「ご覧ください。歩道に乗り上げた車両は跡形もなく・・・」
カメラの前で声を荒げたアナウンサーは、ひしゃげた標識や炎上する車が散乱し瓦礫まみれとなった道を指さしている。
黒煙を上げていた車はレッカーで運ばれつつあり、道路の周りでは作業員たちの姿が見えた。
「・・・派手にやりおったな。」
警察署のテレビで状況を見つめていた竜崎は、署員達と顔を見合わせている。
数時間前から鳴り響いていた緊急無線は少しばかり静まり、今は慌ただしく動く者達も少なくなっていた。
とはいえ、状況は芳しくない。
「署長。どうやら、この一件で武藤さんが怪我を・・・。」
「っ・・・。そうか。」
竜崎の秘書が近くでぽつりと呟くと、彼は目を細めて外へと歩いてゆく。
「幾つか関係各所と連絡を取り合っておいてくれ。私は現場に向かう。」「しょ、署長?」
「・・・例の家族がそのままになっている可能性が高い。」
「っそ、それは・・・。」
署員達の不思議そうな表情を無視するように、竜崎は淡々と警察署の外へと歩みを進めてゆく。
秘書の女性は小さく頷くと、彼とは別の方向へと駆けて行った。
後方で彼女が署員に指示を出す声が聞こえ、慌ただしく走り出す者たちの足音が響きだす。
皆、勤勉に働いてくれることに感謝しつつ、竜崎は署の外へと出た。
「どうしたものか。」
ふいに空を見上げた彼は、眉をひそめて立ち止まる。
彼の視界の先で、事件現場の中継へと急ぐマスコミのヘリコプターが見えた。
だが、竜崎が表情を硬くしたのには、他に理由がある。
薄らと夜の闇が迫っている空の中に、赤黒い大きな魔法陣が蠢いているのを、彼は見つけてしまったのだ。
それは恐らく、“見える者達”にしかわからない状態であり、空を飛びかうマスコミ達には気がつかれていないようである。
ある意味では助かっている状況ではあるが、現状は最悪だ。
「(あれが浮き彫りになるころには、敵も最終作戦へと移るだろうな)」
なるべく人のいない道を選んで歩いて行った竜崎は、大きく深呼吸をするとビルの壁を見つめる。
十数階建てくらいのそれを見上げた彼は、辺りに人気が無い事を確認すると、軽く地面を蹴り上げた。
風を巻き上げて軽々と飛び上がった竜崎は、ビルの屋上へと降り立つと、また辺りを見つめる。
地上とは異なり、広々とした空間が広がっているが、どこも空のような異常は見当たらない。
「・・・。」
無言のままに方向を定めた竜崎は、先と同じようにビルの屋上を軽く蹴ると、次から次へと軽々とビルの間を移動し始めた。
幸いにも空を飛んでいるヘリコプターは近くを移動しておらず、彼の姿を見つける者はいないようである。
時に地上へと視線を向けると、ビルの下では楽しげに会話を楽しむ人々の姿が見えた。
平穏とも言える街を見下ろしながら、竜崎は目的の方へと足を急がせて行く。
「(この大きさだとすれば、もって数日か・・・・)」
時折音もなく動く魔法陣に、竜崎は目を細める。
突如として現れたこの禍々しい魔法陣が、どのようにに作られたかをふと考え、彼の背中をひやりと嫌な汗が流れた。
「(そういえば・・・川西家の者がいないと言っていたな・・・いや、まさか・・・そんなことは・・・)」
目的地近くのビルへと降り立った竜崎は、思いついた考えを振り払うかのように頭を左右に何度も振る。
白い髪を風に揺らすと、パトランプが煌々と光っている地上を見た。
多くの警察官たちが行き来し、中には四大家系の者であろう人間たちが、縦横無尽に駆けている。
降り立とうとした地面を見つめ、そこに人がいない事を確かめた竜崎は、軽く地面を蹴って地上へと降り立つ。
咳払いをして自分を落ち着かせた彼は、何事も無いように路地から姿を現した。
「しょ、署長?」
「ご苦労。・・・職務を続けてくれ。」
「は、はい。」
いきなり現れた竜崎に、周りの警官たちは皆驚いた声をあげる。
竜崎は彼らにねぎらいの言葉をかけながら、目的の人物たちが見えた方へと歩いて行った。
パトカーに守られるように佇んでいた二人の前には、黒い学生服を着た少年が立っている。
穏やかな表情を浮かべている少年とは異なり、夫婦は困惑した表情を浮かべていた。
周りの警官たちが竜崎の姿を見つけ、はっとしたような表情を浮かべる。
「夢郷さん・・・。」
「っ?しょ、署長さんっ?」
竜崎の声に驚いたのか、夢郷と呼ばれた男性は目を丸くさせて彼の方へと視線を向ける。
隣の妻であろう女性は、目の前にいる少年に何かを聞いているようだ。
「何やら・・・今度はご両親が大変な目にあったようで・・・。」
「いえ。我々は武藤さんや飛勇さんに守って頂いたので何ともないのですが・・・。守って頂いた二人が負傷して・・・。」
