「私の生徒に、よくもまぁ・・・ここまでしてくれたものね。」
柔らかな女性の声が、真っ白になったるりの頭に響き渡る。
瞬きをして周りを見てみれば、唖然と立ち尽くした生徒たちの前に一人の“教師”が立っていた。
迫っていたバケモノ達の姿は一つも見えない。
「せ・・・先生。」
「あらあら、もう大丈夫ですよ。」
泣き崩れた女子生徒の肩を抱いて、“小鳥”は困った様に背中をさする。
何が起こったのか理解できないるりは、同じように立ち尽くした生徒の顔を見るしかなかった。
ふと、水しぶきのような物が顔をかすめたと思った時には、辺りには“何もなかった”。
床や天井は少し濡れており、足元には水たまりが見える。
ぽたぽたと滴れる水の音だけが残り、気味の悪いバケモノの声は響いてもいなかった。
小鳥は女子生徒を助け起こすと、腕をあげて全員の視線を集める。
「さぁさぁ。先生が一緒にいますからね。もう、大丈夫ですよ。」
「・・・小鳥先生。」
生徒たちは口々に安どの声をあげ、歩き出した小鳥の後を付いてゆく。
まるでこの状況とは正反対のような柔らかな笑顔を湛えた彼女は、まだ泣いている生徒を助けながら一行を先導した。
るりも同じように彼女たちの後を追う。
窓の外からは未だに色々な音が響き、事態が集結している訳ではないようだ。
それでも、“人の声”は先よりも小さくなっている。
渡り廊下を通り過ぎ、小鳥を先頭に階段を下りてゆく。
途中バケモノのような姿をちらりと見たが、次の瞬間には水しぶきと共に消え去った。
決まってその瞬間には、小鳥の手がひらりと動いている。
恐らく、彼女が退治してくれているのだろう。
今までの激戦からすると、生徒たちは武器を構えることもない。
「先生も“能力”を持っているのね!」
「すげぇ・・・。」
小鳥のすぐ後ろをついてゆく生徒たちは、彼女を尊敬のまなざしで見ていた。
彼らとは少し離れた位置を歩くるりにはその意味がわからない。
ただ、気味の悪いバケモノの姿を見ることがないだけでも、心は幾分か穏やかだ。
「それ。隠しておいた方がいいかもしれないよ。」
「え?」
ふっと横から生徒に声をかけられ、るりはきょとんと彼女を見る。
女子生徒が指差す先には、首元に光る“赤い石”があった。
るりは彼女に言われるままに、そっと制服の中へと見えないように石を入れ込む。
「気が付いていないのかもしれないけど。“それ”すっごい“力”放ってるみたいだから。気を付けた方がいいと思う。」
「そう・・・なんだ・・・。全然、わからなかった。」
彼女の手には短剣が握られている。
少なからず、周りからは“この石”が不思議な力を持っていると思われているらしい。
だが、実際に所持しているるり自身は、何も感じることはなかった。
「(そういえば・・・流星くんも、大事にしろって・・・)」
教室を出る時に言われた言葉がよみがえり、るりは自然と服の上から石に手を当てる。
思い返せば、“譲ってもらった彼女”さえも“不可思議な存在”だ。
現状のような“理解できない何か”があったとしても、考えればおかしくない。
「さぁ。ここからなら走って体育館へ入れます。急いでっ!」
「はいっ!!」
「や、やっと着いた!」
階段を降り、更に廊下を歩くと、体育館が目の前に迫ってきた。
二階の入り口へと続く外通路が前方に広がる。
その先には、教師たちが大きく手を振ってこちらへ声を向けていた。
下の階でも同様に、教師たちが走ってくる生徒たちへと声をかけている。
小鳥に後押しされるように、生徒たちは走りだし、体育館へと入ってゆく。
「がんばったな。」
「もう大丈夫ですよ!さぁ、中へ!」
