテレビでは、先程から同じ中継が何度も放送されている。
どのテレビ局も同じ映像が流れており、真新しい物が放送されていない。
それどころか、何故それが起こったのかという場面については、どの放送局も流していなかった。
いや、もしかしたら、情報が入ってこないのかもしれない。
「これも、お前の同級生が関係してるのか?」
「・・・かもしれない・・・な。」
流星の荷物を抱えながら、輝光はじっと画面を見つめる。
周りには多くの人々が集まっていたが、二人の会話を気に留める者はいない。
病院の中だというのにも関わらず、周りは賑やかすぎるほどの人々の声で溢れかえっていた。
窓の外を見上げている者、テレビ画面を見ている者、どこかに連絡を慌ただしく取り始めている者。
殆どの人達が慌ただしく動いており、静かに状況を見ている者達は殆どいない。
賑やかなホールを抜け、流星と輝光は外へと歩いてゆく。
眩しい程の光が眼の中に入ってくると、思わず流星は手で太陽の光を遮った。
「学校はしばらく他校で授業を受ける事になるらしい。先、家に連絡が来ていたぞ。」
「そっか。まぁ・・・すぐには使えないよな。あの校舎・・・。」
最後に見た騒々しい学校の様子を思いだし、流星はため息をつく。
病院の外も中と同様に賑やか声で溢れており、皆が空を見上げては思い思いの言葉を上げていた。
「光士は?」
「あぁ。あいつはこれから大変じゃないのか?」
「・・・。」
自宅の店舗で使っている配達用のトラックに乗り込み、輝光はエンジンをかける。
後方の荷台には空のバケツが詰まれており、仕事どころではないと言わんばかりの情景だ。
駐車場にもあふれている人々を気にしつつも、輝光が運転するトラックはゆっくりと動き出す。
流星は窓を開けると、再度空を見上げた。
ものの数時間前まで覆っていた気味の悪い漆黒は跡形もなく、いつも通りの青空が広がっている。
視線を落としてみれば、路上には不自然な程の瓦礫や歪んだ標識が形を残していた。
車道には警察の姿も多くあり、壊れた車の周りには人々が集まっている。
ヒビの入った窓ガラスを指さし、店内を眺めている人の姿や、近くの路地へとカメラを向けている人の姿もあった。
「バケモノ達の姿も減っているみたいだしさ・・・まぁ、一応は一件落着・・・に向かっているんじゃないのか?」
「だと・・・いいけどさ。」
ラジオの音を調整しながら、輝光は自宅の方へと車を走らせる。
気持ちの良い風が車内に入り込んでくるが、どうにも清々しい気持ちには二人はなれない。
「この後、何もなかった。ということにはならないんだよな?」
「・・・。」
流行りの曲が終わり、ラジオからは特番が放送し始める。
アナウンサーが中継先の者達と会話をし始め、人々のざわめきが後ろで聞こえ出した。
「本当に全てが終わったなら、少なからずお前の表情も明るくなるんじゃないのか?」
「・・・なのかもしれないな・・・。なんか、モヤモヤっとしたモノが残ってるって感じだ。」
「そうか・・・。」
大通りを抜けアーケード街へと差し掛かると、輝光は車を小道へと走らせる。
先までの賑やかさは無くなり、見慣れた静かな情景が広がってきた。
外の瓦礫を片付けたり、警察の事情聴取を受けたりしている状況を除けば、本当に何もない見慣れた日常だ。
「お前は先に家へ行ってろ。母さんが心配してるだろうし。」
「あ。うん。わかった。」
どちらとも会話が進まないこともあり、流星は輝光に促されるようにトラックからゆっくりと降りる。
松葉杖を使いながら、彼は家の方へと歩いていく。
少しばかり足が傷んだが、家で待つ母親たちの事を思うと、足を止める気にはならなかった。
「・・・?」
後方から人の気配を感じ、ふと流星は振り返る。
「なっ・・・」
思わず手に持った松葉杖を投げ捨てそうになり、流星は後ずさりをする。
「ア・・・アァ・・・・」
「まだ、いるんだ・・・・な・・・。」
傷む足を抑え、突如として後方に現れたバケモノと距離をとった。
更にその先には輝光がいるはずだが、彼の姿は見えない。
恐らく、まだトラックから降りていないのだろう。
ふらつき身体をゆらして近寄ってくるバケモノを苦々しげに睨み、流星は一歩一歩と後方へと下がった。
辺りを見回すが、元々人通りの少ない商店街の裏通りということもあり、人の姿は見えない。
「なんとか・・・いけるか?」
服に入れてあった“鍵”を握りしめ、身丈程の弓を出現させる。