「うむ。署内で聞きました。」
困惑した表情を浮かべた夢郷は、隣で学生服を着た少年と会話をしている妻へと視線を向ける。
何かを答えた少年に合わせて、女性は大きく胸をなでおろしていた。
「君は・・・?」
「あ。どうも。お久しぶり・・・でいいんでしょうか?」
「・・・む。」
ひょうひょうとした雰囲気の少年は柔らかに微笑むと、意味深に片耳へと指を向けた。
彼が指さす耳は少しだけ尖っており、心なしか髪の色が青くなっている。
そういうことか。と思った竜崎は小さく頷いた。
「どうやら、娘の・・・るりの同級生君みたいで。避難中に彼と偶然出会いましてね。色々と娘の、るりの学校での生活を聞いていたんです。」
「家でも話をしてくれていたのですが・・・なんだか遠い昔話のようになってしまって。」
「・・・。」
目に涙を浮かべた女性に、竜崎は何と言ってよいものかと視線を逸らすと、目の前の少年と必然的に視線があってしまう。
彼は小さく首を横に振ると、何ともないかのように穏やかに微笑んだ。
「知り合いから、るりちゃんの事は聞いていたので。ちょっと“僕から話せることだけ”を、お母さんたちに話していたんです。」
「そうだったのか・・・。」
少年の言葉に何となく察した竜崎は、彼が“それなりの地位にある者”だと勘付き、大きく頷く。
彼の姿からは想像はつきにくいが、桜丘出版社で見た少年の姿を思い出すと、竜崎も自然と納得してしまった。
「つい先程、るりの姉とも連絡が取れましたし、武藤さんのお家の方ともここで合流できそうで・・・なんとか、今夜はなりそうです。」
「千枝・・・るりの姉は出版社で本日も仕事をしていたのですが、ユナさんという友人に付き添われて帰宅するようでして。」
「ほう・・・。」
夢郷の妻へとうなずいた竜崎だったが、彼女が呟いた人の名前にぴくりと彼は肩をゆらしてしまう。
「ユナさん。普通の人だと思っていたんですけど、どうやら“向こうの世界の関係者さん”のようでして。安心してほしいと娘も先に言っていましたので・・・大丈夫かと。」
「・・・そう、ですか。」
苦笑いを浮かべつつ穏やかに話をする夢郷の妻とは裏腹に、竜崎の目は少しばかり細くなってしまう。
「(・・・まさか・・・そんな・・・ことは・・・)」
ふいに脳裏に浮かんだ人の姿を振り払うように、竜崎は何度か瞬きをすると、少年へと視線を向けた。
彼は相も変わらず、穏やかに微笑んでいる。
「あ。夢郷さん。お迎えが来ましたよっ!」
「遅くなってすみません。」
「い、いえ。」
竜崎の後方から警官が駆けてくると、その後ろをゆっくりと一台の車が近づいてきた。
中には道場着姿の青年が運転しており、助手席にも同様の男性が座っている。
「これから、一旦ご自宅の方へと寄りますので、手短にお支度をしていただこうかと。」
「わ。わかりました。」
「お手数をおかけします。」
「いえ。気にしないでください。」
穏やかに微笑んだ男性たちに付き添われるように、夢郷夫婦は車へと乗りこんでゆく。
「署長さん、すみません、時間を割いてしまって。」
「いやいや・・・。お二人の安否を飛勇君が気にしていたので、こちらも安心しました。」
「飛勇さんにもお大事にと・・・お伝えください。」
「はい。」
柔らかに微笑んだ竜崎は、車に乗り込んだ夢郷夫婦へと小さく手を振って、別れの挨拶をする。
彼らは車内で頭を下げると、何やら助手席の男性と話をしながらその場を去って行った。
緊急車両が途切れる所まで警官たちに付き添われ、ゆっくりと前進していった車は、そこから曲がると姿を消す。
「・・・して、少年。君はどうしてここへ?」
「おっと。」
夢郷夫婦を乗せた車が見えなくなると、竜崎は上空を睨んでいた少年へと問いかける。
彼にも上空の魔法陣が見えるらしく、先とは別人のような鋭い眼光で空を睨みつけていた。
「・・・飛勇さんや武藤さんが、るりちゃんのご両親と離れてしまったんでね。安全性が確認できるまで、付き添っていたんです。」
「それは助かる。・・・・手数をかけたな。」
「いえいえ。これも僕らの仕事なんで。」
中学生とは思えない大人びた笑みを見せた少年は、また空を見上げる。
「あれ。見たくなかったんだけどな。・・・見えているという事は、あいつがここにいるって事ですよね。」
「確定的になってしまった・・・と言いかえていいだろうな。」
「忌々しい奴ですよ。」
周りの緊急車両が移動をし始め、煌々と辺りを照らしていた車のランプが数を減らし出す。
上空を覆うように描かれた魔法陣には周りの者達は気がついていないらしく、空を見つめているのは竜崎と少年だけだ。
「ユナさんっていうのは、“あのユナさん”ですよ。署長さん。」