中ではすでに大勢の生徒がいるようで、ざわめきが入り口から響いていた。
るりの隣を走っていた女子生徒が、最後の力を降りしきるようにペースを上げる。
自然と後方から来ていた生徒たちも走りだした。
足がうまく動かないせいもあり、るりは出遅れて走りだす。
気が付けば、生徒たちの“最後”を走る形になっていた。
前方では、小鳥が一人ずつ顔を確かめて、先に立っている教師へと合図を送っている。
一人また一人と、屋根のない外通路を駆け抜けた。
それほど生徒たちの感覚は空いていない。
皆が塊になって、入口へと吸い込まれるように姿を消してゆく。
「あれ・・・?」
るりは、何故か走っているのにも関わらず“取り残されていく”感覚を覚えた。
走っているはずなのに、目の前の風景は近づいてこない。
同じ場所をずっと走っているような感じだ。
「なに・・・これ。」
ふっと視線を移すと、青ざめた教師の顔が前方に見える。
何故か小鳥がこちらに走ってくる姿が見えた。
前を走る女子生徒が、体育館へ入る直前に、こちらを振り返る。
彼女の顔は、一瞬で引きつり耳が痛いほどの悲鳴を上げた。
――
出版社の入っているビル入り口。
そこは、まるで別世界のような状態になっていた。
「なによこれ・・・。」
千枝は他の職員と一緒に物陰に隠れながら、辺りの様子をうかがっている。
悲鳴を出さないためなのか、口元にハンカチを当てた者もいた。
スーツを着た男が、うめき声をあげて迫る“バケモノ”に、斧を振りかざす。
バケモノは真っ二つにされると、音もなく散り散りになり姿を消した。
先ほどから、そのような光景を何度も見ている。
受付の女性は手にライフルを構え、同じように迫るバケモノに容赦なく銃口を突きつけていた。
後方では、彼女の援護に入っているのか、弓を射る職員もいる。
まるで、“ファンタジー映画”の撮影を見ているようだ。
だが、どの職員もどの“人間”も、普通に先まで同じ場所で働いていた者達である。
事情が全く理解できない千枝や他のスタッフたちは、物陰に隠れているしかなかった。
それは数時間前に当たる。
ようやく副社長から記事の了承を得た千枝は、意気揚々とチームメイトに報告をしようと急いで歩いていた。
どういう構成で打ち出そうかと、彼女の頭の中は先まであれ程“異なった内容”で打ち出そうとしていた事をすっかり忘れている。
チームメイトには不可思議な表情を一度されたが、それでも否定的な意見は出ることはなかった。
「と。いうことで、ページ数はこの通りなので・・・あとは編集なんだけれど・・・。」
ホワイトボードに文字を書きつつ、千枝はフロアに設置された簡易の会議室から声を出す。
締め切りまで時間がない彼女たちは、できれば本日中にも編集部へと記事をまとめ上げたい。
会議室の中は、今まで以上に緊張しきっていた。
部屋の後方には、すりガラスの窓があり、その先には皆のデスクがあるフロアが広がっている。
どの部署も締め切り日はかなり迫ってきていることもあり、あまり声を張り上げることはできなかったが、それでも気合を入れるかのように千枝は凛とした表情で話していた。
多くの意見を取り込みながら、一枚一枚と原案を書き上げてゆく。
「なんだ・・・騒がしいな・・・」
ふっと、静まり返った会議室の外から、ざわめきのような声が聞こえてきた。
その声はだんだんと大きくなり、悲鳴のような声さえも響く。
「誰か、発狂でもしてるのか?」
「まさか!そんな締め切り前日でもないのに!」
気分を変えるかのように冗談を言ったスタッフに、思わず皆がわっと笑う。
