え?敵キャラ三人のスマッシュのモチーフの組み合わせがどっかで見た事あるって?気のせい気のせい。
「うわあああああああああああああああ!!」
「キキィーッ!!」
深夜の東京都内の公園に悲鳴と獣の叫び声が響く。毛むくじゃらのグロテスクな顔面をした獣に襲われ、悲鳴を上げる男の腰にはベルトが巻かれている。彼、桐城コウトが仮面ライダービルドに変身する為のベルトであるビルドドライバーだ。だがそこに変身に必要なフルボトルは今装填されていない。
それは全くの偶然だった。彼が戦っていたのは悪魔と呼ばれる異界から呼び出された人外の存在達。しかしこの夜に戦っていた相手はせいぜい中級の、彼からすれば容易に倒せる程度の相手ばかり。にもかかわらず殴り合っていた悪魔の反撃の中の一発、ラッキーパンチの一撃がフルボトルに偶然ヒットし、不運にもほどがあることにその衝撃でフルボトルが外れ変身が解除されてしまったのだ。
「う、嘘だろこんなのって…!」
さっきまでの圧倒的な優勢は一瞬で崩れた。変身が解除されてコウトは無様に転がる。ビルドではなくなり無様に転がる彼の前には依然として何体かの悪魔がいる。ビルドならばほぼ一撃で倒せる弱敵の彼らは今の彼にとってはとてつもない脅威だ。しかも彼らの目には仲間を殺し自分たちを苛んだコウトへの病的な殺意が宿っている。
「キキ……死死死死死死sisisi…」
「あ、あああ…」
かちりかちりと悪魔が爪を打ち合わせて不気味な音を鳴らす。勝ち誇った彼らの顔とは裏腹にコウトの顔には絶望。
「俺は…俺は今度こそ……」
二度目の人生でようやく得れると思ったものすべてが、予期せぬ死によって崩れていく。その予感に彼は震えた。
結局自分は奪われるだけなのか、幸せになることは出来ないのかと。
「幸せになれるって、思ったのに……!」
その瞬間先頭の悪魔が濁った叫び声をあげながらコウトに躍りかかる。振り上げられる爪は死神の鎌。それが自分の命を刈り取る瞬間を彼は目をつぶることすら出来ず見ていた。
しかし彼の身に死は訪れることはなかった。横合いから悪魔に何かがぶつかったのだ。
「ギィっ!?」
「……!」
悪魔にとって全くの予想外である事態に彼らはうろたえる。しかしコウトにとってはまたとない好機。まがりながりにも戦い続けてきた経験が生きたのかとっさにフルボトルに駆け寄る。そして震える手でそれでも迷わずフルボトルを装填する。
『ベストマッチ!Are you ready? 』
「うおおおおおおおおおおおお!!」
恐怖を振り払うために叫びながら変身する。まだ死ねない、死にたくないという気持ちが土壇場で彼を動かした。青と赤のランナーが展開して彼を再び戦士に変えていく。
「変、身!」
――――――結果として彼は無事悪魔を殲滅して生き残ることが出来た。今の彼はそれが自身の力による物であるとは考えていない。全てはあの時悪魔にぶつかった、否体当たりして彼を救った女性のおかげ。今はもこの世界の片隅で平和に暮らしている彼女の、彼がヒーローに成る最初の一歩を踏み出させてくれた人が自分の命を救ったのだと考えている。
故に彼は戦い始めた。自身の欲の為ではなくヒーローとしての守る為の戦いを。
ごおん、と爆炎がまたしても静かだったはずの研究所で起こる。白亜の壁を持つ真新しかったはずのk年救助の建物は煤で汚れところどころが崩れていた。幸いにも建物にいた人々のほとんどは避難しておりその中に死体はない。だが明らかな異常事態が起きているのは確かだった。
エスカレータ付きの大階段のある広大なエントランスに銃声がこだまする。自動小銃や機銃で武装した兵士や、改造されたアサルトを相手に目にもとまらぬ速さで駆け巡るのは仮面ライダービルドラビットラビットフォーム。紅の閃光となったビルドはすれ違いざまにアサルトを両断し爆散させ、さらに火器を連射する兵士たちを柔軟な体を活かして無力化する。
「ぐおっ!?」
「うぎゃ!」
倒れた兵士たちに重篤な怪我はない。それは悪と言えど可能な限り死を避けたいというコウトの良心の表れ。しかしそんな人としての当たり前の心もすぐに無為に返された。
「っ!?」