さすがに負傷した足では支えるのが精一杯であり、矢を構えるところまで出来ない。
「ウ・・・アァ・・・」
バケモノは太陽の光に照らされると、身を震わせてふらつく。
恐らく、彼らにはこの光が弱点であり、弱り果てているのだろう。
とはいえ、太陽光だけでは倒されることが無いらしく、足を引きずりつつも流星の方へと歩み寄ってきていた。
「まずいなぁ・・・」
苦笑いを浮かべて後方を見るが、都合よく助っ人の姿は見えない。
それどころか、あまり時間をかければ輝光が合流してしまうだろう。
弱ったバケモノと言えど、普通の人間が相手できるモノではない。
「さて・・・。」
松葉杖を地面に置き、傷み続ける足をかばいながら、流星は弓の弦をゆっくりと引く。
矢を放てば、恐らくは足がまた悲鳴をあげるだろう。
「っ・・・」
大きく深呼吸をし、流星は矢を構えた。
「治る傷も、更に悪化してしまうよ。・・・少年?」
「え・・・?」
思い切り矢を手から離そうとした瞬間、酷く冷たい声が耳をかすめた。
目の横をきらりと何かが輝き、目の前にいたバケモノの姿が後方へと倒れ込む。
「っ・・・っ!・・・っ」
声にならない悲鳴をあげながらバケモノはその場で暴れ、痛みに苦しんでいるようだ。
見れば、顔のあたりに銀色の何かが刺さっている。
顔の形は無いが、それが人で言えば眉間辺りに刺さっていると考えれば、激痛だろう。
のた打ち回るバケモノは、顔面に刺さった銀色のナイフのような物を取ろうと、手でつかもうとする。
「ニンゲンなら、一瞬で痛みなどないはずなんだけれど・・・」
「っっ!」
ゆっくりと流星の横を通り過ぎ、一人の男が姿を現す。
灰色の髪、顔の半分を覆った包帯、真っ黒な衣装。
この場に不似合いな格好の男は、ぽつりぽつりと言葉を発しながらバケモノへと近寄る。
なんとも言えない威圧感が流星を襲い、彼に言葉をかける事ができない。
病的な程の白い手が黒い服から見えたと思えば、手のひらにはバケモノに刺さっているそれと同じ刃物が握られていた。
よく見れば、手術などで使うメスにも見える。
「痛みを感じるのか?・・・それとも擬似的な物なのか?」
「ぇっ・・・。」
手のひらでメスを遊ばせていた男は、感情のこもっていないような声でぽつりと呟く。
彼は暴れるバケモノへとそれを向けると、身を屈めて更に顔面へと突き立てた。
「っっ・・・っっっ!!」
思わず目を逸らしたくなるほどの光景に、流星は手に持った弓を“鍵”へと戻して松葉杖へと視線を向けた。
まるで子供が砂場を無心で掘り続けるかのように、男はバケモノへと何度もメスを突き立てる。
機械的に振り下ろされる刃物の輝きと共に、バケモノの悲痛な声が辺りに響き、さすがに得体のしれないモノだとしても、可哀想という感情が生まれてしまう程だ。
「ふむ・・・。」
男の声が聞こえたや否や、バケモノの声が聞こえなくなる。
恐る恐る流星が視線の先を見ると、跡形もなくバケモノの姿はなくなっていた。
地面に落ちたメスを拾い上げ、男は小首をかしげている。
「血も流れなければ、体液という物もない。か。」
「あ・・・。」
服の上着へと手を入れ込んだ男はつまらなそうな声を出し、ゆっくりと流星の方へと向き直る。
真っ白と言ってもよい程の血の気のない顔と、正反対な真紅の目がじっと流星を見つめだす。
顏の左半分程を包帯が埋め尽くし、尋常ではない恐怖感さえも男からはにじみ出ていた。
悲鳴をあげてその場を去りたい、とはこういう場面で言うのだろう。と流星は思ってしまう。
「君。足を負傷しているのだろう?」
「え・・・あ・・・。」
歯切れの悪い答え方をした流星など気にせず、男は特に興味もないと言わんばかりに愛想笑いを浮かべる。
「体重は負傷した足の方へかけない方がいい。治りが悪くなる。無理して先の弓を使いたいなら、負担を軽減できるような押さえを用意した方がいいね。」
「は・・・はぁ。」
雰囲気とは対照的に、男の口調は穏やかだ。
とはいえ、先と変わらずその声に感情と言うモノが見えない。
「あぁそうだ。君に聞きたいんだけれど・・・」
「え?」
ゆっくりと辺りを見渡しながら、男は言う。
「この近くで、きれいなきれいなきれいな緑色の髪をした少女を見ていないかな?」
「・・・・・。」
急に表情を一変させ、男は口元だけで笑う。
その眼には感情というモノはやはり宿っておらず、言葉や声そして口元とは対照的だ。
「いや・・・見てないけど・・・。」
「あぁ・・・そうか。そうかい。」
