現在、俺と智音ちゃんは、お隣の島ばあちゃんの家の居間で、机越しに向かい合って、お話をしていた。
「えっと、智音ちゃんは、島ばあちゃんのお孫さんなのかな?」
「う、うん。そうだよ」
お話とは言ったものの、智音ちゃんはどうやら、あまり積極的な性格ではないらしく、俺の尋ねた質問に答えるような形式での会話が続いている。
俺としては、もっと仲良く言葉のキャッチボールを楽しみたいのだが、これではまるでバッティングセンターだ。
「そういえば、智音ちゃんはゲームとかする?」
「えっと、うん。少しだけ」
少しを言う時に、指でちょぴっ、とやっている智音ちゃんは、凄く可愛かった。
それは兎も角、このままゲームで会話は続けられそうだなと思った俺は、更に、
「へぇー、じゃあどんなゲームをやっているの?」
と聞いてみると、智音ちゃんは、
「……」
と、あまり聞いて欲しくなさそうに俯いて、答えてくれなかった。
これはどうしたものかと考えていると、智音ちゃんが、
「あ、あの! い、一緒にゲームやらない?」
と、誘ってくれたのであった。
さて、智音ちゃんが誘ってくれたゲームとは、スーパーマリオブラザーズであった。ファミコン版の。
「あのね、皆、私がファミコンやってるっていったら、変だって言うの」
そう言って智音ちゃんは、ぷくー、と頬を膨らませて怒る。
確かに2000年代に入って、ファミコンはもはや過去の遺物になっているかもしれないし、やっている人は珍しい。でも、
「ファミコンだって、面白いのにね」
「あなたも、ファミコンやったことあるの?」
俺がファミコンを擁護する発言をすると、智音ちゃんはすかさず、俺にそう聞いてきた。
「あぁ、昔はよくやったものさ。マリオも、ドラクエも、もう少し言えばスペランカーとかも」
昔と言っても前世の事だが、俺がそう言うと、智音ちゃんは目を輝かせて、
「えへへ、一緒だ!」
と、初めて笑顔を見せてくれるのであった。
その破壊力抜群の眩しい笑顔は、瞬く間に俺の心に染み渡り、ますます智音ちゃんの事に見惚れてしまうのであった。
その後、一緒にマリオをしたり、島ばあちゃんが作ってくれた素麺を食べたり、沢山色んな事ををしている内にすっかり夜になってしまった。
「柊ちゃん。もうすぐ夜ご飯の時間だけど、帰らなくて大丈夫かい?」
そう島ばあちゃんに言われ、時計を見てみると、もう既に時刻は午後6時を過ぎていた。
「あ、今日、二人とも居ないんだった。やばっ、ご飯炊いてない!」
あまりにも、智音ちゃんと過ごす時間が楽しかったおかげで、夕食の事など、すっかり頭から抜け落ちていた。
今からご飯を炊けば、7時過ぎには食事にありつけるかな? なんて考えていると、島ばあちゃんが、
「あら、今日はどっちも夜勤? だったら、晩ご飯は食べておいき」
と、夕食にお誘いしてくれた。
しかし俺は、さすがにそれは、智音ちゃんと島さんの家族団欒を邪魔してしまう気がしたので、お断りした方がよいのではないかなんて思っていると、
「柊くん、帰っちゃうの……?」
と、智音ちゃんが悲しそうな顔をして言ってきた。
その表情を見て心がズキッと傷んだ俺は、島ばあちゃんの方へと向き直って、
「晩ご飯、食べていかせてもらっていいですか?」
と思考を一変させて、そうお願いをするのであった。
でも島ばあちゃん、頼むからそんな生暖かい目で俺のことを見ないでください……。
その後、島ばあちゃんの温かい絶品手料理をご馳走になった俺は、お礼にこれぐらいはと、食べた食器を洗っていた。
「なんもいいのに、ありがとね柊ちゃん」
「美味しい料理を頂いたんですから、このぐらいは当然ですよ」
そう言ったっきり会話が途切れてしまい、外から聞こえる虫の声だけが鳴っている室内。智音ちゃんは、今お風呂に入っているので、ここには居ない。
沈黙が続いているのに若干気まずさを感じた俺は、何か話す内容はあるかなと考えていると、突然島ばあちゃんが語り始めた。
