誰かに救われ、救って抱きしめ   作:ローグ5

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ヒロアカやワンパンマンのような世を乱すヴィランと彼らと戦うヒーローがいる世界。これはそんな世界で最初の『仮面ライダー』になろうとした男の話。


前篇

「君を選んだのはまあ…偶然だ。ほら、よくテーマパークとかでもあるだろう?10万人目の来場者に記念品を贈ったりする事が。ああいう感じだ」

 

どこか男性的な口調とは裏腹に絹のように滑らかな声が響く。己の目的を端的に告げる声はこの空間と実にマッチしていた。

 

そう、この空間にある物はすべて美しかった。ぬけるような白い青空も草原も湖も、声の主がいるパルテノン神殿を思わせる神殿も全てが美しく形作られていた。そしてこの空間の主―――――鮮やかな蒼いドレスを身にまとい太陽のような輝きを宿した目、光の結晶のような長い髪を湛えた女神もまた美しかった。

 

何処か気だるげな様子の彼女に立つのは背格好から顔立ちまで平凡な男だ。ただしその表情はあらゆるものへの憎悪に満ちている。

 

無理もないか、と女神は思う。およそ21世紀の日本とは恵まれた時代の恵まれた国ではあるが、例外的と言っていいほど男の人生は客観的に見て酷い物だといっていいだろう。事実男の人生は特に功績のない物だが犯罪に走ることがなかった事は賞賛すべきであるとは思う。

 

「君には今からある世界に転生してもらう。ありがちな話だがいわゆる転生特典をいくつか与えよう。流石に転生特典に制限は幾つかあるが可能な限り君の望みに沿ったものにする。さあ何がいい?」

 

「……一つ目は物理学に対する天才的な才能だ。誰が邪魔しても歴史に名を残し巨万の富と名声を俺に与えるような」

 

「ふむ。容易に社会を変えるようなものはさすがにまずいからレベルは制限させてもらうが君の望みが叶う程度の物は与えよう。一つ目というと二つ目は何だ?」

 

「俺に…仮面ライダービルドへの変身能力を与えてくれ。変身アイテムと一緒にだ」

 

男が望むのは仮面ライダービルドへの変身能力。彼がこの後転生する世界においても圧倒的なアドバンテージを誇る力であった。

 

「俺はこんどこそ誰にも虐げられる事無く奪う側になってやる…必ずだ!」

 

「仮面ライダーの、力か。いいだろう最近ではメジャーなものだし特に問題はない。君の望みを叶えよう」

 

「そうか感謝する。これで、これでやっと俺は自分の人生を取り戻すことができる……!」

 

男の目には自身を取り巻くすべてへの深い憎悪。その憎悪の深さに女神は憐れみを覚えたが内心に覆い隠す。それを表しても男を傷つけるだけだからだ。

 

「…それでは君をそろそろ転生させよう。君の人生が幸福な物となる事を祈っているよ」

 

そうして少しばかりの説明を終えた後男は女神の前から消え新たな世界へ旅立っていった。再び一人きりになった世界で女神はイスに深くもたれかかり独り言ちる。

 

「仮面ライダー、か。かつて神話や戦の英雄に人々が憧れたように今の世で人々が憧れる、最も新しき英雄たちというが」

 

恐らく今のままでは転生した男は仮面ライダーにはなれない。愛ではなく憎悪を胸に戦う男はどこまで強くなってもアナザーライダー(まがいもの)にしかなれないだろう。だが女神は知っている。人は些細なきっかけで変わる生き物であることを。あの男が良い方に変わっていける人間だという事を。

 

「Be The Oneだったな」

 

女神は仮面ライダービルドの主題歌という歌を脳裏に描き謡ってみる。穏やかな顔のまま終わりまでその優美な歌詞を謳い上げて、ただ一言呟いた。

 

「優しい、良い歌だ」

 

女神の表情は穏やかな慈愛に満ちていた。

 

女神の祝福の元転生した男――――桐城コウトは自身の転生特典を最大限に活かした。物理学者として幾つもの発見をし名声を高める傍らビルドの力を使いヒーローとして活動していった。