しかし、その笑い声が消えた後も外からの声は一向に消える気配はない。
「っ?!!なんだ・・・よっ!」
いきなりフロア側の壁が外から大きく叩かれ、驚いたスタッフが壁を睨みつける。
嫌がらせではないと思うが、あまりに不謹慎だ。
「ちょっと、一言いってくるわ。」
千枝は組んでいた腕を解くと、苦々しげに会議室の扉へと手をかける。
その間にも、何度も壁は叩かれており、さすがに千枝自身もイライラとしてきていた。
扉に近づけば、外からの声が騒がしい事に気が付く。
大きくため息をついた千枝は、ためらわずに扉を大きく開け放った。
異常な程重たく感じた扉が開かれると、彼女は大きく息を吸い込む。
しかし、目の前の光景が飛び込んできた瞬間、千枝は言葉を無くしてしまった。
敷き詰められたようなデスクの間をぬうように、社員が駆け回っている。
その前には決まって“同じ格好の者”が立ちはだかっていた。
ある社員は手に斧を構え、また他の職員は刀を構えている。
「なによ・・・これ・・・」
「千枝さんっ!・・・・どうし・・・た・・・。」
恐る恐る会議室から出た千枝の後ろから、他のスタッフたちも姿を見せる。
皆一様に言葉を無くし、辺りを見るしかなかった。
叩かれていた会議室の壁へと視線を移せば、誰かの手形がくっきりと残っている。
「夢郷さんっ!ここは危険です!早くロビーへ降りてくださいっ!!」
「えっっ?!!!」
他部署の女性スタッフが、部屋の奥から千枝に声をかける。
彼女は両手に剣を構え、スカートをひるがえしながら、前方に揺らめく“謎の人物”に切りかかっていた。
それは一瞬の出来事の様に感じ、彼女が地面に着地すると同時に切られた者は“影となって散り散りに消えていく。”
「こいつは困ったなっ!そういことかっ!」
「ちょ、ちょっとどういうっ?」
千枝の後方から会議室を出た男性スタッフが、苦々し気に部屋の中を走ってゆく。
彼女は彼に手を伸ばそうとするが、何故か足が動かない。
彼は自分のデスクへと行くと、おもむろに“何か”を鞄から引っ張り出した。
そしてそれは小さく光ると、細身の剣へと変わる。
まるで、手品を見ているようだ。
「千枝ちゃん。とりあえず、ここは“この人たち”に任せて、俺たちはロビーに行こう!」
「えっっ??」
困惑する千枝の手を無理矢理とると、先輩の編集記者が片手に斧を持って走りだす。
千枝が言葉を発する暇もなく、彼はフロアの入り口へと走って廊下へと出た。
その後ろを、同じように困惑したままのスタッフたちが走ってくる。
エレベーターは使用できないのか、ランプが消えており非常階段へと一行は走る。
途中、同じように武器を構えた社員や別会社のスタッフと何人もすれ違った。
「これ、どういう!!なんなんですかっ!!」
千枝は何も言わずに階段を駆け下りる編集記者に、声を荒げて問いかける。
しかし彼は彼女の質問には答えようとしない。
「あの!彼らは他会社の特集やテレビで見た“怪事件”の人物なんじゃ?」
「だったらスクープですよ!!あぁ、機材が無いとっ!」
後方からは困惑しながらも、後輩たちが“仕事をしなくては”と足を止める。
千枝も一向に話さない彼をおいて、足を止めた。
そして、来た道を戻ろうと振り返ろうとする。
「馬鹿野郎!!お前達、“死にたい”のかっ!!!」
「っっ!!!!!」
非常階段のホールを包むくらいの大声に、千枝や他のスタッフは弾かれるように彼を見る。
表情はとても鋭く、相当怒っているのか顔が真っ赤だ。
斧を持った手は小さく震えている。
「あの・・・それは・・・どういう・・・」
