白と黒の世界   作:水鏡 零

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36話

ざわつく広場の中央で、妖しげなフードをかぶった男が大きく手を広げて民衆に会釈をする。

「さぁさぁ、本日はかの妖精の王国から仕入れました一品のご紹介。」

興味本位で見ていた者達がその言葉で更にざわつき、離れてみていた者達も近くへと歩いてきた。

民衆が男の方へと行かぬよう、複数の男達が鎖を手に持ち、それらを柵のように広げている。

「・・・嫌な感じだね。前巫女が統治していた時には、あちらこちらでこのような悲惨な光景が広がったものさ。」

「あの・・・ハジさん・・・ハージェントさんが言っていたのを少し聞いたことがあります。」

「あぁ、竜の長が言っていたのか・・・。うん、彼らは一番被害をこうむったかもしれないね。」

周りの者達はるりとキノトの会話には興味を触れず、目の前にさらされている小さな少女を興味津々に見つめている。

身体に不似合いな大きな枷や首輪をつけられた少女は、ボロ布のような服を着て立っていた。

濃い赤い髪をぼさぼさとさせ、背中には蝶のような羽が生えている。

彼女は目の前に集まってきた人々をじっと見つめ、声さえもあげない。

「竜はね、とても貴重な種族なんだ。竜の里以外で群れを成しているのは見た事が無いし、何よりその力は有能な魔道士を数十人足しても適う力じゃない。」

「前巫女はね・・・。自分の私利私欲の為に、竜を捕まえては奴隷商人に売り、その利益を得ていたの。」

「・・・そんな・・・。」

ミチルはるりのかぶっているフードを更に深くかぶせ、キノトと共に野次馬の一番最前列へと進み出る。

途中、キノトの姿を見た者達がざわめき、彼を通す様に道を開けた。

「キノト様・・・。」

「状況は?」

白いフードを深々とかぶった男にキノトは近寄ると、小声で彼に話しかける。

近くには同じような服装をした者達が数名おり、目の前で少女を売りさばこうとしている妖しげな男を睨みつけていた。

「我が王は不在の為、団長には報告したのですが・・・到着するよりも早く事が始まってしまいまして・・・」

「あの商人の出所はわかりそうかな?」

「・・・・いえ。」

深い紫色のローブを着込んだ男は、傍らに立たされた少女の髪を乱暴につかむと、民衆の前へと引きずり出す。

あちらこちらから小さな悲鳴が上がりだすが、その声に男はひるむ事もなく逆に笑みを浮かべる。

「堂々と。聖職者の街で商売をするとはいい度胸だね・・・。」

「全くです。」

一言二言キノトは隣に立った男に呟くと、白いフードを深々と男はかぶり直して仲間の方へと歩いてゆく。

彼らは何やら話をすると、その場から姿を消していった。

「皆様はご存じないようですね?」

ケラケラと奇怪な笑い声をあげた男は、集まった民衆をぐるりと見渡すと大げさにため息をつく。

「非道な商人めっ!」

「早くこの地から立ち去れっ!」

るりの後方から男に罵声が響かせられるが、男はそれらも笑っている状態だ。

男の姿は明らかに異様な雰囲気を醸し出している。

「何が起こるかわからないね・・・。るりちゃんはミチルと絶対手を離さないように・・・ね。」

「は・・・はい。」

「とんだものに出くわしちゃったね・・・。」

「・・・。」

長杖を掴み直したキノトは民衆の前へと進み出ると、男と対になるように前へと進み出る。

ミチルはそれ以上前に出ずに、民衆に紛れるように父を見つめた。

キノトの姿を見た者達が口々に彼の名を呟き、安堵にも取れるため息や言葉がるりの頭上を飛び交う。

「おや?」

「君は何処から来たのだろうか?・・・ここが、聖職者の収める都市だと知っているのかな?」

「・・・そうだっ!」

「エルダ様のお納めになる都市で!何をしている!」

「出て行けっ!」

なるべく穏便に事を進めたいのか、キノトはいつもの朗らかな声で男へと言葉を投げかける。

だが、後方からは罵声が飛び交いつつあり、先にそちらを鎮めようと、キノトは腕を大きく上げて民衆を静まらせた。

ざわつきは全て無くなった訳ではないが、彼の動きを目にした者達は言葉を発するのを止めて、じっと二人を見ている。

「これはこれは魔導士様。えぇ、知っておりますよ。こちらが“愚かな聖職者”が支配する都市だという事など・・・」

「なっ!」

「貴様っ!我が王を侮辱するかっ!」

「おのれっっ!」

嘲笑いながら声を大にして言葉を発した謎の男に、キノトの周りから更に大きな罵声が飛び交う。

後方から押し合うように人の圧が加わり、るりとミチルは身を寄せ合うしかない。

「皆、静まるんだっ!」

「静まれっ!・・・奴が更に頭に乗るぞっ!」

「っっ!」

どこからともなく現れた白いローブを着込んだ者達がキノトの周りに集まりだすと、後方でざわめく民衆に声をかける。

「その鎖を降ろしてくれないか?」

「あの者と直接話をつけたい。」

「・・・。」

彼らは鎖を持って柵のように佇む男達を動かそうとするが、屈強な体格をした男達は動く気配が無い。