彼は殺気を感じとっさにタンクタンクフォームに変身し無数に飛んできた針をガードする。タンクタンクの重厚な装甲に阻まれそれらの針はビルドを傷つけることはない。しかし倒れていた兵士たちを撃ち抜き、身体をズタズタに切り刻み血を噴き出させた。
べしゃり、と血がビルドにかかる。
「なんてことを……」
「ふむ…流石はビルドだ。このタイミングでガードが間に合うとはな」
いつの間にか階段の上に現れていたのは金属的な黒いボディの各所に赤いラインの入った怪人。スマートな下半身に比して上半身は鋭角的な装甲が盛られており、さらに蠍を模したらしき頭部には身のほとんどが刀の如き鋭い刀身となった尾が付属している。
「スマッシュだと!?いや、それよりお前仲間を!」
「へえスマッシュ言うんかこの力。シンプルでなかなかいいネーミングやないか。気に入ったわ」
「ヒーロー特有のモラリスト気取りかしら?役立たずを活かしておいても経費の無駄に決まっているじゃない?はやくリストラして処分しないとね」
更に筋骨隆々の身を重装甲で覆った青いラインのカニの怪人が、女性的なシルエットに黄色いラインと矢の装飾を全身に持つ怪人が並び立つ。
彼らは反体制組織『ネオブラッド』のリーダー格の三人だ。蠍型のスコーピオンスマッシュに変身するのがリーダーの伊剛。蟹型クラブスマッシュに変身するのが関西弁の光原、弓矢を模したアロースマッシュに変身するのが紅一点の香賀。いずれも強大な力と悪意を秘めたヴィランであった。
「まさかビルドが今日この日にここに来ているとはな。偶然の事だろうが君は我々にとって少なからず目障りな存在だ。これ以上邪魔される前に消えてもらおうか」
確かに先遣隊はビルドによってほぼ倒され虐殺は防がれた。しかしスコーピオンたちの力をもってすれば例えヒーローが護衛に入ろうと逃げた人々を虐殺するのは非常に容易な事。むしろビルドを倒すほどの戦闘力を持つという点をスポンサーにアピールできるという点で予想外の事態はボーナスゲームとすら見ていた。
「ではサヨナラだ。我らの目指す新世界の為に死ね」
処刑宣言と共に伊剛の変身するスコーピオンが頭から外し手に持った尾が数十メートルの長さに一瞬で伸長、蛇腹剣のようになった尾はしなりながら音速を遥かに超えた速度でビルドを打ち据える。
「ぐあっ!」
元々鞭は常人の力でも物によっては音速に近い攻撃速度を得れるという。ならば怪人の力でそれを振るえば、それこそ条理の外と言うほかない圧倒的な攻撃力を誇る一撃となる。変幻自在の攻撃はタンクタンクフォームの重装甲に次々と傷をつけていく。
「うぐっ…!させるか!」
高威力の攻撃にひるみながらもビルドはフルボトルバスターを構える。強力な武器であるフルボトルバスターバスターキャノンモードの制圧射撃で三対一と位置取りの不利を改善しようとした。
「はっそんなん効くかアホォ!」
「何ッ!?ぐあああ!」
次々と放たれるフルボトルバスターの一撃に対してクラブは肥大化した両腕を立てのように構えるとエネルギーフィールドを展開。ビルドは知らないことだがありとあらゆる飛び道具を反射するフィールドの展開こそがクラブの特殊能力である。狡猾な性格の光原に適した能力はフルボトルバスターの光弾を跳ね返しタンクタンクフォームの傷ついた重装甲を逆にえぐっていく。
「がああああああああ!!」
其処に追い打ちをかけるのは香賀の変身するアローの発射する大小の矢。全身に備え付けられた弓矢型の機構から発射される無数の矢は一発一発は小さい物の、肉眼では到底数える事が出来ない程の数で発射されるまるで殺意を持った霧のような攻撃。砕けた装甲から、スーツ部分から確かにビルドにダメージを与えていく。
「どう?私の矢の味は?今度はこの矢を飛行機から東京の街中へ散布しようと思ってるの。アメリカの農家がやってる農薬散布みたいで面白いでしょ」
「面白くなんかあるかよ……それは街の人たちを殺すって事だろ。そんなことさせ……」
大ダメージの中でもビルドは、それでもヴィランと戦う為立ち上がろうとする。だがその前に立つのはスコーピオン。達人級の技量の持ち主故か装甲の触れ合う音すらださずビルドへ接近すると、大剣状に変形させた尾剣でビルドへと斬撃を繰り出した。
