青春とは、素晴らしいものだ。これは主観的な意見でしかないが、かなりの人間にとってそうだろう。友達を作るのもありだろう。彼女を作るのもいい。部活で汗を流すのも。だが、そんな中でも一つ許せないことがある。
人と対立することだ。これは青春とは呼べないと思う。対立することで成長するなどナンセンスに他ならない。
人の歴史というのは対立によって形作られてきた。対立が拡大して戦争になるのだ。それは結局、甚大な被害をもたらす。
しかし、これには打開策もある。その中でももっとも有効な手段だと考えられるのは、対立の芽を取り除くことだ。つまり、最初から人と対立してしまうような本気の関係を作らないことだ。
高校生活ではこれを生かすことこそ、心の安寧を保つ道なのだ。
先ほどのようなふざけた作文を書いた俺、つまり南野薫は国語教師である平塚静先生に呼び出されていた。いや、呼び出されていたのは俺だけじゃない。隣の俺より少し背の高い男子、比企谷八幡も呼び出されていた。
平塚先生の矛先はまず、比企谷に向いた。
「なあ、比企谷。私が授業で出した課題は何だったかな?」
「……はぁ、『高校生活を振り返って』というテーマの作文でしたが」
「そうだな。それでなぜ君は犯行声明を書き上げてるんだ? テロリストなのか? バカなのか?」
平塚先生はため息をつく。いや、お前、何書いてんの、マジで。もしかして、リア充死ねとか書いたのかよ。
「先生、恐らくどちらもかと思います。俺も人のこと言えないけど」
俺が呟くと、比企谷は睨み付けてきた。マジで怖いです。ごめんなさい、比企谷くん。てゆーか、かなり目が腐ってんな。
その後は比企谷だけがひたすら怒られ続けた。俺も要らぬ口を挟んで怒られたくはないので、傍観を決め込む。ときどき、比企谷が助けを求めるかのような目で俺をちらりと見ているが、それは見て見ぬふりをする。
「んで、お前の方も何だ、この作文は」
平塚先生が俺を睨む。
「当たり障りのないことを書いたつもりですが」
「ったく、お前も比企谷とどっこいどっこいで腐ってるな。これを実践するということはどういうつもりだ?」
「俺は誰とも本気で関係を持ちたくないんです」
そう言うと、彼女はまたため息をつく。
「つまり、それはボッチということか?」
「そーですね。俺の作文から分かるように強い関係を築くつもりはありません。もしかして、先生も気持ち分かります?」
先生は未婚らしいので、軽く茶化してみると、先ほどより何倍も恐ろしい目で睨まれた。
「……静かにしないか?」
怖いです。そして、冗談です。ですから、顔面をパンチで潰すのは勘弁して下さい。
俺のその祈りが通じたのかは分からないが、先生はしばらく考えて俺と比企谷に言った。
「二人ともレポートは書き直せ」
「はい」
これは仕方ない。
「だが、二人の失礼な態度は私の心を確かに傷つけた。なので、君たちには奉仕活動を命じる。罪には罰を与えないとな」
少なくとも傷ついてはいないだろ。そんな様子で先生は言う。
「奉仕活動って……何すればいいんですか?」
比企谷が恐る恐る尋ねる。
「ついてきたまえ」
大丈夫かよ、これ。ついて行ったら、めちゃくちゃひどい目に合うんじゃないか。そう思って尻込みしていると、先生は俺たちを睨み付けてきた。
「おい、早くしろ」
俺たちはついて行くしかなかった。
俺たちが連れていかれた先は人の少ない特別棟だった。拷問とかを受ける訳ではなかったからほっとしたが、奉仕活動とは一体何なのか。
比企谷は平塚先生と何やら話しているようだが、俺にはそんな余裕はない。というか、こんな状況でまともに会話できる比企谷のメンタルすごいな。
「着いたぞ」
先生が立ち止まったのは、本当に何の変哲もない教室。俺たちが黙って眺めていると先生はドアを開けた。
そのとき見た光景を俺は一生忘れないだろう。夕陽に包まれた教室の中で本を読んでいた一人の少女を。
それが俺や比企谷の雪ノ下雪乃の出逢いだった。