空と海の境界   作:黒樹

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文字数少ないけど、キリがいいので投稿。
凪のあすから、うろ覚えなのでキャラが変だったりしたらごめんなさい。


二度目の初めまして

 

 

 

冷たい海の底に雪が降っていた。海水に差す陽光が海に降る白い雪に反射して、煌びやかに舞う。魚達が踊り、海藻が揺れ、光が鱗に反射した。その真ん中で少女と少年が対峙する。黒い髪の少年と藍の髪の少女だ。片や泣き出してしまった少女の頭を撫でて慰めるような少年の行動はまるで幼い恋人同士だ。

 

「なくなチサキ。もうあえなくなるわけじゃないんだから」

「だ、だって……とおいところにひっこしちゃうんでしょ?わたしはそんなのいや!」

 

少女–––チサキ–––が泣いている理由は少年が遠くに越してしまうから。それが嫌で嫌でたまらなくて駄々をこねているのだ。普段は物分かりがいい少女でも、今回ばかりは別だと言わんばかりだ。

 

「だいじょうぶ。どちらかがわすれないかぎりまたあえる。きっといつかね」

「ほんとう……?」

 

涙を拭いながらチサキは少年を見上げる。青い瞳同士が見つめあった。

 

「ヨミ、うそじゃないよね」

「どちらかがわすれてもどちらかがおぼえてたらあえるだろ。おおきくなったらぼくがあいにいく」

「やくそくだよ。ぜったいだよ」

「ぼくがうそをついたことがあったか?」

「……ヨミうそばっかりなんだもん」

 

まるで信じてないような様子で瞳を少年に向けるチサキ。ヨミと呼ばれた少年はバツが悪そうに目を逸らした。嘘を吐く常習犯だ。これまで何度も約束を反故にした。数えきれない約束の半分は破っているかもしれない。つまり、確率は半分だ。

 

「じゃあこうしよう。チサキがぼくのことをおぼえてなかったらあいにいかない」

「そんなのわかるの?」

「わかるさ。つまりこれで、このやくそくはチサキがのぞめばかなうだろ?」

 

言外に少年は絶対に忘れないと口にした。それだけで少女は少し笑顔になる。泣きっ面を緩ませて、初めて笑った。

 

「てがみかいてね。でんわもしてね。とおくはなれても、また、あえるよね?」

「ねがっていれば、しんじていれば、ぜったいにかなうから。そうしたら、またあえるから」

 

少年の名は海滝詠。黒い髪に海の瞳を持った海の子だ。

少女の名は比良平チサキ。藍の髪に海の瞳を持った海の子だ。

 

幼い約束を交わす少年少女を傍で見つめるのは白い髪をした少年だ。

懐かしむような目で、二人を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––とても長い夢を見ていた気がする。

 

懐かしい夢だ。幼い頃、二人で交わした約束は今も覚えてる。また会おうって言って、電話するとか言いながら、手紙を書くと言いながら、結局そのどれも破ってしまった。

少女の方から手紙や電話が届くことはなかった。住所も、黒電話の番号も、少年はずっと伝えずにいたのだから電話も手紙も来ないのは当たり前のことだった。

 

「……もう一眠りしようかな」

 

微睡みの中で僕はもう一度机に伏した。そんな僕の肩を揺すって隣の奴が起こしてくる。

 

「おい、起きろバカ」

「紡、バカはないだろう。今日も朝は早起きで眠いんだ。寝かせてくれ」

 

再び机に向かうと親友が僕の肩を揺することはなかった。代わりに口だけを開き情報を伝えてくる。

 

「転校生だとさ。それも海村からの」

「汐鹿生からだろ。昨日聞いた」

「……おまえの故郷だろ?」

「別に故郷がとかどうでもいいから寝かせてくれ。眠いんだ」

 

そう言いつつ、チラッと視線だけを上げて一度、壇上にいる四人の少年少女を盗み見た。一人はともかく美男美女ばかりで一人はもう胸の膨らみが凄いのなんの。

 

「大きくなったなぁ……」

 

何処とは言わないが、僕はおじさん臭いセリフを吐いて机に突っ伏する。相変わらず、あいつらは四人一緒のようでそれが当たり前の光景に見えてなんだか寂しさを感じる。

 

眠ろうと机に伏していると自己紹介する声が聞こえた。何やら光という少年は喧嘩腰で養豚場だのなんだの臭えだの喚いているが、だとしたら僕は干物あたりだろう。クラスの連中全員に言っているようでわいわい煩いのが耳につく。眠れないじゃないか。

光が大ブーイングくらったところで他の面子に自己紹介が回る。好戦的なのは光という男子だけのようで他は案外普通だった。アウェイなのだから、あれが正しい反応である。

 

「比良平チサキです。よろしくお願いします」

 

丁寧な自己紹介をする綺麗な少女、僕は彼女に……いや、彼女達に視線を向けることなく眠りにつこうとした。

 

「じゃあ、席は後ろね。好きに決めていいから」

 

先生が投げやりにそう言うと四人は壇上を降りて教室を突っ切っていく。その際、僕の机の横を通った四人分の足音が通り過ぎるのを僕は静かに聞いていた。四人は相談して席を決めるようで僕の背後に座った誰かが背中をちょんと押した。取り敢えず、煩い男共ではないようで僕は重たい首を上げて後ろを見た。

 

「よろしくね、えーっと……」

「潮留詠だ。比良平チサキ」

「そう、潮留君……詠って呼んでもいい?」

「別にどう呼ばれようが構わないさ」

「うん、なんか詠って呼んだ方がなんかしっくりくるんだ。前に君と同じ名前の人がいたから。それに誰かに似てる気がして……私達って初対面だよね?」

「……あぁ、初めましてだな」

 

僕は嘘を吐いた。これは二度目の初めまして。手紙も電話もしなかった僕はどうせ忘れているだろうと適当に返事をしておいた。

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