「智音、大丈夫か?」
「にはは……。さすがの魔王でも、あの質問責めは疲れちゃったよ.」
学校からの帰り道、俺と智音は一緒に並んで歩いていた。
智音の言う質問責めとは、あの昼休みの告白の後に男女どころか先生生徒までも問わず、根掘り葉掘り俺と智音の関係を聞いてきた事だ。
転校初日から告白された智音に皆は興味津々であった為、今年は受験生だというのにも関わらず、5時間目に掛かってしまうまであれこれと質問をされてしまった。
「私も10回近く転校は経験した事あるけど、あんなのは始めてだったな~」
「何か、うちの学校の連中が悪いな。皆、ノリのいい奴らなばっかりに……」
根は悪い人たちでは無いのは、俺も小学生の時から知っている奴らなので凄くよく分かっているのだが、こういう事があるとすぐ話題の的となってしまうのだ。
智音が気分を害していなければ良いのだが、と思っていると智音は、
「ううん、皆、凄く良い人だよ! だって、明らかにおかしい格好で現れて意味不明な言動をしている私に、こうして話しかけてくれたんだよ。むしろ、ありがとうだよ!」
と、慌ててクラスメイト達を擁護した。
「それに魔法使いだって、あの時とだいぶ変わってしまった私を、なんの躊躇いもなく受け入れてくれたじゃない!」
「智音……」
俺は前世に見て読んでいたから知っていたとはいえ、普通こんな人を見たら危ない人だと思ってしまうだろう。
もし俺が、智音がこうなってしまうのを知らなかったとしたら、一体どんな反応をしていただろうかと想像すると、恐ろしい。
「なぁ智音、手、繋がないか?」
「ん? いいけど、急にどうしたの?」
「なんでもないよ。ただ智音と、もっと近付きたいなって思っただけ」
ifの話で怖くなってしまった俺は、これからは智音をずっと守り続けるぞ! という意志を持って、智音の手をぎゅっと握った。
「ありがとうね、私の魔法使い」
あの頃と変わらず聡いままであった智音は、どうやら俺の心を見透かしてしまったようで、聞こえるか聞こえないか位の声量でそう呟いたのだった。
それからしばらくの間、俺と智音の間には沈黙が流れており、お互いの手から感じる体温だけが優しく二人を繋げていた。
このままずっと居たいなと思いながらも、もっと智音と話したい事がある俺はその沈黙を破り、まず疑問に思っていたことを聞いた。
「なぁ、智音。その髪ってやっぱり染めているのか?」
その質問を聞いた智音は、少しバツの悪そうな顔をしながら、
「うん。そうだよ」
と答えた。
それを聞いた俺は、自分よりも15cm程背の低い智音の、ピンク色に染まった髪をじっくりと観察する。
すると、やはり染めた影響が出ているのか、所々の髪が傷んでいた。
「智音も女の子なんだから、髪は大切にしろよ。『ホイミ』」
回復呪文をかけると、すぐに最初に出会った時のようなさらさらの髪へと変化する。
智音は、その呪文をかけられた瞬間にそれを理解したのか、
「魔法使いは、やっぱり本物の魔法使いなんだね!」
と言って、まるであの時のように目を輝かせた。
最近あまりにも人の前で呪文を使い過ぎてしまったせいで、誰からも智音のような新鮮な反応をしてもらえなくなってしまったので、正直嬉しい。
だから、その反応に気を良くした俺更には調子に乗ってしまい、
「折角だから、その髪も染めなくて済むようにしようか。『レミーラ』」
智音の髪を綺麗なピンク色にしてしまうのであった。
『レミーラ』とは、本来自分の周りに光を発生する呪文であるのかだが、これをどうにかして応用を効かせられないかと考えていた結果、自分が使える呪文の中でも一、二を争うような便利呪文へと生まれ変わった。
今、俺が智音にした事は、智音の髪から反射する光をピンク色に調節する事で、これにより人からはまるで髪がピンクであるかのように見える。
そんな事出来るのかと言われれば、やったら出来たんだからしょうがない。
「ん? また私の髪に魔法をかけたようだけど、一体何をしたのかな?」
「それは帰ってからのお楽しみという事で」
「まさか、呪いをかけたのか!」