「っ!・・・そ、そうか。」
思わぬ少年の言葉に目を見開いた竜崎は、咳払いをすると平然を保つかのように髭を撫でた。
しかし、手は震えている。
穏やかに微笑んだ少年は、近くを通った警官たちに頭を下げた。
彼のその姿は、まるで“中学生を演じている”ようである。
「彼女もこちらの味方です。“前回”は恐らく事情があったんだと、家族が言っています。向こうの者達も薄々勘付いてきたようです。」
「そうか・・・。事が収まれば、その事に関しても彼女から話を聞いてみたいものだな。」
「そうですね。・・・まぁ、性格上話してくれるかはわかりませんが。」
「・・・堅物だったな。あの方は。」
「えぇ。相当な堅物ですよ。」
ため息をついた少年は、人通りの少ない路地の方へと何食わぬ顔で歩いてゆく。
この場に残る理由が無くなったこともあり、どうやら別の場所へと行くらしい。
「・・・。“皇帝”とも話し合いが向こうで開かれます。それを皮切りに彼女もこちらへと戻ってくるでしょう。」
「それの前に“開戦”してしまう可能性もあるな。」
「・・・なんとか、持ちこたえてみますよ。」
ひらひらと大人びたように手を揺らした少年は、薄暗い路地へと姿を消してゆく。
完全に彼の姿が路地の方へと消えると、竜崎は未だ黒煙の立ち込める現場の方へと向き直る。
と。服のポケットに忍ばせていた携帯が鳴っているのに気がつき、彼はおもむろにそれへと手を伸ばした。
――
けたたましいサイレンの音を響かせて、外では救急車が入ってくる音が響いてきていた。
つい先程まで静かだった病院の入り口付近には、マスコミの車が何台か連なりはじめている。
「お家の方や、ご友人の方はこちらでお待ちくださいっ!」
「急患だっ!急いで処置室をっ・・・!」
半端剥がされるように扉の前に立たされた流星達は、中へと運ばれてゆく彼女の姿を見つめるしかない。
「お、お父さんっ!」
「大丈夫だ。ねん挫か擦り傷くらいだっ!」
「早くこちらに来てくださいっ!」
遅れて後方から看護師に付き添われて来た司は、娘にへらへらと笑いかけると、処置室の方へと姿を消していった。
ゆっくりと自動ドアが閉じられると、しんと廊下が静まり返り、皆が顔を見合わせるしかない。
「一通りの応急処置はした。傷は大方治っているとは思うが・・・。」
「・・・雪ちゃん。」
不安げな表情で処置室の入り口を見つめた奈美に、ルヴァンが言葉をかける。
カーティルスとルヴァンの姿はカモフラージュされているようで、奈美や光士には黒髪の似たような格好を青年にしか見えない。
雪の隣にいつも立っている二人とは違った姿の彼らに、戸惑いすら感じてしまう。
しかし、周りを見れば先の事件に巻き込まれたであろう人々が待合室には多く見受けられ、容易に姿をさらすわけにはいかない。
さらに言えば、病院の外からカメラを向けているマスコミ達の事もあり、ルヴァン達にとっては居心地が悪い場所だろう。
「・・・こういう言い方はおかしいかもしれないけれど・・・死者が出なかったのはよかった。」
「・・・。」
「君たちをあの場所へと行かせていたらと思うと、申し訳ないけれど、僕は一生後悔していたと思う。」
何も言い返してこない流星や光士たちに向かって、優志は静かに彼らへと言葉をかける。
優志や警官たちを押しのけて現場へと駆けて行こうとした奈美達だったが、それは叶わず、警官たちに先を塞がれてしまった。
前方から負傷した者達が駆け戻ってくるや否や、奈美は彼らを押しのけて現場へと急ごうとしたが、大人の男性には力負けしてしまい、結果として爆音のような雷鳴を、流星達と聞くしかない状態だった。
そして、数分後に全身を切り刻まれたように傷を負った雪が目の前に運ばれてくると同時に、腕を押さえて駆けて来た司が雪の父親と一緒に現場から駆け戻ってくる。
青ざめた表情で駆けて来た方を見つめた司は、手を震わせていた。
処置室の方から金属がすれ合う音や、医療機材の音などが聞こえはじめ、待合室はだんだんと不安な声で溢れてくる。
それらの機材が使われているであろう人物が、先に運ばれて行った雪だと思うと、奈美は静かに待合の椅子に座るしかない。
何か言おうと流星が光士と顔を見合わせるが、ルヴァンが静かに首を横に振った。
「俺・・・何してたんだろう・・・・な・・・。」
「何って、お前は“ヤツ”へと攻撃を・・・」
「・・・雪・・・結局守れてないじゃん。俺・・・。」
「・・・・。」
吐き捨てるように言葉を発したカーティルスは、困惑した表情を浮かべる優志の横を通り過ぎ、誰も座っていないソファへと座り込む。
「何してんだろうな・・・。ホント、頭に血がのぼると・・・目先の事しか見えなくて。」
