再開の……魔法魔王少女
あの少女と出会ってから、3年と半年が経った。
あれから、俺は夏になる度に、もしかしたら智音が来るのではないかと淡い期待を持っていたのだが、残念ながらその期待が叶うことは無かった。
智音の姿は、夢か幻だったんだろうかと考えた事も少なからずあったが、あれが現実だった事は魔法を使わなくたって分かり切っている。
中学3年生。中学校最後の年であり、高校受験が控えている年。
俺は、前世という大きなアドバンテージと、『思い出す』という呪文による裏技がある為に、中学校に入ってから常にトップを取り続けていた為、どんな高校でも合格する事間違いなしと言われていた。
よって、俺にとって学校とは退屈なものでしかなかった。そう、この日までは……。
「おはよう、鈴木」
「おぅ、おはよう文月。なぁなぁ、今日この学校に転校生が来るらしいぞ」
隣の席に座る鈴木に挨拶すると、転校生という情報が伝えられる。
「そっか、楽しみだな」
「ったく、文月は相変わらずそういう事に興味無さそうだよな。そのスペックなら彼女の一人や二人すぐ出来るだろうに、残念な奴だな」
棒読みで返答したところ、残念な奴に認定されてしまった。
余計なお世話だが、今世で彼女が出来た事がないのは事実であるので否定は出来ない。
はぁ、と思わず溜息をついていると、担任の退職間際なお爺ちゃん先生が前の扉から入ってきた。
「こほん、今日は皆さんに転校生を紹介します。では、入ってきて下さい」
担任が早々に転校生が来る事を知らせると、途端に教室内が沸き立つ。転校生が来るぐらいではしゃぎすぎな気がするが、珍しい事だから仕方ないのだろう。
それでもでも、俺には関係ない事だと思い、やってきた転校生の方を見ずに窓の外をぼーっと眺めていると、視界の端に鮮やかなピンクが見えた。
「にっーはっはっ! 龍が住まうと言われし巨大湖がある所からやってきた、ソフィアリング・SP・サターン7世! 巷で有名な魔法魔王少女――」
「七宮智音!」
その口上を聞いた瞬間、俺は思わず椅子から立ち上がって叫んでいた。
この時俺は、物語の中だけの存在であった人と会えた興奮と、何年もの間会いたいと思い続けていた智音と再会出来た喜びから、じっとしている事なんて出来なかったのだ。
教室の全員から、自分に目を向けられているのも気にとめず、俺は智音、いや智音ちゃんに、
「久しぶり、智音ちゃん!」
と、言うのであった。
それに対し、智音ちゃんは、
「うん。柊くん、久しぶり!」
と、満面の笑みで言ってくれるのであった。
この後、俺と智音のやり取りに置いていかれてしまった皆に向け、改めて中二病的な自己紹介をした智音は、その奇抜なピンク色の髪や長いマントの事なんてさておき、クラスの皆から俺との関係性について質問されてしまう事となる。
「いやー、まさか文月には既に恋人が居たなんて」
「うるせぇ、つーか恋人じゃないし……」
「いやいや、お前あんなに熱い再会を皆の前で繰り広げておきながら、それはないだろ」
朝のHRが終わるとすぐに、鈴木がそうやって冷やかしてきた。
確かに俺は智音が好きだったし今でも好きだけど、きっと智音は勇太の事が好きなはずだ。俺ではあのダークフレイムマスターには太刀打ちできないだろう。
既に半分失恋しているような今の状況にはぁ、と溜息をついていると、当の本人がこちらにやって来た。
「魔法使い、会いたかったよー!」
「あぁ智音、本当に久しぶりだな。もう3年以上経つか?」
「チッチッチッ、魔法使い。今の私はソフィアちゃんだよ? 真名で呼ばれてしまっては格好がつかないじゃないか」
智音は、すっかり中二病に染まってしまったようで、俺に自分の設定中の名前を呼ばせようとしてくる。でも、
「俺にとっては、智音はいつまでも智音ちゃんなんだよ。だから勘弁してくれ」
手を合わせて智音にそうお願いすると、智音は恥ずかしいのか、ほんのり顔を赤く染めながら、
「も、もぅ、しょうがないなぁ。魔法使いだけ特別なんだからね」
と許可してくれるのであった。
そのまま、俺と智音の間には不思議と心地好い沈黙が流れていたのだが、
キーンコーンカーンコーン
授業開始のベルの音に急かされて、智音は自分の席へと戻っていくのだった。
そういえば、智音のあのピンク髪はよく許されたな? それだけが授業が始まってからも頭の片隅のから離れなかった。
「魔法使いー! 一緒にお昼ご飯食べよー!」
午前の授業も終わり、昼食を取るべくお弁当の準備をしていると智音がこちらにやって来た。
「あぁ、一緒に食べようか」
「ありがとう、魔法使い! いやー、それにしても給食の無い中学校だったとはね。おばあちゃんが教えてくれなかったら私はお昼抜きだったところだよ!」
明るくそう言う智音。
とはいえ、この学校には購買があるのでそんな事にはならないと思うがな。俺も分けてやるし。
「それにしても智音は、随分と変わったな」
「にっーはっはっ! ソフィアちゃんは、魔法使いと出会ったからこそ、こうして自分の殻を破る事ができたのさ!」
「俺と出会ったから?」
俺と智音なんて、小学生の頃たった1週間一緒に遊んだだけの仲なのに、そんな事有り得るのか?