スコーピオンたちの前にはボロ雑巾にされたコウトが転がっている。強大な力を持つスマッシュ三体の連続攻撃によって既に大勢は決した。変身は解除され意識のない彼は最早何の抵抗も出来ない。さらに頼みの綱のヒーローの増援も期待できない。ネオブラッドに呼応した勢力の攻撃から街を守る為、コウト自身が自身の応援よりも防衛に戦力を割くように周囲のヒーローに通信したのだ。それはすなわちスマッシュか、こちらに集結したアサルトのどれかにとどめを刺されて死ぬという事。あの日には訪れなかった避けられぬ死が今こそ彼に訪れたのだ。
「死ね。まがい物の英雄」
スコーピオンが顎でアサルトにコウトを葬るように促す。忠実で良心を持たないアサルトの装備した銃から銃弾が放たれる。禍禍しい弾丸たちは一直線にコウトの急所を目指していた。
そんな状況故にか夢のような形で彼の脳裏には走馬灯が流れる。それは前世の光景も含んだ光の如き速さで流れる彼のオリジンだ。
『勝利の法則は、決まった!』
前世でもまだ子供だった頃の彼はTVを食い入るように見つめていた。TVの中で戦うのは桐生兎の変身する仮面ライダービルド。そのカッコよさに、圧倒的なエボルトに立ち向かう不屈の闘志に子供の頃のコウトは憧れた。そしていつか彼のようなヒーローに成りたいと、そう思ったのだ。
だが現実は厳しかった。数多くの悪意が彼を苛み、努力は全て空しく灰燼に帰し、彼は失意のまま世を去った。その胸にはもはやヒーローへの憧れなどみじんも存在しない。ただ憎悪しかなかった。
故に天才的な物理学の知識と仮面ライダービルドへの変身能力という転生特典を得て生まれ変わった彼は自分の為だけに生きた。人に好かれようなどとも思わずやりたい放題とまではいかなかったが自分の欲に忠実に生きた。
周りには常に彼を湛える人間であふれていた。しかし友達や恋人と呼べるような心を許せる人間は一人もいなかった。彼はいつも孤独だった。
そんな空虚な生は数年前のあの日終わりを告げるはずだった。慢心故に悪魔に変身を解除され彼は無様な死を目前に迎えていた。しかし、そんな彼を命を懸けて助けた人がいた。それはヒーローでも何でもない都内に住むある何の変哲もない平凡な女性だった。
その場は混乱故に聞けなかったが後日コウトはその立花という女性の住所を調べて聞いてみた。なぜ危険を冒して自分を助けたのかと。
「―――――私のお父さん、2年前あの場所で死んだんです。だから、花を添えようと」
曰く彼女の父親はリンチに遭っていた人をかばい助けようとして亡くなったという。犯人は捕まったが彼女は大好きだった父親の死を悲しみ、一時はわざわざ危険を冒して死んだ父親を恨んだという。
「お父さん、いつも私に誰かを助けられる人間になりなさいって言ってたんです。そんなこと言って自分が死んでおいてどうするのって私は怒っていたけど……でもあの時自分でもわからないけど体が勝手に動いたんです」
結局私もお父さんの子なのかな?と照れ臭そうに笑う彼女を前にしてコウトは泣いた。力に溺れ、人に背を向けてきて来た自分と違いなんて優しさに満ちた人だろう。彼は己の生き方を心底恥じた。ああ、世界には悪意だけじゃない、守る価値のある美しいものもあるのだと自然と、前世を通じて初めて感じられたのだ。
結局もうすでに婚約者がいるという彼女とコウトそれ以上会うことはなかった。しかし彼は彼女の出会いから興味のなかった人の営みに目を向けるようになった。そして前世からこれまでの生で知らなかった美しい物に出会った。
大切な弟の世話をする少女の姿は美しかった。
病や不幸にめげず日々を懸命に生きる人々は美しかった。
穏やかに人を傷つけることなく生きる人々の日常は美しかった。
そして人々を守る為に戦う警察官や軍人、ヒーロー達の勇気は美しかった。
だから桐城コウトは例えまがい物の力しかないまがい物のヒーローでも。
見るに堪えない無様を晒しても。
それでもヒーローで、仮面ライダーでありたいと願った。
この世界には守るべき美しいものがあるって、知ってしまったから。
