新米ハンターちゃんと変態ハンターくん   作:あららどろ

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第1章 アルコリス地方―森丘―
#1


「美しい!!」

 豊かな緑が広がる丘に、大きな声が響き渡った。

 その声は向かいに広がる丘に反響し、やまびこの要領であたりに響き渡る。その声の大きさは、下方を流れる川のそばで水を飲んでいたアプトノスが、首を上げてあたりを見回すほどだった。

 

「メタリックでつやつやとした鱗……! フフフ……自然の生み出す神秘……これはもはや芸術だな!」

 

 惚けるような視線を二足歩行の鳥竜種に向けているのは、バトルシリーズの装備に身を包んだ若い男だ。

 背に携えた双剣を抜こうともせず、獲物を前にしてだらだらとよだれを垂らすランポスの群れへあろうことか近寄っていく。

 

 そんな彼の襟を掴んで、必死に引っ張っているのは、レザーライトシリーズを装備した若い女だった。

 

 

「バッカなこと言ってないで逃げますよセンパイ!! マジで死にますよ!!」

 

 レザーライト装備のハンター、フィーナは、ぞろぞろと集まってくるランポスたちに焦りながらも、自分の世界に入り込んでしまったハンター、イウェンを何とかこちら側に呼び戻そうと必死に頬を叩く。

 

「こう並んでいると個体ごとの違いがよくわかる。あそこの個体を見ろ! 頭部がやや白みがかっている!! 傷が癒えてああなったのか、はたまた最初からああだったのか……」

「バカーーーッ!!」

 

 フィーナは、ハンターナイフの柄で後頭部を殴りつけた。

 

「な、なにをする!」

 

 このイウェンという男は、生物狂いの王立古生物書士隊の隊員だ。厳密には「元」だが。若干15歳で書士隊に入隊し、数々の発見を成し遂げて20歳という異例の若さで隊長という要職にまで上り詰めた天才だ。

 だが、危険を顧みぬ狂気じみた研究方法を行い続け、自信の管理する隊を危険に晒したという理由で書士隊をクビになってしまったというまさしくマッドサイエンティストだ。

 

 心機一転ハンターとしてモンスターと触れ合うという選択をした彼が、たまたまココット村に訪れたところで新米ハンターのフィーナと出会い、同じ新米ということで2人はペアを組むことになったのだが――

 

 

「状況考えてくださいって!」

 

 最近、フィーナは失敗だったかなと思うことが多々ある。

 簡単な採集クエストすら、イウェンはモンスターの尻を追いかけてばかりでまともに働かない。放っておくと彼は命を捨ててしまいかねないので目を離すこともできず、結局時間切れでクエスト失敗になってしまう。

 

 ペアを組んで半年。まともなクエストのクリア実績すらないありさまだ。

 

 何度ペア解消をしようと悩んだことか。だが、イウェンとペアを解消すれば彼は翌日にはモンスターの胃袋に収まってしまうだろう。そんなこんなで、フィーナはいまだにイウェンとペアを解消できずにいる。

 

 だが、今回ばかりは本気でペアを解消しようかと思った。

 納品用の特産キノコを集めている途中でランポスと出くわすところまではよかった。腐ってもハンターだ。数えるほどしかないとはいえ、ランポスの討伐経験くらいはある。

 

 だが、今回はランポスの数があまりに多かった。まだ経験も浅く、装備も未熟な私たちでは危険だと判断し、逃げようとしたのはいいが、イウェンは逆にランポス達に近付いていくありさまである。

 

 

 先頭の一頭が吠え、それを皮切りにランポスたちが一斉に襲い掛かってくる。

「ぎゃああああーーーっ! にげますよ、センパイ!!」

 フィーナはイウェンの手を取ると、ランポスたちに背を向けて走り出した。

 

 ランポスくらい何匹いようがハンターなら狩れるだろうと思うかもしれないが、それはモンスターというものをよくわかっていない一般人の意見だ。

 ランポスたちは狡猾で頭がいい。リオレウスを1人で狩るほどの凄腕のハンターが、物陰から飛び出してきたランポスに襲われて命を落とすという話だってあるくらいだ。

 

 一見目立つ黒い縞模様の入った青い鱗は、木陰や物陰に隠れると迷彩効果を発揮する。

 

「待て、フィーナ」

「マジで後にしてください! マジで! って、あっちからも……こっちです!」 

 

 イウェンが止めるのも無視して、フィーナは前方からくるランポスを避けて横の小道へと飛び込んだ。

 そこはのどかな丘と木々の生い茂る森を繋ぐ岩壁によって作られた細い道だった。アプトノスの荷車が何とか1台通れるかどうかという幅のその道は、左右にそれるような小道もなく、進むか戻るかしかできないような地形だった。

