白と黒の世界   作:水鏡 零

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46話

夕焼けに照らされながら、流星達は雪を先頭に走り続けていた。

「奈美ちゃんや光士くんは、あまり近づかない方がっ!」

「で、でも!お父さんがいるって聞いたからっ!」

「俺達だって、避難誘導くらいはできるさっ!」

黒煙の立ち昇る方向から走ってくる人々を避け、雪は軽く地面を蹴り上げるとビルの上へと飛び上がる。

彼女は何かを見つけたのか、見る間に走るスピードをあげてゆき、彼女の姿はビルの屋上から見えなくなった。

「ね、ねぇ?こ、この方角って雪ちゃん家の方じゃ・・・」

「あぁそうだね。このまま真っ直ぐ走れば、武藤家のある山の方だよ・・・」

悲鳴をあげて逃げてゆく人々に押し出されるように、流星や奈美達は路地へと入ってゆく。

そこには人の姿も少なく、しきりにどこかへと連絡を取ろうとしている人の姿があるだけだ。

彼らは手に持った携帯を苦々しげに見つめ何かに絶望したような表情を浮かべていた。

後方では声をあげて逃げ惑う人々の姿がある。

肩で息をしている奈美と光士は、息も上がっていない翼を見た。

よく見れば、辺りで携帯を持ち佇んでいた人の姿は無くなっている。

どうやら、逃げてゆく人々の方へと彼らは移動していったようだ。

「正面から行くのは難しそうだね。」

「ここの路地裏から、たぶん行ける・・・はずだ。」

「・・・。」

逃げ惑う人々の間を警官たちが走り、怒声をあげて一般人たちを誘導している。

救急車や緊急車両が音を立てて通り過ぎてゆくが、人の波に圧倒されているのか、車両から発せられるサイレンの音は遠くなることが無い。

奈美は携帯へと手を伸ばすが、すぐに頭を小さく左右に振ると、先に歩き出した流星の後を追って足を動かし出した。

その後ろを、汗を拭って光士がついて行く。

「翼。お前は先に行ってくれていいから。」

「ごめん。じゃぁ、お言葉に甘えて・・・。」

「あぁ。」

流星はしきりに空を見上げていた翼の肩を叩く。

彼に肩を叩かれた翼はくるりと振り返ると、奈美達に手を振って地面を軽く蹴り上げた。

背中に真っ黒な羽を生やした彼は、小さな光を手に出現させ現れた長杖を抱えると、突風を巻き上げて空高く飛び上がる。

行く方向を定めたのか、翼はそちらの方へと飛び急いで行った。

 

 

学校が終わり、帰路へとついていた奈美達の前に、武藤家の道場に通っている者が突然現れると、事態は一変した。

彼が言うには、雪の父親と司の二人が強敵と遭遇しており、辺りはバケモノがはびこりだしているという話だ。

先を急ぐように駆けだした雪を追って、流星達も彼女の後を追ってここまで来た次第である。

道場の者達も救援に向かっているとのことだったが、どうやらそこまでの道のりで、敵に足止めを食らっているらしい。

流星達も此処まで来るまで、逃げ惑う人々に前方を塞がれてしまう事が多く、かなりの時間を要している状態である。

 

 