流星が言い終わるよりも早く、男は彼が知りたい情報を持っていないと分かると、そそくさと言葉を遮ってしまう。
小首を傾げため息をついた男は、ぐるりともう一度辺りを見ると、大通りの方へと歩いてゆく。
「もし、そういった女の子を見たら、伝えてくれないかな?」
「・・・?」
背筋が凍りつくような程の感覚を、流星はふいに感じて目を見開く。
視線の先では男の姿はどんどん小さくなってゆくが、彼の声は耳元で聞いている程近くに感じる。
まるで背後からささやかれているようだ。
瞬きさえも出来ない程、男の姿を凝視してしまう自分に、流星は不安感に押しつぶされそうになる。
視線の先で男の姿が揺らぎ、まるで陽炎のようにぼんやりとしてきた。
「ディレイが探していたから、帰っておいで。と伝えてくれ。」
「っっ?!」
喉を押さえつけられるような感覚を流星は感じ、思わず自分の首元に手を当てる。
男の姿から目を離し、急いで呼吸をしようとうずくまった。
「なんだ・・・ってんだ・・・?」
震える手で喉を押さえると、男の姿が視界から消えた瞬間に、やっと呼吸が出来るようになる。
急いで視線を男に戻そうとするが、目の前には何もいない。
見えるのはこちらへと駆け寄ってくる輝光の姿だけだ。
ほんの数分と言う時間の間で、流星の疲労はピークに達した。
――
薄暗い廊下を経て、雪は静まり返っていた会議室へと入った。
中には父親をはじめとする名立たる達が座っている。
「ご苦労だった。して。どうなった?」
「はい・・・。」
市長を中央に置いた者達に、雪やルヴァン達は先の戦闘を振り返るように語りだす。
漆黒を作り上げた理由。敵の目的。そして、るりの事について。
竜崎たちの事も話そうとしたが、彼の立場などを考え、あえて彼らがいたことは会話にいれずに説明する。
「・・・。」
一通りのことについてルヴァンを中心に話終えると、雪達は促されるように席へとついた。
会議室の外から聞こえる人々の怒涛にも似た声を気にしつつも、雪は父親たちの言葉を待つことにする。
「漆黒が消えたのは、向こうの世界の方が敵を倒した訳ではなく、こちらの・・・しかも中学生の少女が・・・か・・・。」
「にわかに信じがたい事ではありますが。」
「しかし、現状として起こっている事なのだ。」
「うぅむ。」
大人たちは困惑した表情で相手を見つめ、視線をぐるぐると変えてゆく。
誰かに決定的な事を喋ってもらいたいと言わんばかりだ。
歯切れの悪いような空気に、カーティルスは思わず苦々しげな表情を浮かべそうになってしまう。
それに気が付いたのか、ルヴァンが鋭い視線を弟へと向けた。
「百年あまり、この桜丘市では“何事もなかった”訳ではありますが、ついにこちら側も巻き込まれた・・・というべきでしょうか。」
「いやいや。それはさすがに言い方がっ!」
今までしんと黙っていた男が、ふいに嘲笑するように言いだす。
男は何故かルヴァンやカーティルスを睨みつけると、重たい表情をしているだけの市長へと視線を向ける。
「向こうの世界と関わりがあった武藤家とは違い、我々は直接的な関係が今は無いに等しいのです。ですから、こんなことを言いたくありませんが、今回の責任は武藤家が取るべきかと・・・。」
「おいおいっ!それは無いんじゃないか?」
さすがに男の言葉に反応したのか、ルヴァンの目つきが鋭さを増す。
不安げな表情へと変わった雪は、黙っている父親へと視線を送った。
心なしか、雪の父親は肩を震わせているようにも見える。
「少なからず、我々は向こうの世界から恩恵を賜っているのです。・・・今回の戦う力だってそうです。彼らとの関わりが無ければ、“鍵”を継承する者だっていなかったかもしれない。」
「市が混沌へと吸い込まれたかもしれないのですぞ。」
「・・・。」
あざけるように言った男に対して、複数の者達が反論の声をあげる。
ルヴァンの隣に座っていた者が、彼の耳元で何かを呟いていた。
その言葉に、ルヴァンは小さく頭を下げる。
今まで鋭い眼光を男へと向けていたルヴァンだったが、小さくため息をつくと少しばかりか落ち着きを取り戻したようだった。
目の前では大人たちが言いあいを繰り広げあい、これといった決定打ともいえる意見も無いまま時間が過ぎてゆく。
「大丈夫か?」
「え・・・。う、うん。」
ふいにカーティルスに声をかけられ、雪は震える声で彼に答えた。
「雪・・・無理はせず、後は我々だけでも大丈夫だ。」