「・・・そういう事言うなよ。」
「・・・。」
床を見つめたままのカーティルスの頭に向かって、流星が低く言い放つ。
辺りのざわつきは酷くなり、それらを鎮めるためなのか、看護師たちが処置室や他の場所から数名姿を現した。
「なぁ。あの場にいた敵っていうのはどういう奴だったんだ?」
「・・・それを知ってどうすんだよ。」
「いや・・・何となく聞いておこうと思って。」
「それは、その・・・こちらも出来れば知りたいんだが・・・。」
「お巡りさん。」
流星に続くように言葉を発した優志は、顔をやっとあげたカーティルスの隣へと近づいてゆく。
優志はどうやら周りに警官だと知られたくないのか、よく見れば身分を証明するものなどは、全て服の中や上着の中へと隠している。
混乱にも似た状況になりつつあるこの場で、警官だと知られたとなれば、流暢に話しをすることもできないと判断したのだろう。
「あの場所にいた者達からは話は聞いてるけれど、それでも理解できない部分が多いんだ。その・・・バケモノ以外に人が敵だったとか。言っている者もいて。」
「いや、それは合ってるよ。お巡りさん。」
カーティルスの声が周りに聞こえたのか、数名の者達が優志へと視線を向け出す。
小声で警官なのか?と呟き始める者が現れだし、優志は目を細めた。
「ここでは、武田と言ってくれ。・・・すこし、周りが気になる。」
「・・・・わかった。」
辺りの様子をそれなりに伺っているのか、優志の言葉にカーティルスは小さく頷いた。
「武田さん。とりあえず、その証言は合っているんだ。・・・バケモノの司令塔はニンゲンだった。・・・元ニンゲンって言った方がいいかもしれないけどさ。」
「元ニンゲン?」
「うん。」
カーティルスの隣へと座った優志は、ポツポツと小声で話している彼の声を聞きとるために、何食わぬ顔であいづちをうつ。
彼ら以外の一般人たちに聞かれてはまずいと勘付いたのか、流星や光士そしてルヴァンも彼らの周りに座った。
奈美はそこから少し離れ、じっと処置室の入り口を見つめている。
優志たちの話にはあまり興味が湧かないようだ。
「俺達が敵だと言っている奴らは、向こうの世界のヒトだからさ、まぁ近くにいれば、それなりに“どういう種族”とか分かるんだ。魔族とか元聖職者とか魔導士とかね。」
「そ、そのへんの区切りはちょっとわからないが、とにかくは向こうの世界の人間だというのが君にはわかる、ということだね。」
「あ。うん。」
慌てたようにカーティルスの言葉に答えた優志に、彼は小首を傾げて目を細める。
自分が言った言葉をあまり理解できていないような優志に対して、カーティルスは不思議そうに思っているようだ。
「だが、雪や奈美の父上と対立していたヒトは、明らかに“元はこちらの人間”だという感覚が残っていた。・・・彼が如何にしてあのような姿になったのかは分からないが、“あちらのヒト”としては、珍しいとしか言いようがない。」
「・・・なぁ?こっちの世界のニンゲンが、自分の意思で“あっち”に加勢するっておかしくないか?」
「・・・・。」
訝しげな表情で問いかけた流星に、同意するようにルヴァンが静かに頭を縦に振った。
それなりにまわりにいる一般人を意識してのカーティルス達の言葉に、優志は困惑しつつ、頭の中で整理をしながら筋道を立てだす。
しかし、どうにも理解できない言葉ばかりが並んでしまい、優志は混乱するしかない状態だ。
「つまり、敵にいるはずのないこちら側の世界の人間がいて、しかも得るはずのないバケモノ達側の力を持っていた。世界を混沌に陥れたいと思っている側の奴らに加勢したいニンゲンなんて考えられるか?って言いたいんだと思うよ。武田さん。」
「・・・な、なるほど。」
優志にフォローを入れた流星は、自分でもそれらを整理するかのように呟く。
流星の言葉に頷いたカーティルスは、優志や黙ったままの光士を見た。
何故か光士の目は泳いでおり、彼らとは別の方へと視線が移っている。
「考えたくはないが、今は“そういう危険性がある人物”は警察の方で身柄を確保している・・・はずなんだが。」
「我々も雪の父上と一緒に“あの会議”へと先日出席しているので、武田殿が考えている人物ではないと言い切れます。」
「・・・そ、そうか。」
黒髪を揺らしたルヴァンを見て、そのあまりに整った顔をまじまじと見つめた優志は思わず言葉を詰まらせてしまった。
こんな状況で人の顔を気にすること自体がおかしいのだが、あまりに理解しにくい事が重なり過ぎたこともあり、どうやら頭が思っている以上に混乱しているようである。
思い当たった人物が彼らと対立した者ではないとわかった優志は、それ以上思い当たる者がいないと言わんばかりに、首を横に振った。。