それは違う違うと言いながら、俺と智音は、繋いだ手をお互いにまたぎゅっと握りしめて、ゆっくり家へと帰って行くのであった。
さて、あれから家に帰った俺たちは、仕事から丁度帰ってきた俺の両親や、回覧板を回していた島ばあちゃんと家の前でばったり鉢合わせてしまい、思いっきり冷やかされる事となる。
そして終いには、孫の顔は早く見れそうね。なんて言葉をかけられてしまい、俺と智音は告白の時以上に恥ずかしい思いをしたのであった。
その状況から6時間程進み、今は真夜中。
俺は、一人布団の中で今日一日の出来事を整理していた。
「今日は智音が転校してきて、智音に告白してOKされて、智音と手を繋いだ、って智音の事しか無いな!」
今日の智音のあらゆる可愛さを思い出して悶えていると、自分は本当に智音に心の底から恋しているんだな、と実感する。
しかし、俺は一方で智音に罪悪感を覚えていた。それは、ダークフレイムマスターこと富樫勇太との事だ。
中二病でも恋がしたい! のアニメ2期や、その原作小説2巻を読んだ者なら分かるだろうが、多少の違いはあるものの、アニメ版、小説版、どちらも七宮智音は主人公である富樫勇太に恋をしている。
だけど、富樫勇太には既に小鳥遊六花という彼女が居て、最終的に七宮智音は、彼女が勇者と呼ぶ富樫勇太に失恋をする。というのがそのざっくりとした流れだ。
ここで疑問になるのが、何故智音は俺の告白を受け入れてくれたのか、という事だ。
先程述べた二つの物語。その特に小説版では、七宮智音は小鳥遊六花を誘拐して富樫勇太と勝負する程に、富樫勇太の事が好きだったはずだ。
それにアニメ版でも、七宮智音は中学生の時に富樫勇太への恋心を持ち、それは一度は捨てたものの、高校生になり再会を果たした後にもう一度恋に落ちてしまうというストーリーだった。
「下手に原作知識なんて持ってない方が幸せだったのかもな……」
もし、俺が告白してしまったせいで、智音が勇太へと恋していた心を切ってしまったのだったら、そうでなくても、高校に上がって再度勇太に出会ってそちらに恋してしまったら……。
自分の頭の中では、そんな後ろ向きな考えがぐるぐると渦を巻いていて、恋人になって1日目だというのに、心は不安でいっぱいなのだった。
「……願わくば、智音とずっと一緒に居られますように」
「はぁ、柊くん。相変わらずカッコよかったな」
私、七宮智音は、今日3年振りに再会した柊くんの事を一人布団の中で想っていた。
「でも、まさか柊くんが私に告白してくれるなんて……!」
私は柊くんが告白してくれた時の事を思い出して、嬉しさと恥ずかしさがごちゃ混ぜになった感情を、布団に足をばたばたさせながら噛み締めていた。
普段は中二病をしていても、あくまで私は女の子だもん。こうなっちゃうのは仕方ないよね。
「それにしても、柊くんは本当に魔法が使えるんだな~」
元々は自分の内気な性格を隠すために作った仮面である、中二病。
中学校に入ってから、勇者やモリサマーと出会って、中二病も楽しいと心の底から思っていたのだが、そんな遊びなんかでは無く、本物が使える柊くん。
家に帰ってきてお風呂に入った際に、自分の髪が綺麗なピンク色になっている上に、傷んでいた髪が元に戻っていたのを見た時は、凄くびっくりしたよ!
「ずるいなぁ……」
それは魔法が使える事へと妬みでは無く、柊くんがそんな大きな力を持っていながら、こうして他人の為に使える事への尊敬。
自分だったら、きっとできないだろう事を当たり前のようにやってのける柊くんの優しさ。
「……ほんと、あの時から変わってないんだから」
小学生の頃に、柊くんと出会わなかったとしたら、私は未だにあのまま内気な暗い少女だっただろう。
不器用な私には、こうして中二病の仮面を被る事しかできなかったけれど、本当に感謝しているんだよ。魔法使い。
それに、これもいつかはちゃんと言葉にして伝えておかなきゃ。
『初恋を叶えてくれてありがとう』
ってね!
『中二病でも愛してる!』第5話をお読み頂き、ありがとうございました。
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