病院からの帰路。
近場の病院だった事もあり、徒歩で帰路へついたが、頭の中はバッグの中の異物のことでいっぱいだった。
普通ならなんでこんなおもちゃが?と気になどしないところだが、昨日の怪物のことを思うととても関係がないとは思えなかった。
あれは間違いなく「仮面ライダー龍騎」に出ていた怪物だ。このカードケース(Vバックルだったか)が関係ある可能性は高い。
それにしてもなんで俺が持ってたんだ?なんて事を考えている内に目的地に着いていた。
自分が思っている以上に上の空だったらしい。
店内の有様は外からも見て取れた。
壁や床は抉れ、陳列棚は歪に轢き潰され、品物だったであろうものはあちこちに散乱しているといった状態で、自分の身に起きたことが現実ということをありありと見せつけてくる。
稼働していない自動ドアを押し開け中に入ると、店長が総菜だった何かを片付けている最中だった。店長は、こちらに気付くと小走りで駆け寄ってきた。
「木瀬君~!大丈夫かい?いやほんと心配したよぉ~……!」
くたびれた中年という説明の似合う53歳は、いつも通りの見た目にそぐわない間延びした声だ。
心配の言葉をシャワーのように頂戴するが、とりあえず遮り、本題について聞いてみることにした。
「すいません、ご心配おかけしまして。で、あの実際のところ、何が起こったんです?警察にも話したんですけど記憶がかなり曖昧で。」
「実はねぇ、僕もよく分からないんだよね。」
これは駄目かもしれない。
「裏で作業してたら突然凄い音がしたから、確認しに部屋出たらパートさんとかも皆倒れてて…。で、売り場まで行ったらこんな風になってて木瀬君がそこに倒れてたわけ。」
そう言って店長は一際壊れ方が激しい場所を指さした。
そこが食玩コーナーだったことを、依然天井にぶら下がる案内板は示していた。俺が覚えている最後の記憶と一致している。
しかし、その破壊痕は異常だった。床には黒く焦げ跡が残り、まっすぐ放射線状にクレーターができていた。
俺が意識を失った後に何かがあった……?
自分が知らない事の顛末に眉間の皴を作っていると、今度は唐突に店長から切り出してきた。
「そういえば、アレってやっぱ木瀬君のだったのかい?」
「アレってなんです?」
「龍騎のバックルだよ~、あの黒いヤツ。君が倒れてるのを見つけた時握ってたから君の荷物にまとめたんだけど、もしかして落とし物だった?」
驚いた。あれは俺が襲われた最中で持っていたものらしい。
「あぁ、あ、そうですそうです。あの~あれお守りなんですよ、昔からの。」
そう言って誤魔化す。「てかよく『龍騎の~』とか知ってましたね。」と世間話の流れに戻し、片づけを手伝いながら十数分話して店を後にした。
とりあえず店に寄って得た収穫は二つだった。
実生活としては「今後、当分の店でのバイトができる状態じゃないこと」。そして、今回の事件に関して、「あのバックルは怪物が現れたことと関係しており、異常な代物である可能性が強まった」ということだった。
俺が手に入れたこのバックルは、テレビの中の存在の力を手にできる代物かもしれないのだ。
信号待ち。丁度右を向くと、写真店のショーウィンドウが夕日に照らされ俺の姿を映し出されていた。
今ここでバックルを翳すと……、と考えたところで不安がフラッシュバックする。
今にも目の前に迫り来る鈍色の巨躯。鏡の奥からあの化け物が来ると思うと好奇心はたちどころに掻き消えてしまった。
バックルをバックに直すと帰路に向き直る。
できるだけ考えないようにしよう。
そう気持ちに整理をつけ、歩き出した時だった。
『君、糸屑がついてるぞ。』
その声は、先ほどまで覗いていたショーウィンドウからのものだった。