「・・・なぁ、そいつ・・・。奈美の親父さんに何か言ってなかった?」
「え・・・?」
重い口を開くように言葉を発した光士に、カーティルスとルヴァンの声が重なる。
光士は目を泳がせながらも、震えた声で更に続ける。
「例えばさ・・・奈美の親父さんが、そいつに言葉をかけていたとか・・・久しぶりとか、お前生きていたのか・・・みたいなこと。」
「っこ、光士っ。それって・・・・。」
震えた声でつぶやきだした光士に、流星の困惑した声が重なるように聞こえだす。
少し離れた場所に座っていた奈美も、いつの間にか光士たちの方へと近づいてきていた。
流星と同じように奈美の顔は驚きにも困惑にもとれる表情をしている。
首をかしげたカーティルスは、何も言わずにいるルヴァンへと視線を向けた。
ルヴァンは思い出すように目を閉じる。
「確か・・・お前は昔からそんな奴だったのか・・・とか声をかけて・・・」
「っあぁっ、やっぱりそうだっ!」
「お、おいっ?」
勢いよく立ち上がった光士に、驚いた周りの人々が彼へと視線を一斉に向け出す。
優志は落ち着かせようと立ち上がると、彼の肩を押さえつけて無理にソファへと座らせた。
「それは・・・俺の兄貴だよ・・・・」
「・・・は?・・・」
「・・・・どういうことだ?」
震える手を押さえるようにズボンを握りしめた光士に、ルヴァンとカーティルスの声が静かに響く。
優志はふいに昼間署で聞いた話を思い出し、目を見開いて光士を見つめた。
「色々ありすぎて、どう言ったらいいのか分からないけれどさ・・・もう会う事もないと思っている兄貴だと思うんだ。・・・そのバケモノ。」
「理由が思い当たらない。事情も理解できん。なぜ、現世で生まれ育った君の兄上が禁忌の力を得ているんだ?」
「・・・あの・・・ルヴァンさん。・・・えっと。」
驚いた表情で光士の肩を揺さぶったルヴァンに、思わず奈美が声をかけようと手を伸ばす。
「数年前に起きた連続失踪事件の被害者だから?」
「っ!」
ふいに顔を上げた光士は、ぽつりと呟いた優志の顔をまじまじと見つめ、驚いたように目を見開いた。
ルヴァンやカーティルス達の顔が一斉に優志へと集まり、どうしたものかと彼は目を逸らす。
「君たちには言ってもいいのかもしれない。実は・・・」
「その話はあっちでしよう。・・・身内の話だ。」
「っっ?」
意を決したように口を開いた優志の背中を、聞きなれた声が静かにかすめる。
「お。お父さんっ!」
「やっぱり、骨にも異常はなくて捻挫みたいなもんだってさ。」
「・・・部長。」
へらへらと笑顔を浮かべた司は奈美の頭を軽く叩くと、唖然とした表情をしている優志たちの方へと歩いてくる。
司の後方ではゆっくりと処置室が閉まって行くのが見え、同じように軽傷で済んだであろう人々が数名姿を現した。
待合室で座り込んでいた一般人たちが立ち上がり、包帯を巻いて出てきた家族へと駆け寄ってゆく。
しかし雪とその父親の姿は中から出てこない。
「武藤さんは、娘さんの処置が終わるまで中にいるそうだ。」
「あの、雪は・・・。」
「出血量が多かったみたいだな。命に別状はないようだが、今夜は入院になるだろう。」
「・・・そうですか。」
静かに閉じられた処置室の入り口を見つめたカーティルスとルヴァンは、司の方へと振り向くことなくじっと扉を見つめている。
小さな咳払いをした司は、未だに佇んでいる優志や静かに座り込んでいる光士へと視線を移す。
「とりあえずさ、身内の話になるんだ・・・。人のいない方でしよう。」
「・・・は、はい。」
周りに残っている一般人たちをちらりと見た司に、優志は慌てたように頭を下げる。
司は薄暗い廊下を歩いてゆき、通常の診察室が並んでいる待合の方へと向かって行く。
その後ろを静かについて行った流星や優志たちは、司を囲むようにソファへと座り込んだ。
片腕に包帯を巻かれた司は、皆が座ったのを見るとぐるりと辺りを見つめる。
彼の視界の先で、ガラス窓の外から病院を映しているマスコミ達の姿がぼんやりとうつった。
「ここから外に出れば、恐らく“あいつら”に何があったかと聞かれるだろうが・・・まぁ、俺達も処置室で言われているが、何があったかは聞かされていない。と答えてくれ。」
「・・・部長や俺が警官だとはわからない・・・と思ったうえで答えた方がいいんでしょうか。」
「当たり前だ。」
なるべく声を押さえるように呟いた司は、自分の上着から見えていた警察官だと分かりそうな物をおもむろに取りだす。
それは先に、優志が待合室で行った事と同じような行動である。
上着を羽織り直し、不自然にもボタンを閉めた彼は、傷んだ腕を押さえて苦笑いを浮かべた。
