新米ハンターちゃんと変態ハンターくん   作:あららどろ

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#3

「そういえば、先輩の使っていた閃光玉って私が知ってる閃光玉とちょっと形が違いましたよね」

 

 アオキノコのソテーをほおばりながら、フィーナはイウェンに尋ねた。

 

「ああ……俺は調合技術がさっぱりだからな。既製品をまとめて買ったんだ。ドンドルマやメゼポルタの方からきた行商人でな。光蟲の閃光玉は、蟲を生かしておかなければいかんからストックが面倒だ。その点、陽光石の閃光玉はストックがしやすいからな」

 

 口の中に銀シャリ草を詰め込んだまま話すので、話すたびにボロボロとシャリ粒が零れ落ちる。フィーナは呆れた顔でイウェンの口元についたシャリを紙ナプキンでぬぐい取ってやった。

 

「む、すまんな」

「恥ずかしいですからちゃんとしてくださいよ。で、いくつくらい買ったんですか?」

「さあな。あるだけ買って全部アイテムボックスに配達してもらったから詳しい個数は把握してない」

「あ、あるだけって……一体いくつ買ったんですか?」

 

 確かに、閃光玉はいくつあっても困らないが、遠方から来たとはいえ行商人が持っているだけ買うというなら1万ゼニーやそこらではないだろう。

 

 この男、書士隊時代の給料がまだ残っているとは聞いていたが具体的な額は一体いくらなのだろうか。実は、金銭感覚がぶっ飛んでいるのではないだろうか。

 

「数は知らん。20万ゼニーくらいだったが」

 そんなフィーナの予想を裏付けするかのように、イウェンの口からは目にしたことがないような額が飛び出してきた。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや! センパイ、一体いくら持ってるんですか! そんな額、それこそ超一流ハンターでもなければポンと出せませんって!」

 

 ハンターたちの憧れの的であるG級ハンターですら、装備が整っていないうちはその額をポンと出すのは難しいだろう。それこそ、狩りの全てを知り尽くし、貴重なモンスターのG級素材をバンバン売りに出せるようになった超一流のみが、数十万の買い物を出来るようになるのだ。

 そこまで行けずに――それどころか、まともな飛竜を狩る前に挫折するハンターも多い中で、この男は新米の癖になんと金使いの荒いことか。

 

「こうやってクエストを受けてみると書士隊の金払いがいかによかったか身に染みるな。最も、俺は色々歴史級の発見をしてきたから報奨金がドカバコもらえたというのもあるが」

「じ、自慢ですか……? だからヘボハンターのくせにバトルシリーズなんて高級品持ってたんですね……」

 

 納得がいったと、フィーナは1人頷いた。

 

「俺はヘボじゃない。運動神経がないだけだ」

「でも一人じゃファンゴも倒せないじゃないですか」

「本気を出せば倒せる。だが、コスパに見合わないからやらないだけだ」

「ひょっとして、今日みたいに閃光玉を使って倒すとか?」

「大タル爆弾もな」

「うわ……ブルジョワハンターすぎません? ってか! そんだけお金持ってるならご飯くらい奢ってくださいよ!! 私だって米虫じゃなくて銀シャリ草食べたいですよ!!」

「ハンティングならともかく、プライベートで金を出すつもりはない」

「ケチ! 私ら一応コンビなのに!」

「むう……それを言われるとな……」

「ていうか色々繋がりましたよ!! センパイ、前にイャンクックの火炎液食らっても翌日ピンピンしてたの! あれ秘薬使ったでしょう!」

「よくわかったな」

「ああん! ずるいですよセンパイ! アイテムの使い方だけはG級ハンター並みですもん! ハンターランク1未満の癖して!」

 

 トントン、と、杖を打つ音がして、竜人族の老人――ギルドマネージャーが掲示板の前に立った。何か大事な連絡――緊急クエストが出る合図だ。

 その場にいた全員――といっても、小さな村の集会所故に、イウェンたちを含めて数人ではあるが――皆が固唾をのんでギルドマネージャーの言葉を待つ。

 

