KAMEN EROSION   作:畑中拓海

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Through the Looking mirror -2

「今の声……なんだ?」

 

魅かれるかのように鏡の前へと立ち戻る。

自身の行動の危険性を訴えるかのように5時のサイレンが鳴り響いた。

 

夕日に照らされ、映る自分の姿にこれといった違和感はない。

 

幻聴かな、昨日からいろいろありすぎたし…。

 

一度落ち着こうと目を閉じ、深く息を溢す。

あるわけがない、鏡の中の怪物なんて、ましてやフィクションの…。

 

目を開きと帰路へと向き直ろうとした。

その時だった。

 

「あ…」

 

肩にかかる圧。明らかに握られたとわかるそれに目をやる隙も無くそれは計画を実行した。

後には、夕空に呑まれた赤信号と薄っすらと登り始めた朧月だけが残っている。鏡面(ショーウィンドウ)は何事もなかったかのように凪いでいた。

 

 



 

狩人は燃えていた。

無論、感情の有無は定かではない。だが、昨日のミスを取り返す行動に熱が入るのは意思があるものならば当然だった。

リベンジマッチ(・・・・・・・)。仕損じた獲物を喰らわんと、捕食者は反転した大地を抉り、跳躍した。

 

 

 



 

 

声すら出なかった。

目の前には反転した世界が広がっている。変わらぬ風景の中で、文字というのは的確に世界の異質さを伝えてくれた。

もはやこの状況を夢や幻想で片付けられるほどの気力は残ってはいなかった。

しかし、なによりも気力を失わせたものはこの世界ではない。

 

 

「さて君、昨日ぶり。覚えてはいないだろうが。」

 

と、いきなりこう語りかけてきたこの存在だ。

俺をこの世界に引き摺り込んだ犯人。だが、それはすぐに些細な問題になった。

 

その姿が問題だったのだ。

 

 

最悪だ。

 

 

親戚集まりで出会った2,3年上の男の子から見せてもらったアドベントカード。

今でも覚えている。ライアのファイナルベントだ。

それがきっかけだった。

それがきっかけで龍騎を見始め、そして今、そこにいる奴が原因で見るのをやめたのだ。

 

正直なところ、ミラーモンスターだけならまだ問題なかったのだと思う。それは、昨日までは現実ではなかったのだから。

だが、そいつは人だった。

こんな人間が鏡から出てくることに恐怖したのだ。

 

 

それは語り続けている。

「おい、聞いてるかい…? まぁ、いいか。じゃあ単刀直入だが、変身しろ。やり方はわかるか?」

 

焦燥感で回りの音が届かない。考えがまとまらず、本能だけが身体を突き動かす。

 

このままだと俺も殺される。生きなくては。生きるには。

 

どうしたらいい?

 

神経が凝縮されて押し出されるように、バックの中のそれを俺は掴んでいた。

 

俺は生きる。戦わなければ生き残れないなら…。

 

デッキをかまえ、正常な世界映る窓へと突き出した。

 

戦うしかない!

 

ベルトが幻影のように現れ、そこにデッキを差し込んだ。

 

 

「変身!!」

 

 

「よし、お見事。」

 

ソイツはこちらを見ながら満足げに手を打ち鳴らした。

 

 

木瀬はソイツに背を向けたままベルトからカードを抜き出しドラグバイザーにセットした。

戦いへと背を押すのは紛れもなくに恐怖だが、すでに覚悟は決まっている。

そのせいか、不思議と変身というものへの違和感は全く感じなかった。むしろしっくりとくる、とすら言えるほどに。

 

『ソードベント』

 

「お、なかなか臨戦態勢じゃないか。関心な心掛け…」

 

ドラグレッダーから放たれた剣を掴み体を切り返すと、そのまま近寄ってきたソイツを切り付けにかかる。

 

「って危ねぇ!!?」

 

首元を狙ったが避けられた。

攻撃の手を休めはしない。今のミスが焦りを後押しする。

 

「おいおい!待て待て待て!さっきも言ったが今こんなことやってる場合じゃあ…。」

 

剣を振りかぶったその時。

上空だった。

全てを遮るように影が二人を飲み込む。

 

 

直後、世界が一周する。

首を捕まれ放り投げられたのだと気づいたのは、道路と目を合わせた時だった。

 

破壊音が元いた場所から響いてくる。

「だから『糸屑が付いてる』って言ったろ!こいつが昨日からお前を狙ってんだよ!」

 

巨大な蜘蛛。昨日と違うのは頭の部分から人の上半身のようなものが生えていることだろう。

対峙するのは、紫の蛇。杖で蜘蛛の一撃を受け止めている。

 

 

それはテレビの中の世界だった。


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