「・・・お父さん、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ。・・・ちょっとひねりすぎたみたいだけどな。」
「もう・・・。」
不安げに顔を向けてきた奈美に笑った司に、彼女は呆れたように笑みを浮かべる。
少しばかり不安が解されたのか、奈美は小さくため息をついていた。
司は咳払いをすると、場の雰囲気を変えるかのように目を細める。
優志は椅子にしっかりと座り直すと、彼の顔を見た。
「さて。ここにいる皆は“話してもいい連中”だと思って言うからな。他には絶対に言うなよ。」
「は、はい。」
くぎを刺す様に司が呟くと、優志は緊張した表情で答える。
カーティルスやルヴァンも静かに頷いたのを見ると、司は語り始めた。
数年前から“その事件”は起こっていた。と言ってもいい。
始めは不思議な事だった、と携わった警察署員は皆口々に言っていた。
ある年の春。
観光目的で桜丘市を訪れていた家族の娘が、突然として姿を消してしまった事件があった。
直ぐに捜索願が家族から出され、市内では多くの警官たちが少女の捜索にあたることになった。
しかし、日暮れ時まで一つも目撃情報が集まらず、少女の姿は誰も見ていないという不可思議な事が起こってしまう。
夜へと差し掛かる中で、突然として発見された少女は、四大家系である武藤家の敷地内にある“とある場所”で見つかった。
当時の署内では、口々に神隠しではないかと噂がたったが“部外者”には、不審者による連れ去り事件の可能性として半端無理やりとして話がまとめられてしまう。
そして“部外者”ではない者達には、とある話が持ち出されていた。
“向こうの世界”が災いに見舞われつつあり、それによる影響により、何らかの条件が合致し、“部外者の少女”を巻き込んでしまった。
と、上の者達から話がされていた。
無論、口外は絶対にしてはならぬと何度もくぎを刺されている。
その事件から数か月後。
今度も市内で同様の“失踪”が複数も起こってしまう。
全ての事件結果はそれなりの理由を付けられ処理をされる。
そして、巻き込まれた被害者には、部外者ではない者達から、厳重にくぎを刺されていた。
絶対に他人に話をしてはいけない。“向こう”で見た事は忘れろ。と。
それからまた時が過ぎ、警察署内でも “失踪”事件が忘れかけられていた頃
大きく事を動かすような事件が起こった。
桜丘市の市長である“光丘家”で忘れかけていた同様の“失踪”事件が起きてしまったのだ。
長男であった少年は、いくら市内を探しても見つからず。
“ここ”にはいないと断定された彼は、“部外者”ではない者達を伝って、向こうの世界へと捜索の矢が立たれた。
桜丘市では変わらず捜索を進めつつも、向こうの世界でも同様に光丘家の長男の捜索が開始される。
しかし、状況は全く芳しくない方へと進んでゆき始めた。
それは、とある“向こうの世界の住民”からの目撃情報から始まってしまったのだ。
「・・・彼は、既にヒトではない。禁忌を犯してしまった。」
薄暗い照明に照らされながら、光士が静かに口を開く。
今まで話をしていた司は喋るのを止め、光士へと視線を向けた。
「最初は何の事だと思っていた。向こうの世界の事はそれなりに親から話は聞いていたけれど、当時は雪ちゃん達とも面識がなかったから、ルヴァンさんやカーティルスの事なんて知らなかったし。・・・そんな世界が本当にあるのか?って思っていた。」
処置室の方から数名の人が通り過ぎてゆき、それに付き添うように看護師たちがついて行く。
手に持った書類がちらりと見えると、入院の手続きに関する物のようだった。
「兄貴を最初に見た向こうの世界のヒトは、恐怖で震えていたらしい。全身を禁忌と呼ばれる魔術で強化したあいつは、既にヒトではないニンゲンでもない姿だって言っていた。」
「恐らく・・・前巫女が仲間達に施したという術だろう。」
「何度か俺達は見ているからわかるぜ。」
「・・・そっか。」
淡々と喋る光士を気遣ってか、ルヴァンもカーティルスも、多くを付け足して語らない。
何かを思い出したのか、奈美と流星は顔を見合わせ困惑していた。
「父さんも母さんも・・・家族は皆驚いていたし、何よりも信じたくないと言っていた。・・・兄貴は変わっていたけれどさ、普通のヒトだったんだし、誰もそんな事信じたくなかったんだと思う。でも・・・。」
救急の待合から外へと出た人々に、待ち構えていたマスコミ達が駆け寄ってくるが、彼らを守るように看護師たちが道を開けようとしている。
何も語らずに姿を消してゆく彼らに、マスコミ達は声をかけ続けているようだった。