 

彼は名誉も富も人の欲しがる物は全て手に入れた。だが彼はその攻撃的な性格から周囲から慕われることがなかったし彼自身も自分が好かれようとは思っていなかった。

 

そうして彼は愛を知る事無く第二の人生を歩んでいき―――――――やがて美しい物に出会った。

 

自身が守るべき、愛すべき美しい物に。

 

 

 

 

 

 

 

 

20世紀末からの四半世紀ほどの時代、この世界は波乱に満ちた時代を送っていたといっていいだろう。宇宙人の侵略から超能力者によって引き起こされたクーデター、さらにはバイオ技術やサイボーグ技術を投入した戦力を多数有する秘密結社の暗躍など幾多の危機が地球に住む人々に襲いかかり平和を乱してきた。

 

しかし今もおおむね平和な社会が大多数の国家では維持されている。それは各国の軍隊や警察の懸命な働きによる物もあるし、各国の政府機関の人類全体の利益を見据えた動きもある。だがそれ以上に大きいのは異能の力を平和のために振るうヒーローたちの働きが大きい。

 

だがそれでも平和を完全な物とするにはまだ遠い。まだまだこの世界には問題が山積みであるし、流失した技術や人材による犯罪も増加傾向にある。現に今日本の東京都の片隅でも争いが起きていた。

 

爆炎の中闊歩するのは近年ある軍需メーカーからのテロリストへの大規模流出が問題となっている人型自動兵器「アサルト」が十数体。さらにそれらの部隊を指揮官型の「ハードアサルト」が一糸乱れぬ鉄壁の統率を成している。

 

機械的な顔面を除けば完全武装の兵士にも見える彼らの攻撃は市街地で発するにはあまりにも苛烈。何名かのヒーローが居合わせた為まだ死者は出ていないが彼らは防戦一方だ。しかもヒーロー達はこうした軍事兵器との交戦経験が少ない年少の者達。この場面を収めるには早急な援軍が必要だったが

 

「きゃあっ!」

 

銃剣をきらめかせ殺到するアサルト達の乱戦となり最も近接能力の低い少女が倒れた。その状況に対応しながらも仲間たちは青ざめる。本来なら彼女は後方で仲間の支援に徹するのが役目。なのに彼女は敵に取り囲まれ孤立してしまった。これが意味することは

 

「いやあああああ!!」

 

倒れた少女をアサルトの内二体が少女を押さえつけ、残る数体が一斉に銃剣を振りかざす。まずは後衛から削ろうというのだろう。その無慈悲かつ冷酷な攻撃に彼女達はなすすべもない。絶望に目をつぶる少女は哀れ鮮血の中に倒れ―――――

 

「ピガッ!」

 

「ガビィッ!」

 

ることはなかった。宙を駆け抜けた赤いバイクがアサルトをまとめてボウリングのピンのように跳ね飛ばしたのだ。

そのままバイクは華麗にターン。片輪を浮かせるようにして停車した。

 

バイクにまたがる青年の腰には機械的なベルト。そして両腕には飲料缶に見えるボトルが握られている。それが意味するところは

 

「桐城さん!」

 

「君たちは町の人の避難を頼む」

 

『ベストマッチ!Are you ready? 』

 

軽やかな電子音性と共に青年が二つのボトルを腰のベルトに装填。そして勢いよくベルトに備え付けられたハンドルを回す。

 

「変身!」

 

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク! イエーイ! 』

 

前後に展開したプラモデルのランナーのようなパーツが青年を挟み込むようにして展開、そしてぱちりと組み合わせるように体の左右を包み青年は『変身』した。それはメカニカルな戦車を象った青と、ウサギを模した赤の装甲で包まれた仮面の戦士、仮面ライダービルドだ。

 

 

 

 

仮面ライダービルドは螺旋状の旋回する刃を振るいアサルト達と切り結ぶ。高速回転する螺旋の刃は容易くアサルト達の獲物を、固い装甲に包まれた体をもえぐって爆散させていく。背後を狙おうとした個体もある物は跳躍力を活かした空中殺法で、またあるものは戦車を模した重装甲に攻撃を受け止められ無限軌道の攻撃でその身を削られる。