コウトを狙った銃弾が彼を傷つけることはなかった。それは何もアサルトが手心を加えたというのではない。コウトの前に
「―――――確かにそいつはまがい物の力で成り立つ、まがい物の仮面ライダーなのかもしれないな」
オーロラの傍らに立つのは癖のある茶髪の青年。ピンク色のカメラを首から下げた彼の言葉と目は傲岸不遜そのもの。しかしどこか強い熱を秘めていた。そしてうめき声が聞こえた。ちょうどそのタイミングでコウトも目を覚ましたのだ。
「しかしそんなことは重要じゃない。大切なのは何のために戦うかだ。その始まりが何であれ人々の自由と平和や愛の為に戦うならそれは紛れもなく仮面ライダーだろう」
青年の言葉を受けてかコウトはよろめきながらも立ち上がる。その目にはまだ戦意が宿っている。
彼の手にはまだ戦う力が残っている。例え敵がどれほど強大だろうと桐生戦兎が、葛城巧が、葛城忍が、万丈龍我が、猿渡一海が、氷室幻徳が、内海成彰が諦めるだろうか?
答えは否だ。仮面ライダーは諦めない。人々の愛と平和を守る為、例え勝機が勝機が1パーセントを下回ろうとも戦い続けるのだ。
「桐城コウト!自分が仮面ライダーだと思うなら証明して見せろ!」
『ラビット!』『タンク!』
「……ああ、証明してやるさ」
『ベストマッチ!』
「俺はこの世界で戦い続ける。美しいものを、ラブアンドピースを守る為に」
『Are you ready?』
「俺は仮面ライダービルドだ!変身!」
『鋼のムーンサルト!』 『ラビットタンク!』
『イエーイ!』
前後のランナーが組み合わさり、緋色のオーロラが砕け散るのと同じタイミングでコウトの変身は完了する。そして現れたのは蒼と紅の戦士仮面ライダービルド。桐城コウトの変身する仮面ライダーだった。
「ふん、やっと目が覚めたか」
「うわあ!か、門矢士!?何でここにいんの!?」
「たまたまだたまたま。それよりさっさとあいつらを倒せ。こちらも忙しいんだ。変身」
そう言って突如現れた男、門矢士も仮面ライダーディケイドに変身。ライドブッカーを振りかざし戦闘を開始する。
「分かってるって!」
予期せぬ状況に体勢を整えるネオブラッド軍に対してビルドが取り出したのはハザードトリガー。
『ハザードオン!ラビット!タンク!スーパーベストマッチ!』
「まずはこれで行くぜ!」
『ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタンAre you ready?』
「変身!」
『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード!ヤベーイ!』
漆黒のボディを持つラビットタンクハザードはアローの矢やアサルトの銃撃による阻止攻撃をものともせずアサルトの群れに突っ込む。そのひたむきな姿はまるで漆黒の矢の様。
「少しばかり手助けしてやるか」『アタックライド、クロックアップ』
ディケイドの姿が一瞬ぶれたかと思うとビルドの目を以てしても捕らえられない程に超加速する。残像すら残さないすさまじい速さでディケイドはボウリングピンのようにアサルト達を薙ぎ払っていく。
「ピガッ!?」
「ギギッ!?」
宙へ舞うアサルト達にハザードフォームは容赦なく急所へと攻撃を見舞う。ある者は頭部に鉄拳を。またある者には動力部に決断的な踵落しを叩き込み的確な攻撃で破壊していく。人間でないならば容赦は無用。この連携攻撃によってほぼすべてのアサルトが破壊され爆炎と鉄片に変換された。
「後一手、だな」『アタックライドケルベロス』
ディケイドが召喚したのはG3-Xの持つ巨大なガトリング砲であるケルベロス。引き金を引くと大量の弾丸が放たれ、アサルトを犠牲に攻撃の期を図っていたスコーピオンとアローをけん制する。
「バカの一つ覚えがあっ!」
エネルギー障壁を発生させて盾となり反撃を行おうとするクラブ。しかし弾丸が障壁へ殺到する一瞬前にディケイドは射撃を辞めたことで障壁の発生は単なるエネルギーのロスに終わる。彼の意図は他二人の牽制と、防御役を務めるであろうクラブの誘導。それは何のために?