「危ない状況だったら、お前らはホントに逃げろよ。」

「わ、わかってる・・・でも・・・。」

「大丈夫だよ。雪ちゃんや、翼がいるんだし・・・。」

自分の父親が敵に襲われていると聞いた奈美は、先から表情がさえない。

先日から色々な件で父親が忙しくしている。という事は、流星や光士も何度も聞いているが、まさかこのような事態になるとはお互いに思っておらず、二人も少し困惑していた。

「雪ちゃんも言っていたけれど、本当に何も感じなかった。この前のように何かを感じ取ることもできなかったし・・・敵の出現も・・・」

「それはさ、たぶん市内全土がそうだったんじゃないか。」

「・・・かもな。」

無言になった奈美を気にしつつ、三人はビルの路地を急ぎ足で進む。

途中、広い通りへと出ると、そこには多くの緊急車両で埋まっていた。

「・・・怪我人がいる。」

「そんな。この前はこんな事なかったのに・・・。」

救急車へと運ばれてゆく警官は、体中に傷を負っており意識が無いようである。

その後方から現れた警官は腕を押さえ、現場へと到着した者達へと何やら早口で説明をしていた。

彼らが見守る間にも、更に車両は増えてゆく。

「一般の方は通れません。とにかくこちらをっ!」

「なんなんだ・・・あの・・・バケモノ・・・」

「あの男の人もバケモノなのかしら・・・。」

広い道路を警官たちに先導されながら、人々は黒煙の上がっていない方へと誘導されてゆく。

「警官たちと対立しているのは何者なんだ?」

「若い男の人みたいだったけれど・・・。」

途中、流星達の前を通った人々の言葉が、妙に光士の頭にこびりつく。

「どうしたの?」

「えっ・・・いや・・・。なんでもない。」

急に胸騒ぎを覚えた光士は、奈美の言葉に反応するのが遅れ、彼は冴えない表情で歯切れ悪く答えた。

しかし、奈美自身も余裕がないのか、光士の言葉に小首をかしげることもない。

「いったいどうして・・・」

「だいたい、なんでバケモノが?」

皆が同じ方を向き、ビルの間から見える黒煙や火柱を見て呟いている。

誘導されている人々に紛れながら、流星達は黒煙の立ち昇る方へと駆けだした。

後から止めようとするような声が聞こえたが、三人は振り返らない。

「お、おい。君たちっ・・・この先は・・・」

「え・・・えぇっとっ。」

ふいに目の前に人が立ちふさがり、流星は光士と奈美へと振り返る。

眼鏡をかけた青年は、片手に無線機を持ちながら先へ進むための道を塞ぐように立ちはだかった。

「あれ・・・お兄さん。確か・・・えっと・・・武田さん。」

「・・・ひ、飛勇部長の娘さんっ!」

「えっ!」

「な、奈美ちゃんじゃないかっ!」

奈美が流星の前へと進み出ると、辺りから警官たちが集まりだす。

目を丸くした武田は後方へと押しやられ、慌てふためく警官たちが奈美の方へと駆け寄ってきた。

「あの・・・お父さんは?」

「すまない・・・俺達は飛勇部長に助けられて・・・」

「まだ、あっちに・・・。」

「・・・。」

警官たちが黒煙の立ち上る方を指さし、奈美へと声をかけだす。

「とてもではないが、この先に君たちを通すことはできない・・・」

「酷い状況なんですか?」

「そ・・それは・・・。」

鳴りやまない無線機を片手に武田は思わず目をそらしてしまう。

怒声にも聞こえる声が無線機から溢れるように聞こえ、彼は通路の先へと視線を動かした。

銃声のような音が微かに聞こえ、金属が重なり合う音がその間をぬうようにビルの間へと響いている。

「今までに見た事が無いようなバケモノが現れているんだ。」

「バケモノ・・・というか、あれはヒトというのだろうか・・・」

「ヒト?」

武田の隣でぽつりと声を発した警官たちは、互いの顔を見合わせて困惑した表情を浮かべだす。

「そう・・・ヒトだったよ。どう見ても。人間だった。」

「・・・。」

まるで恐ろしいモノでも見たかのように、警官たちは声を震わせて言葉を呟く。

そんな彼らの言葉を聞いて、光士は何故か息苦しくなる。

「・・・。まさか・・・だよな。」

彼の脳裏には、クラスメイトに問いかけられた言葉が思い出されていた。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

