魔族と人間が共存する世界に何をなせるか?(仮タイトル) 作:ローファイト
学校帰りの学生服姿の男女が、街路樹の影が掛かった歩道を歩いていた。
暁古城と姫柊雪菜だ。
「姫柊、うちで飯を食ってけって凪沙からメールが来てる」
「そんな、そう頻繁に悪いですよ先輩」
「別に気にすんな。お前にはいつも助けられてるからな」
「凪沙ちゃんにも迷惑がかかりますし」
「2人分作るのも、3人分作るのも大して変わらないし、凪沙も姫柊と一緒に夕飯を食いたいんだろう」
「その……ありがとうございます」
「その代わり、夕飯の食材を買うのを付き合ってくれよな」
「もちろんです。先輩の監視役ですから、どこにでもついて行きますよ」
暁古城と姫柊雪菜は、監視対象者と監視者という立場ではあるが、それを超えて奇妙な関係を気築いている。古城の妹凪沙にはこの事情を伏せているが、その凪沙はクラスメイトでお隣さんの雪菜を気に入っており、親しい友人の一人として見ていた。
今のこの二人が隣り合って歩いている姿は、まるで恋人同士に見えるだろうが……
最初の頃は、古城が歩く後を、コソコソと付け回す雪菜という感じではあったが、一週間前の事件以降、こうして並んで歩くようになっていた。
買い物を終わらし、自宅マンションに戻った古城と雪菜。
雪菜は一度自宅に戻り、何時も肌身離さず肩に下げてるハードギターケース(雪霞狼という対魔族用の槍が収納されてる)と鞄を置いてから、制服姿のまま隣の古城の家に行く。
既に古城の妹、凪沙が台所に入って、料理の準備をしていた。
暁家は4人家族だが、両親ともに仕事の関係で滅多に家に帰ってこない。
料理は古城と凪沙が交代制で作っていた。
「雪菜ちゃんは座って待ってて」
雪菜は凪沙を手伝おうとしたが断られ、リビングのソファーに座ってる様に言われる。
手持ち無沙汰になりながら、ちょこんとソファーに座る雪菜に、古城が冷たいお茶を出す。
「そういえば、うちのクラスに副担任が新しく赴任したんだけどな。その新任教師が……」
古城が雪菜に何か世間話でもしようとしたのだが……
ガタン!ガタガタガタ!
隣から大きな物音がする。雪菜が住む部屋とは反対の隣の部屋(家)からだ。
「凪沙、隣の家の石田さんは、確か1週間前に引っ越したよな。新しい人でも来たのか?」
「うーん。聞いてないよ」
「まさか泥棒か?」
ガタンガタン!
『あーーー!!アリス!!ここではライオンはダメだって!!直しなさい!!』
『ガルルルル!!』
『ていっ!!ブリキの兵隊もダメ!!』
隣から若い男の大きな叫び声が聞こえるが、古城はその声を最近どこかで聞いたことがあるような気がした。
「ど、泥棒じゃなさそうだな」
「でも、古城君。ら、ライオン!?」
古城はホッとし、凪沙は驚いていた。
因みに凪沙は兄と父を君付けで呼んでいる。
「へー、このマンション。ライオン飼えるんですね。見てみたいですね」
雪菜はそんな事を真面目な顔で言っていた。
「雪菜ちゃん。マンションでライオン飼えないから!てか、普通居ないから、それ本気で言ってる?」
「姫柊、どこの世界でライオンが飼えるマンションがあるんだよ。しかもライオンは絶滅危惧種だぞ!」
凪沙と古城は呆れた顔をしながら、雪菜に思いっきり突っ込む。
「そうなんですか?」
雪菜は閉鎖的な環境で育った影響で、かなり世事に疎い。
そんな事情から、こんなボケた事を度々言葉に出してるため、学校のクラスメイトからも天然が入ってる子という認識をされていた。
ピンポーン。
暁家にチャイムが鳴り響く。
「古城君出て!」
「はいよ」
古城はインターホンのカメラを使わず、直接玄関を開け来訪者に対応しようとした。
扉を開けると……
「あ、あんたは!新任のナンパ教師!?」
そう、玄関の前に立っていたのは、今日いきなりナンパまがいな自己紹介をした、あの横島という新任教師だった。