一瞬の猶予もなくクラブに対して巨大な拳が振るわれる。拳を振るったのは黒いボディに茶色の装甲とダイヤモンドのような結晶で覆われたガントレットを装備したゴリラモンドハザードフォームとなったビルド。巨大な拳でガンガンとクラブの装甲を叩く。
「おらああああああああああああああああ!!!」
「があっ!ぐほっ!?ごへええええっ!」
ゴリラモンドはかつて巨大な絶望と罪悪感に苛まれながらも、明日の地球を投げ出さなかった男の頼みとした力。不屈の剛力とハザードの力が上乗せされた必殺の拳で、ビルドはクラブの肥大した鋏状の腕と重装甲のボディを殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
そしてとうとう食卓で貪られる蟹のようにクラブの装甲が小気味よい音を立てて割れ爆発した。爆炎の中から転がり出たのは白目をむいた光原。ゴリラモンドの即死機能はクラブの装甲のみを『殺した』のだ。
「これで一体。後は自分でやってみろ」
「うわさでは聞いていたけどマイペースな奴だな……」
よっこいしょとディケイドはその辺に転がっていた瓦礫の上に腰を下ろす。ラビットタンクフォームに戻りやや呆れたような声を上げるビルドの前にはアローとスコーピオン。今こそ決戦の時が訪れようとしていた。
「まさか光原が倒されるとはな。やはりビルドの性能は侮れんか」
「……ビルドの性能だけじゃない。俺を救ってくれた人、俺に戦う意味を教えてくれた人、俺と共に戦ってくれた人、彼らの想い全てが俺に力を与えてくれるんだ!」
ビルドはファイティングポーズをとり一歩たりともひかない。俺はヒーローだ。仮面ライダーだ。ならばヴィラン相手にここから一歩も下がれるものか。
「だからお前たちがどれほど強くても戦い続ける!」
「ならば俺たちは悪として貴様を、そこのピンク色のやつを、全てのヒーローを殺し覇を唱えよう」
「マゼンタだ!訂正しろ!」
ディケイドの怒声を後にビルドが取り出し振るのはラビットラビットやタンクタンクに変身する為の装備であるフルフルラビットタンクボトル。さらにビルドドライバーにはすでにハザードトリガーが装着されている。だがラビットラビットとタンクタンクは先程負けたはず。ならばビルドは何に変身するのか?
『MAXハザードオン! ラビットラビット!タンクタンク!』
彼の腰に装填されたフルフルラビットタンクボトルの柄は蒼と紅の二色。本来のビルドではありえない組み合わせだった。
「――――――限界を超えろ!」
『Are you ready?オーバーフロー! 蒼紅のスピーディーウォーリア!フルラビットタンク! 』
どこからともなく現れたのは蒼と紅の2色に塗り分けられた兎型の小型戦車数台。それらは予想以上のスピードと迫力でハザードフォームのビルドを超新地旋回し取り巻く。そしてビルドの体の各所に突撃し蒼と紅にパーツを分離させながら装着されていく。
『ヤベーイ!ツエーイ!ハエーイ! 』
火花を散らし現れたのは右側にタンクタンクのパーツを、左側にラビットラビットのパーツを取り付けた新たなビルド、フルラビットタンクフォームの姿だ。
「これがラブアンドピースの力…!桐城コウトの力だ!」
フルラビットタンクフォームとなったビルドは一歩を踏み出す、新たな一歩を彼は踏み出した。
「ど、どうせこけおどしでしょ喰らいなさい!」
「はあっ!」
アローが大量の矢を放つ。しかし伸縮する左腕の一閃で大部分は弾かれ、僅かに当たった矢も右側のタンクタンクの装甲で受け止められて全くのノーダメージ。
「な、なんて防御力なの!?」
「まずい、香賀避けろ!」
お返しとばかりにビルドが両腕に構えるのは二つのフルボトルバスター。空間操作によるボトルの高速装填の実現によりこんな真似も出来るのだ。