片腕を押さえた司は、最後に残った警官を抱えて路地へと走る。

「部長!貴方もこちらにっ!」

「馬鹿言うなっ。武藤さんを一人置いて行けるかっ!」

「で、でもっ!」

「良いから行けっ!」

「っ!」

路地で待ち構えていた警官へと抱えた負傷者を投げるように渡し、司はその場から駆けだす。

後方から姿を見せたバケモノは、司がその場から動いたことにより、警官たちがいる路地には入らずに向きを変える。

警官たちは悲鳴のような声をあげると、悔しげに負傷者を抱えて後方へと駆けだした。

「おじさん!すごいねぇ!勇者だよっ!」

「そうかい・・・。」

両手を大げさに叩いた彼方は、赤黒い針の上で見下す様に司を見つめる。

その下では、バケモノへと刀を振るっている武藤の姿があった。

確実に身体を切られているはずだが、バケモノ達は後ずさりをするだけで、すぐに武藤や司へと迫ってくる。

先のビルでの一件で、バケモノには司や武藤の“鍵”はあまり攻撃が通用しないと知っている二人は、苦々しげに敵を睨むしかない。

彼らの攻撃が自分たちにはあまり有効ではないと知っているのか、彼方は高みの見物をしているようだった。

ビルの中に逃げ込んでいた人々は、後から駆け付けた警官たちに誘導され、どうやら建物にある別の出口から脱出しているようである。

ヒトの姿はほとんどなくなり、ビルの中にはちらほらと人影が見えるだけだ。

「そろそろ、居場所を教えてくれないかな?さすがに、死者は“今の段階”では出したくないしさぁ。」

「その言い方だと、そのうち出してやるっていう事か?」

「・・・場合によってだよ。奈美ちゃんのお父さん。」

肩で息をした司は、武藤と共に後方へと後ずさりをする。

さすがに武藤も力負けし始めたのか、彼も額に汗をにじませていた。

「その子の居場所を知ってどうする?」

「どうするもこうするも。息の根を止めるだけだよ。芽吹いたら花が咲くだろう?花が咲く前に摘み取ってすりつぶさないといけないんだ。」

「芽吹いて花を咲かせれば、世界が幸せになるとしても?」

「・・・幸せねぇ・・・。」

つまらなそうに笑った彼方は、地面へと降り立つと赤黒い針を両手に構えて二人へと近づく。

「オレはつまらないと思うよ?悲鳴が聞こえて楽しい世界の方が、よっぽど過ごしやすい。何より自分に得がある世界じゃないと、オレ達は生きていけないんでね。」

「俺はそんな世界はごめんだな。」

「・・・あっ、そう。」

「っっ!」

彼方が振るった赤黒い針を防御するように、武藤は刀を構え直す。

しかし、思った以上に彼方の攻撃は重かったようで、武藤はそのまま後方へと弾かれ看板へと激突した。

司は距離を取るように後方へと駆け出し、倒れ込んだ武藤を抱えて立ち上がる。

「すまない。・・・これはさすがに・・・」

「なぁに。こっちもそろそろやばいんでね・・・。」

「だからさぁ、居場所を言ってくれない?・・・向こうの世界にいるって言う情報もあるんだけど、何せ“馬鹿”な下級共の話だから、信用性がないんだよ・・・。」

「・・・。」

呆れたように赤黒い針を振り回し、彼方は二人へと近寄る。

次の一手で終わらせようとしているのか、彼は両腕に持った武器を、今までとは異なりしっかりと構えた。

「まぁ、二人の死体があれば、誰でも吐いてくれるか・・・。」

「っっ!」

急に背筋を冷たくするような鋭い目へと変わった彼方は、軽く地面を蹴り上げて司たちの方へと駆けだす。

武藤を抱えた司は、自分の横に見えた路地の方へと視線を移した。

距離としてはさほど遠くないが、目の前に迫る彼方の速さは武藤を抱えて避けるにはいささか無理がある。

「それじゃおじさんっ、来世でまた会えたらよろしくっ!」

「ぐっ!」

にやりと口元を歪めて笑った彼方は、両手に構えた針の先を司へと振りかざした。

 

