高校生というのは暇なものだ。もちろん、それは人によって異なるが、リア充ぶっている奴らとそうじゃない人の比率は3:7ぐらいではないだろうか。となると、7の方に当てはまる俺は授業が終わると一気に暇になる。このまま帰ってもいいが、今の俺にはこういうときのための居場所というのがある。担任の平塚先生に強制的に入れさせられた奉仕部という部活である。行かないとどんな目に逢うか分かったものじゃない。
という訳で、俺は奉仕部に向かった。何か目的があるわけではない。よって、今日もだらだらするだけだろう。
俺が一番乗りかと思って入ったが、中には先客がいた。同じく奉仕部員の雪ノ下雪乃である。
「こんにちは、南野くん」
「おう」
俺は小さく挨拶する。
「比企谷はまだ来てないのか?」
「そうね、まだ来てないわ。昨日あれだけ言ったのに、来れたならそれはそれで凄いと思うけど」
そうだろうな。昨日の部活はほとんど比企谷と雪ノ下の言い争いだった。俺の入る場面もほとんどなかった。
「ねぇ、南野くん。あなたはなんでこの部活に来たの?」
文庫本を読んでいる雪ノ下が声をかける。
「俺の意思じゃねぇよ。平塚先生に強制的に入れさせられただけだ」
「そういうことじゃないわ。あなたも比企谷くんと同じで自己変革が必要だと判断されたから来たんでしょう。それはどの部分だと思うの? あなた自身は」
「要するに、俺の駄目な部分を訊いていると解釈していいな? それは」
雪ノ下は頷く。
「よし、なら当ててみろよ。初対面の比企谷の欠点をあれだけ言えたんだ。俺のも分かるだろ」
俺がそう言うと、雪ノ下は黙って考え出した。
その雪ノ下の姿を見て、どこか美しいなと思ってしまう。これであの毒舌がなくて、もう少し可愛げがあったら言うことなしなのに。
「昨日の平塚先生の言っていたことを考慮すると……。人とのコミュニケーションを恐れているということかしら?」
意外とよく見ているものだ。
「ああ。だいたい合ってる。中学の頃、俺は今とは対極的な性格だったんだよ」
あのときのことを思い出すと胸が痛くなる。
「対極的な性格?」
「ああ。誰にでも話しかけるような性格だ。今でいうリア充という奴だ。そんな性格だから、学校の行事でも重要な役割を任されることも多かったんだ。でも、中三のときの文化祭の準備中に疲れで二日休んでしまってな。めちゃくちゃ大事な時間帯なのに休んでしまったから、文化祭自体はうまくいったけど、たくさんの人に迷惑かけてさ。もちろん、俺がたくさんの仕事を背負ってたから、誰もそのことは責めない。けど、そのとき役員の一人に言われたんだ。『たかが文化祭だ。そんなに無茶する必要はない』と。その瞬間に俺は人と本気で付き合うのが嫌になってしまった」
「どうして?」
「誰かのために頑張ったところで所詮それが自分の築いてきた偽りのような友情なら意味がないと思ってな。俺が本気でも向こうがそうじゃないなら意味がない。そこから俺はどんどん孤立していったんだ。ごめんな、つまらない話だったな」
俺は頭を下げる。
「大丈夫。あなたは比企谷くんと違って自分の根本的な悪いところも理解しているもの」
真っ直ぐな表情で話す彼女を見て、この雪ノ下雪乃という人には厳しい一面よりも優しい一面の方が多いような気もしてくる。
そんな中、比企谷八幡が入ってきた。
「よう」
俺は声をかける。
「おう」
比企谷も答える。そして、雪ノ下を見て言う。
「この距離でシカトかよ……」
雪ノ下の猛烈な無視に苦い表情になる。
「変わった挨拶ね。どこの部族のもの?」
「……コンニチハ」
比企谷は苦々しいが、雪ノ下は笑顔になる。
「こんにちは。もう来ないかと思ったわ」
「べ、別にっ! 逃げたら負けだから来ただけだよっ! か、勘違いするなよっ!」
「お前、なんで動揺してんだよ」
「動揺してねぇよ……」
雪ノ下は彼の反応に興味はないようだ。
「あれだけ言われたら、普通来ないと思うのだけど、もしかしてマゾヒスト?」
「ちげぇよ……」
「じゃあ、ストーカー?」
「それも違う。なんで俺がお前に好意抱いている前提で話が進んでんの?」
「違うの?」
この二人の会話はコントみたいだな。
「ちげぇよ! その自意識過剰ぶりにはさすがの俺もひくぞ」
「そう、てっきり私のこと好きかと思ったわ」
「雪ノ下。お前は異常だ。勘違いもいいところだ。ロボトミー手術とかしとけ」
「比企谷、ブレーキ踏めブレーキ。その辺にしとけ」
雪ノ下が恐ろしい目で比企谷を睨み付けている。
「まあ、底辺の比企谷くんから見れば異常に映るのかもしれないけれど、私にとっては至極当たり前の考え方よ。経験則というやつね」
雪ノ下が自慢げに胸を反らす。
「経験則、ねぇ……。そら随分と楽しい学校生活なことで」
「ええそうね。端的に言って過不足ない生活を送ってきたわ」
「お前さ、友達いんの?」
「……そうね、まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらっていいかしら」