『ミラクル!アルティメット!ダブルマッチブレイク!』
蒼と紅の二つの強大なエネルギー弾が螺旋を描くかのように発射された二つのエネルギー弾はアローの追加で発射した矢をブラックホールのように飲み込み、そのままアローの身を食い破る。一瞬で跡形もなく爆散したアローからは香賀が排出された。
「ちいっ!」
後衛のアローが斃れ射撃戦で埒が明かないと考えたスコーピオンは尾剣を手に接近。バスターブレードモードに変形させた双剣と切り結ぶ。熟達した忍者のように両者は飛びのきまた近づき、縦横無尽に切り結び火花を散らす。
しかし優勢なのはビルド。この世界にハザードレベルのような確たる戦闘力の数値はない。それでも彼が天井知らずに戦闘能力を上昇させているのは確かだ。
「せやあああああ!」
「があっ!ぐああああああああああ!!」
エックス字を描くような交差状の斬撃でスコーピオンの尾剣が砕かれ、さらにそのまま突き付けられたバスターキャノンモードのフルボトルバスターからの弾丸が次々とスコーピオンの表皮で爆発を起こして吹き飛ばし壁に猛スピードで叩きつけた。
「バカな俺が、誰よりも強くこの世を統べるにふさわしい俺が、こんなところでえええええええ!!」
屈辱と憎悪に濡れたスコーピオンは瓦礫の中から身を起こし、悍ましいほどに黒い毒のエレメントが込められた巨大なエネルギーの奔流を放つ。
「これがお前にふさわしい終わりってことさ!」『フルボルテックスフィニッシュ!』
対するビルドも必殺技を発動。目の前に生成した蒼と紅の数式で構成された塔をラビットラビットの脚力とタンクタンクのキャタピラの力で一瞬にして駆け上る。頂点までたどり着いた瞬間塔は分解しムーンサルトするビルドを取り巻く。そうして生成されるのはビルドを中心とした蒼と紅の渦。戦車と兎、奇跡と偶然、太陽と月。相反するはずの力をベストマッチさせた凄まじいエネルギーの込められたキックが今、放たれる!
ビルドの雄姿を見てディケイドはふっ、と笑う。
「
「勝利の法則は、決まった!」
蒼紅の渦となったビルドは急降下する。ボルテックスは一瞬でスコーピオンのエネルギーを、スコーピオンの体を貫いた。
彼を祝福するように散らばる蒼紅のエフェクトと共にビルドは地に降り立つ。
「がああああああああああ!!!ぐああああああああああああああ!!!」
バチバチとスパークを立てながらスコーピオンは倒れ完膚なきまでに爆発四散した。その轟音は戦いの終焉を決定づける勝利の喇叭。
今日も桐城コウトは、仮面ライダービルドは悪に勝利したのだ。
伊剛たちネオブラッドのテロリストを厳重に拘束して警察と共に厳重な警備が敷かれた拘置所に届けた数日後、コウトは先程守った研究所の屋上に来ていた。市街地と同様にすでに復興が始まっている研究所は都内でも随一の高さを誇る屋上からは夜を迎えゆく街々の様子が一望できるからだ。
あの後ディケイドはいつの間にか姿を消していた。おそらく『インビジブル』でも使ったのだろう。
たまたまとは言っていたが彼は何の目的があってこの世界に来たのだろう?ネオブラッドの者たちは財団Xからボトルを貰ったといっていた。それを考えるとこの世界にもいるという財団Xがらみか、または自分のような転生者が他にも?
多少は平和になったとはいえこの世界にはまだまだ脅威が溢れている。ビルドであるコウトは人知を超えた脅威から人々を守る為、これからも先日のような過酷な戦いを続けることになるのだろう。それはいばらの道、しかし彼が選んだ道だった。
だがそれでも今は、この光に満ちた光景を見ていようと桐城コウトは思った。
彼は屋上から風に吹かれ見続ける。自身が守るべき美しい世界を。