 

しかしアサルト達は数の利を活かしビルドの振るう刃の嵐をすり抜けビルドより弱い子供のヒーロー達、ひいては民間人を狙おうとする。それらのアサルトの中にはいったいどこから入手したのか携帯ミサイルを担ぐ個体すらも見えた。

 

「させるか!『ベストマッチ!Are you ready? 』ビルドアップ!」

 

『忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック! イエイィ! 』

 

ビルドが再度変身したのは黄色と紫のニンニンコミックフォーム。トリガーを引き分身の術を発動すると一斉にニンジャの身軽さと漫画家の空間把握能力を活かし、障害物を利用してピンボールの球のように飛び回りアサルトの急所を各々が切り裂き無力化していく。その変幻自在かつ的確な動きはアサルト達のAIでは到底とらえられない。

 

『仮面ライダービルドを最重要個体と認定。重火器による殲滅を開始します』

 

携行ミサイルを携えたアサルトが4連装のミサイルの発射体勢に入るがその動きもまたビルドにはお見通しだ。すでに彼はフォームチェンジを行っている。

 

「ビルドアップ!」

 

『天空の暴れん坊!ホークガトリング! イエァ! 』

 

周囲への被害を嫌ったビルドはオレンジと黒のホークガトリングに変身。白煙をなびかせながら次々と迫るミサイルを手にしたガトリングガンで次々と被害がないように撃破していく。そしてミサイルへの迎撃が終わると今度は空から地への猛烈な射撃。ガトリングガンの弾幕はアサルトを地に縫い留めまたしても爆発四散させていく。残りの敵は1。重装型のハードアサルトのみ。ミリタリーチックな重装指揮官型のハードアサルトの装甲を抜くにはさすがに遠距離からのガトリングガンでは難しいようだ。

 

「ならこれでフィニッシュだ!」

 

近くのビルに降り立ったビルドは今度は一回り大きい炭酸飲料のそれに似たボトルを装填。すると周囲にまるでボトルが本当に炭酸飲料の缶であったかのように白い飛沫があふれ出した。

 

『シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング!』

 

『イエイ! イエーイ!』

 

今度は最初に変身したラビットタンクフォームに泡の白を足し、シルエットをより鋭角的にしたラビットタンクスパークリングフォーム。ビルドの強化形態であるそれの力は爽快なまでに強力な力を秘めている。泡のエフェクトと共に高速移動したビルドが腕部のギザギザのブレードを振るうとハードアサルトの装甲が面白いように剥がれる。

 

『ガガ…ソンショウイゼンケイビ…セントウゾッコウヲ』

 

「いいや、これで終わりだあっ!」

 

サマーソルトに似た動きでビルドが重いはずのハードアサルトを蹴り上げる。その動きと共に天へ伸びる泡のエフェクトはまるで浮世絵にかかれる波の様。その頂点には打ち上げられたハードアサルトが、そしてさらにその上には隆起した地面から跳躍したビルド。

 

「勝利の法則は―――――決まった!」

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

必殺のキックがハードアサルトを撃ち抜き真っ二つにする。真っ二つにされたボディは体の各所に誘爆し地面に降り立ちポーズを決めるビルドの向こうでふたつの太陽のような大爆発を起こした。

 

ハードアサルトの残骸が地に落ちて目障りな音を立ててから数秒。爆炎が去り僅かな砂塵が舞うのみとなると仮面ライダービルドは変身を解く。ビルドに変身していた桐城コウトという平凡な外見の青年はふっと息をつく。どうやら自分が来るまでに人的被害は出なかったようだ。

 

「よし、今日もなんとかなったな……君たちはけがはない?」

 

コウトが問いかけたのは彼が来るまで防衛線を構築していた少女達。マジックアイテムなどを持っている物の、輝く装甲のビルドと比べるといささか頼りない印象を与える少女達だ。その事を彼女達も自覚しているのか少しばかりしょげた様子である。

 

「はい無事です…でも……役に立たなくてごめんなさい」

 

