中二病でも愛してる!   作:松野椎

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秘密の…生誕祭

 月日が経つのは早いもので、智音との初デートから1ヶ月半が過ぎようとしていた。

 

 2週間程前に、中学校の修学旅行で奈良・京都に行った時は、男女別の班である上に、3日間で10ヶ所以上の見学地を訪れる弾丸ツアーであった為、智音とイチャつく事はおろか、まともな自由時間すら無かった。

 

 しかし、後で智音に聞いた話では、智音にとっては日程の辛さよりも、同室の女子達に、文月君とどこまでいったの? と根掘り葉掘り聞かれてしまった事の方が大変だったらしい。

 何があったのか、詳しくは聞いていないものの、修学旅行以来、にやにやしながら俺と智音の方を見てくる同級生の数が明らかに増えたので、まぁ、智音は色々と素直に答えたんだろうな、と予想できる。

 

 

 さて、北の大地でも段々と暑くなってきて、もう夏だね、なんて言う声が聞こえてくる6月下旬の今日この頃。

 俺は、間近に迫った智音の誕生日について考えていた。

 

「誕生日なぁー、何プレゼントしたらいいんだろうか?」

 

 智音の誕生日は、7月6日。

 そして、智音は俺が誕生日を知っているという事を知らない。

 

「やっぱりこの状況なら、何かサプライズして智音を驚かせたいよなー」

 

 ちなみに、何故俺が智音の誕生日を一方的に知っているのかというと、これまた前世の知識だ。偶然だったとはいえ、知っていて本当に良かった。

 

「また何処かにデートしに行きたいけど、期末試験の直前だし、さすがに無理だよな……」

 

 智音も、前回の中間試験では学年全体で5本の指に入る成績だったのだが、それはあくまでも智音の努力の結果だ。

 勿論、俺のような前世というチート無しに、単に純粋な努力だけでその順位を取る智音には、心からの尊敬の念を抱く。

 だがそれ故に、俺が智音をデートへと連れ出した事が原因で、智音の成績が落ちるような事になっては、俺は責任を取ることが出来ない。

 

「はぁ、結局は何プレゼントするかって話に戻ってくるのか」

 

 こんな時、相談出来る相手が居れば良かったのだが、両親に聞くのは恥ずかしいし、正直、クラスメイトにはこの話題を振りたくない。

 誰に言っても最終的には、温かい目で送り出されるだけだし。

 

「いっそ、魔法がかかった物でも作れれば良いんだけどな」

 

 冗談半分で言ったこの言葉だが、数分後にそれが実現可能だと分かるとは、この時の俺はまだ知らない……。

 

 

 時は少し進み、7月5日。智音の誕生日、前日。

 今日は学校が休みなので、間近に迫った期末試験の対策の為に、俺と智音は、俺の家で一緒に勉強会をしていた。

 

 カリカリ

 

 勉強を始めてから、二人とも学習に関する疑問がほぼ無い為に、部屋の中にはシャーペンを走らせる音だけが響いていた。

 居心地が悪い訳では無いものの、会話が無い現状がどこか物足りない。

 

 ふと、机の向かい側で勉強している智音の方に目を向けると、智音はどうやらさっきから俺の方を見ていたようで、じっとこちらを見つめていた智音と目が合った。

 すると、智音はあわあわと慌てながら、視線を問題集へと下ろしたのであった。

 

 そんなところも智音は可愛いな、と惚気ながらそのまましばらく智音を眺めていると、智音は時々ちらちらと俺の方に視線を向けてくる。

 しかし、その度に俺と目が合うと、智音はすぐに視線を下ろしてしまう。

 

 そんな事を何回か繰り返していると、遂に耐えられなくなったのか智音が沈黙を破った。

 

「あの、そんなにじっと見られると私、石になっちゃいそうだよ」

「俺はメデューサみたいな化け物になったつもりは無いぞー」

 

 智音のボケなのか中二病なのか、はたまた照れ隠しなのか、若干判別に困る言葉に対して即座にツッコミを入れる俺。

 せめて、もう少し例えるのに適した生物は居なかったんですかね、智音さん。石になっちゃいそうだけだと、何を言いたいのか全然伝わってこない。

 

 ボーンボーン

 

 そんな、取り留めのないことを考えていると、いつの間にか時計は昼の12時を告げる鐘を鳴らした。

 

「丁度いいし、お昼にするか。智音、蕎麦は食べられるか?」

「あ、うん。魔王に食べられない食材なんて存在しないからね!」

 

 腰に手を当てながら、ドヤッとした表情をしている智音。その顔を見るにきっと蕎麦以外のアレルギーも持っていないと思うが、念のため注意はしておこう。アレルギーに対して『ホイミ』効かないし……。

 

 

「はい、お待たせ」

「この蕎麦、凄く美味しそうだね! それじゃあ早速、いただきます!」

「どうぞ召し上がれ」

 

