中二病でも愛してる!   作:松野椎

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高校生編
邂逅の…魔法使い(前)


「ふぅ、これで片付けは終わりっと」

 

 俺は『ふくろ』に入れて運んできた荷物を新居に並べ終わって、人心地ついていた。

 智音が引っ越すと知ったあの日から早3ヶ月。思えばあれから色々あったものだ。

 

 智音の引っ越しの話を聞いてすぐ俺は両親に、智音と一緒の高校に行きたい。だけど智音が引っ越しをするから、滋賀についていきたいと、必死になって頼み込んだ。

 勿論、最初は何を言っているんだとあえなく断られてしまったが、何度も何度も懇願をした結果、遂に条件付きで滋賀での一人暮らしを容認してもらったのだった。

 

「それにしても、まさか本当に許してくれるとは思わなかったよな」

 

 実は俺自身、10回目のお願いあたりで、これはもう無理なのではないかと半ば諦めそうになっていた。だけど、ちょうどそんな時に母が助け舟を出してくれたのだった。

 

「柊は、勉強も頑張っているし~、家事だって私たちに代わってやってくれている。それに~、仕事が忙しくてなかなか柊の面倒を見てあげられていなかったのに~、柊は私たちに文句ひとつ言ったことない。ね、だから柊のお願いを聞いてあげましょう~?」

 

 間延びした声が特徴的な母だが、この時ほど頼りになると思ったことはない。結局、母の説得が功を奏したのか、父も最後には渋々ながら認めてくれるのであった。

 ちなみに、その際につけられた条件というのは、

 

 1,試験で全教科、トップクラスの成績を取ること。

 2,住居費や食費などは送るけど、交際費に関しては自分で出すこと。

 3,それだけ本気なんだったら、七宮さんのご両親にもきちんと挨拶すること。

 

 以上の3つだ。

 1つ目は問題ない。一応、前世でも大学は出ていたし、何より『思い出す』という暗記科目特効を持つ呪文があるので、きちんと努力していれば大丈夫だ。

 

 2つ目に関してはバイトをすれば済む話だし、あとは『ホイミ』で仲の良い、近隣の農家さんや漁師さんから頂いている農作物・水産物が、まだ『ふくろ』の中に大量に残っているので、食費を切り詰めて浮いたお金を使うという手もある。『ふくろ』の内部は時間が止まっているので、腐っていることもないから安心だ。それに『ルーラ』があるから、交通費はほぼかからないに等しいし……。本当に魔法様々である。

 

 問題は3つ目だった。確かに、俺は本気で智音のことを愛しているし、心の底から幸せにしてやりたいと思っている。だけど、だからといってこの年で挨拶というのはちょっと……。

 前世で独身だった弊害がこんなところで出るとは思わなかった。でも、この条件を守れなければ行かせてくれないと言うし、これを智音に相談したら、智音は智音で満更でもなさそうな顔をするし、腹をくくって御挨拶しに参りましたよ。

 

 アニメや小説で智音の家族は出ていなかったから、事前情報が智音からの話だけでかなり緊張したけど、結果的に言えばつつがなく終わることができました。

 なんだろうか。あの両親あっての七宮智音ありとでも言えばいいのだろうか。智音のご両親は、常識に囚われることも、世間体を気にすることもなく、でもそれでいて一本芯が通っているという不思議な方たちだった。智音のご両親とかそういう以前に、一人の人間として尊敬する生き方をされていて、そういう意味でも御挨拶できて本当によかったと思う。

 でも、智音のどこが好きなの? とか、どこまでいったの? とかを根掘り葉掘り聞かれたのは疲れた……。最後には、これからも智音のことをよろしく頼むよと、親公認の仲になれてひとまず安心したけど。

 

「さぁ、ここからが本番だ。目指すのは、誰もが幸せになれるハッピーエンド。俺はようやくその第一歩を踏み出したんだ。気を引き締めていかないと!」

 

 一休みして片付けの疲労を癒した俺は、パチンと頬を叩いて決意を新たにする。とりあえず、今は引越しの挨拶品配る用意をするか。

 