「 “丸腰”のお前らが相手にできる“バケモノ”じゃないっ!!今は逃げることを考えろ!!」
「・・・・。」
理由など解るはずはない。だが、彼の異常な程の怒った表情に千枝たちはうなずくしかなかった。
そしてまた、彼を先頭に一行は階段を駆け下りてゆく。
何度も何度も同じ階段を降りてゆくと、今自分たちがどこにいるのかさえも不安になった。
心なしか、少し吐き気さえも感じる。
「出口だ!お前ら、俺から離れるんじゃないぞ!!」
千枝は非常口の出口を見て、小さく頷く。
後方から他のスタッフたちが駆け下りてくる音が聞こえてきていた。
気が付けば、さらに上の階からも階段を降りてくる靴の音が響いている。
皆一様にロビーを目指しているようだ。
「こっちはだいぶ、落ち着いてるなっ!!」
「つい先、なんとか・・・なっ!!」
一行を誘導するように広いフロアへと出た男性職員に続いて、千枝も肩で息をしながら非常階段口から出てゆく。
思わず足を止めてしまうと、額や背中を大粒の汗が拭きだした。
後ろから続いてきたスタッフたちも、壁に寄りかかりながら息を切らしている。
額に出た汗をぬぐい、千枝は一階フロアをゆっくりと見た。
大きな入り口付近の方向からは、銃声や金属がすれる音が聞こえてくる。
「入り口を頑なに守られていてな!」
「そうですか・・・。」
物陰に隠れるように彼から指示を出されると、千枝は後ろにいたスタッフたちに目配せをして近くにあった棚の後ろへと身を隠す。
次の瞬間、前方から複数の“漆黒のローブを羽織った者”が現れ、うめき声を上げだす。
その姿に驚いた後輩の女性が、思わず小さな悲鳴を上げた。
昼間の明かりを前面から受けた“ローブの中身”は、まるでノイズが走っているかのように“暗黒”しか映らない。
人の顔さえも見えず、手さえも“影”のようだ。
「せぇぇぇい!!!」
気合を入れるかのように大声を出して、今まで先導してくれた男性職員が斧を振り上げる。
力強く振り降ろされた斧によって、悲鳴一つ上げることなく“バケモノ”は散り散りに消えた。
「確かに・・・とても、“仕事”できる状況じゃないっすね。」
「・・・えぇ。」
震える後輩スタッフの肩を抱きながら、千枝はゆっくりと棚の後ろから姿を現す。
周りに同じようなバケモノの姿が無い事を確かめて、一行はロビーへと向かった。
入り口の大きな窓ガラスに照らされながら、ロビーへと入りこむと、更にその状況に千枝は声を失ってしまう。
大勢の職員と、それと同じくらいの数がいるバケモノ。
彼らはどちらも一歩も譲らず、激戦を繰り広げている。
まるで、別の世界にでも迷い込んだかのような状況に、千枝は他のスタッフたちは震えた。
先導していた男性職員は近くにいた女性職員に声をかけると、斧を構えてその“戦地”へと走ってゆく。
先よりも動きの早いバケモノと対戦し、彼は何度も刃先をかざしていた。
「これ・・・どういうことなの・・・なんなの??」
「先輩、落ち着いてっ!」
「あ。あなた・・・。」
混乱して発狂しそうになった千枝の肩を、長銃を持った後輩スタッフが声をかける。
スーツ姿に持った長銃はあまりにもミスマッチな光景だ。
彼女は小さく頷くと、手を振って他のスタッフを呼ぶ。
そちらの方向へと振り向いてみると、自分たちと同じように“武器”を持っていないスタッフたちが物陰に隠れているのが見えた。
皆同じように、不安げな表情で辺りを見ている。
「先輩たちもあちらへ!これより先は大変危険です。」
「ねぇ、どういうことか・・・お、教えてくれない・・・?」
「・・・。」
震える声を抑えながら、千枝は彼女の肩を小さく揺さぶる。