倒されかけた少女も、その他の少女も申し訳なさそうな態度を崩さない。ビルドは強くかっこいい。単純な二つの理由から市民からも絶大な支持を得ている。それに比べると自分たちは…と思わずにはいられないのだろう。

 

「2分と13秒ってとこかな」

 

「え?」

 

「俺がここに来るまで、君たちがいなかったらあいつらが好き勝手暴れていた時間だよ。何せ相手は軍用兵器の群れだから君たちがいなかったらかなりの被害が出てただろうね。でも君たちは勇気を振り絞って人々を守った。それは凄い事だよ。それに…」

 

「それに?」

 

彼が指し示したのは街の人々が遠めに見守るさま。彼らの内少なくない人々はビルドに向かって声援を上げているがそれよりも多くの人々が少女たちへの声援を送っていた。

 

「誰が本当のヒーローか、みんな分かっているようだよ」

 

「桐城さん……」

 

「と、いう訳でみんなよく頑張ったね!でも無茶はしちゃだめだよ。ヒーローとしての活動は危険な事もいっぱいあるから」

 

そう言ってコウトは再びバイクにまたがる。レプリカの売り上げの一部から入る収益を全額寄付しているという話が巷では有名な紅いバイクは、彼の自慢の一品らしく手入れが行き届いている。特殊なコーティングで砂塵による汚れもないバイクは今日もピカピカだ。

 

「じゃあ俺はちょっと用事があるから!それじゃあね!」

 

彼は人々の声援の中バイクを駆って去っていく。その姿を見て少女のうち一人がぽつりとつぶやいた。

 

「あ、チャックあいてるの言うの忘れちゃった……」

 

 

 

 

 

 

都内にあるとある病院の小児病棟、真新しい病棟に入院している子供達は一様に目を輝かせている。まだ遊びたい盛りな彼らにとって入院生活は退屈なもの。つまらない生活で辛い治療の日々は彼らの心を萎えさせていたのかも知れない。

 

しかし今日の彼らは違う。なぜなら今日この日、彼らの愛するヒーローが来るからだ。

 

「やあ皆お待たせ。元気にしてたかな?」

 

「ビルドだー!」「ビルドー!」

 

サンタクロースのように白い袋にプレゼントを満載したコウトは一つ一つ彼らに手渡していく。その多くは綿密なリサーチの元彼らの欲しいものを特定した上で今日持ってきた物だ。憧れのヒーローの来訪と欲しかったプレゼントを貰える合わせ技に子供達は次々と笑顔になっていく。

 

「すごい!先週発売されたばかりのラビットラビットフォームのフィギュアだ!やっぱりビルドはラビットラビットフォームが一番かっこいいな~!」

 

「何言ってんだよかっこよいうえに最強なのはタンクタンクフォームだって。あの重装甲に、大火力。男のロマンだって」

 

「ビルドはどっちがかっこいいとおもってるのー?」

 

「……どっちも同じくらいじゃダメかな?」

 

コウトは慎重に答える。個人的な意見だと――――前世からの感想を含めて考えてもピンクの複眼が紅のボディにマッチしてること、背中のパーツの存在からラビットラビットフォームの方が僅差でかっこいいと思う。しかしこの場でそれを言うとタンクタンクフォームが好きな子を傷つけることになりかねない。危険な実験に挑むときのように慎重に答えなくてはならない。そこまで考えた所で突破口を思いついた。

 

「そ、そうだ!ハザードフォームはどうかな?あのダークな感じが我ながらかっこいいと思うんだけど」

 

「何か地味ー。見てると彩度が下がった気がするー」「動き方が怖い」「ヤバそう」

 

「ハザードは駄目なのか……」

 

コウトはがっくりとする。ハザードフォームの格好良さはまだこの年頃の子達には早いのかもしれない。

 

そんなほほえましい一幕がありながらもコウトは皆の憧れのヒーローとして子供達とコミュニケーションをとっていく。子供たちは皆ヒーローの中でもトップクラスの人気を誇る彼と話せる機会を皆楽しんでいた。だがそこでコウトは気づく。一人だけ周囲の輪に加わることのできていない少年がいた。確かあの子は……