それどころか、どんなに言葉を投げかけても、顔さえも見ずにたた何もない空間を見据えているだけだ。

「それは傀儡でございます故に・・・話しかけても無駄ですよ?」

「傀儡だと・・・?」

「えぇそうです。私の尊敬してやまない偉大なるお方が作り上げた最高傑作ともいえる“柵”です。」

「なにを・・・お前は言っているんだ?」

薄気味悪くローブの下で笑った男に、思わず周りの者達は後ずさりをしてしまう。

「ミチル・・・ここから離れた方がいいかもしれない。るりちゃんを連れて広場から離れていなさい。」

「え・・・えぇ。」

「キノトさん?」

ぴくりと肩を震わせたキノトは、後方で見守っていたミチルとるりに声をかける。

気のせいか彼の表情は焦っているようにも見え、ミチルは父親に言葉の意味を問いかける事なく、るりの手を引いて民衆に紛れるように後方へと下がってゆく。

「あんた達も離れるのかい?・・・なんだか、見てられないからね・・・」

「恐ろしい奴だよ・・・。キノト様やエルダ様を見下すだなんて・・・」

「そ・・・そうですね。」

密集して集まっていた民衆たちは、その一部が後方へと流れだし、広場から去ろうと皆が動き出す。

前へと進んでゆく者のほとんどは白いローブを着込んだ者達ばかりで、ただの野次馬であった民衆はその異様な光景に耐えかねたのか、ざわつきながらも後方へと下がってゆく。

「おっと!これは困りますっ!まだ、お話は終わっていません!」

「っっ!」

「あぶないっ!」

「なっ!」

男の声が後方から高々と響いたや否や、るりの前を歩いていた者達が口々に悲鳴をあげだす。

気のせいか地響きを感じると、途端に前を歩いていた者達が一斉に足を止めた。

「なんだ・・・こいつら・・・」

「お、おい・・・バケモノじゃないかっ!」

「影の者だっ!下がれっ!さがれっ!」

「わっ!」

「るりちゃんっ!」

ざわめき悲鳴を帯びた人々の声が頭上を飛び交い、るりはミチルと共に引き返してきた人々を避けるように動く。

ミチルに腕を引かれて動くと、目の前に人々の姿が無くなり、広場の地面が前方に広がる。

「っっ!」

「どうして・・・。」

るりの手を引いて集まった民衆の塊から出たミチルは、彼女をかばうように身体を抱き寄せた。

目の前には禍々しい煙を上げて人々の方へと歩み寄ってくるバケモノの姿が見える。

しかし、その姿は今までに見た者とは違い、頭からはずれたフードの中からは到底人とは思えないような奇怪な顔面を晒していた。

腕は異様に長く、身体を支えるのがやっとなのか、片腕は地面をずって歩いている。

「お、お母さんっ!」

「そっちは危険だっ!こちらへっ!」

「ななな、なぜっ!聖水が降り注いだっていうのにっ!」

子供の泣き声や女性の悲鳴があちらこちらから響き、彼女達を落ち着かせるように白いローブを着込んだ者達が、民衆を先導して移動させだす。

バケモノがいない場所を見つけ、そちらへと腕を広げて一般人たちを逃がしだし、人々は彼らに合わせて怒涛のように流れてゆく。

気味の悪いローブを着た男の笑い声がるりの頭をかすめ、彼らを見ていた者達がバケモノに気がつくと、悲鳴をあげて人々は逃げて行った。

数分もしない間に民衆は逃げまとい、辺りが騒然とし出す。

「我々の商談を聞いていたのですから。皆さん勝手にお帰りになるのは失礼でございます。」

「そうか・・・。お前は“そちら側”の人間か・・・。」

「・・・・。」

逃げ惑う人々をぬうように、あちらこちらで魔法を放った閃光が走る。

白いローブを着込んだ者達が一般人をかばいつつ、蠢いているバケモノ達へと魔法を放っていた。

二手三手と彼らの攻撃がバケモノへと当たるが、早々たやすく敵は倒れないらしく、皆が苦戦を強いられている。

「私も・・・なんとかしないと・・・」

「駄目よ。るりちゃんがここで力を使ったら、もっと大変な事になるわ。」

「で、でも・・・。」

「今は耐えて。我慢するの。」

「・・・・。」

頭を覆うフードを下げようとしたるりを、ミチルは抑え込むようにその手を払う。

不安げにミチルを見つめたるりは、ミチル自身も同じような表情で辺りを見ている事に気がついた。

その場に立っていれば、逃げ惑う人々に当たってしまうため、ミチルはるりの手を握りしめると、キノトの方へと戻ってくる。

相も変わらず、男の前では鎖が柵となってはばかり、彼へと近づくことが許されない。

「この妖精は大変高価です。もしも、お買い上げいただければ、この場から我々は退散いたしましょう。」

「そ、そんな・・・我々に汚れた商売を成立させろというのかっ!」

「汚れた?・・・はて?」

キノトの傍らに立っていた男性が、手に持った杖を男へと向けて罵声を発する。

だが、気味の悪いローブを揺らした目の前の男は、歯を見せて笑い出す。

「我らが偉大なるマーラ様のお考えになった聖なる商売。使われないゴミを有効活用するための素晴らしいご活動ですよ?それを汚れたとは・・・やはり、マーラ様に仇名した聖職者を崇拝する者共は、頭がいかれている。」

