ドスランポスの討伐。
今回のクエストはクエストクリア条件が複数存在するタイプのクエストで、いわゆるマストオーダー式という奴だ。
どのような順番でオーダーをこなしていくかは、自分の自由。イウェンと話し合って、作戦を考えて――なんて考えただけでドキドキが止まらない。
手続きを終えると、フィーナは村の出入り口に待機しているアプトノスの荷車へ手早く荷物を積み込んだ。
アプトノスの荷車は、狩場へ向かう為の移動手段として、ギルドが毎回貸し出してくれる。それに加え、キャンプ用の毛布や飲み水、食糧。ハンターが狩りに集中するために生活用品もそろえてくれている。
クエスト報酬のギルドの取り分が多すぎるだの、苦戦した際に報酬を3分の1も減額するのはおかしいだの言うハンターもいるが、依頼の仲介役でありながらハンターの為に様々な用意をしてくれるのだから、むしろ安いくらいだとフィーナは思う。
フィーナは、用意した荷物を積み終わると、荷車に飛び乗って最終確認を行った。
薬草の数は十分か。回復薬も今のフィーナには高級品だが、念のためアイテムボックスにある分は全て取り出した。砥石は決して忘れてはいけない。
「そうだ! ペイントボール!」
中型サイズ以上のモンスターを狩猟するのは初めてだから、すっかり忘れていた。ドスランポスは傷を負ったら逃げて体制を立て直すという。ペイントボールもなしに広い広い森の中で逃げたドスランポスを見つけるのは至難の業だ。
「ちょっと待っててね!」
荷車につながれたアプトノスを撫でると、フィーナは荷車から飛び降りてマイハウスへと走った。アイテムボックスを探せば、支給品に入っていて、使わずに持って帰ってきたペイントボールがあるはずだ。
大急ぎでアイテムボックスを開き、頭をボックスの中に突っ込んでペイントボールを探す。日頃の整理整頓を怠ったため、なかなかペイントボールが見つからない。
もう一度手を奥まで突っ込む。
「やった! あった!」
3個しか見つからなかったが、ドスランポス相手なら十分な数だろう。
目当てのものも見つかり、いよいよクエストへ迎える。
フィーナが村の入り口へ向かうと、先ほどと少し景色が違うことに気が付いた。
アプトノスの荷車が増えていた。
普通、クエストへ向かう時の荷車は2人につき1台だ。それ以上は貸出に別料金がかかってしまう。
そんなことをする金があるのは――案の定、イウェンだった。
イウェンはやたら大きいタル爆弾をよっちらよっちらと危なっかしい足取りで荷車に積んでいる。見かねた受付嬢や雑貨屋のおばちゃんまで手伝いに来る始末だ。
当然といえば当然だ。村のど真ん中であれほど巨大な爆弾を起爆させられたらたまったものではない。
しかし、大タル爆弾にしてはあまりにも大きい。イウェンの事だ。大タル爆弾Gを用意していてもおかしくはないが――あまり本物に触れる機会がないので確信は無いが、心なしか大タル爆弾Gよりも少し大きい気がする。
きっと閃光玉の時のように、遠くのアイテムを買い寄せたのだろう。
一人で納得すると、フィーナはアプトノスの荷車に飛び乗った。
「先輩、準備は終わりましたか?」
「ああ。今ので最後だ」
「また随分と色々用意しましたね。荷車一つじゃ足りないなんて」
「失敗するわけにもいくまい。今回は俺も本気だ」
イウェンの荷車には、本でしか見たことのないようなアイテムが山のように積んであった。
磨かれたルビーのように美しく輝く赤い液体はおそらく鬼人薬Gだろう。その透き通るような深い紅色は、鬼人薬Gの中でもかなり質の良いものだろう。
その隣には、活力剤とケルビの角が大量に積まれている。どちらも高級品だ。特にケルビの角は人気が高く手に入りづらい。見れば、隅には生命の粉塵までおいてあった。周囲に回復効果のある粉を拡散する貴重な回復アイテムだ。調合には手間と時間がかかる上に調合難度も高く、市場に出回ることはほとんどない高価なアイテムだ。
まるで街にいる高価なアイテムばかり取り扱う行商人のような品々だ。G級ハンターですらここまでのアイテムを揃えるのは苦労するだろう。どれもが一級品ばかりであり、場所を選んで持っていけばたちまち人だかりができるだろう。
それを簡単に用意できるのは驚くが――これだけ高価なアイテムを使ってしまってはクエストの報酬の割に合わないだろう。今から行くクエストは、確かに自分たちのような貧弱なハンターには大仕事だが、普通のハンターから見れば片手間でできるような簡単な仕事だ。
だが、イウェンはそんなこと関係ないとばかりにタル爆弾が転がり落ちないように、荷車にしっかりと縛り付けている。
「セ、センパイ、これ全部使うんですか……?」
「流石にこれだけあれば失敗しないだろう」
「いやいやいやいや! そういう問題じゃないですって! なんかもう色々スゴイ目で見られてますよ! 事情が分かってない子供とかなんか物凄いモンスターを狩りに行くんじゃないかって憧れの眼差しを向けてますよ!」
「ま、どうせ持っていても使わなくては宝の持ち腐れだ。まだいっぱいあるし……少しくらい使っても問題ないだろう」
「いっぱいあるって! いっぱいあるって言ったよこの人! 私なんて全財産はたいても秘薬1個買えるかどうかですよ!」
「秘薬……そうだな。お前も万が一に備えて持っておけ。危ないからな」
「いや……あ、くれるんですか。秘薬……」
「心配だからな。お前に万が一のことがあったら俺は……」
「いや、いやいやいや……騙されませんよそんな。心配してくれることに関してはその……素直にうれしいというか……」
「いつまでもイチャイチャしてないでとっとと出ていきな!」
しびれを切らした雑貨屋のおばちゃんが、アプトノスを叩いて荷車を発進させた。突然動き出したので、フィーナは大きくバランスを崩してしまった。
「おとと……それじゃ、行ってきます!」
「無事に戻ってきなよ。そしたら、いいもんあげるから」
「わかりました! じゃ、センパイ! 行きましょう!」
フィーナは荷台から御者台へ移ると、手綱を振ってアプトノスを急かした。