「うぅん・・・平気です・・から。」
カーティルスの声に気が付いたのか、ルヴァンが頭の上を飛び交う罵倒や会話を気にしつつ、雪に声をかける。
酷く優しく聞こえた声に、雪は小さく首を横に振った。
「話がこじれているようですな。」
「っ?」
「あ・・・。」
飛び交う声を遮るように、会議室の扉が勢いよく開かれる。
明るい男の声に弾かれ、罵声を飛び交わせていた者達が、しんと静まり返った。
振り返れば、そこにはスーツの上着を抱えた竜崎が立っている。
後方には数名の警官たちの姿が見えた。
「いやぁ。少々難題にあたりましてね・・・遅れてしまった。」
「・・・いや、状況が状況だ。仕方がないだろう。」
「・・・そ、そうですぞ。」
場に不似合いなほどの明るい声で、竜崎は部下と共に部屋に入る。
彼の後ろから警官が中に入ると、ゆっくりと入り口が締められた。
参加者たちは彼が来たことに驚いているのか、何故か目が泳いでいる者達もいる。
竜崎と言う存在が、この場ではイレギュラーなのかもしれないと、ふとルヴァンは考えてしまった。
どっかりと椅子に腰をかけた竜崎は、手に持った資料を机の上に広げる。
付箋や様々な色で書かれた何かは、枚数は多くないが白い紙がよれるほどに様々な事が描かれているようだ。
「では、警察から現在の市内状況を・・・。」
今までじっと黙っていた市長が口を開き、他の者達が声を発するよりも先に話の誘導をする。
彼の声に頷いた竜崎は、机の上に置かれた用紙へと視線を落とした。
「市内全土に現れていたバケモノ達の姿は、空を覆っていた漆黒が消えた時から、次第に数を減らしています。未だに目撃情報などは無くなっていませんが、まぁ・・・それらも時間の問題かもしれません。」
「それと反比例するように、マスコミに別の目撃情報や、先程の漆黒が消えた事に対する問い合わせが増えてきています。」
「ふむ・・・。」
竜崎の指示で立ち上がった警官が、部屋の前方に置かれたホワイトボードへと資料を張り付けてゆく。
幾つかの拡大写真を貼った警官は、ホワイトボードを動かし、皆に見える位置へと持って行った。
「この短時間で集められた写真です。」
「これ・・・は・・・。」
ホワイトボードに貼られた写真を見て、雪達は絶句してしまう。
部屋の中からはざわめきのような声も湧き上がり、人によっては落胆のため息さえも上がってきた。
ぼやけた写真の数々だったが、それらは全て同じ場所を映している。
ボードに貼られた写真を指さし、小首をかしげた者も出始めた。
「とあるビルの屋上を撮影したものです。ほとんどのモノがぼやけていますが、これらに対しての状況を説明してほしいと・・・署の方に幾つもの連絡が来ている状態です。」
「これは・・・人・・・なのか?」
「学生服にも見えるが・・・。」
写真の殆どが上空の漆黒で覆われている中、ぼやけた部分に淡い緑の光が螺旋のように向かって広がっている。
その中央辺り、人影のようなものが見えていた。
カーティルスはルヴァンや雪の顔を見て、お互いに視線を逸らす。
「電子機器が使い物にならなかった・・・という証言が多く、その中で旧式のカメラを用いて撮影された物のようです。」
「これは人なのか?市内の中学校の制服にも見えるが・・・という問い合わせもあり、調べたところ・・・」
淡々と話す竜崎に、雪やルヴァン達は唖然としてしまう。
写真に写っているのはるりだろうが、その状況を間近で竜崎は見ているはずだ。
しかしながら、彼はまるで“その場にいなかった”と言わんばかりの言い方をしているように聞こえる。
色々と考えた末に、竜崎たちがあの場所で共闘した事は話さないようにしたが、逆に今の状況ではそれが良くない状態へと導いてしまったようにも感じてしまう。
「もしや・・・これは先にそちらの武藤家のお嬢様方が報告されていた方なのでは?」
「あぁ・・・そういえば・・・。」
ふっと思い立ったように声をあげた男が、雪達の方へと視線を向ける。
会話を続けようとした竜崎も一度静まると、雪達を見た。
「え・・・と・・・。」
急に自分たちに視線が集まり、雪は目を泳がせてしまう。
色々な場面で大人と対等に出たとはいえ、彼女は未だ中学生である。
手を震わせどうしたものかと困惑していると、ルヴァンが小さく咳払いをした。
「確かに、そちらの写真に写っているのは我々が先に話をした“巫女の力を受け継いだ”少女でしょう。」
「だが。それらを公表するにはリスクが高すぎるかと。」