「言いやがって・・・。」

「お。おのれ・・・。」

今にでも食ってかかりそうな彼らを制止させ、キノトはまた一歩と男の方へと足を進める。

身体を柵となっている鎖のすれすれまで近づくと、彼はおもむろに長杖を鎖へと向けた。

「なるほど・・・。」

「っ。」

重い音がして、キノトの杖は弾かれ、鎖を禍々しい閃光が包む。

何とも言い難い気分の悪くなるようなモノをるりは感じ取り、思わずミチルの手を強く握ってしまう。

「大丈夫?・・・るりちゃん。」

「・・・なんだろう・・・。あの鎖から、凄く嫌な気を感じる。」

「恐らくは、禁忌を犯した呪術でしょうね。」

「禁忌?」

白いローブを震わせた青年が、るりの方をちらりと見ると呟く。

「我々も感じております。あの鎖・・・そしてそれを持っている謎の傀儡と言われた生物・・・あれらからは、触れてはならない禁忌の呪術を発動させた痕跡があります。」

「・・・。だから、父様も迂闊に出られないのね。」

「そうです・・・ね。」

ミチルの言葉に少し驚いたのか、男はまじまじとるりとミチルと見つめると、仲間の方へと駆けてゆく。

彼らはミチル達の後方で蠢いていたバケモノへと走り、それらを片付けるために攻撃を仕掛けだした。

「つまり、我々がその子を購入すれば、マーラ達にある程度の金銭収入が増え、今後の活動に更なる飛躍が期待される・・・ってことでよいのだろうか?」

「おぉ。お話が早くて助かります。」

穏やかな口調で話すキノトは、にこやかにほほ笑んだ得体のしれない男を見てため息をつく。

近くでは彼らの交渉を止めさせるように罵声が飛び交い出した。

口車に乗せられてしまう。危険です。お止め下さい。と言った言葉が縦横無尽に飛び交い、更にそれを覆うように人々の悲鳴が響く。

ミチルがいなければ、るり自身もその場から逃げ出したくなるような地獄のような光景に、彼女は頭を左右に振るしかない。

意を決したように不気味に笑っている男の方へと視線を移すと、乱暴に髪を掴まれた少女の姿が視界に入った。

ぼんやりとした表情で、彼女は何処を見ているのか分からない顔をしている。

「実に面白い交渉だね。・・・でも。」

「ん・・・?」

ふっと微笑んだキノトは、瞳を閉じて深呼吸をする。

辺りの空気が急に冷たくなり、ぞわりと背筋を凍らせるような感覚を、瞬時にしてるりは覚えた。

思わず、キノトの周りに立っていた白いローブを着た者達が、後ずさりをし出すほどである。

「父様がお怒りみたい・・・。怒ると怖いのよ。父様って。」

「そ、そう・・・なんだ・・・。」

ため息をついたミチルは、キノトから発せられる異様な雰囲気に動じていないのか、困ったような呆れたようにも見える表情をしている。

唖然としたるりは、彼女の隣でおずおずとキノトを見つめた。

「そんな事を誰が了承すると思う?・・・居る訳がなかろう・・・?」

「っっひ!」

低く唸るように呟いたキノトに、今までひょうひょうと笑っていた男の表情が一瞬にして凍りつき、そのまま尻餅をついてしまう。

手を離された蝶の羽を生やした少女は、その場に倒れ込み動かなくなる。

「立ち去れ・・・この愚か者が・・・。まぁ、その妖精は置いてゆくのだぞ・・・。もし、それが嫌だというのであれば・・・・」

「っっきゃぁ!」

「わぁぁっ!」

キノトが長杖を高々と掲げると、あちらこちらで悲鳴と驚きの声が響く。

雷鳴を帯びてバケモノの頭上に魔法陣が現れ、見る間に雷のようなモノに身を焼かれて姿を消し出した。

頭上の魔法陣を壊そうと手を伸ばそうとしたバケモノもいるが、動くよりも早くに雷鳴がとどろき、黒い煙を上げて身を焦がされている。

「お前の連れてきたモノのような末路を辿るだろうね。」

「っ・・・・っ・・・・」

戦意喪失したのか、妖しげなローブを着た男は、ずるずると尻餅をついたまま後方へと下がってゆく。

まるで目の前で微笑んでいるキノトが恐ろしいモノに見えるのか、彼はすがるように自分の荷物を掴んでまとめだす。

「か、帰らせて頂きます。今日は・・・今日だけは・・・ね!」

「もう、二度とこの街には来ないでくれ。」

「っっっ!」

声にもならない悲鳴をあげた男は手に持った荷物を抱えるように、地面から漆黒をまとってゆく。

鎖を掴んでいた得体のしれない男達も同じように漆黒へと吸い込まれてゆき、数秒の間に地面へと消えて行った。

「キノト様っ!」

「お怪我はっ!」

「あぁ。僕はなんともないけどね。」

杖を抱えて駆け寄ってきた白いローブを着た者達は、姿を消した男達が立っていた場所を行ったり来たりとしている。

ため息交じりに長杖を地面でキノトがつつくと、残っていたバケモノ達が紙のように強風で身を引きちぎられた。

辺りは未だ騒然となっているが、バケモノや怪しげな男達の姿が無くなった事もあり、民衆はその場で小さな声を出しつつ安堵の表情を浮かべだしている。

「想定外だったのかもしれないね。本当は、エルダの家臣か何かをこちらに来させて、民衆の命と引き換えに金銭を要求したかったのかもしれない・・・んだけど、僕はどうやらエルダの家臣か何かだと思われていたようだ。」