少し考えたような表情をした彼女は、千枝の顔を見ることなく沈黙を保っていた。
「申し訳ないです。でも“上の方々”からの許しが無い限り、我々は何も言えないんです。」
「“上の方々”?と、統括する人たちがいるの?」
「・・・。」
質問をぶつけて、彼女から情報を得ようと千枝は試みてみるが、彼女はそれだけ答えると押しやるように指を向ける。
早く行ってくれ。という意味なのだろう。
「・・・わかったわ・・・。」
千枝は重く言い放つと、他のスタッフを連れて走ってゆく。
後方で彼女が小さく頭を下げた事に、千枝は気が付いていなかった。
――
「いやぁ。ドンパチドンパチ・・・やってくれたものだ。」
苦笑いを浮かべながら、エナミは両手に炎を宿らせ、自室に入ろうとしたバケモノを焼き払う。
彼は“変装”を解除して、目の前で槍を放ったヒーリカの後ろをついてゆく。
後方になった副社長室の扉に“厳重に鍵”をすると、エナミはパチンと指を鳴らして残ったバケモノを業火で燃やしてしまった。
「ど派手にやってくれてるみたいね。この市内全土に出てるみたいよ?」
「そりゃぁ・・・なんとも。」
自立して動く槍の束を動かし、ヒーリカは道をふさぐバケモノをいとも簡単に倒す。
二人は非常階段を“すり抜ける”と、勢いをつけて上層階へと飛び上がる。
床をすり抜け、さらに勢いをつけると屋上の庭園へと着地した。
「お。あんたらも来たのか?」
「やっほ~。」
そこには、“見慣れた”人物が二人たたずんでいる。
彼女たちは地面からはい出てきたバケモノを一括すると、ヒーリカ達に駆け寄ってきた。
「ユナ様も、ヒスイ様も。ご無事でなによりです。」
「あ。そういう言い方は勘弁。」
「私も勘弁ね。」
「そう・・・なんですか。」
姿勢を正したヒーリカに対して、ユナとヒスイは首を横に振る。
小首をかしげて不思議そうにしているヒーリカをよそに、エナミは自分の“端末”を起動させてビルの中を見ていた。
「あー。うちの社員に手を出すのはやめてもらいたいね。うん。やめてもらおう。」
彼はそう言うと、キーボードを出現させて何かを打ち込む。
開け放たれた窓から、大人たちの悲鳴や怒声が響いていたが、それが一瞬にして静寂へと変わる。
彼は庭園からふわりと足を浮かすと、柵から身を乗り出して下を覗いた。
「うんうん。うまくいった。うまくいった。」
「どっかの誰かも派手にお怒りなもんだな・・・。」
ユナが同じように柵から身を乗り出して視線を落とす。
そこには、ビルの入り口から大勢の職員が雪崩のように外へと出てゆくのが見えた。
目の前にはパトカーが何台も止まっており、職員と入れ替わるように警察官が入ってゆく。
「 “残党”警察さんたちは見つけられるかなぁ?」
「さすがに“一時的”に消し去ってみたけれど・・・“出してきている親玉が集結”させない限りは、中で対峙するだろうね。」
「・・・そうか。」
エナミは端末へと視線を戻して、内部に残った職員の数を確認してゆく。
どうやら上層階で残っている者はいないらしく、皆数分後には一階にたどり着けそうだ。
「ど派手に攻めてきているってことは・・・“大きく動く”前兆ってことなのか?」
「恐らくはね。・・・昨晩から酷く“騒がしくなった”って連絡が入ったわ。」
「・・・。」
ヒーリカも自らの端末を起動させて、通信を開始する。
空中に浮かんだ彼女は、複数の“画面”を起動させてから、ヘッドセットを装着した。
「こちら、ヒーリカです。現状はこんな感じ。・・・ブレア・・・そちらは?」
「―最悪ね。なんとか“外部”に情報が漏れないように“ネット”や“メディア”には“改ざん”を施しているけれど、時間を追って増えているわ。」