「・・・なぜ?」
ルヴァンの言葉に合わせる様に、雪の父親がぽつりと声を発する。
思わぬ方から声が響き、人々の視線が一斉にそちらへと向いた。
「彼女は巫女という伝承の力を受け継ぐ権利を得ただけです。まだ、彼女が巫女になるとは決まっていない・・・そうだろう?」
「え・・あ・・・はい。そうです。」
この場にいる者達は、桜丘市に伝わる伝承を理解しているらしく、誰一人として疑問をぶつける者はいない。
「対となる主帝が現れなければ、別の者が巫女となった時に、彼女は力を失います。」
「つまり、普通の人間に戻るという事です。・・・この意味をお分かりいただけますかな?」
「それは・・・。」
鋭く言い放った雪の父親に、辺りは言葉を無くす。
今まで声を荒げて何度も発言していた者達も、視線を逸らすだけだ。
「事の騒ぎに、この少女が関わっている。と公表すれば、少なからず彼女の身内や近しい者たちに世間が注目を集める。」
「万が一、同じような事が起こり、あわや大惨事ということになれば・・・」
雪はひやりと背中に冷たい汗が流れるような感覚を覚えた。
瞬きを何度もしてしまい、次に来るであろう言葉に構えてしまう。
「彼女が悪かった。という世間の目が一斉に一人の中学生の少女に向けられてしまう。・・・ご両親・・・身内は巻き込まれるでしょうね。それに、穏便に事が進まなければ・・・」
「うぅ・・・。」
ため息をついた竜崎は、腕を組むと部下に写真を取り外すよう合図する。
重い表情を浮かべた警官は、静かにホワイトボードから写真を取り外し席へと戻った。
「これらの写真については、公表は避けてもらった方がいいだろう。マスコミは写真の検証などで取り上げるかもしれないが・・・」
「・・・し、しかし。多くの市民が見ている訳であり、それに今後の市長からの公表も必要な訳で・・・彼女を隠すというのは・・・」
「・・・。」
何かと雪や彼女の父親たちに反論していた男が、慌てふためいたように声を荒げだす。
竜崎たちが提示した写真の事を無いままにしたくないのか、男の様子はとても必死だ。
「彼女をこの場に呼んで、あの場の状況を説明させればよいのでは?」
「え・・・。」
苦し紛れに言葉を発した男は、周りからの冷たい視線にぴくりと反応するしかない。
男の提案にぎょっと目を見開いた者達は、互いに顔を見合わせるしかないようだ。
「私の娘は桜丘市の四大家系であるが故にここにいますが・・彼女は全くの赤の他人。それに・・・中学生の少女を寄ってたかって大人が質問するのは・・・いかがなものかと?」
「しっ、しかしっ!」
男は雪の父親がいう言葉に納得がいかないらしく、地団駄を踏みだす。
絶対に引きたくないという思いがあるのか、周りの者がなだめても男は黙らない。
「当事者である者に説明させるのは年齢も何も関係ないでしょう?だいたい、巫女になるという“危険性”があるのですぞっ!そのような者は、この場でさっさと吊し上げなくてはっ!」
「え・・・。」
「今、あなた・・・なんと・・・?」
罵声のような男の言葉に、一同は唖然とする。
いくら頭に血が上っているといっても、男が発した言葉はあまりにこの場に不似合いであり、理解しがたいものだ。
まるで、るりが巫女になるのを阻止したい。と言わんばかりに。
ざわめく会議室の中で、ぴくりと竜崎の目が動く。
困惑した顔で辺りを見る男をよそに、他の者達はぽかんとしている。
緊張感にも似た空気が辺りに漂いだし、部屋の中がしんと静まり返ってきた。
苦笑いを浮かべた男は、わなわなと手を震わせる。
「今・・・川西さん・・・あんた・・・なんて?」
川西と呼ばれた男は、隣で困惑した表情を向ける者に、声を荒げる。
「だからっ!私はその小娘をこの場で吊し上げろと言ったんです!巫女になろうとした事を戒めろとっ!」
「な、何故ですかっ?・・・巫女になるのは、こちらの世界で生まれた者もいると・・・伝承には・・・」
「はっ?」
周りの者達がおずおずと川西に言葉をかけるが、彼は声を荒げ叫ぶだけになる。
その様子を見ていた竜崎が、部下に小声で何かを言うと、指示を受けた警官が市長の座る方へと行向き、耳元で何かを呟きだす。
少しばかり目を見開いた市長は小さく頷くと、それに答える様に竜崎が目を閉じた。
「あなた・・・先ほどから・・・おかしいですよ?」
「えぇ。」
「・・・・・。」
席にも座ろうとせず、こぶしを振り上げて怒っている川西に、周りの者達が唖然とした表情で声をかけ続ける。