「そう・・・でした・・・か。」

残された錆びた檻や、持ち帰り忘れたような洋書などを指さし、キノトは白いローブを着た者達に指示を出す。

彼らは残された物へと近寄り、白い魔法陣を浮かび上がらせるとそれらに向かって魔法を放ちだした。

「妖しげな罠とかはなさそうだね。・・・それから・・・。」

ゆっくりとミチル達がいる方へと歩み寄ったキノトは、彼女たちの間でぽつんと立っている少女へと向き直る。

「君は・・・本当に妖精のようだね?」

「・・・うん。」

重々しい枷と首輪をつけられたままの少女は、キノトの言葉に答えつつも、何故かじっとるりの方を見ている。

るりは小首を傾げ、彼女の頭をそっと撫でた。

「もう、大丈夫だよ。・・・私、何もしてあげられなかったけれど・・・怖い人はもういないから。」

「・・・うん。」

少女はるりに頭を撫でられたのが嬉しいのか、羽を少し動かす。

蝶のような鮮やかな黒と赤で彩られた羽は、日の光に当てられてキラキラと輝いている。

「さて。その枷を外してあげないと・・・いけないんだけれど。」

「・・・貴方じゃ取れない。貴女も。」

「私や父様ではできない?」

「・・・・うん。」

少女の言葉に不思議そうに首をかしげたミチルは、両腕を自分の方へと向けた少女の手首に自分の手を向けてみる。

ミチルの手に魔法陣が浮かび、カチカチと枷が音を立てだした。

しかし、音を立てるだけで外れる様子はみじんもない。

「悪い女がつけたから・・・あいつ・・・取れないって言っていた。」

「・・・マーラの事かもしれないね。」

「やっぱり、生きているのね。」

「うん・・・。死んでいるけど、生きている、嫌な女。」

「・・・?」

少女の枷から手を離したミチルと変わるように、キノトが次に枷の上に長杖を向ける。

が、すぐに音を立てて弾かれてしまった。

「私なら・・・できるかな?」

「・・・できる。」

「おや、即答だね。」

ミチルの方へと顔を向けて言葉を発したるりだったが、ふいに少女から返事が出た事に驚いてしまう。

自分がかぶっているローブのおかげで、姿はカモフラージュされていると言われていたが、何やら目の前に立っている少女には、あまり関係が無いようである。

るりは、そっと彼女の手首にはめられた枷へと手を付けると、深呼吸をする。

「少しずつ、少しずつ力を放出させて。」

「は・・・はい・・・。」

るりを落ち着かせるためか、ミチルが彼女の肩を優しく叩く。

手先がじわりと温かみを帯びてくると、ひび割れる音がし始める。

「っわっ・・・」

「できた。」

鉄のような素材でできているはずの枷が大きくひび割れ、音を立てて地面に崩壊して崩れ落ちる。

同時に、首に巻かれていた首輪も壊れ落ち、少女につけられていた枷が一つも無くなった。

るりの指先からは小さな白と黒の粒が溢れており、指から落ちた粒は、地面へと雨粒のように落ちている。

「赤くなってる・・・痛かったよね?」

「・・・。」

手首が腫れた少女の手をゆっくりと持ったるりは、柔らかに微笑む。

しかし、少女は小さく首を横に振った。

「慣れてる・・・。妖精の国・・・いつも痛かったから・・・平気。」

「え・・・?」

ぼんやりとした表情で途切れ途切れに話す少女に、るりは困惑するしかない。

少女はるりに握られた手をじっと見つめており、時折彼女の手の中で小さな手をもぞもぞと動かしていた。

るりの指先から溢れていた光の粒は収まり、地面に落ちた粒も姿を消している。

「落ち着いたら、妖精の国に返してあげないといけないね。」

「やだ・・・帰らない。」

「いや、でも・・・仲間が一人欠けただけで、君たちの国は大騒ぎになるだろう?」

「・・・私が・・・いなくても・・・あの国は・・・騒がない・・・」

「・・・・?」

キノトの言葉を全て否定した少女は、首を横に振って彼を見上げる。

少しばかり目を細めたキノトは、少女の目をじっと見つめると、何かに気がついたのか瞬きを何度もした。

「そうか・・・君は・・・だから・・・国から出ても騒がれないし、何よりマーラに見つけられてしまったんだね・・・」

「・・・わかった?」

「あぁ。わかってしまったよ。」

苦笑いを浮かべたキノトは、不思議そうに見つめるミチルとるりを交互に見ると、辺りを見回した。

所々に白いローブを着た者達が集まっており、辺りを警戒したように歩いている。

騒いでいた民衆たちは殆ど姿を消し、店の入り口は閉ざされている所が多かった。

「お買い物はまた、明日にした方がいいみたいね。」

「そう・・・だねぇ。今日は難しそうだ。」

ため息をついたミチルは、キノトと顔を見合わせるとるりと少女へと視線を向ける。

るりはただじっと自分の手を握っている少女を見つめた。

赤い瞳がるりを見つめ、何か言いたそうにしている。

「一緒に・・・来る?」

自分でも思ってもいなかった言葉を口に出したるりに、少女の目が少しだけ見開いた。

そして、ゆっくりと頭を縦に振る。

「じゃぁ、今日は帰りましょう。母様や兄様たちにも報告しないと。」

「そうだね。先のバケモノの件も、関係する人に話をしないとね。」

ミチルは少女の頭を静かに撫でると、彼女に向かって微笑んだ。

不思議そうにミチルを見つめた少女は、何をいう訳でもなくるりに抱き着いてくる。

「そういえば・・・お名前は?・・・私の名前はるり。」

「李春・・・友達が作ってくれた名前。李春。」

ぎゅうと力を入れてるりに抱き着く李春に思わずるりは笑ってしまう。

「凄い懐かれようだね。るりちゃん。」

「そ、そうですね。」

るりは李春を抱えると、苦笑いを浮かべながらキノトに答える。

「見つけた・・・ウィリー・・・見つけたよ・・・」

「・・・?」

るりの首に腕をまわした李春は、にっこりとほほ笑むと、彼女にすがるように抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

