魔族と人間が共存する世界に何をなせるか?(仮タイトル)   作:ローファイト

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続きです。


③その男ロリコンじゃない(ハズ)

「えーっと、俺の担当は数学だよな。教科書はと……おーい、今どこまで行ってるんだ?」

1年B組の教壇に立つ、ジーパンにTシャツ姿の年若い新米教師は、慌てて教科書を捲りながら生徒に聞く。

 

「横島先生。43ページです」

 

「おっ、助かった!ありがとな、後でお茶でもどう?えーっと」

 

「築島倫です。先生、そう言うの良いんで、早く進めてください」

 

「……ド、ドライだな……43ページ。い、因数分解?……どうやるんだっけ?」

数学教師のハズの新任教師横島は、因数分解の数式を見て、焦りだす。

 

「「「はぁ!?」」」

生徒全員が一斉に呆れた声を出す。

 

「いやいやいや、ちょっとまて!基本に立ちかえるんだ。1+1=2 1-1=0 1×1=1………」

横島はそんな生徒の呆れた声に待ったを掛け、教科書を物凄い眼力で睨みつけながら、小学生低学年レベルの算数問題を口ずさみ始めたのだ。

基本に立ち返るのは良いが、立ち返り過ぎているようだ。

 

「「「………」」」

生徒達は呆れて声も出ない。

 

「古城。あの教師大丈夫なの?」

「知らねーよ」

「あんたの家の隣に引っ越してきたんでしょ?」

「俺も昨日会ったばっかりだ。話した感じは悪い人じゃなさそうなんだけどな」

コソコソと浅葱と古城は教壇でぶつぶつ言ってる若い教師を見ながら話していた。

 

 

「ビッグバーンが起こる前の宇宙は細密充填の面心立法の可能性があるからπ/√18≃0.74048……」

壇上の教師はぶつぶつ言いながら黒板に膨大な見たことも無い数式を書き出したのだ。

 

「……おい、浅葱、あれは何をやってるんだ」

「あの教師おかしいわよ。因数分解できないくせに、ケプラーの予想証明を解きだしたわよ」

「なんだそりゃ?」

「そんなのもわからないの古城は?数式証明の難関の一つで、400年かけてようやく解かれた証明式よ」

「普通の高校生がそんなもん知るか!」

浅葱は天才的なプログラマーであり、数式を見ただけで理解できる脳を持っていたのだ。

浅葱にとって、数字は馴染みあるもので、難問数式をすらすらと説き始めた横島を見て感心しだしていた。

しかし、黒板に書かれた数式は、古城や一般の生徒にとって、何をやってるのかさっぱりわからないだろう。

 

「おお!?わかったぞ!因数分解!あはっあははははっ、じゃあ、授業はじめるか」

 

(((ええーー?因数分解ってこんなに複雑怪奇だったっけ?)))

生徒達はその膨大な数式を見て驚き、呆れ果てていた。

 

結局、その日の数学の授業はその若い数学教師、横島が因数分解を思い出すために殆どを費やしていた。

 

 

 

放課後……

「横島先生っ、中等部でなにやってるんですか?」

凪沙は昨日隣に引っ越した兄の古城の副担任である横島が、何故か中等部の校舎でうろついているところを見かけ、声を掛ける。

 

「おお!?凪沙ちゃんと雪菜ちゃんか……いや~、ちょっと笹崎先生にご挨拶をと!」

 

「先生は多分、体育館の準備室ですよ」

 

「ビンゴーー!?じゃね~凪沙ちゃんと雪菜ちゃん」

横島はそう言って雪菜が指さす方向へ、物凄いスピードで走り去った。

雪菜はその後姿をいぶかし気な目で見ていた。

 

 

そして中等部の体育館2階にある準備室では……

「ボク高等部新任教師の横島!中等部一の美人と噂に高い笹崎先生!帰りにお茶でもいかがですか!」

 

「あの、校内で困ります。横島…先生?……昨日、那月先輩の副担任で赴任して来たって言う、生徒にいきなりナンパした新任教師の横島先生?」

 

「げっ、もしかして……笹崎先生は……なつきちゃん先生とは仲良しだったり?」

 

「げっ、とは何だ横島……貴様、昨日ナンパを禁止させたはずだが」

何時の間にやら南宮那月が横島の後ろに現れ、厳しい口調で横島を問いただす。

 

「でたな。なつきちゃん!生徒へのナンパは禁止されたが!教師へのナンパは禁止されてな――い!?しかも大人どうしは自由恋愛だ!!」

こんな事を堂々と語る横島。

 

「笹崎……こいつを殴って良いぞ」

那月は横島を睨みつけ、こんなことを言う。

 

「那月先輩いいんですか?」

 

「私が許可する。幸いここの体育館2階には生徒は滅多に来ない。最悪殺してしまっても良いぞ」

 

「先輩の指示では仕方ないですね。では、死なない程度に」

 

「な…何を物騒な、なつきちゃん先生?冗談ですよね。いやだな笹崎先生も何を?グボべーーー!!」

 

笹崎先生の拳が目にもとまらぬ速さで横島の鳩尾に突き刺さり、横島の体は九の字に体が折曲がる。

 

笹崎岬、彼女は中等部の教師である前に、武術と仙術の融合格闘術、四拳仙の達人であり、仙姑の異名を持つ程の実力者だった。

その笹崎岬に横島は滅多打ちにされる。

 