「はぁぁぁっ!!」

「ちぃっ!」

次に来る痛みに耐える為、歯を食いしばった司の髪が突然とふわりと風に揺れ、目の前に突風が吹き荒れる。

重い音を立てて金属がすれ負う音が響くと、彼方は後方へと砂塵を巻き上げて下がった。

「・・・遅くなりましたっ!」

「ゆ、雪ちゃん・・・。」

「雪・・・。」

自分の周りに風を吹き荒かせ、司と武藤の前に雪が刀を構えて現れる。

安堵にも似た司の声とは対照的に、彼女の父である武藤の声は、悲痛にも聞こえた。

「一人じゃないんだぜっ!」

「っ!」

どこからともなく明るい声が響き、地面を小さな雷が走ったかと思うと、彼方の前に一人の青年が姿を現す。

こぶしを振り上げて赤黒い針を叩き割ったカーティルスに、彼方は目を見開いて後方へと更に下がった。。

「奈美ちゃんのお父さん。すみません・・・父をお願いします。」

「し、しかし・・・。」

「いえ、駄目です。・・・その怪我ではまともに刀は振るえません。」

「・・・・。」

刀を構え直した雪は、司たちに振り返る事無くぽつりと呟く。

苦々しげに雪へと声をかけた武藤だったが、自身の傷だらけの身体を見てため息をついた。

「・・・無理をするなよ。二人とも。」

「はい・・・。」

「了解。」

低い姿勢を取ったカーティルスは、路地の方へと迫って行ったバケモノの方へと駆けだす。

雷鳴をとどろかせてバケモノを蹴り上げると、バケモノ達は糸も簡単に宙へと投げ出されはじけ消えた。

「そうか・・・君・・・聖職者か・・・厄介だねぇ。」

「残念。俺だけじゃないんで。」

「・・・・は?」

彼方の間の抜けた声が聞こえたと思えば、彼の後方から冷たい空気を纏わせて人影が更に増える。

「部外者も何も区別なくやらかすとは・・・野蛮な・・・。」

「っ・・・次から次へと・・・っ!」

細身の剣を構えたルヴァンは、赤い目を細めて刃先をバケモノ達へと突き立ててゆく。

風のように流れる動きで動いた彼は、その勢いのまま彼方へと剣の先を突き立てようとする。

間一髪のところで避けた彼方は、その場から即座に動いた。

その視線は、ルヴァンやカーティルス達とは別の方へと向いている。

「あのさぁっ!おじさんたち・・・まだ、俺の質問に答えてないじゃん?」

「っっ!」

路地の方へと歩み寄っていた司たちの前に、音を立てて赤黒い針が地面を突き破って現れる。

後方へと下がった司は、睨みつけるような視線で見つめてくる彼方へと顔を向けた。

先とは全く異なり、彼にはどうやら余裕が無くなっているようだ。

「・・・鬱陶しいんだよね。聖職者ってさぁ。俺がこの力を身につけた後も除霊すればとれるだの・・・元の世界に帰ろうだの・・・」

「あいつ、おじさんの知り合い?」

「・・・知り合いだった。という方がいいのかも・・・な。」

ぶつぶつと独り言を呟いた彼方を気にしつつ、カーティルスは司に問いかける。

司は苦笑いを浮かべると、赤黒い針で閉ざされた路地の向こう側で待ち構えていた警官たちへと視線を向けた。

彼らは一旦後退し、応援を呼びに行くと叫んでいる。

力無く手をあげた司を見ると、彼らは一目散に後方へと駆けだした。

自分たちの力では破壊できないと分かっているようだ。

「じゃぁさ、君らにも質問。・・・夢郷るりって子を知らない?」

「はぁ?」

「・・・・。」

突然顔を上げた彼方は、心底機嫌の悪そうな表情を浮かべながら、カーティルス達を睨む。

雪は小さく顔を左右に振ると、刀を構え直し、彼方を見た。

「あ・・・そう。君たちも嘘つくんだ・・・。ふぅん。」

「・・・来るぞっ。」

「おうっ!」

両手に持った赤黒い針を変形させ、彼方の手に剣が握られる。

彼は地面を蹴り上げると、カーティルスとルヴァンの二人の横を過ぎ、雪の方へと刃先を振り上げた。

「っ!」

「ってめぇっ!」

カーティルスは片腕を地面へと叩きつけ、辺りに雷柱をとどろかせる。

音を立てて彼方へと雷が走り、彼は軽く避けるように身体を動かした。

「自分の攻撃が通用しないのをわかってるみたいだなっ!」