「そうなのね・・・。」
画面の向こう側で、多くのスタッフが黙々と作業を進めているのが見える。
目の前で通信をしているブレアでさえも、その手は止まることが無い。
「さっすがに・・・。これは“状況説明”が必要になるだろうな。」
「 “部外者”に説明無しでは終わらないだろうさ。」
「はい。見なかったことにしてくださぁい。とはいかないさぁ。」
勢いをつけて飛んだヒスイは、強風を纏いながら辺りを飛びまわりだす。
少し離れたところで、テレビ中継用のヘリが飛んでいるのを見つけると、彼女はそちらへと飛び去って行った。
「―とりあえず、事態の収拾をとにかく一番に動いてちょうだい。時間が過ぎるだけ“悪化”は防げそうになさそうだわ。」
「でしょうね・・・。バケモノ共の“分布”も増えすぎてるくらいだもの。」
ヒーリカが片手を大きく回すと、上空を漂っていた銀の槍が四方八方へと飛び去ってゆく。
彼女はブレアと一言二言会話をすると、端末を閉じて地面へと降りた。
上空ではヒスイの作り上げた強風が音を立てており、先ほどまで飛んでいたヘリが、はるか遠くへと風を避けるように飛び去って行くのが見える。
「少しくらいは、“手助け”しないとね。」
「かなりの手助けよ。・・・ありがたいわ。」
ヒーリカは一向に動かないエナミを見上げてから、ヘッドセットへと手を向けた。
「エナミ。この辺はあんたに任せていいわよね?」
「え?・・・あぁ。いいよ。ヒーリカは?」
端末を操作していたエナミが、彼女へと視線を向けずに問う。
ヒーリカはヘッドセットに手を当てながら、にこりと微笑む。
「新しい助っ人さんのご活躍を見させてもらう予定よ。」
――
体育館の中は、人で溢れていた。
入り口から大勢の生徒たちが入ってきており、更に人数は増え続けている。
「まったく・・・無茶しすぎよ。」
「無茶も必要な時がある!」
「この状況で言える口か・・・?」
担架で運ばれてゆく流星の横で、奈美と光士が大きくため息をつく。
流星は力なく笑うと、奥の救護室へと運ばれていった。
彼の足は腫れ上がっており、傷が悪化していることを示している。
そそくさと包帯を持った生徒が扉を閉めて、中が見えなくなった。
奈美が後ろを振り向けば、中央では魔法陣を囲んでいる生徒たちが見える。
その横では、泣き崩れている女子生徒たちの姿も確認できた。
「 “伝承”・・・だと思ってたんだけど・・・ね。」
「誰も“こんなこと”になるなんて、思ってなかったさ。」
外から入ってきた生徒を招き入れ、怪我をして担がれた生徒が向かってくる。
彼らは流星と同じように救護室へと運び込まれていった。
「雪ちゃんと翼は?」
「先聞いたけれど、二人とも“増援”と一緒に“探している”らしいよ。」
「そう・・・なんだ。」
光士の言葉を聞いた奈美は、大きくため息をつくと近くにあった椅子へと座り込む。
彼女は何も言わずに、じっと前方を見ていた。
「あたし・・・何かできるかな・・・って思ったけど。無理だったな。」
「そんなこと言うなよ。俺だって・・・同じなんだ。」
二人はそれから何も言わずに、入り口から次々に入ってくる生徒の顔を見る。
しかし、“待ち人”の姿は一向に見えない。
「小鳥先生が付いているから安心だとは思うけれど・・・。」
「・・・うん。」
光士はふっと視線を泳がせて、二階の入り口へと視線を向ける。
何故か一階よりも大声をあげている教師たちの声が、妙に耳に付いた。
「るりちゃん・・・。無事でいて・・・。」
奈美がぽつりとつぶやいた瞬間、けたたましい悲鳴が二階から響いた。