息が詰まりそうな程の威圧感に、カーティルスは思わず傍らに座っている雪へと視線を移してしまう。

目の前に座っている人物に、彼は恐れおののいていた。

「鍛錬は怠っていないのだろうな?」

「うわっ、は、はいっ!」

「っっ・・・。」

裏返ったような声をあげたカーティルスに、雪は咳払いをするように顔を背ける。

ルヴァンも同様にむせ返ったように咳をすると、彼から視線を逸らした。

「ち、父上・・・来るなら、言ってください。びっくりしました。」

「・・・何故、言わねばならない?」

「いえ・・・その・・・心の準備・・・必要で・・・」

睨みつけるような視線をエルダから浴びせられ、カーティルスは冷や汗を流しながら言葉を発する。

いつものように部屋でくつろいでいた所に、突如としてふすまを開けて父親が出現したという事実は、彼にとって何にでもない恐怖だった。

何を怒られるのだろうか。と頭の中で色々な言い訳を用意しているが、一向に説教は始まっていない。

「父上。カーティルスの言葉も一理あります。父上が、こちらの世界に来るというのは、私も驚いているのです。」

「そそそそそ、兄者の言うとぉーりっ!父上がどうして、城を出てこここちらに来ているのですかっ!」

「・・・お前は落ち着け。カーティルス。」

「は・・・い。」

上ずった声で話をするカーティルスに、ルヴァンはため息をついて彼を咎める。

隣では雪が顔を背けて、クスクスと笑っていた。

「そうだな。お前達には話をしておいた方がよいだろう。」

真面目な表情を崩さないエルダは、赤い目を細めて息子たちの顔を交互に見つめる。

落ち着いた雪も、彼らと同様にエルダの方へと視線を向けた。

「まず。端的に言おう。・・・知っているかもしれないが、マーラが復活した。・・・それが、一番の理由だ。」

「え・・・・。」

「は・・・?」

カーティルスとルヴァンは驚き、エルダに言葉を投げかける事さえもできない。

「何だ?聞かされていなかったのか?」

「え・・・だ、だって・・・」

今まで緊張しきっていたカーティルスの顔が一変し、恐怖にも似たような表情へとなる。

「や、奴は処刑されたではありませんか?・・・我々の目の前で・・・首を落されたはずでは・・・。」

「あぁ。そうだ。主帝は病で無くなり、マーラは我々一族によって処刑された・・・。そう、そのはずである。」

「そ、そんな。」

顔を見合わせたルヴァンとカーティルスは、淡々と喋る父親を唖然と見つめるしかない。

雪はただじっと黙り、彼らを見守ることにした。

エルダはテーブルの上に魔法陣を出現させ、そこに幾つかの物を出現させる。

用紙や手紙、そして宝珠が音を立ててテーブルの上に現れた。

「こちらの現世で起こった事であるが、マーラの残党が起こしていることであろう・・・と我々は考えて行動をしていた。・・・しかし、それは残党と言えど、本人が関わっている事だと、判明した。」