「うるさいなぁっ!聖職者ぁっ!」

雪の前へと駆けだしたカーティルスは、歯を見せて笑うと、彼方の手に握られた剣を蹴り上げる。

蹴り上げられた刃先はひび割れを起こし、彼方は苦々しげに後退した。

周りではバケモノ達が蠢き、司や雪の方へと襲い掛かろうとするが、ことごとくルヴァンに切り刻まれている。

圧倒的に不利になった彼方は、一歩二歩と後退すると、彼らから十分な距離を取ってため息をついた。

「こんな事になるなんてねぇ・・・だったら、もう一人くらい来てほしいってマーラ様に言っておけばよかった。」

地面に剣を突き立てた彼方は、乱れたネクタイをおもむろに直す。

その手は少し震えており、動揺が見えていた。

「・・・やっぱ、いるのか。マーラがここに・・・。」

バケモノを殴り飛ばしたカーティルスが、彼方の言葉にぽつりと呟く。

と。ぴくりと彼方の肩が小さく揺れ、ゆっくりと彼へと視線を向けた。

その眼は細く怒りに溢れている。

「呼び捨てにするなよ。クズがっ。」

「っっ!」

「雪っ!」

大声をあげて怒声を放った彼方は、腕を大きく振り上げる。

彼が腕を振り上げた瞬間、雪の周りの地面が音を立てて揺らいだ。

「カーくんっ!来ちゃだめっ!」

「ばっ・・・っ!」

雪は地面に刀を突き立て、身を守るかのように辺りに突風を出現させる。

カーティルスが駆けだすよりも早く、雪の身を切り裂かんと、地面から幾重にも重なるように赤黒い針が突きでてきた。

司の腕をすり抜けて武藤が駆け寄ろうとするが間に合わない。

「・・・なんだ・・・死んでないじゃん・・・最悪。」

地面に血を滴れさながら、雪は刀を地面に突き立て座り込む。

「だ、大丈夫・・・。」

「っ・・・っ・・・。」

体中を切り裂いた赤黒い針は消えることが無く、彼女を囲むかのように気味悪く輝いていた。

「さぁさぁ。君たち?この子が死んじゃう前にさぁ・・・さっさと居場所を吐いてくれないかい?」

「て、てめぇ・・・」

「・・・雪、耐えろ。直ぐに出してやる。」

「は、はい・・・。」

全身から怒りを露わにしたように雷を走らせ、カーティルスが彼方を睨みつける。

冷静な表情で雪の傍に駆け寄ったルヴァンは、レイピアを両手に構えると、剣に冷気を纏わせだした。

「お前・・・どうしてこんな酷い事を・・・」

「おじさん。俺はさぁ、昔からこういう奴だったよ?」

蔑んだように笑い出した彼方に、司は思わず手に持った銃口を向けそうになる。

ビルの中で震えあがっている数名の一般人を見た司は、その手を押さえるように震えだした。

手に持った武器が普通の拳銃ではないとはいえ、一般人からすればその見た目に区別は無い。

警官がヒトへとその銃口を向けた事を見れば、非常時といえども自ずとその先に待つ結末を考えてしまうだろう。

「雪。しっかりしろ!」

「大丈夫。大丈夫ですから・・・父上も落ち着いて・・・。」

傷を押さえながら駆け寄ってきた自分の父親に、雪は刀を掴んだ手を震わせつつも弱弱しく笑う。

娘の表情に息を飲んだ武藤は、顔を青ざめさせて彼女を見つめた。

「言わないんだ・・・言わないんだ?じゃぁ・・・そっちの聖職者が檻を壊すのが先かさぁ。その子が死ぬのが先かさぁ・・・。」

声をあげて笑った彼方は、体中の紋章を手に持った剣のように赤黒く光らせだす。

雪の周りがまた地鳴りはじめ、ルヴァンは目を細めた。

「させねぇ・・・よ・・・。」

「さぁ、どうだろうか?」

全身から雷鳴を響かせて歩き出したカーティルスは、両腕を眩しい程に雷で光らせ彼方へと近づく。

一瞬、彼方は後方へと下がりそうになったが、彼は笑みを浮かべたまま地面へと突き立てた剣を掴む。

「どっちが先か・・・さあっ!」

「っっ!」

誰の声かもわからない叫び声が辺りに響くと同時に、辺りに気味の悪い赤黒い光が湧き上がる。

それを消しはらうかのようにカーティルスが駆け出し、彼方の目の前へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