「でも、まさかここの団地の部屋が空いているとは思わなかったよな」

 

 挨拶品にのしをかけながら、独り言を呟く。そう、俺がこれから住むことになるこの家は、驚くべきことに勇太や六花が住む団地の一室なのだ。

 最初、こっちでの住居は割とどこでもいいと考えていた。しかし不動産屋に行ってみると、ちょうどこの団地の部屋が空いているではないか。

 これを見逃す手はないよなということで、即決でここを借りることにした。両親の許可を得るのは大変だったけど……。でもそのかいあって俺は303号室。つまり、小鳥遊家のお隣さんになることができた。

 今はまだ十花さんしか住んでいないだろうが、じきに六花ちゃんも越してきて賑やかになるだろうし、アニメ通りだったら後々七宮家も越してくるだろう。今から楽しみだ。

 

「さて、のしもつけ終わったし、配りに行きますか」

 

 引っ越しの挨拶品は、地元産のお米だ。せっかくの引っ越しなので蕎麦を贈ろうかとも考えたのだが、アレルギーの方がいたら困るのでやめることにした。調べた所、最近では自治体指定のゴミ袋も挨拶品として人気が高いようだが、上下階とお隣の計5軒分買うのは個人的に懐事情として厳しいので、『ふくろ』の中にやけに大量にあるお米を、綺麗に包みなおして贈ろうというわけだ。在庫処理では決してない。

 

 では一軒目。小鳥遊家へ引っ越しの挨拶だ。

 ピンポーンとチャイムを鳴らすと、まずダウナーな声の返事があり、それから廊下を歩く足音が聞こえてくる。どうやら十花さんは御在宅のようだ。

 

「……誰だ?」

「今日、隣に引っ越してきた文月と申します。春からこちらの高校に通うため一人暮らしをしております。なにかとご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。ほんの気持ちですが、よろしかったらお召し上がりください」

 

 十花さんの姿を見て緊張のあまり早口になってしまったが、ひとまずお辞儀をしてお米を渡す。

 

「これはご丁寧にどうも」

「……それでは、失礼します」

 

 挨拶できたはいいが、特に十花さんと話すような話題もないので手短に切り上げて帰ろうとしたその時だった。

 

「魔法使いー!」

 

 タイミングが良いのか悪いのか、階段を駆け上がる音と共に智音の声が聞こえた。

 俺が思わず智音の方を見ると、今まさに玄関を閉じようとしていた十花さんもつられてそちらの方に顔を向ける。

 

 智音は首元に青の長マフラーを巻き、トレードマークのピンク髪はどういう構造なのか聞いてみたくなるようなツインリング。それに目尻には自分設定用のハートのシールが貼られていて、どこからどうみても紛うことなき中二病だった。

 

「知り合いか?」

「はい。大事な人です」

 

 分かるか分からないか程度に眉間にしわを寄せて、俺に智音との関係を尋ねる十花さん。それに正直に答えると十花さんは、そうかと一言だけ呟いて家の中に入っていった。さて、この予想外の出会いが、吉と出るか凶と出るか。とんでもないバタフライエフェクトが起こらないことを祈るばかりだ。

 

「にはは……。どうやらお取込み中だったようだね。ソフィアちゃん失敗失敗」

 

 智音は俺が誰かと話していたことに気付いたようで、申し訳なさそうな顔をしている。こういうところが智音の良い所だよな。自分が邪気眼中二病患者だと自覚しているがため常識も持ち合わせており、失敗を反省できる。まぁ、常識よりも面白さ優先な気がないわけではないけども。

 

「そんなに気にするな。それよりも智音が来てくれてよかった。これから懐かしい人に会えるかもしれないぞ」

「懐かしい人?」

 

 さぁ、次の挨拶先は富樫家だ。

 勇太や樟葉は、原作よりも1年早い智音との再会で、一体どんな反応を見せてくれるのだろうか。楽しみだ。

 

 




 コロナウイルスによる皆様への影響が、一日でも早くなくなりますよう願っております。
 
 『中二病でも愛してる!』第11話をお読み頂き、ありがとうございました。
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