「どいつもこいつも・・・なんと愚かな・・・」
川西は小首をかしげると、大きなため息をついた。
「すでに巫女になる存在は、決定されているんですよ。」
「え?」
「な、何をいって・・・」
声高々に言い放った川西に、数名の者達が勢い余って席を立ちあがる。
彼らの驚いた表情を見て満足げに笑った川西は、蔑むように雪や彼女の父親を見つめた。
「知らないのですね。私は向こうの世界から聞いていますよ。次期、巫女が誰であるのか。それを妨げる存在がこの世界に現れる事もねっ!」
「え・・・。」
水をかぶった様に、ルヴァンとカーティルスの目が見開かれる。
そのような事は無いと言わんばかりに、雪の父親が首を横に振った。
「つまり・・・その写真に写っていた中学生の少女は、私の言う巫女になるべきものを妨げる厄介な存在となる子です。今のうちに心を改めさせて、鍵を取り上げるべきなのですよ。」
「そ・・・そんなっ!女神様が直々に力を与えた者が、そのような存在であるはずが・・・」
「黙っていろっ!傲慢な武藤家の娘がっ!」
「っっ?」
声を荒げて雪に罵声を浴びせた川西に、今度はカーティルスが殴りかかるかのように立ち上がる。
歯を食いしばってその場に食い留まった彼は、ルヴァンに促されるように席へと座り込む。
目の前で雪の父親と目が合うと、彼も同様にこぶしを強く握りしめているのが見えた。
「このような重要な場に入り込んだ無知な中学生ごときが、大人の顔に混ざってふんぞり返るな。」
「・・・・っ。」
川西の罵声を頭の上でやり過ごしながら、雪は手を震わせてその場でじっとこらえる。
ここで立ち上がり、頭に血が上っている男に何を言っても駄目だと、彼女自身が考えており、抑えることで精一杯の感情をじっとこらえるしかなかった。
「か、川西さんっ・・・貴方・・・なんてことを・・・っ!」
「じ、自分が言っている事をわかっているのかね?」
周りで固唾を飲んで川西の様子を見ていた大人たちは、彼の言葉に困惑しきった表情を浮かべている。
「娘の悪口を言っている暇があるのなら、ちゃんとした理由を言ってもらいたいのだが?」
「・・・。」
冷たく言い放った雪の父親は、怒りで震えている声で低く言い放つ。
周りの者達は彼に同調するように静かにうなずいた。
「いいだろう。」
勝ち誇った様に腕を組んだ川西は、皆に聞こえるように高々にしゃべりだす。
「この最悪な状況下の中で、私の所に向こうの世界から使者が来ました。その方は、次期“巫女”になる方の代弁者であるとのことです。彼は我が川西家の事を信頼しているとおっしゃり、色々な事を教えてくださったのです。」
「・・・うさんくせぇ・・・。」
「・・・。」
自分の言葉に酔いしれているのか、川西はカーティルスの言葉に反応せずにしゃべり続ける。
「空の漆黒を壊す者が現れると、その代弁者は言いました。しかし、その者は本来巫女になる者ではなく、誤って力を授かってしまったのだと。ですから、すぐに彼女を捕らえ、鍵を回収し力を持った事にのぼせ上っている事に罰を与えるのだ。とおっしゃいました。」
「・・・・そんな。」
あり得ないと言わんばかりに、雪は頭を左右に振る。
るりを見ているからこそ、彼女は川西の言葉を全否定したくなった。
まわりからも落胆の声が聞こえ、川西がいかに不可思議な事を言っているのか、皆が理解している。
「それで・・・その次期“巫女になるべき者”の名前は?」
「え・・・。」
「聞いておられるのでしょう?そこまで、その代弁者と言う方が川西殿にお伝えされているのだから。名前も・・・。」
竜崎が冷やりとくぎを刺すかのように、川西に向かって問いかける。
皆の目が川西へと集まり、ざわめいていた部屋が静まり返った。
小さく咳払いをした川西は、辺りをぐるりと見る。
「彼は言っていました。その偉大なる方の名を・・・」
にんまりと笑った川西は、大きく手を広げてまるで崇拝するかのように目を閉じて言う。
「大魔導士である彼女の名は、マーラ。」
「んなわけあるかっ!」
「っ!」
大きな音を立てて、カーティルスが机を叩きつけて立ち上がる。
彼を押さえる様に雪は立ち上がり、ルヴァンも弟が川西に近づかないように腕を広げて遮った。
小首を傾げてカーティルスを見つめた川西は、歯を食いしばって怒りを露わにしている彼を見るしかない。
「そんなわけあるかっ!アイツは、前巫女だっ!奴はとっくに処刑されて、死んでんだっ!」
「・・・は?」