血しぶきが辺りへとまき散らされ、思わず司は目を覆いたくなった。

「う・・・そ・・・だろ?」

苦し紛れに呟いた言葉は誰にも聞こえなかったのか、目の前で唖然と座り込んでいる武藤の背中が小さく震えている。

「まったく・・・」

赤黒い針に貫かれながら、黒髪の女性はもろともせずに笑い、自分を貫いているそれを片腕で掴む。

地面に倒れ込んだ雪は、もうろうとした表情で目の前に突如として現れた見知った女性を見つめるしかない。

「私の生徒ですからね・・・こんなことをして・・・どうなると思っているのやら・・・」

「せん・・せい・・・?」

か細い声で呟いた雪を見た女性は、片手で持った赤黒い針を引きちぎるように抜き取る。

辺りに血が飛び散るが、傷など気にもせずに彼女は一本一本とそれらを引き抜いた。

「とりあえずは、この檻を壊していただけるかしら?」

「・・・わ、わかりました。」

目の前の光景に手を震わせたルヴァンは、自分を落ち着かせるように剣を持った手に力を込める。

鮮やかな色の着物を自分の地で染めながら、小鳥はゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。

彼女がぽつりと何かを呟くと、雪と小鳥の身体が何処からともなく湧いた水に包まれる。

「っ!」

ルヴァンは大きく剣を振りかぶると、その勢いのままに針を薙ぎ払う。

ガラスが割れたような音を立てて針が粉々に割れ、辺りに冷気が漂い始めた。

二手三手と剣を彼が振るうと、針の根元が壊れる。

「そろそろかしら?」

雪と小鳥を包んでいた水がはじけ飛び、中から何事もなかったかのような笑顔で小鳥が雪を抱えて姿を現した。

見れば、彼女の身体には傷ひとつない。

唖然と小鳥の姿を見つめていた司は、ふいに視界へと雷柱が見え、そちらへと向く。

「そろそろ良いにしてあげてくださいな。彼も一応、あいさつで現れただけのようですし。」

「・・・は?」

場の雰囲気とは裏腹に、小鳥の声はとても穏やかである。

ある意味、狂気にしか見えない彼女の姿に、司は言葉も出ない。

「・・・・・。」

「カーティルス・・・。」

こぶしに雷を走らせ、髪を逆立てていたカーティルスは、ルヴァンの言葉に無言でうなずくと、自身を包んでいた雷柱を辺りにはじけ飛ばす。

彼の足元では、むせ返っている彼方が倒れ込んでいた。

スーツが焼け焦げ、先程までの勢いはまるでない。

司が雪達の方に気が取られていたうちに、彼は相当な攻撃をカーティルスから受けていたようだ。

細身の身軽そうな少年からは想像ができない猛攻を想像し、司は目を丸くして彼の姿をじっと見つめた。

「雪さんの手当てはそちらにお願いすればよいのかしら?」

「はっ・・・はい。」

何事もないかのような笑顔で小鳥は喘鳴のような息をしている雪を抱え、ルヴァンへと近寄った。

心なしか、彼の手も震えているように思える。

「お父さんも、彼女と一緒に病院へ行かれた方がいいわ。」

「っ。・・・はい・・・この場は、お願い致します。」

ルヴァンはカーティルスと顔を見合わせると、雪を抱えてその場を去ってゆく。

倒れたままの彼方など気にせず、一目散に緊急車両の止まっている方へと駆けだした二人に、司は困惑しつつもあった。

武藤も小鳥へと軽く頭を下げると、彼らの後を追うように歩き出す。

残された司は、倒れ込んだ彼方と穏やかに微笑む小鳥を交互に見つめるしかない。

「飛勇さん。奈美さんのお父さんでしたね。」

「え・・・は、はい。えっと・・・貴女は小鳥先生でした・・・よね。」

「えぇ、そうです。」

穴の開いた着物を不快そうに見つめた小鳥は、小さく咳払いをすると司の方へと向き直った。

顏は穏やかに微笑んでいるか、どこか彼女の雰囲気は恐怖感を感じる。

「一般市民も此処から全員いなくなりましたので、私ちょっと“本性”を出したいので・・・奈美さんのお父さんも席を外してくださる?」

「・・・・。」

ぽんと両手を合わせて笑った小鳥に、司は背筋が凍るほどの恐怖感を感じて後ずさりをしてしまう。

今回の様々な場面で彼女とはよく会っているが、その中では全く感じた事のない雰囲気である。

娘の学校でも彼女は何度も見ているが、こんな感覚を味わったのは初めてだ。

「わ・・・わかりました。」

「事がすみましたら、竜崎さんを通してお話を致しますね。」

「は、はい。」

司から顔を背けた彼女は、ゆっくりと彼方の方へと歩いてゆく。

何かを感じ取ったのか、彼方は腕を振るわせてその場に立ちあがろうと動いている。

「・・・そうそう。娘さんが、向こうの方で待っているようですし、部下の方もいらっしゃるようですから・・・お早めに。」

「っは、はい・・・っ!」

小鳥の言葉が酷く冷たいように感じた司は、傷む腕を押さえつけて、その場から駆けだした。

前方に警察車両のランプが見えると、司は振り返る事無く一目散に走り続ける。

赤いパトランプが視界に近づいた頃、不意に背中で振り返りたくもない程の悪寒を彼は感じた。

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

震える手で赤黒い針を形成した彼方は、目の前に迫っている人物を警戒して無理に立ち上がる。

「は、はじめまして・・・ですかね。」

「えぇ、そうですね。」

穏やかな笑みを湛えた小鳥だったが、彼方は苦笑いを浮かべて後方へと下がりだす。

彼が一歩後方へと下がれば、それに合わせて小鳥が一歩前に出る。

「さて。坊やは色々と派手にやり過ぎましたね。」

「は・・・はは。でも、俺はマーラ様に選ばれた隊長的なモノなんで・・・」

「おや・・・。」

精一杯の笑みを作り、彼方は自分を守るように周りへと赤黒い針を盾のように幾つも張り巡らせる。

小鳥は困った様に視線を逸らすと、ふっと地面へと視線を移した。

「ぐぅ・・・。」

同時に、言い割らせない程の悪寒が彼方を襲いだす。

思わず歯を食いしばった彼は、手に持った針を強く握りしめた。

「愚かな傀儡だねぇ・・・。お前も。」

「っっ!」

顔を上げた小鳥の表情からは笑みが消え、そこには蔑んだように睨む彼女の顔があった。

まるで目には見えない何かが辺りを徘徊しているかのように、気味の悪い悪寒が辺り一面に駆け抜ける。

子供であるならば、大きな悲鳴をあげて立ち去りたいほどの空気が、彼方を取り囲むように吹き荒れだした。

「それで、お前さんの御雇い主さんは何処にいるんだい?」

「はっ。そ、それを聞いてどうするんだい?」

「おやおや・・・質問を質問で返すのは、良くない事だよ?ぼうや。」

「っ。」

小鳥を嘲笑うように言葉を発した彼方だったが、彼女の発する酷く冷たい空気に圧倒され、それ以上何も言えなくなる。

両腕を組んだ小鳥はぐるりと目を動かすと、苦々しげに彼方を見た。

「お前をお迎えに来たようだねぇ。」

「っ・・・。あ、あんた・・・まさか・・・マーラ様の気配を・・・」

「ふふ・・・。」

 

小鳥と彼方の前に赤黒い渦が湧き上がり、音もなく魔法陣が浮かび上がってくる。

 

泡が破裂するような音が幾重にも重なって聞こえ出すと、魔法陣の中から一人の女性が姿を現した。

 

くせのついた白い髪をなびかせ、血のように真っ赤なイブニングドレスを着込んだ女性は、同じような赤い口でにんまりと笑っている。

 