「よっ!ここお前んちだったんだな!今日となりに引っ越してきた横島だ。よろしく!えーっと」
「…暁古城です」
「暁古城……古城か、学校でもよろしくな。それとこの子が妹のアリスだ。自己紹介は?」
横島の後ろから、黒のゴシック調の服を着こなした小学生中学年ぐらいの少女が顔だけを出し、恐る恐る自己紹介をする。
「アリスです。お、お兄ちゃんの妹です」
「なになに、古城君!お隣さん新しく引っ越してきたの?」
凪沙が古城の驚く声とやり取りする声が聞こえ、料理の手を休め、玄関まで足早に来た。
「ああ、そうなんだが、その……」
古城はそんな凪沙に、隣に引っ越してきた人物が意外な人物だっただけに、曖昧に返事をする。
「隣に引っ越してきた横島だ。それと、今日付けで私立彩海学園高等部1年B組副担任に就任したんだ。えーっと、君とその後ろの子は?」
横島は後から現れた凪沙と、その後ろで玄関の様子を伺っていた中等部の制服を着たままの雪菜に向かって、自己紹介をする。
「え?古城君のクラスの副担任の先生?私は古城君の妹で、中等部3年生の暁凪沙です」
凪沙は驚きながらも自己紹介をする。
「私は凪沙さんのクラスメイトで、ここの隣に住んでます姫柊雪菜です」
雪菜も凪沙にならい自己紹介をする。
「おお?みんな同じ学校か。よろしくな。ほら、アリスも……」
「あ、アリスです」
「かわいい!!古城君!!この子凄くかわいい。まるでお人形さんみたい!!」
はしゃぐ凪沙にアリスは横島の後ろに隠れ、恥かしそうに顔を隠す。
「………」
雪菜は、挨拶をする横島を下から上へと目を鋭くして、見据えていた。
そんな中、アリスは横島のズボンを後ろを引っ張り、上目使いで一言。
「……お兄ちゃん、お腹すいた」
「作るからちょっと待っててくれ」
横島は苦笑しながら、アリスに返事をする。
「よかったら、夕飯一緒にどうですか?」
そんなアリスと横島を微笑ましそうに見ていた凪沙は、この二人を夕飯に誘ったのだ。
「初対面なのにいいのか?」
「いいですよ。丁度今から作るところでしたんで、古城君がお世話になるし。アリスちゃんとも仲良くしたいですしね。ねー」
「アリスもいい?」
横島が後ろにしがみつくアリスにそっと聞くと、アリスは恥ずかしそうに頷く。
「じゃあ、お言葉に甘えるか」
こうして暁家で、横島、アリスを加え、お隣さん歓迎会という名目で5人で夕食をとる事になったのだ。
凪沙は、終始興味深そうに、横島とアリスに質問攻めをし、横島は笑いを交えながら返事をする。
アリスは、恥ずかしそうに横島にくっ付き、頷く程度であった。
古城ははしゃぐ凪沙に苦笑しつつ、横島という人間が悪い人ではなさそうだという印象をもった。
雪菜はあまり会話に入らず、横島とアリスを探るように見ていた。
自室に戻った雪菜は、今日一日の古城の監視報告書を作成しながら、思いに深ける。
(このタイミングで、第四真祖である暁先輩の隣に引っ越し、しかも学校の副担任に就任。横島忠夫。やはり、第四真祖を監視するためにどこかの組織が派遣したエージェントであると見た方がいいでしょう。気を探ってみましたが、どう見ても人間ですね。妹さんは不思議な感じがありましたが、反応は人と同じ。という事はいずれかの夜の王国(魔族の国家)や魔族結社の差し金の可能性は低いでしょうね。獅子王機関とは別口の日本政府別組織の攻魔官?いえ、軍?……日本本国から飛行機で来たと本人は言ってましたが……もしかすると、流暢な日本語を操っておりましたが日本人を装った他国のスパイかもしれません。いずれにしろ、獅子王機関に横島忠夫なる人物を検索してもらい、指示を仰いだ方がよさそうですね)
雪菜は横島を、第四真祖暁古城を監視、又は何らかの目的で接触を図る組織のエージェントと疑っていたのだ。