 

 ランポスたちの鳴き声はまだ追ってくる。ここには身を隠せそうな障害物は見当たらない。やり過ごすためにはもう少し奥へ行かなくては。

 フィーナが森側へ進もうとイウェンの手を引っ張る。が、イウェンは驚くほどの力でそれに抵抗した。

 

「どうしたんですか、先輩! 早くしないと追いつかれ――」

「そう、保護色だ」

「ハ? なんですか一体……先輩の頭がおかしいのはいつものことですけど、本当にマジで勘弁してくださいよ」

 

 この男が突拍子もなくわけのわからないことを言うのは珍しいことではないが、まさか命の危険の最中ですらそれが変わらないとは思わなかった。

 このままイウェンと一緒にいては、それこそこの男の部下と一緒でいつか命を落とすことになるだろう。イウェンには悪いが、ここから生きて戻れたらペアを解消しよう。

 

 フィーナがそう決心し、森の方へ行こうとすると、イウェンはいつになく真剣な顔でフィーナの肩を掴んで引き留めた。

 

「ハァ……マジで。なんなんですか一体。死ぬならセンパイ一人で死んでくださいよ」

「ランポスの黒と青のストライプは、一見目立つ色合いだが、木や草の影に隠れると保護色として立派に機能する」

「知ってますよ。それくらい。舐めてるんですか?」

「彼らの狩りは、姿勢を低くして草の陰などに隠れながらゆっくりと獲物に近付き、そして全員で一気に食らいつくという方法が一般的だ。隠れて近づかなければ保護色である意味がない」

「で、それがどうかしたんですか? うんちくなら後にしてくださいよ」

「だが今回、奴らは隠れる素振りも見せず、始めから我々に姿を見せていた。先回りして待ち伏せしていた連中もそうだ。物陰に隠れて俺たちが気付かず側を通ったところをガブリと行けばいいのにそれをせず……まるで道を塞ぐように叫んでいた」

「知りませんよ。そんなの……ていうか、普通でしょう。それが」

 

 そもそも、ランポスが姿を隠すところなど見たことがない。彼らは草原を疾走し、ハンターを見つけると集団で襲い掛かってくるだけの厄介者ではないのか。

 

「普段、我々がランポスの忍び寄る姿を見ないのは我々が「餌」ではなく「敵」だからだ。「敵」としてみなされていたなら、彼らは追ってこない。追い払うのが目的だからな」

「でも、今回はしつこいですよ」

「そうだ。それは奴らが我々を「敵」ではなく「餌」であると認識しているからだ。ではなぜ、餌である我々に姿を見せたのか……奴らは馬鹿ではない。鳥竜種は知能が高いのだ。特に、ランポスら走竜下目はイャンクックなどの鳥竜下目と違い「集団作戦」という概念がある」

「はぁ……」

 

 ソーリューだとかチョーリューだとか、聞きなれない言葉ばかりでフィーナは頭痛を覚えた。

 

「立派なハンターを目指すなら獲物の行動をよく観察しろ。それが命を救う」

「……で、何がいいたいんですか? 時間がないんですけど……」

「講義の時間はまだ終わってない。きっと彼らは我々がキノコを採っている時から作戦を考えていたのだろう。奴らは考えた。私たちは「獲物」だが「楽に狩れる相手」ではないと思ったのだろう。ではどうすれば被害が少なく狩れるか。奴らの導き出した答えはこうだ。追いかけ、追いたて、疲労させたところを強い者に狩ってもらう」

 

 はじめはまたいつものうんちくが始まったと話半分に聞いていたフィーナだったが、徐々にイウェンの言わんとすることがわかってくるうちに、その顔はみるみると青ざめていった。

 

 自分たちは逃げていたのではなく、追いたてられていたのか。来た道を振り向くと、まるで逃げ道をふさがんとするかのようにランポスたちがこちらの様子をうかがっている。

 ――襲ってくる様子はみられない。

 

 森の方から、草を踏みしめる音がする。その足音は1つや2つではない。そしてその足音の中に、1つだけ、他よりも重量感のある足音があった。

 

「我々は今、まさに袋の鼠だ」

 

 間違いであってほしいと願う。だが、モンスターの生態においてイウェンは絶対の精度を誇る。それこそ、王立古生物書士隊の発行するモンスターの生態書よりもはるかに高い信頼性を持つのだ。

 

 そのイウェンが言ったのだから間違うはずがない。

 

 それを裏付けするように、森側から、一際大きな体格を持つランポスの群れの長――ドスランポスが姿を現した。

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