 

「ちょっと待っててね」

 

周囲の子供を制して孤立している子の方へ向かう。部屋の隅にあったパイプ椅子を引き寄せて座り目線を園子と同じにしてにっこりと笑うとすっ、すっと手を動かす。

 

ゆったりとしたペースで行われるそれは彼がこの間習得してきた手話。病院には難聴の子もいる事から以前より独学で学んでいたのだ。

 

『はじめまして。仮面ライダービルドをやっている桐城コウトです。君のお名前は何かな?』

 

少年はコウトが手話を使える事を知り一瞬驚いた顔をした後に、すぐに笑顔になった。

 

 

 

 

 

光に満ちた街と裏腹に寂れ切った街区。元からの低い資産価値とヴィランとヒーローの大規模戦闘の影響でほぼ廃墟となったこの区域にはまともな人影はない。あるとすればそれは不法移民や犯罪組織、もしくはテロリストなどばかりである。

 

『今日のヒーロー特集は人気絶頂の仮面ライダービルドについて!』

 

その中の一つにおいてはいまだに住人が居ついているのか電気が通りTVも映っている。しかし常識的な人間ならおよそここの住人をまともとは判断しないだろう。机の上に並べられたのは自動小銃や手りゅう弾などの日本国内においては入手困難な武器の数々。また壁にはバツ印の書かれた写真や暴力的なスローガンの掛け軸が掲げられている。

 

そう、ここは幾つもの暗黒組織の流れをくむ反体制派組織『ネオブラッド』の本拠地であった。

 

『仮面ライダービルドに変身する桐城コウト氏は――――』

 

部屋の様相を無視するかのように桐城コウトについて説明する明るい声がTVから流れる。曰く桐城コウトは海外の大学を飛び級で卒業した物理学において画期的な研究内容を発表する傍らヒーローとして活動を開始。独自に開発したという生命や無機物の力を宿したボトルを使い仮面ライダービルドに変身し数々の武功を上げた彼は一躍時の人となった。しかし、自己中心的な性格から周囲とのトラブルが多く、決して模範的なヒーローとしては見られなかったという。

 

『しかし彼は変身しました。今ではトップヒーローの一人として――――』

 

「くだらんな」

 

そういってTVの電源を消したのはソファに座る軍服姿の男。鍛えあげられた体躯に傷のある顔立ちの彼からは、その日常的な一動作だけで消しようのない威圧感が漏れ出す。

 

「伊剛の旦那。全員揃ったで。そろそろ大一番の説明を始めようや」

 

「私ももう待ちきれないわ。これまでになかった大仕事だし――――これを早く使ってみたいもの」

 

『伊剛(いごう)』という軍服姿の男を呼んだ関西弁の軽薄そうな男は『光原(みつばら)』、その横に立ちボトルをいとおし気に撫でる女は『香賀(かが)』。その他にも何人もの武装した人間やアサルトがこの場には集まっている。

 

「そうか。なら定刻になった事だし、ブリーフィングを始めよう」

 

恐らくネオブラッドのリーダーである伊剛は作戦を説明しだす。目的となるのは国の管轄下にあるとある研究所における殺戮。勤務する科学者や当日訪問する大臣を一人残らず虐殺し世界に覇を唱える足掛かりとする。粗暴そのものでいて残忍極まりない作戦を彼らは立てていた。

 

「おそらくあの偽善者のヒーローたちはこぞって俺たちを迎撃に来るだろう。だからこれを使う」

 

伊剛が指さしたのは厳重なケースに収められた3つのボトル。彼らのスポンサーから渡されたそれはビルドのように人を超人へと変身させるという力を持つ超常のアイテム。幾つかの実戦試験で効果は折り紙付きだというそのボトルが今回の彼らの切り札だった。

 

「財団Xにもそろそろ確固とした成果を見せたいところだ。だから諸君、派手にやろう」

 

伊剛は歯をむき出して笑う。それは無意味な血を求めずにはいられない地獄の猟犬に見えた。




次回は早ければ来週には投下します。

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