目の前で大声を上げて怒り狂うカーティルスが可笑しいのか、川西は彼の声に動じない。
「あぁ、聞いているさ。・・・代弁者は言っていたぞ。お前達のような傲慢な輩のせいで、彼女は惜しくも世界を作る前に処刑されてしまったと。」
「んなっ!」
蔑んだように笑われ、カーティルスは更に怒りを露わにする。
彼らの様子を見ていた市長は、ちらりと竜崎と目を合わせ彼に指示を出すような素振りを見せた。
竜崎は静かに部下と席を立つと、ゆっくりとその場から離れる。
「こちらの世界の武藤家と結託して、我が一族やマーラ様の復活を妨げているのだろう?それで、新しい偽の巫女を作り上げ、更に世界をたぶらかせようとしていると・・・」
唖然と聞いていたルヴァンの肩も静かに震えだし、彼が怒りに震えている事が周りからも見てわかる。
辺りはなだめるどころか、川西へと向ける視線が痛くなるばかりで、誰も止めようとしない。
皆が一同に彼の不可解でありながらも身勝手な発言に、少なからず怒りを覚えているのだろう。
「・・・おっさん・・・それ以上言うな・・・」
一向に止まる気配が無い川西に、カーティルスが声を押さえてぽつりとつぶやく。
しかし、逆に彼が怒っているのが面白いのか、川西は更に続ける。
「この武藤家のバカ娘も、魔の力をお前達から貰い受け、まるでさぞ強いと言わんばかりに市長に媚を売り、あわよくば市長の息子さんと仲良くして・・・」
「っ!だめっっ!」
雪の声が会議室に響くや否や、カーティルスのこぶしが川西へと向けて解き放たれた。
重く鈍い音を立てて、川西が椅子に倒れ込む。
「・・・若造。暴力を振るうてはならんぞ・・・。」
「っ・・・。」
唖然と椅子に倒れ込んだ川西の前で、竜崎がカーティルスのこぶしを握り締めて笑う。
音を立てて弾けるように辺りへと雷のようなモノが溢れるが、それらはすぐに勢いを無くす。
無理やり竜崎に腕を押し戻され、カーティルスはその場から離れた。
「ごめん・・・頭冷やしてくる・・・」
「・・・。」
カーティルスはぽつりとルヴァンに呟くと、彼に肩を叩かれて部屋を後にしてゆく。
不安げに彼の背中を見つめた雪は、ルヴァンに同じように肩を叩かれると、カーティルスの後を追って部屋を後にした。
「さすがに、大人げないですな。川西さん。」
「・・・し、しかし・・・これは・・・」
大きく手を払った竜崎は、部下に視線を送る。
控えていた警官たちが川西を取り囲み、時計へと目を向けた。
「川西さん。後のお話は署で伺いましょう。」
「なっ・・・。」
警官に腕を引かれ、川西は困惑した表情で市長へと向き直る。
助けてくれと言わんばかりに辺りを見るが、皆が彼から視線を逸らした。
ため息をついた市長は机の下へと手を入れ込むと、一通の茶封筒を机の上に置く。
中からは数枚の書類が見え、それらを彼は指で叩いた。
「警察の方で調べてもらっていたんだよ。いわゆる敵側と内通している者がいるという事を聞いてね。」
「てっ敵??」
「そうだ。まだ、わからんのか?」
思い切り警官に席から立ち上がらされ、川西は魔の抜けた声をあげた。
「君が出会ったという代弁者と言うモノは、我々の敵だよ。そして、今回の不可解な事件を起こした一連の連中をまとめているのが、マーラという女だ。」
「な・・・・・・。」
愕然と立ち尽くしか無い川西は、わなわなと身体を震わせ、ルヴァンや雪の父親へと視線を向ける。
「マーラは前巫女です。彼女は私利私欲の為に世界を混沌に陥れ、我々の住む世界を崩壊させました。・・・これは、向こうの世界の住民ならば誰しもいう事です。」
「そん・・・な・・・」
冷たく言い放ったルヴァンに合わせ、竜崎が市長へと一礼する。
「竜崎君が後で入ってきてもらったのは、この為でね。途中で話を変えさえ、写真を見せる事で、しっぽを出すのでは・・・という警察の情報課からの提案だ。」
辺りから安堵の声が聞こえ、それに混じって川西への罵声も少しばかり飛び交う。
「おかしいと思っていたのだよ。伝承の通りに悪しき者達が現れたというのにも関わらず、こちらの結界は全く作用しないも同然。バケモノ達は迷うことなく様々な主要個所に姿を現す・・・。向こう側の方がすべてに置いて優位な事ばかりが続くとすれば、嫌でもない通者がいるのではないかと考えるしかなかったのでね。」
「あ・・・。」
深いため息をついた市長は、目を泳がせて顔を見つめてくる川西をまるで憐れむような表情で見つめる。