「あ、もういいわ。そのセリフは友達いないやつのセリフだ」
「つーか比企谷、そんなこと聞くなよ」
まあ、俺にも友達の定義なんてできる訳がないんだけどな。偽りとはいえ、それなりの友情関係を築いてきた俺ができないのだから、こいつらができるはずもないだろう。
「お前さ、人に好かれるくせに友達はいないとかどういうことだよ」
比企谷の言葉に少し雪ノ下はむっとする。
「……あなたには分からないわよ、きっと」
それは比企谷に向けられた言葉だが、恐らく俺も分からないだろう。
「でもさ、お前の今の口振りだと人に好かれたいと思ったことなんてないんじゃないの?」
そう言うのは俺だ。雪ノ下は自嘲的に笑う。
「そう、その通りよ。ねぇ、あなたたちのもし友達で常に女子に人気のある人がいたらどう思う?」
「殺す」
比企谷がすぐさま答える。
「南野くんは?」
「殺しはしないけど、仲間外れぐらいにはするかもな」
雪ノ下はうんうんと頷く。
「南野くんはそれほど悪くはないけど、排除しようとするじゃない? 私がいた学校にもそんな人が多くいたわ。そういった行為でしか自分たちの存在意義を確かめられない哀れな人たちだったのでしょうけど」
雪ノ下は鼻で笑う。そういった苦労を乗り越えてきたという悲しい表情に見えた。
「大変だったんだな」
俺は具体的なことは聞かなかった。というか、想像がつく。そんな話は聞いてて嫌になる。
「ええ、大変よ。私、可愛いから。でも、それも仕方ないと思うわ。人は皆完璧ではないから。弱くて、心が醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とそうとする。不思議なことに優れた人間ほど生きにくいのよ、この世界は。そんなのおかしいじゃない。だから変えるのよ、人ごと、この世界を」
雪ノ下は真っ直ぐな表情で言う。本当にこの人なら変えそうだ。
「努力の方向があさってにぶっ飛び過ぎだろ……」
と比企谷。
「そうかしら。それでもあなたのようにぐだぐだ乾いて果てるより随分マシだと思うけど。あなたの……そうやって弱さを肯定してしまう部分、嫌いだわ」
この人はどこまでも真っ直ぐなんだな。比企谷がくねくね曲がっているのだとすれば、俺はきっと不安定に真っ直ぐだったり曲がったりしているんだろう。それが結局、自分を苦しめている。
二人のことが分かると自分のことも少しは分かるようだ。なら……。
「なあ、雪ノ下、比企谷。俺たち三人は友達になれないかな」
「ごめんなさい。それは無理ね。この男がいる限り」
指差した先には比企谷がいる。
「また、俺かよ……」
今はそれでも構わない。でもいつか……。そのいつかに何を望んでいるのか結局俺には分からなかった。
黒い柱:こんにちは、黒い柱です。今日もお二人をお呼びしました~
南野薫:どうも南野です
比企谷八幡:比企谷です。つーか今日もやんのね、このコーナー
柱:もちろん。誰も求めてなくても続けるつもり満々だよ
薫:ところで今回はそこそこ出番があったな。相変わらず雪ノ下とお前には及ばないが
八幡:まあ、そこはこのいい加減な作者が今後どうにかしてくれるんじゃね? 知らんけど
柱:あー薫君、君には裏設定があるので、それが登場するのはだいぶ先ですが、待っていてくださいね
薫:俺、どんな目に合うんだよ……
八幡:ところでさ、前回も言おうと思ったんだけどさ……
柱:ん、どうしたの?
八幡:戸塚と小町はいったい、いつ出てくるんだよ!!
柱:あー、テニス回は作成中なのでもうしばらく待っててくださいね。
薫:つーか、シスコンかつホモが主人公って……。まあ悪かねぇけどさ。由比ヶ浜と雪ノ下がドン引きすんのは分かるわ
八幡:うるせーぞ、南野。戸塚と小町の前ではすべてが浄化されるんだ。ついでにお前の思考も浄化されればいい
薫:いや、ダメだとは言ってねぇだろ。好みは好みだし。なんか雪ノ下みたいな言い方だなそれ。というか、まだ出てきてない二人の話題を出すなよ
柱:今回はここまでです。次回はとあるゲストが来てくれます。あと作中はガハマさん初登場です。ぜひご覧ください
薫:ゲストって言っても俺が今のところ会ったの平塚先生か雪ノ下しかいないけどな
八幡:ということは俺は出なくても……
柱:いえ、八幡には引き続き出てもらいますよ。逃げたところで待っているのはファーストブリッドだけですから
八幡:平塚先生、出んのかよ
柱:あーそうじゃなくて、これ平塚先生にも協力してもらっているんですよ。奉仕部の活動の一環として
薫:作外にまで権力を広げる平塚先生……
柱:そこに痺れる
八幡:憧れねぇよ! さっさと帰らせろよマジで
薫:あと俺のさっきのコメントはそのネタのフリじゃねぇからな。呆れて言っちゃっただけだから
柱:今回はここまでって言ってからだいぶ話しちゃいましたね。今度こそサヨナラです。ここまで読んでいただきありがとうございました