 今日の蕎麦は外も暑い事もあり、シンプルにざるそばにしてみた。冷たいつゆに絡めて食べるこういう日の蕎麦は本当に美味しい。

 智音も気に入ってくれたようで、美味しそうな顔をして麺を啜っているようだった。

 

 実を言えばこの蕎麦、昨年の新蕎麦だったりする。それも、保存方法は『ふくろ』であり新鮮な状態のものだ。

 本来、北海道で蕎麦の収穫時期といったら9月辺りからであり、7月上旬にはいくらなんでも新蕎麦を食べることは出来ないのだが、そこを可能にしてくれるのが『ふくろ』。

 何よりも重宝しているアイテムだ。

 

 

「ん-、美味しかった! ごちそうさまでした!」

「お粗末様でした」

 

 俺と智音のざるからは、最初1.5人前ほど盛っていたはずの蕎麦が綺麗に無くなっていた。

 少し多かったかな、と思っていたのだったが、智音も全部食べてくれたようで何よりだ。

 いっぱい食べる君が好きなんてCMもあったけれど、智音のように美味しく食べてくれる人が居ると、作った甲斐があったとこちらも嬉しく思うもんだ。

 

「さて、もう少し休憩したら午後も頑張りますか!」

「おー!」

 

 その後、俺たちはしばらく真面目に勉強を続けていたものの、また俺と智音で甘い空気を作ってしまい、お互いの集中力を著しく低下させる事となってしまうのであった。

 最終的な結論として、俺たちは勉強を各自で終わらせてから、存分に恋人らしい事をしよう、という事になったのであった。

 

 

 それからあっという間に時間は過ぎて、時刻は夜の6時。

 夏至も過ぎたばかりの今の時期、この時間ではまだ日は沈んでいないために外は十分明るい。

 とはいえ、智音に何かあってからでは遅いので、俺は念のため智音の家の玄関先まで智音を送っていっていた。

 

「じゃあまた明日な、智音」

 

 智音の家の前に着いて俺がそう言うと、智音はちょっとだけ不満そうな顔をする。

 そしてそのまま、目を閉じて俺の方に向かって唇を突き出してきた。

 

 チュウ

 

「これで満足ですか、魔王様?」

 

 10秒ほどの長めのキスを智音に浴びせると、智音は頬を染めて瞳を潤ませながらコクコクと頷く。

 その仕草に俺は、このまま時が止まってしまえばどんなに幸せだろうか、と心の底から思ったのであった。

 

 

 さて、そんな次の日、7月6日。待ちに待った智音の誕生日がやってきた。

 この日、俺は智音を夜の少し遅めの時間帯に、見せたいものがあると言って呼び出していた。

 

「おーい、魔法使い!」

 

 午後9時。智音は半袖にショートパンツという夏の暑さに適応した格好でやって来た。

 

「それで、魔法使い。こんな時間に見せたいものって何かな?」

「さぁ、それは見てからのお楽しみということで。それじゃあ、少し移動するよ」

 

 そう言って俺は両手を智音の腰と太腿の裏にまわし、いわゆるお姫様抱っこした。

 

「わっ、きゃっ!」

 

 何とも可愛らしい声を上げて驚いている智音。

 持ち上げた智音の身体は、とても軽く柔らかく、それでいて少しでも力を入れたら折れてしまいそうな程細くて……。

 一言でまとめると、智音が女の子だという事を再度確認させられるようなその肉体に、俺はとてつもない愛おしさを感じていた。

 

 さて、そんな感動はひとまず自分の心の中に大切に仕舞っておき、俺はいくつか呪文を唱えた。

 

「智音、しっかり掴まっていろよ! 『レムオル』『フバーハ』『トラマナ』『トベルーラ』」

「え? わ、わわ、宙に浮かんだ!」

「これからもっと高くまで飛ぶから、怖かったら目を瞑っているんだぞ」

 

 俺が唱えた呪文の効果は、『レムオル』が透明化、『フバーハ』が寒熱耐性、『トラマナ』が地形ダメージの無効化、そして『トベルーラ』が飛翔だ。

 それらの効果がかかった俺たちの体は、誰にも見られること無いまま、勢いよく空高く舞い上がる。

 

 

「すごい、私たち空を飛んでる!」

 

 飛び上がってからしばらく経った今、俺たちは街を一望できる程の高さを飛行していた。

 智音も俺の魔法に慣れたもので、飛び始めてからすぐに俺の腕の中ではしゃぎ始めていた。

 

 俺が、智音を絶対に落とさないようにと更にぎゅうっと抱きしめると、智音はそれに応えるようにして俺の首に手をまわし、はにかみながら体を密着させた。

 智音が抱きしめ返してくれたことを嬉しく思いながら、俺は更に雲の間を縫いながら高度を上げ、遂に雲海を見下ろせる所までやって来た。

 

「うん、ここなら大丈夫かな」

 

 空を見上げれば、満天の星空とまだ昇っている途中の満月が見え、空と雲に挟まれた俺と智音はまるでこの世界に二人っきりで取り残されたかのような錯覚を覚える。

 