「私の可愛いナイトを苛めないでくれない?」

「ま、マーラ様っ・・・。」

病的な程の白い手を大げさに広げたマーラは、赤い爪を風になびかせて笑い出す。

小鳥は後方へと下がると、赤い口をひしゃげて笑う彼女を睨みつけた。

目を見開いて歓喜に沸いた声をあげた彼方に、マーラはぐるりと首をひねって顔を見つめる。

「あら、なんて痛々しい傷。早く、それを埋める様な生贄が欲しいわね。」

「は、はい。しかし、マーラ様にお手を取らせるような事をしてしまい、申し訳ございません。」

「ふふ・・・いいのよ。暇で暇で仕方なかったんだもの。」

「・・・。」

真っ赤な口で大げさに話すマーラは、彼方の頭を子供をあやす様に撫でると、小鳥へと視線を移した。

「私ね先生。貴女の教え子を探しているの。でもねぇ、誰も教えてくれなくて困っているのよ。」

「あらそうなのね。・・・でも、仕方がないのよ?」

「どうして?」

歯を見せて笑った小鳥は、下駄の先で地面に音を立て始める。

コツンコツンと軽い音が辺りへと広がってゆくと、彼女を中心に禍々しい色を湛えた水面がじわりと広がった。

「お前なんかに教える必要が無いと、皆が思っているからさ。」

「あら・・・。」

奇怪な音を立てて水面が渦を巻きだし、中から人の悲鳴に似た声が重なって聞こえ出す。

水中から這いずるように人の骨のような腕が這い出てくると、巨大な髑髏が水しぶきをあげて出現した。

その頭の上に座った小鳥は、マーラと彼方の二人を見下す様に見つめる。

「さぁ、どうしたものかねぇ?」

髑髏の上で足を組んだ小鳥に合わせて、水面から禍々しい色をした骸骨たちが現れる。

「戦うつもりはないわ。だって、このナイトを連れて帰ろうと思っているだけだもの。」

「おや、そうかい?・・・だったら、その腕に持っているモノはなんだろうね。」

「・・・。」

マーラは片腕を動かすと、その手に赤と黒を混ぜた大鎌を出現させた。

柄には幾つもの赤い魔石が埋め込まれている。

「だって、暇だったから。」

「ま、マーラ様っ。」

鼻を鳴らしたマーラは、彼方の声を無視して、大鎌を横に薙ぎ払うように動かす。

小鳥が出現させた骸骨たちが次々に粉砕し、跡形もなく斬り刻まれる。

ため息をついたマーラは、つまらなそうに彼方の前へと戻ってきた。

「先生も本気を出そうとしないのね。あぁ、つまらない。つまらない。」

「ここでどうして私が本気を出さないとならないの?・・・お前の首を跳ねるのは私じゃないわ。」

「・・・は?」

クスクスと声をあげて笑った小鳥は、髑髏の上でおかしそうに笑い声をあげ出す。

彼女の言葉に苛立ったのか、マーラは突然表情を崩し、目を細めた。

「お前の首を跳ねるのは、新しい巫女様だよ。覚えておき。」

「・・・。」

無言で大鎌を髑髏へと振るったマーラに、小鳥はひるむことなく笑い声をあげてそこから飛び降りる。

髑髏は鎌で刈られる前に泡へと変わり、地面に降り立った小鳥を囲むように水の泡となって漂っていた。

「マーラ様。あのような女の言葉に惑わされては・・・。」

「えぇそうね。そうだわ。・・・神にも慣れなかった女の言葉なんて。」

小鳥を長髪するようにマーラは言葉を発するが、彼女は何とも思っていないのか、小首をかしげるだけだ。

辺りを包んでいた禍々しい水がはけてくると、小鳥はゆっくりと空を見上げた。

「おや・・・?」

笑っていた小鳥は目を細め、夕暮れ時の空を見つめる。

ビルの合間を照らしていた夕焼けが薄れ、夜でもないのに視界が段々と暗くなってきた。

「そうそうそうなのっ!素晴らしいでしょう?人間の生贄って凄い凄い力を持っているのよ。ねぇ、ほら、何だったかしら?凄い偉い家の人間を使ったのよ。きれいでしょう?きれいでしょう?」