川西は先ほどの勢いを全くなくしており、ぽつりぽつりと小さな声を発するだけだ。
「すまなかったな。敵を暴くためとはいえ、武藤家の方にも“誇り高き血族”の君にも。」
「・・・いえ。」
竜崎の言葉に、彼が“何者なのか”勘付いたルヴァンは、それ以上は問わないようにする。
ルヴァンの気遣いに感謝しつつ、竜崎は廃人のようにぽかんと佇んでいる川西を連れて、部下と共にその場を後にしようと歩き出した。
「川西殿。」
「・・・え?」
ルヴァンが自分の横を川西が通り過ぎる瞬間、彼を小声で呼び止める。
「次に、我が一族と武藤家を侮辱することがあれば・・・」
「・・・っ・・・。」
辺りに気の重くなるような気配が濃くなり、川西とルヴァンを包む。
「私は貴殿を地の底へ沈めるかもしれないので・・・お気をつけて。」
「ひっ・・・ぃ・・・」
川西はルヴァンの背後と地面を見つめて、小さな悲鳴をあげる。
周りの者達は気が付いていないのか、警官たちは倒れ込みそうになった川西を無理やり立たせ、竜崎の後を追うように部屋を出てゆく。
ルヴァンの背後や足元には、じんわりと気味の悪い目玉が幾つも見え、黒い霧の中からじっと川西を見つめていた。
――
先に会議室を出たカーティルスを追って、雪は役所の廊下を走りだす。
彼の姿を直ぐに探したが、辺りに見当たらない。
それほど部屋を出た時間は変わらないはずだったのだが、カーティルスの姿は見えなかった。
「どこ・・・かな?」
窓の外から外を見ればマスコミが幾つも見え、それに混じって一般人の姿もある。
あまり窓際を通らないように気を付けながら、雪はカーティルスの姿を探した。
「あ・・・。」
「・・・。」
階段を駆け上がり、しんと静まり返っている薄暗いフロアに出ると、廊下に置かれたソファの上で、うなだれる様に座っている彼を見つけた。
「・・・大丈夫?」
「・・・。」
恐る恐る近くにゆくと、雪はカーティルスの隣に座る。
下を向いているせいで彼の顔は見えないが、相当凹んでいるようにも感じた。
「あのね・・・カーくん。・・・ありがとう。」
「・・・・。」
「私があの人に馬鹿にされたから、カーくん。怒ったんだよね?・・・だから・・・」
何も言わないカーティルスを気にしつつ、雪は静かに喋る。
「だから・・・ありがとう。」
「ゆ・・・き・・・。」
「うん。」
恥ずかしくなりながらも、雪はカーティルスの手をそっと握る。
小さく弱弱しく答えた彼だったが、静かに顔を上げるとため息をついた。
「俺さ・・・自分の事は父上にも母上にも怒られるから、全然気にしないけど・・・兄者や雪や・・・おじさんや・・・皆が馬鹿にされるのは・・・我慢ならないんだ。」
「うん。カーくん。優しいから・・・。」
「そう・・・かな。兄者にも言われるよ。たまにだけど・・。」
「ふふっ。」
小さく笑った雪は、彼の手を強く握る。
その様子に不思議に思ったのか、カーティルスは雪の顔を見た。
「おまえ・・・泣いて・・・」
「・・・。」
「そう・・・だよな。」
「っ・・・。」
静かに声もなく泣きだした雪を、カーティルスは優しく彼女の背中を抱き寄せる。
「そうだよな・・・雪は大人と一緒に・・・俺達と行動しても・・・まだ、二十年も生きてないんだもんな・・・つらいよな・・・ごめん・・・。」
「・・・っ。」
なだめる様に呟いたカーティルスは、なるべく雪の顔を見ないように言葉をかける。
同時に、廊下を歩いてくる人物を見て静かに手招いた。
「お前が泣かせたのか?」
「なんでそうなるんだよっ・・・」
ため息をついたルヴァンは、苦笑いを浮かべて二人の前にしゃがみ込む。
ふてくされたカーティルスをよそに、ルヴァンは雪の頭を優しく撫でた。
「二人とも偉いぞ。よく頑張った。兄さんが褒めてやる。」
「ちょっ!俺もかよっ!」
「んっ・・・」
思い切り二人の頭をくしゃくしゃと撫でたルヴァンに、思わず雪は吹きだして笑ってしまう。
彼女の笑った声を聞いて、カーティルスとルヴァンはほっと胸をなでおろした。
「後はおじ様たちが何とかしてくれる。今日は家に帰って休め。とのことだ。」
「そっか。」
大きく背伸びをして立ち上がったカーティルスに合わせて、雪も顔を拭うと立ち上がる。
先に歩き出した二人を見て、雪はにっこりとほほ笑む。
「わっ!」
「んっ?」
勢い任せに二人の手を取った雪は、そのまま何をいう訳でもなく歩いてゆく。
そんな彼女を見て、ルヴァンとカーティルスは顔を見合わせるしかなかった。