中二病でも愛してる!   作:松野椎

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※主人公は、転生先の世界が中二恋の世界だとはまだ知りません


小学生編
炎天下の…初会遇


 突然だが、正直に告白しよう。俺、文月柊(ふづきひいらぎ)は転生者である。

 

 いわゆる、トラックに轢かれて異世界に行くような類では無く、元の世界と少しだけ異なった現代へと生まれ変わるものだ。

 簡単に説明すると、あの国民的RPGが売られていなかったり、中二病に罹った少年少女が巻き起こすラブコメディが無かったりと、その程度の違いを持った世界へと生まれ変わった。

 

 話は少し変わるが、こういうお話には何かチートと呼ばれる能力が付き物だろう?

 俺もその例に漏れず、転生した際にある能力が宿っていた。それはDQ呪文。

 つまり、ドラゴンクエストというこの世界には存在しないゲームに使われていた呪文は全て使えるという物だ。

 

 正直、DQ呪文を使えると分かったときは歓喜した。だって、ゲームの中でさえ、あんなにワクワクした魔法だぞ! 俺だって、魔法が使えたらなぁ、って夢見たことは一度や二度では無い。

 そんな現代人にしてみれば、生身で空を飛ぶ並の人類の夢が叶ったんだ。興奮しないはずが無い。

 

 しかし、喜びもつかの間。よく考えてみたら、メラゾーマとか単身で兵器と同等の火力が出せそうな、危険極まりない呪文である。

 特技はイオナズンです。とか言っている場合では無い。

 

 呪文の花形である攻撃呪文が使えないことを多少残念に思いながらも、俺は素直に攻撃呪文を封印し、その分補助呪文や回復呪文に専念して特訓することにした。

 具体的に言えば、自分に『ルカニ』を唱えて過負荷な筋トレをしたり、膝の痛みに悩んでいた隣に住んでいるおばあちゃんに『ホイミ』を唱えたりとか。

 

 その甲斐あって、俺は小学校に上がる頃には周りの人々から、

 

「柊君? あぁ、何か不思議だけど良い子だよね」

 

 という評価を頂けるようになった。

 

 それにある日、相手の素早さを上げる呪文である『ピオリム』を好奇心から家にあったオンボロPCに唱えてみたところ、最新型を凌駕する程にスペックが高くなった。

 この経験から、呪文には応用が効く事が分かり、俺は勉強そっちのけで日々呪文の研究をする事になったのであった。

 

 

 さて、ここからのお話は、俺が小学5年生の夏休みの話である。

 この夏休み、俺は運命の少女と出会うこととなる。

  

 

 チュンチュン

 

「ふわぁ~あ、『ザメハ』」

 

 俺の一日は、覚醒呪文である『ザメハ』から始まる。どれだけ眠たくても目が覚めるから、この呪文は大変便利だ。

 

 早々に起きた俺は、日課のランニングをするためにジャージに着替え、まだ寝ている父と母を起こさないようにそっと外に出た。

 朝の4時と起きるには些か早い時間帯だが、夏休みの今は既に太陽が昇っており、走るにはちょうど良い涼しさだ。

 

「さて、『ピオリム』『ルカニ』」

 

 走る前に自分の体へ、素早さを上げる呪文と、防御力を下げる呪文をかける。これにより、効率的に体を鍛えることが可能になる。

 この習慣を小学1年生から続けていたおかげで、今では呪文によるドーピング無しでもフルマラソンを走りきれるようになった。

 

 澄んだ空気を、一度胸一杯に吸い込むと、

 

「よし、行くか」

 

 と、言って走り出した。

 

 

 タッタッタッ

 

 

 そういえば言ってなかったが、俺が転生したのは、広大な土地に自然溢れる北海道。その中でも割と田舎の方にある町だ。

 それ故、ランニング中に見える景色は、畑や水田が多く、遠くの方では海も見える。

 軽く周りを見渡してそんな景色を眺めていると、既に農家さんが働き始めているのが見えた。

 

「佐藤さんー! おはようございまーす!」

 

 走りながら大きな声で話しかけると、佐藤さんはこちらに気づき、笑顔で手を振り返しながら、

 

「おーい、柊の坊主ー! トマト採れたから持ってけ-!」

 

 と言ってくれた。

 それを俺はありがたく頂戴し、お礼を言って、佐藤さんと農場全体に『ホイミ』を唱え、ランニングへと戻るのであった。

 

 袋一杯に貰った、よく熟れて美味しそうな大きいトマトを、佐藤さんから見えなくなった頃に『ふくろ』に入れるように念じる。その瞬間、手に持っていたトマトの袋が空間に溶け込み、消失した。

 

 『ふくろ』も、呪文の練習をしている際に使えることが判明し、こうして有効に活用させて頂いている。

 ちなみに、『ふくろ』の中に入った物は時間が進まないので、新鮮な食材を入れるのに最適だ。

 

 

 タッタッタッ

 

 

 その後、2時間近くかけて約30kmを走りきった俺は、帰ってきてすぐ、自分に『ホイミ』を唱えて、疲労を取る。そして、6時になった時計を見て、朝食を作る準備をするのであった。

 

 今日の朝食は、何を作ろうかな? と、『ライデイン』を改良して作った呪文で電力を供給している冷凍庫を開けると、この前、漁師のおっちゃんから貰ったチカがあった。悪くならない内に塩焼きにでもするかと思い、取り出していると、

 

「おはよ~、柊~」

 

 と、間の延びた眠そうな母の声が聞こえてきた。

 