「シルクォーレの森とシルトン丘陵。通称「森丘」におけるランポスの異常発生……これに対して、正式な討伐依頼が出た。討伐対象はランポスの群れと、それを束ねるドスランポスの討伐じゃ。近辺の村の被害も危ぶまれる。早急に退治に向かってくれんか」

 

 なんだ、ドスランポスか。

 まるでそんな言葉が聞こえたようにすら思えた。

 ハンターたちは、ターゲットの名前を聞くや否や、興味をなくし酒を片手に会話に戻る。

 

 ――なんだか、冷たい人たちだな。

 

 人々が危険にあっているかもしれないのに、報酬が安いからだとか、討伐対象が大したことないから受けないとか――そりゃあ、ハンターは英雄ではないとこいうことは知っているけれど、やっぱり、誰かの為に戦うのが本当の意味で良いハンターだと思う。

 

「……やはり、誰も受けてくれませんね」

「わかってはおったがな……仕方がない。ミナガルデの方へ手配しておいてくれ」

 

 ギルドマネージャーの言葉に、受付嬢が頷きてきぱきと書類を纏めていく。

 それを見たフィーナは、大きな音を立てて勢いよく立ち上がった。

 

「ハイハイ! それ、自分が行きます!」

 

 腕を上げてアピールしつつ、ギルドマネージャーに向かって叫ぶ。先ほどまでの騒がしさはどこへ行ったのか。酒場は静寂に包まれた。

 

「お、お主がか……? 確かにこれはハンターランクによる受注制限を設けてはおらんが……」

 

 何とも言えない空気が流れる。この場にいる者は全員、フィーナのクエスト成功率を知っているのだ。キノコ探しすらまともにできない奴が、ドスランポスなんて狩れるわけがない。誰もが、馬鹿にした目でフィーナを見ていた。

 

 嘲り笑うような他のハンターたちの視線が、フィーナの羞恥心を刺激する。思わず涙が出てきそうになる。

 まさか、自分がここまで馬鹿にされているなんて思ってもみなかった。新人だからと、みんなが温かい目で見ていてくれるものだと思っていた。

 だが、現実は違う。ギルドマネージャーですら、目で「無理だ」と言っている。

 

 見返してやりたい。

 だけど同時に、みんなの言う通り無理かもしれないという思いもあった。

 

 自身が打ち砕かれ、フィーナの手が徐々に下がってくる。それを見て、ギルドマネージャーはほっと安心したように息を漏らした。

 

「いいだろう。お前がやりたいというならやろう」

 

 そんなフィーナを後押ししたのは、イウェンだった。

 この場にいる者でただ一人、彼だけがクエストの成功を信じている。そんな目をしていた。

 

「セ、センパイ……どこからそんな自信が出てくるんですか?」

「ドスランポスくらい何とでもなる」

「キノコの収穫すらまともにこなせないの、センパイの所為なんですよ?」

「なぜそうなる。フィーナ、手続きをすませておけ。俺は準備をしてくる」

 

 普段は頼りないどころか、足を引っ張る駄目な人。

 だというのに、何故か今回は頼りになると感じてしまう。

 ああ。きっと私のハンター生活は今から始まるんだ。

 

「まあ、仕方があるまい。一応、クエストを数回クリアした実績はあるしのう……」

 

 はじめは渋い顔をしていたギルドマネージャーだったが、しぶしぶそのクエストの受注を許可してくれた。なけなしのゼニーから契約金を支払うと、クエストの内容や報酬、場所などが記された受注書を渡してくれた。

 

 討伐対象:ドスランポス1頭の狩猟。ランポス20頭の討伐。

 目的地:森丘

 

 初めて討伐対象が中型モンスターとなっているクエストに挑戦する。受注書を見るだけで、ワクワクが止まらない。まさしく、モンスターハンターが今、始まるのだ。

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