「・・・」

「見るがいい・・・」

「えっ・・・」

テーブルに置かれた宝珠を指でつついたエルダは、それをふわりと浮かび上がらせる。

ぼんやりとした明かりが現れ、そして一つの形を成した。

映像のように流れたそれは、どこかの場所を示しているようである。

「墓荒らし?」

「正確には、墓から奴の亡骸を掘り起こしているのだ。」

「・・・。」

真っ黒なローブを着込んだ者達が一つの墓へと駆け寄り、一斉に何らかの魔法を発動させている。

地面の土が掘り起こされると、中から一つの棺が取りだされた。

ローブを着た者達は、完全に棺が地面の外へと出てくるのを見ると、うなずき合ってその場をかけてゆく。

掘り起こされた棺はそのまま宙を漂い、ローブを着た者達を追うように映像から消えて行った。

まもなくして、その場に司祭のような者が映り込み、その場で尻餅をついて後ずさりをしてゆく。

彼は何かを叫ぶと、その場を這いずるように駆けて行った。

映像はそこで終わりを迎え、宝珠は音を立ててテーブルへと落ちてゆく。

「マーラの亡骸は、一部の者にしかどこに埋葬したか知られていないはずだったのだが、どうやら何らかの情報がもれたらしい。」

「残党が棺ごと持ち去った・・・ということですか。」

「そうだ。奴らは、死霊魔術や禁忌の魔術に長けている。死体を丸ごと持っていれば、復活させることなど出来るのかもしれないな。」

「・・・・。」

テーブルに無造作に置かれた手紙を拾い、ルヴァンは封筒から手紙をおもむろに取りだす。

殴り書きのような文章は荒々しく、ペンのインクはかすれていた。

「復活したマーラを目撃した最初の情報だ。・・・それを書いた者は未だに行方が分からないらしい。」

「目撃してしまった事を知られたのかもしれないですね。」

「恐らくな・・・助かっていないか・・・あるいはどこかに幽閉されているかはわからん。」

仲間に一刻も早く知らせなければと、書いた本人は思ったのだろうか。文字は殴り書いたようになっているが、要点は押さえている。

住所のような物が書き足されており、近寄るな。と大きく最後に書かれていた。

「それからだ、各地で残党が活動を活発にし始め、今も手におえない程になりだしたところもある。」

「こっちの世界が落ち着いたと思えば・・・今度はそっちで・・・」

こぶしを握りしめたカーティルスは、苦々しげに手紙を睨む。

テーブルに撒くように置かれた手紙の数々は、どれも宛名と書いた人物は異なっているが、内容は同じようなモノである。

何処の都市で、どのような人物を見たか。そればかりが書かれていた。

そして何よりも、皆が同じように気を付けろと仲間を心配している。

「直接的な死者としての被害は、巫女として選抜された少女たちだけが今の所の被害者だ。」

「っっ?」

「黒の女神に導かれた各地の少女たちが、皆・・・亡骸や無残な姿で発見されている。」

「そん・・・な・・・。」

冷やりとした汗が雪の背中を伝い、彼女は思わず傍らに立てた自分の刀の鞘を強く握りしめた。

脳裏に映ったるりの姿を思いだしてしまい、嫌な感覚が全身を包む。

「黒の女神・・・つまりは、まだ、白の女神に選ばれた少女は生きている・・・のですよね?」

「あぁ。彼女については、早くからこちらで身の安全を確保できた。」

「よ、よかった・・・。」

気を利かせてルヴァンが聞いてくれたのか、彼は雪の方をちらりと見ると頷いた。

雪は大きくため息をつくと、ルヴァンに微笑む。

「そうだったな。雪の友人であったな。彼女は。」

「あ。は、はい。」

ふと表情を緩ませたエルダは、雪にぽつりと呟く。

雪はぴくりと肩をしならせると、エルダに向って大きく頷いた。

一通りエルダの持ち込んだ手紙や用紙へと目を通したルヴァンは腕を組むと難しそうな表情を浮かべる。