「……智音ちゃんが、あんなに楽しそうにしている姿を見たのは久しぶりだったよ」
「え?」
思いがけない一言に驚いた俺は、思わず島ばあちゃんの方へ振り返ってしまった。
振り返った俺の方を一瞥した島ばあちゃんは、窓の外へと目を向けながら続けて、
「あの子の親は転勤族でねぇ、それに付き添って転校を繰り返すあの子には、仲の良い友達が少ないんだよ。それどころか、内気な性格も相まって悪口を言われたりする事も少なくない」
俺はその言葉に唖然とした。確かに子供は無邪気であり、時に残酷な事もしでかしてしまう。
しかし、智音ちゃんがそんな事になっているなんて……。
俺が驚いていると、島ばあちゃんはこちらを真っ直ぐ見つめてきて、
「お願い柊ちゃん、あの子がこっちに来ている1週間の間、一緒に遊んであげてくれない?」
「それは勿論構わないですし、むしろこっちがそうしたい位ですが、良いんですか? 俺なんかが」
自分で言うのも何だが、俺は子供らしからぬ子供だ。そんな子と一緒に遊ばせても良いのかなと思っていると、
「何言ってるの! 柊ちゃんが一緒に居てくれるだけで、おばあちゃんは安心よ。だって柊ちゃんは優しい子だもの」
「そんな事は無いと思いますが、そう言って頂けるなら」
俺がそう言うと、島ばあちゃんはほっとしたようで、
「それじゃあ、宜しくね!」
と言うのであった。
ボーンボーン
時計の鐘が鳴る音が聞こえ、ぱっと時刻を見てみると、時計の針はもう8時を指していた。
「もう8時か、じゃあ俺はそろそろ帰ります」
「そうかい、隣とはいえ気をつけて帰りなさいよ」
島ばあちゃんは、そう言ってくれる。本当に優しい方だ。
「智音ちゃんも、また明日遊ぼうね」
「うん! 待ってるね!」
智音ちゃんは、元気いっぱいにぶんぶんと手を振ってくれた。
その表情は、先程とは打って変わって、とても嬉しそうだった。
「はぁ~、ただいま~」
誰も居ない家に向かって、誰も返事はしてくれないとは分かっていながらも、帰宅を告げる。
今日は中々濃い一日だったなと思いながら部屋にある布団に倒れ込むと、智音ちゃんの顔が浮かんできた。
「智音ちゃん、可愛かったな。断じて俺はロリコンではないけども」
そうは言えども、あの少女に心を打ち抜かれてしまったのは事実だった。
「はぁ、まさかこの年で恋してしまうとは思いもしなかった……」
肉体年齢的には大体同じものの、精神年齢で言えば何十歳も違う。
俺は、一体どうしたいいのだろうか、と頭を悩ませながらも、夜は更けていくのであった。
コチコチ
「今日は楽しかったな~」
私、七宮智音はお布団に寝ながら、今日会った柊くんのことを考えていました。
柊くんは背もおっきくて、着ていたジャージ越しでも分かるぐらいに筋肉が付いていて、最初会ったときは怖くておばあちゃんの後ろに隠れてしまいました。
でも、柊くんとお話してみると、とっても優しかったです!
私がファミコンやってるって言っても笑わなかったし、夜ご飯になって柊くん帰っちゃうのかなと寂しく思っていたら、一緒にご飯を食べてくれたり。
しかも、明日も一緒に遊んでくれるらしいです! とっても嬉しい!
「はぁ~、学校の皆も柊くんみたいに優しかったらな~」
私はお父さんのお仕事の都合で、1年ぐらい経つと引っ越してしまいます。だから、何回も転校したことがあります。
でも、どの学校でも、私はひとりぼっち。仲間に入ろうとしたことは何度もあるけど、いっつも断られてしまうし、ひどいときには嫌なことを言われてしまいます。
お家でも私は大体ひとりぼっち。お父さんもお母さんもお仕事が忙しくて、夜遅くまで帰ってこられません。
だから、夏休みとか冬休みはずっと寂しい日が続きます。
でも、今年はおばあちゃんの家に泊まりに来たし、柊くんとも会えたから良かった~。
「また明日も、いっぱい遊べるかな? 楽しみ!」
こうして、二人の少年少女は明日を待ちわびながら眠りについていくのであった……。
『中二病でも愛してる!』第2話をお読み頂き、ありがとうございました。