「これが魔法使いの見せたいもの? 綺麗な景色だね~」

「あぁ、待て待て。あくまでもここは舞台であって、俺が見せたいのはもっと違うものだよ」

 

 智音の勘違いを慌てて訂正すると、智音はきょとんとした顔をしている。そろそろネタばらしの時間だな。

 

「今日、何で俺がここまで智音を連れてきたかというと、これをプレゼントするため」

 

 そう言って俺が『ふくろ』から取り出したのは、ピンクのハートに蝙蝠の羽のような飾り、中央には紫水晶のような装飾品があるステッキ。

 まぁ、要は中二病でも恋がしたい! で智音が持っていたあのステッキだ。

 

「これを私に?」

「何か勘違いされてそうだが、それには魔法の力が備わっている。今の俺のように空を自由に飛ぶ力だ!」

 

 最近俺が一生懸命作っていたアイテムであるこのステッキには、『トベルーラ』の魔法が込められており、使うと空を自由自在に飛ぶことが出来るようになる。

 実のところ、『トベルーラ』が発動すると同時に色々な魔法が発動するようにはなっているのだが、一旦それは置いておく。

 

 さて、俺の説明を聞いた途端に目を輝かせ始めた智音。

 俺からステッキを受け取り、えいっ! と智音がそれを振るった瞬間、智音の体は俺から離れて空に浮かび上がる。

 

「わ、私、一人で空を飛んでる! これで夢が一つ叶えられたんだ……ありがとう魔法使い!」

 

 智音はそう言い、花が咲いたような笑顔を俺に見せてくれた。しかし、これは目的を達成するための準備段階だ。

 俺は近くで好きなように飛び回っている智音に向かって大きな声で、

 

「智音、いや、魔法魔王少女ソフィアよ! 貴様の力を試させてもらおう!」

 

 と宣戦布告する。

 智音は俺のその言葉を聞いて、一瞬面喰らった顔をしたもののすぐに笑顔を浮かべ、楽しそうな顔をした。

 その顔を見た俺は、智音がすぐに乗ってくれた事に心の中で感謝しながら、詠唱を始めた。

 

「爆ぜろリアル! 弾けろシナプス! バニッシュメント・ディス・ワールド!」

 

 瞬間、世界は一変する。

 月は見た者を狂わせるような深紅に染まり、天に浮かぶ星々は闇に染まった空に塗りつぶされてその輝きを消し、先程まで幻想的に存在していた雲海は姿を消し、代わりに雷鳴轟く暗雲が垂れ込める空間が広がった。

 

「こ、これは!」

「さぁ、ソフィアよ! 貴様もその杖に願いを込めて詠唱するがよい!」

 

 いきなり変化した世界に凄まじい驚きを見せていた智音だったが、俺の助言をすぐに理解して状況を即座に把握し、智音も詠唱を始める。

 

「魔王承認、魔法力解放! ケルビム詠唱 セラフィム降臨 フィジカルリンゲージ!」

 

 詠唱が終わった瞬間、智音の格好が大きく変わる。

 見た者を虜にするような漆黒の衣装に、ひらひらと靡きながら紅く燃え上がる巨大な翼。さすがは現役中二病だ。

 

「……魔法使い。いざ戦争だよ!」

「あぁ、望むところだ!」

 

 その後、智音もとい魔王の究極魔法による攻撃から始まり、俺が炎龍召喚を行うと、智音はすぐに翼によるオールレンジ攻撃で反撃をしたりと、俺たちは一進一退の攻防を繰り広げつつ本気のバトルを楽しむのであった。

 

 しかし、そんな時間もいつか終わりを告げる。

 智音は俺よりもよっぽど上手く、この『レミーラ』という魔法を使いこなしており、序盤は年季の差から俺が優勢だったものの、次第に智音に押され気味になってきて、遂に俺は敗れてしまった。

 

「にっはっはー! 今日のところは、ソフィアちゃんの勝利だね!」

 

 高らかに笑い声を上げながら、勝利を告げる智音。

 それに対して俺は、物理的なダメージは全くないのにも関わらず、ボロボロになっていた。主に魔法使いとしてのプライドが。

 

「いやいや、完敗だよ……。それでは、魔王! 我に勝った証として、これをやろう!」

 

 そう言って、俺は智音に近づいてペンダントを手渡した。

 

「魔法使い、これってもしかして?」

「今日、智音の誕生日だろ? だから、俺からのプレゼント」

 

 それを聞いた智音は、勢いよく俺に向かって飛んできて、

 

「魔法使いー! ありがとうー!」

 

 と、心の底から嬉しそうな表情をして言った。

 そしてそのまま俺に深いキスをしてきたのであった。

 

 

 結局、俺がこの日一番理解した事が何かと言うとだな。

 俺はどこまでも智音を愛しているし、智音も俺を愛してくれている。

 これって、この上無く幸せな事なんだよな、って事なのであった。

 

 




 『中二病でも愛してる!』第8話をお読み頂き、ありがとうございました。

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