「おはよう、母さん。今、朝食作るから、先に顔洗ってきて待ってて」

「いつもすまないね~」

「父さんも母さんも仕事大変だからね。これぐらいは俺がするよ」

 

 父も母も地域の総合病院で医師をしているのだが、地方の医師が足りないこのご時世、二人とも職場で仮眠を取って、そのまま連続勤務するなんてことも少なくない。

 そんな忙しさで殺されそうになっている両親に朝食まで作って貰うのは、申し訳無いと思った俺は、小学生に上がるとすぐに、家事をするようになったのであった。

 

「よし、これで出来上がり!」

「お、チカの塩焼きか! 美味しそうだな」

 

 料理が出来上がり、調理に使っていたメラの火を止めると、いつの間にか起きていた父が後ろから覗き込んでいた。

 

「父さん、おはよう。さっきランニングしている時に、佐藤さんから採れたてのトマト貰ったから、それも出すね」

「……柊、また一杯貰ったのか」

 

 父が呆れたように言う。これは何故かというと、俺がランニング中に農作物や魚介類を頂く事があまりにも多いからだ。

 今日トマトをくれた佐藤さんもそうだが、他にも秋になると米農家の方がお裾分けしてくれたり、脂がのった鮭を何匹もくれる漁師さんが居たりと、毎月の食費が全然かからない程度には、海の幸・山の幸を貰う。

 

 ちなみにこうして、お裾分けしてくれる方は総じて、ホイミの実験台となって頂いている方である。本当にホイミ様々だ。

 

 

「ごちそうさま~、柊、今日も美味しかったよ~~」

「あぁ、また腕を上げたんじゃないか?」

 

 朝食を食べ終わると、両親は笑ってそう言ってくれた。

 料理は、前世で一人暮らししていた時に身につけたスキルだが、転生してこんな風に役に立つなんて夢にも思っていなかった。

 

「ありがとう、父さん、母さん。お弁当も作ったから、昼はそれを食べてね」

「分かったよ~。ありがとうね、柊」

「ありがとう柊。本当にお前は良く出来た息子だよ」

 

 父も母も心底嬉しそうに、弁当を受け取ってくれる。しかしその反面、二人からは申し訳なさそうな雰囲気が出ていた。

 こういう時は大抵、二人とも夜勤が入っていて泊まり込みなんだよな、と分かってはいるものの確認のため、

 

「今日は二人とも泊まり込みなの?」

 

 と、尋ねてみると案の定、

 

「あぁ、そうなんだ……。本当にすまない、柊には寂しい思いをさせてしまって……」

 

 と言って、謝る父であった。

 一応、俺は前世から含めると精神年齢はおじさんであり、そんなこと全く気にしないのだが、今の両親からしてみればまだまだ子供。心配なのだろう。

 

「心配しなくても大丈夫だから、二人は仕事頑張ってきて!」

 

 そんな心配を取り除いてあげようと、俺がこう言うと両親は泣きそうになりながら、

 

「「行ってきます!」」

 

 と言って出発していくのであった。

 俺はそんな二人の背に向けて、ぼそっと『ホイミ』と呟くのであった。

 

 

 二人を見送った後、俺は食卓を片づけ、掃除・洗濯をぱぱっとこなし、朝の10時には家事も一段落付いたので、残りは自由時間だ。

 

 普段、呪文の練習はすぐ近くの山の中で行っているので、今日もそろそろ行こうかなと思っていると、朝貰った大量のトマトの存在を思い出し、お隣のおばあちゃんにお裾分けしてから行くかなと思い直した。

 

 

 ガラガラ

 

 

「島ばあちゃん-! トマトのお裾分けに来たよ-!」

 

 日中は鍵を開けっ放しにしている引き戸の玄関を開け、居間にいるであろうお隣の島さんに呼びかけると、予想通り居間の方から、

 

「柊ちゃん、いらっしゃーい! 悪いけど台所まで持ってきて貰っていいー?」

 

 と、声が聞こえた。

 その声を聞き、俺は靴を脱いで家に上がろうとしたのだが、その際に明らかに島ばあちゃんのではなさそうな、可愛らしい白い靴があるのに気づいた。

 

 誰かお客さんが来ているのかな? と疑問に感じながら台所に行くと、そこには俺と同じぐらいの年齢であろう、可憐な少女が居た。

 

 その少女は、黒髪のショートカットかつ、庇護欲をそそられるような小柄な子で、人見知りなのか、島ばあちゃんの後ろに隠れている。

 

 

 俺は、その少女に一瞬で見惚れてしまった。

 

 

「柊ちゃん、どうしたんだい?」

 

 気が付くと、島ばあちゃんの心配そうな声が聞こえてきて、俺は現実へと引き戻された。

 

「あ、なんでもないよ。はいこれ、佐藤さんから貰ったトマト」

「ありがとうね。ほら、智音ちゃんもご挨拶なさい」

 

 島ばあちゃんに、挨拶するよう諭された少女は、恥ずかしがりながら、

 

「えっと、あの、ありがとうございます」

 

 と言って、ぺこりと頭を下げたのであった。

 それを見た俺は、あまりの可愛さに死ぬんじゃないかと思いながらも、

 

「こちらこそ、どういたしまして!」

 

 と、何とか返答するのであった。

 

 

 これが俺と智音ちゃんとの最初の出会いであった。

 しかし、俺がこの少女が、中二病でも恋がしたい! の七宮智音だと知るのは、これから数年後の話である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 『中二病でも愛してる!』第1話をお読み頂き、ありがとうございました。
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