カーティルスは何かを考えるかのように、じっと自分の手を見つめたままだった。

「昨日レヴァンティアからもらった情報では、しばらく我々の収める領地で過ごされると聞いてるが。」

「そうですか。それなら・・・安心ですね。」

「そうだ・・・な。」

頷いたエルダは、また真剣な表情へと戻り、三人をぐるりと見つめた。

「こちらの世界も安定していると思っているだろうが・・・状況は刻一刻と最悪な方へと向いている。」

「それは・・・。」

エルダはテーブルの上に置かれた手紙などを魔法で消し去ると、重々しく言葉を発する。

「マーラはどうやら、こちらの・・・現世に身を隠しているようだ。」

「っっな!」

「・・・・。」

音を立てて椅子から立ち上がったカーティルスとルヴァンに、エルダは片腕を上げて静まらせる。

二人は困惑した表情のまま、うろたえつつも席に座り直す。

「私が此処に来る前に寄った場所で、マーラは目撃されている。他の者達が言うには、つい昨日も市内で同じような姿をした者を目撃した者達がいるとのことだ。幸い・・・こちらではまだ負傷者や行方不明者は出ていないようだがな。」

「向こうの世界が安定し始めるから・・・だったら、手が届いていない今のうちに、こちらの現世を・・・?」

「その可能性は高い。」

「あの野郎・・・。」

苦々しげにテーブルを睨みつけたカーティルスは、わなわなと怒りに震えている。

ルヴァンはそんな弟を横目に、目を細めて父親をじっと見ていた。

「どのような事であれ、マーラに接触をしてしまった場合、戦わずに逃げ延びろ。」

「な、何故ですかっ?」

「・・・カーティルスっ。」

エルダの言葉に相当驚いたのか、カーティルスは目を見開いて彼を見る。

食って掛かりそうな程の勢いに驚き、思わずルヴァンが彼の名前を呼びとめた。

「奴は黒の女神に選ばれた巫女になるかもしれなかった少女たちの力を、ほぼ全て奪い取っているに違いない。・・・亡骸や無残な形で見つかった彼女たちには少しも力が残っておらず、女神から渡されていた“選抜用の鍵”も一つも見つかっていないのだ・・・。その意味が示すのは最悪なパターンだけ。・・・奴がどんなに巫女の力が無くなっていたとしても、危険に値するのは目に見えて分かる。」

「・・・。さすがに、それらの力を持っているとすれば、我々に勝ち目はないに等しい。・・・ですね。」

「くっ!」

悔しげに言葉を吐いたカーティルスは、何をいう訳でもなくその場から離れて行ってしまう。

ルヴァンが彼を止めようと声をかけようとするが、エルダが手を上げてそれを止めさせた。

静かに部屋から出て行ったカーティルスは、そのまま姿を消してしまう。

不安げにじっと彼の背中を見つめた雪は、どうしたものかとエルダへと振り返った。

「・・・雪、お前は特に注意した方がいい。」

「わ、私ですか?」

「そうだ。」

思わぬ言葉がエルダから発せられ、雪は驚いてしまう。

「マーラは白の女神に選ばれた少女を知る者達の前に現れている。」

「っ!」

「つい先程も、先日の件で関わった警察の前に現れている。・・・今はまだ確証を得ることができそうな者達には近づいていないが、今後どのような手段で雪や学友たちを探し当てるかわからない。」

ふっと息を吐いたエルダは、不安げな表情を向ける雪から視線を逸らし、ルヴァンへと向き直った。

「奴がどのような手段で来るかはわからん。・・・可能な限り、カーティルスも含めて単独で行動することは控えるのだ。・・・身内が危険にさらされるのはもう見たくもない。」

「・・・父上。」

大きくため息をついたエルダは、片腕で額を押さえるとうなだれるように頭を下げる。

彼なりに張り詰めている事が大きいと感じたルヴァンは、父親の姿を困惑した表情で見るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