「おぉ・・・。」

「・・・。」

マーラの声に弾かれたように、小鳥は彼女の方へと視線を向ける。

両腕を大げさに広げてその場をぐるりと回転したマーラは、勝ち誇ったように小鳥を見つめた。

その意味を理解した彼女は、小さく舌打ちをする。

空を見上げた彼方は、傷む腕を押さえながら、歓喜に震えた声をあげた。

「お前・・・現世の人間を殺めたいのかい?」

「・・・ふふ・・・ふふふふあははははははははっ!」

小鳥の低く唸る声とは対照的に、マーラは心の底から声をあげて狂ったように笑い出す。

見れば、彼女の周りには幾つもの赤黒い魔法陣が現れていた。

泡を吹きだしているかのような音を立てて、中から気味の悪い仮面を着けた者達が何人も現れる。

片膝をついてマーラの周りに集まったそれらは、まるで彼女を崇拝するかのように頭を下げた。

「マーラ様。ご準備が整いました。川西という家の者共が生贄となり、この街は我らが手の中になったも同然です。」

「うふふふふはは。・・・そう、ふふ。そうね。ははは。」

笑いが止まらないのか、マーラは口元を押さえつつ小鳥の方をちらちらと見つめる。

まるでしてやったと言わんばかりに、彼女の顔を何度も見た。

「しかしながら、どうやら当主が敵に捕まっているようでして・・・」

「あら・・・だとしたら・・・早く最後の一手を決めないとね。」

「はい。そちらに仲間を向かわせておりますので。時間の問題かと。」

小鳥を無視するように会話をしているマーラ達に、彼女は嫌悪感を覚えたように腕を組む。

彼女の異様な恐怖感に似た雰囲気に圧倒され、数名の仮面を着けた者が後ずさりをした。

「それと。お探しの“近道”ですが、先程この場にいたようでして・・・」

「あら?」

不思議そうな表情をしたマーラは、傷を押さえて立っている彼方へと視線を向けた。

目を細めて笑った彼女に、彼方は何も言わずに片膝をつく。

「も、申し訳ございませんっ!つい・・・せ、聖職者との戦いで・・・他に目を向けず・・・」

「・・・。」

手を震わせて姿勢を保っている彼方を見て、マーラは他の仮面を着けた者達へと視線を移す。

彼らは頷くと、そっとその場から消え入るように姿を消した。

「・・・っ・・・っ・。」

その様子に目を細めた小鳥は、聞き取れないほどの声で何かを呟く。

小鳥が口を動かした事に気がついていないのか、マーラ達は動かない。

「いいのよ。それに関しては気にしないで。お前は傷を癒しにお帰り。」

「は・・・はい。」

顔を上げる事無く立ち上がった彼方は、マーラに背を向けずに地面へと魔法陣を浮かび上がらせると、その中に吸い込まれるように姿を消す。

少しばかり不機嫌そうな表情で彼の姿を見ていたマーラは、小さなため息をついて小鳥へと視線を戻した。

表情は瞬時にして微笑みへと変わり、先のような勝ち誇った笑みを彼女は浮かべた。

「ねぇ、先生・・・?今の状態は現世の人間には見えていないわ。でも時間の問題かしらね。」

ふいに車の音が小鳥の耳に聞こえだし、辺りは大惨事となっているにも関わらず、もろともせずに一台の車がビルの間から姿を現す。

マーラの方へと一人の仮面を着けた男が近づくと、耳元で何かを呟き、彼女を車へと手招いた。

マーラは小鳥から視線を逸らし、くるりと背中を向ける。

距離にして数十歩と言うところだが、攻撃を彼女へと当てようとしても、周りにいる仮面を着けた者達が弾き返すだろう。

「何を言いたいのかしら?」

苦々しげに眼を細めた小鳥は、遠ざかってゆく彼女の背中をじっと睨みつけるように見つめた。

目の前で車の扉が静かに開かれ、気味の悪い仮面を着けた者が、更にその周りへと集まりだす。

ヒールの音を響かせて、マーラは不自然に用意された車の方へと近づいて行った。

「新しい巫女が、どれだけ短い人生を楽しんでくれるか、楽しみだわ。」

赤い口をひしゃげて笑ったマーラは、小鳥の方を一度だけ振り返る。

仮面を着けた者達に付き添われるように車へと乗り込んだ彼女は、何をいう訳でもなく高々と笑い声をあげだす。

車の扉が閉じられると同時に、小鳥の前を塞いでいた仮面を着けた者達が姿を消し出した。

マーラを乗せた車は、小鳥の佇む方向とは真逆の道へと動き出す。

小鳥はそれらを負う事はせず、遠ざかる車をじっと見つめた。

「・・・さて・・・・。」

彼らの姿が完全にその場から消えたのを見た小鳥は、何事も無かったように後方へと振り返る。

そこには替えの着物を抱えた少女と、日本刀を手に持った柊がいつの間にか立っていた。

「着替えを済ませてから追いますので・・・。柊さんはすみませんが、先に行っていただけますか?」

「・・・えぇ。」

穏やかに微笑んだ小鳥に、柊も同じように笑みを浮かべる。

「では。先に様子を見てまいりますね。」

「お願いいたします。」

「旦那様。お気をつけて。」

静かに二人の様子を見ていた少女がぽつりと呟くと、柊の姿は次の瞬間には見えなくなっていた。

「よろしかったのですか?あの輩共を放っておいて?」

小鳥の着物を抱えた少女は、マーラ達が去って行った方を見つめて彼女へと問いかける。

先のような張り詰めた空気は辺りに流れておらず、ただ周りでは焼け焦げた臭いだけが広がっていた。

「えぇ。あれを止めるのが私の仕事ではないのだから。・・・私の仕事は生徒を守る事。・・・命ばかりは取られては困るもの。」

「さようでございましたか。」

目を見開いて大きく頷いた少女は、ゆっくりと歩き出した小鳥の後を静かについて行く。

彼女たちの後方では、慌ただしく動き回る警官たちの声がビルの間を駆け抜けていた。

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