「グハ!?グボーーー!!……ちょっちょっまったーーーー!しゃ、しゃれにならない!!ひえーーー!!、アガガガガ!?」

 

「ほほう。貴様。これで気絶しないとは根性だけは中々あるではないか」

那月は扇を片手に目を細めていた。

 

「ガボ!?なつきちゃーーん。もうしないから、許して――――!?」

 

「何度言ったら分かる。上司を子ども扱いするなと。笹崎、ちょっとこいつを私の部屋に連れてきてくれ」

 

「ごめんなさいね。新任の横島先生。先輩には逆らえないと言うか……」

こうして、ボロボロになった横島は、南宮那月の部屋、何故か学校の最上階に位置する場所の豪華絢爛な広い個室に連れていかれた。

 

 

そしてカーペットの上に正座をさせられる横島。

どこの世界でも横島の扱いはいつも同じのようだ。

先ほどまでボコボコにされ、傷だらけだった体は元に戻っていた。

 

那月はその小さな体に不釣り合いな大きなリクライニングチェアーに座り、メイド服を着た中学生位の少女に紅茶を入れて貰っていた。

「アスタルテ、こいつがおかしなマネをしないように縛っておけ」

 

「アクセプト」

アスタルテと呼ばれたメイド服の少女は無表情に那月に返事をし、横島を丈夫そうな紐でぐるぐる巻きにする。

この少女は、一から人の手で作られた人工生命体、いわゆる人造人間だ。先日の事件で捨て駒のように使われていた所を暁古城らに助けられ、今は攻魔官である那月の監視下にある。

 

「アレ?なんか久々の感覚っ!?って、なつきちゃーん、悪かったって!!謝ってるのにーーー!?」

横島はアスタルテにぐるぐる巻きにされながらも、意外と余裕そうだ。

 

「ふう、横島忠夫。確かに日本本土からこちらで教師になるように手続きがされている。書類上には不備は見られない。だが、このタイミングで絃神島のこの学校に、私の副担任になるとはどうも解せないな。貴様、何者だ?」

そんな横島の叫びを無視し、手元のタブレットを操作しながら、横島に尋問のような質問をする。

どうやら、那月は横島をナンパの罪で折檻するために連れて来たのではなく、横島の素性を怪しみ、尋問するために連れて来たようだ。

那月は私の副担任とは言ったが、実の所、第四真祖暁古城クラスの副担任として赴任してきたことを問題視していたのだ。ただ、横島の素性は疑いはしているが、はっきりとはしていないため、こんな言い回しをしていたのだ。

そして、南宮那月は暁古城が第四真祖であることを知る人間の一人だった。政府からの指示で攻魔官南宮那月として、第四真祖の監視役も担っていたのだ。

 

「何者かって、言われても横島忠夫なんだけど、……そういうならなつきちゃんだって、うちの妹と同じぐらいの年恰好の癖に教師なんておかしいだろ!」

 

「貴様堂々とまあそう言う事が言えるな。こう見えても私は26歳なのだよ。この体はな、とある事情で成長が止まったままでな」

 

「うーん。心は26歳……でも体は10歳くらい。いや、流石に……しかし、体は26歳で心は10歳とどちらかと言われると……心が26歳の方が、いや流石にうーん」

横島は縛られたまま、なつきをじいッと上から下へと舐めるように見定める。

 

「貴様!!何を考えている!!」

那月は自らの体を抱きしめ、横島を汚物を見るような目で刺すように睨む。

 

「いや~、お付き合いしようとするとどっちの方が良いのかなーって?心は26歳で体は10歳。心は10歳で体は26歳……なかなか深いテーマだ!」

横島は真面目な顔で頷いていた。

 

「ななななな!?き、貴様などと付き合うつもりは無い!!」

那月は顔を真っ赤にして、手に持っていた扇を横島に投げつける。

 

「心が26歳ならこの不肖横島忠夫、ロリコンではないですが、いつでもなつきちゃんの相手を務めさせていただきます!!」

横島の中で結論が出たようだ。大真面目な顔でこんなことを言ってのける。

 

「馬鹿か!?貴様は馬鹿なのか!?貴様など要らん!!ぐっ……」

 

「マスター、大丈夫ですか?精神の乱れを確認、異常値に達しようとしてます」

アスタルテは無表情で那月にこんなことを聞いてきた。

 

「それはいかん!直ぐにベッドへゴー!!」

横島はいつの間にか、ぐるぐる巻きにされていた縄を脱し、那月を抱き上げようとしたのだ。

 

「このロリコンの変態めーーー!!私に触るな!!」

那月の小さな拳が横島の顔面に突き刺さる。

そして、那月の後ろの何もない空間から鎖分銅のような物が複数飛び出し、横島を殴りつける。

南宮那月は欧州の魔族からは『空隙の魔女』と恐れられ、空間を操る魔術を極めたとされる超一流の功魔官だった。

 

「グボバ!?」

横島はそのまま扉まで吹っ飛ばされる。

 

「もういい!貴様のような変態をスパイだと疑った私がバカだった。今日は帰れ!!」

那月はそういい放ち、横島はアスタルテによって廊下の外に放り出された。

 

「あいつは何なんだ?ロリコンにはストーカーされたとこはあったが、あいつはほんと、なんなんだ!?」

那月は顔を真っ赤にしながら、息まき、声を上げていた。

 

 

 

 


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