俺が疑問に感じていると、智音はまるで心を読んだように、
「そう、私は魔法使いに出会った後、あんな風にカッコよくなるためにはどうしたらいいのかな? って、ずっと考えていたの」
と、今までとは打って変わり、真剣な表情をしながら話し始めた。
いつの間にか、昼休みに入ってがやがやと騒がしかったクラスが静まり返っている。
「それで私はある時、中二病と呼ばれるものがあるのを知った。それを知った時、私は自分をさらけ出せるって素敵な事だなと思ったの」
朝と同様にクラス中がこちらを興味津々といった様子で見ている。
「だから私は中二病になった。中二病の仮面を被る事によって、自分の全てを見せられるようになった」
既にこの話を聞いているクラスメイトの何人かは泣きそうになっていた。どんだけ涙脆いんだよ……。
「それに、覚えているか分からないけど、魔法使いが最後に言った、『世界のどこかにいるんだからこれは別れじゃない』っていう言葉。あれは、あれからずっと私の大事なモットーなんだよ?」
あぁ、そうか。
「あれから何回も転校をしたけれど、その言葉があったから私は何があってもやって来れたの」
俺は、俺は智音の――
「だからね柊くん、ありがとう!」
――
この時の俺は、智音の事を知らず知らずの内に助けられていたという喜びと、あの時智音と別れてからずっと恋焦がれていた熱い思いが心の中で渦巻いていた。
だから、こんな事を言ってしまったんだろう。
「智音、好きだ。付き合ってくれ」
流れるように口から飛び出した、智音への告白。
やってしまったと後悔した時には既に遅く、智音は目を見開きながら、驚いた顔をしてこちらを見ている。
「あ、いや智音、これはだな……」
「……魔法使い、いや、柊くん。私も柊くんの事は大好きだよ。だからね、」
そこ智音は一旦言葉を区切り、大きく深呼吸をした。
それから、俺の目を真っ直ぐ見つめながら、
「私の方こそよろしくお願いします!」
と言って、頭を勢いよく下げながら俺の告白をOKしてくれたのだった。
パチパチパチ
智音が告白を受け入れた瞬間、先程から俺たちの方を見ていたクラスメイトやいつの間にか廊下から覗いていた後輩達。
果てには、購買部へと行くために通りがかったのであろう先生までもが拍手で祝福してくれた。
あまりにも気はずかしい状況から智音の方を見てみると、智音は予想外の大きな祝福に照れているのか、着用していたマントを頭から被り、
「こ、これでいかなる精神攻撃も無効だよ!」
と言って、真っ赤に染まった顔を隠す。
その姿を見た俺たちは全員、その可愛い智音の行動に笑みが溢れてくるのであった。
まぁ、だから。
また、あの小説の言葉を借りるとするならば、
『俺がこの世界に転生したという偶然と、
っていう話だったら嬉しいなと思う、俺なのであった。
『中二病でも愛してる!』第4話をお読み頂き、ありがとうございました。
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