「あー。この子知ってる。」

手渡された写真を見て、制服姿の少女が友人と顔を見合わせて頷き合う。

「確かさぁ。隣のクラスの子だよね。転校生の。」

「そうそう!ちょっと物静かそうな子だった。」

「ふぅん。」

少女は友人と話しながら、目の前に立っている女性へと写真を返す。

髪をかき上げた女性は、真っ赤な鞄に写真を仕舞い込むと、鞄と同じ色のように赤い口で微笑む。

「で。この子を探してるんですよねー?」

「そうなの。なかなか見つからなくて困ってるの。」

「あー・・・。」

苦笑いを浮かべた少女たちに、女性は小首をかしげる。

少女は友達と顔を見合わせると、言葉を詰まらせた。

「なんか、聞いた話だと、行方不明らしいですよ。」

「行方不明・・・?」

「そうそう。この前の何かヤバイやつ、バケモノみたいなのが出た時に、行方不明になったんだって、言ってたね。」

「うんうん。」

目を細めた女性は、少女たちの顔を交互に見る。

嘘をついている訳ではないと思ったのか、女性はため息をつくと先と同じように口元に笑みを戻した。

少しばかり表情を曇らせているが、どうやら目の前にいる少女たちには気がつかれていないようである。

「あ。でも、私達は別のクラスだから・・・よく知らないけど。ほら、同じクラスの子なら知ってるんじゃない?」

「なんだっけ。ほら。仲良さそうにしてる子がいたよね。」

「あら・・・?」

思わぬ話にぴくりと動いた女性は、少女たちの顔を覗きこむように微笑みを浮かべる。

彼女たちは顔を見合わせると、小さく唸って思い当たった人物の名前を口に出した。

「武藤雪さん!」

「っそうだ。あの、なんかお偉い家系の女の子の、武藤さん!」

「武藤・・・雪。」

少女たちの呟いた名前を復唱した女性は、心底可笑しそうに笑いだす。

「ありがとう。とってもいい事を聞いたわ。お邪魔してごめんなさいね。」

「え・・・いえ!」

「会えるといいですね。」

ひらひらと手を振ってその場をいきなり去りだした女性に、あっけに捕らわれながらも少女たちは挨拶をする。

女性は振り返る事無く路地へと曲がると、含み笑いを抑えきれず、その場で肩を揺らして笑い出した。

「あぁっははははっ!見つけちゃったっ!見つけちゃったぁ!」

狂ったように笑った女性は、髪を思い切り振り上げると、そのまま風をきってビルの屋上へと飛び去る。

ヒールの音を立てて高層ビルの屋上へと降り立った女性は、銀色の髪を風でなびかせながら辺りをぐるりと見つめた。

赤い口紅が塗られた唇をひしゃげて笑い、手に持った鞄を宙へと振り上げる。

同時に鞄は形を変えると、禍々しい紫と赤で構成された鎌へと変貌した。

「マーラ様・・・。」

彼女の後方に渦を成して漆黒が形成されると、中から気味の悪い仮面を着けた男が現れた。

「ねぇ、トルヴァ?私見つけちゃったの。」

「おやおや。お探しの獲物ですか?」

「うふふふふふ!あははっ!」

声をあげて笑ったマーラは、ヒールの音を響かせてトルヴァと呼ばれた男へと振り返る。

「えぇ。そこにたどり着く近道よ。・・・現世の奴らは私の姿を知らない。ちょっと人間のふりをすれば、簡単に情報を出してくる・・・愚かな連中だこと。あぁ、やっぱり此処は居心地がいいわぁねぇ・・・早く私の物にしなくちゃ。」

「おっしゃる通りでございますね。」

早口でしゃべり続けたマーラは、ため息をつくと鎌を地面に叩きつける。

重々しい音を立てて地面が揺れると、紫の光をまき散らせて歪な魔法陣が出現した。

中からトルヴァと同じ仮面を着けた者が現れ、マーラの前で跪く。

「お前にお仕事をあげるわ。とってもとっても対峙なお仕事よ?」

「・・・はい。」

仮面の下でくぐもった声をあげた男は、マーラの前で頭をたれた。

歯を見せて笑ったマーラは、ヒールの音を響かせるようにその場を行ったり来たりとし始める。

「手始めに、この地で情報を集めてちょうだい。どうやったら、私の前に近道を教えてくれる子を連れてこれるか考えてね。」

「かしこまりました。」

「そうそう。近道を教えてくれるこの名前を言っていなかったわ。」

重い音を立てて地面へと鎌を突き立てたマーラは、男の前で微笑む。

「武藤・・・雪・・・。その子と会えるように貴方は動くのよ?・・・殺しちゃ駄目よ。あぁまぁ、死ななければ貴方がやりやすい方法を取ってくれればいいけれど。」

「・・・承知いたしました。」

留め具を外した男は、着込んでいたローブを脱ぐと、顔を隠していた仮面も同じように外し出す。

「そうね。現世だからねぇ。お前のその姿なら、絶対怪しまれないわ。」

歯を見せて笑ったマーラの前で、男は再度彼女の前で首を垂れる。

「お任せください。この光丘彼方・・・。マーラ様のご命令を遂行させてみせます。」

「頼んだわよ。彼方。」

「・・・はい。」

黒い髪を風でなびかせた彼方は、闇に溶け込むように彼女の前から姿を消していった。

 

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