「・・・数日たったある日。兄貴は突然・・・俺の前に現れた。」
「俺と奈美と三人で下校している最中にさ。彼方の兄さんが姿を見せたんだ。」
「・・・う、うん。」
不安げに頷いた奈美の肩を、司は抱くように軽く叩く。
流星は光士と顔を見合わせると、ルヴァン達へと向き直った。
「確かにニンゲンじゃなかったよ。兄貴の言った言葉はおかしかった。」
思い出すかのように顔を床へと向けた光士は、意を決したようにまたルヴァン達へと顔を上げる。
「・・・俺は向こうの世界で最愛の人を見つけた。彼女は俺の全てだ。彼女のおかげで俺は素晴らしい力を手に入れた。こんな世界もお前達も必要なくなる素晴らしい力だ。・・・・。」
カーティルスは目を細めてルヴァンを見る。
「・・・マーラの事だろう。」
「恐らく・・・な。」
ルヴァンは小さく頷くと、また、光士へと視線を向けた。
「兄貴の身体には、赤黒い痣みたいな模様が首から顔から手の先まで見えた。あれが光った時には、気味が悪い槍みたいなのが地面に突き刺さっていた。兄貴は言ったんだ・・・まずは初めにお前達で試したいんだ。」
「・・・試すって・・・それは、お、お兄さんは君を・・・まさか。」
愕然とした表情で光士を見つめた優志は、その後の言葉を聞きたくないと言わんばかりに頭を左右に振る。
しかし、光士はゆっくりと頭を縦に振った。
「兄貴は俺を・・・幼馴染の流星や奈美を殺そうとした。」
「な、なぜ。」
「・・・試し打ちだって言ったじゃないか。」
「っ・・・・。」
吐き捨てるように言った光士に、優志は訳が分からないと言わんばかりに声を張り上げようとしてしまう。
理解しがたい彼の兄の行動に、ひたすらに優志は拒否反応を示した。
「異様な騒ぎを聞きつけた警官が、すぐに俺や竜崎署長へと連絡を入れてくれた。・・・俺が署長たちと現場に到着したときには、目を疑ったな。」
「・・・その時、その・・・彼は・・・」
息を飲むように言葉を発した優志は、自分の手が震えている事に気がつくと、抑え込むようにこぶしを握りしめた。
何かを確かめるように司や光士の言葉を聞いているルヴァン達は、じっと静かにしている。
「地面に突き刺さった赤黒い針のようなモノが辺りに散乱していた。奈美や光士を守ろうとしたんだろうな、流星達が“先代つき”の武器を彼方に構えていたよ。」
「ほんと、初めて矢を放ったのが幼馴染の兄貴なんだからな・・・忘れられねぇよ・・・。」
「流星・・・お前・・・。」
唖然と流星を見つめたカーティルスに、彼は苦笑いを浮かべている。
「でもさ・・・。一番辛かったのは光士や“俺の兄貴”だと思うんだ。俺はあの人を攻撃できなかった。でも・・・。」
「え・・・。」
流星は頭を左右に振ると、何でもないと言いたいのか、喋る事を止めてしまう。
何か言いたそうに口を開こうとカーティルスは顔を動かすが、ぴくりと彼は肩を動かすと何もない方を見つめ流星と同じように黙ってしまった。。
「兄貴は竜崎署長さんには勝てなかった。署長さんが兄貴を取り押さえようとしたけど、結局逃げて・・・それから今まで姿は見ていない。」
「彼方の姿は“変わってなかった”よ。あの時から身体は成長してはいたが、面影は昔のままだ。・・・と俺は先思ったな。」
「そっか・・・。やっぱり兄貴だったんだ。」
「あぁ。」
「・・・・・・・。」
淡々と会話をし始めた司と光士に、優志は何を言ってよいモノかと二人を交互に見る事しかできない。
内容はとても日常的なものでもなければ、流暢に話しているようなことでもないものだ。
だが二人や、その横で聞いている奈美や流星は取り乱すことなく、事実を受け入れているように見える。
「学校で聞いたんだ。兄貴が俺を弟だって言いながら、るりちゃんの事を聞きまわっているって。」
「・・・そうか。彼方は光士と夢郷さんの娘さんが同じ学校だと情報を得ていたのか。」
「頭が冴えているのは、昔から彼方兄さんは変わらないのね。」
「・・・・。」
苦笑いを浮かべた奈美は、司に肩を叩かれて大きくため息をつく。
彼らにしか分からない“彼方”という青年の事を考え、優志は言葉を詰まらせてしまう。
「その時の事件に関しては、雪ちゃんのお父さんなら知っているはずだ。あの時駆けつけてくれたのは、雪ちゃんのお爺さんだけどな。」
「・・・そうでしたか。」
ルヴァンの方へと顔を向けた司は、そのまま処置室の方へと視線を移してゆく。
と同時に、静かに処置室の扉が開かれた。
「おじさんっ。」
「・・・。」
処置室の中から包帯を巻いた雪の父が現れると、カーティルスとルヴァンは彼へと駆け寄ってゆく。
「すまなかったな二人とも・・・。」
「いえ・・・。あ、あの、雪は?」
「大丈夫だ。今は眠っているだけだと説明を受けている。」
「そうですか。」
カーティルスの肩を軽く叩いた雪の父は、流星や光士たちの方へと歩み寄ってきた。
「とりあえずは、娘は今夜入院となります。・・・私は、夢郷さんのご両親の事もあるので帰る予定です。」
「そうですか。・・・一通り現場の事も部下と一緒に状況を聞いてから、俺達も娘や友人たちを送ろうかと。」
「・・・状況が状況だ。できれば・・・カーティルスかルヴァンを連れて行った方がいいかもしれない。」
「・・・。」
何やらソワソワと処置室の方へと視線を向けているカーティルスを見て、ルヴァンは苦笑いを浮かべている。
とはいえ、ルヴァン自身も、少しばかり落ち着きが無いように見えた。
二人とも無事だったとはいえ、雪の事を気にしているようだ。
「ちょっと時間がかかるかもしれないが、署の方に連絡をとってみます。車を一台お願いできないか・・・聞いてみますね。」
「ははは。すまないね。」
優志の言葉に朗らかに微笑んだ雪の父は、一度ルヴァン達の方へと歩いてゆき、彼らと何かを話し出す。
時折驚いたような表情を浮かべたカーティルスを見ると、深刻な話をしているわけではないようだった。
「家の方にお前達も連絡を入れてきたらどうだ。まだ日が暮れたばかりだとは言っても、外の様子じゃテレビで大騒ぎになってるかもしれん。」
「・・・だろうな。・・・ちょっと俺らも家族に連絡するか。」
「だな・・・。親父には言わなくちゃいけない事もあるし。」
「・・・そう・・・だな。」
ため息交じりに言葉を発した光士に、流星や司たちは顔を見合わせるしかない。
優志はその場から少し離れると、警察署の方へと連絡をとりだす。
電話の先で慌ただしく声が響いているのが聞こえていると、事態はあまり良くないのだなと優志は思った。
「っっとっ!あ、あなた達は何をっ!」
「・・・何だ?」
突然として、病院の中とは思えない程の大声が聞こえだし、携帯を取り出した司は目を細める。
声のした方は処置室の方で、周りに残っていた一般人たちも、大声に驚いて立ち上がりだした。
「っっきゃぁぁっ!」
「こらっ!やめてくれっ!」
「なっなにをっ!」
「っっ!!」
処置台が倒れたのか、大きな音を立てて物が地面を転がる音が響く。
続いてガラス瓶が割れたのか、けたたましい音が中から響きだした。
「奈美っ!お前は此処から離れるなっ!」
「う、うんっ!」
その異様な音に弾かれるように、雪の父やルヴァン達が処置室の中へと駆けてゆく。
ゆっくりと扉が開いた瞬間、人の悲鳴が何処からともなく響きだす。
「まさかっ、こ、こんなところにっ!」
「い、いやぁぁっ!」
「母さんっ!母さんっ!」
開かれた処置室の中は乱雑としており、中から逃げ惑う看護師や一般人が崩れるように出てくる。
同時に耳をつんざく様な警報が頭上で鳴り響くと、一斉に人が外へと駆けだした。
「こ、これは・・・」
外へと逃げてゆく人々を避けるように、優志は遅れて処置室へと駆けこんでゆく。
非常事態となったフロアは、処置室の自動ドアが開いたままになった。
「優志っ!下がれっ!」
「っ!」
中へと駆けこんだ優志の目の前で、バケモノが真っ二つに切り裂かれる。
声もなく姿を消したバケモノの後方には、緑の髪を揺らしたルヴァンの姿が見えた。
広くもない処置室の中では、倒れ込んだ看護師を抱えて司が外へと駆けてゆく。
地面から湧いたように出てきたバケモノ達に、恐怖で立てなくなっている人達を無理に立たせた雪の父は、彼らを出口へと先導する。
「ここは俺らで何とかするからさっ!お巡りさんは誘導をっ!」
「あっ、あぁっ!」
振り上げたこぶしに雷鳴をとどろかせたカーティルスが、糸も簡単にバケモノを蹴散らす。
その姿に大きく頷いた優志は、署の方に連絡を入れようと携帯を片手に、倒れ込んでいた人を担ぎ上げて外へと走り出した。
薄暗い待合室を出て、すぐ目の前に迫った救急の出口へと駆けてゆく。
「・・・え・・・。」
外の明かりが見え、マスコミ達がいるであろう方向へと出た優志は、担ぎ上げた人と共に唖然とした声をあげてしまう。
「ひ・・・ひぃ・・・。」
「な、なんでこんなところにっ!」
街灯やマスコミの持ち込んだ明かりに照らされたバケモノ達は、外へと逃げて行った人々へと一歩一歩と近づいてゆく。
カメラや撮影機材を抱えていたマスコミ達も恐怖におののき、他の者達と身を寄せ合っている状態だ。
テレビで見慣れたアナウンサーの女性は、声も出ないのかマイクを片手に震えあがっている。
「こいつはヤバいんじゃないか・・・?」
病院の外へと続く道を塞ぐように動くバケモノ達を見て、司は苦笑いを浮かべた。