風のガンファイターと氷の狙撃手   作:シュツルム

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まだ13月だから2019年…………すいません、冗談です。生活リズムが変わっちゃって、執筆意欲と時間が噛み合いません。早く次を上げられるよう頑張ってみますが、期待せずにお待ちいただけると幸いです。

タイトル変更、というか1文字削除しました。


GGO その4

「わり、朝田。あたしらカラオケで歌いまくってたら電車代なくなっちゃってさぁ。明日返すから1万貸して」

 

 高校の授業が終わり、帰路の途中、馴染みのスーパーに寄ろうとした時に知った顔2人に声を掛けられ、そのまま路地の奥に連れて行かれた詩乃。そこでしゃがんで待っていた女が詩乃に放った言葉がこれである。

 女の名前は遠藤。詩乃の同級生だが、アイラインを入れた吊り目やラメが光る唇を目立たせ、詩乃を見下すような雰囲気から、決して仲の良い関係ではないのがわかる。詩乃を連れてきた2人も、この遠藤の取り巻きだ。

 

 授業が終わって20分も経っていないのにどうやったらカラオケでそこまで歌えるのか、3人とも電車の定期持っているだろう、そもそも電車代で1万円要求するのはどうなんだ、と詩乃の頭の中にいくつも疑問が浮かんだが、口に出すことはしなかった。

 口に出す答えは決まっているからだ。

 

「そんなに持ってないし、あっても貸す気はない」

「あ?」

「用はそれだけ? なら行くわ」

 

 踵を返そうとした詩乃に、彼女をここまで連れてきた2人が道を阻む。

 

「…………邪魔なんだけど」

「手間ェ……ナメてんじゃねえぞ」

 

 自分たちを馬鹿にされていると感じたのか、遠藤が目元を引き攣らせながら立ち上がり、詩乃に近づく。

 手を子供もやる指鉄砲の形にしながら、伸ばされた人差し指を詩乃に向け

 

「ばぁん!」

 

 遠藤がニタニタ笑いながら、発砲の真似事をした。

 

 

 

 それを詩乃は、無表情に見ているだけだった。

 

「…………おい、ビビれよ朝田」

 

 予想とあまりに違う詩乃の態度に、遠藤が声を低くして命令する。だが詩乃は何も変わらずに遠藤を見続ける。

 

「ビビれっつってんだろ!!」

 

 業を煮やした遠藤が、詩乃の眉間に指を突き付ける。だが、それでも詩乃は表情を変えない。

 

「この……!」

「お巡りさん、こっちです早く!!」

 

 突然、若い男の声がした。どうやら警察を連れているらしい。この場を見られるのは不味いと思ったのか、遠藤達は詩乃を突き飛ばしながら、一目散に声とは反対方向に逃げていった。

 

 遠藤達の姿が見えなくなると、詩乃が胸に手を置きながら深く深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 

「大丈夫、大丈夫……」

 

自分に言い聞かせるように、詩乃は小さな声で呟いた。

 

「大丈夫? 朝田さん」

 

 そんな詩乃に、声を掛ける存在がいた。私服を着た、痩せて小柄の少年で、一見中学生にも見える。

 少年の名は新川恭二。この街で詩乃が気を許せる人間の1人である。

 

「…………うん、ありがとう新川君。警官は?」

「嘘だよ、出任せ。よくドラマとかであるじゃない、上手くいってよかったよ」

「そうなんだ。けど、どうしてここに?」

 

 表通りに接してはいるが、建物の間で陰にもなっている路地奥にいた自分を見つけられたことに、詩乃が疑問に思った。

 

「朝田さんの危機ならどこだって駆けつけるよ……って言いたいけど、先輩からメール来たんだよ。朝田さんが1人で帰るから見に行ってくれって。それで学校に向かう途中に、あいつらに連れてかれる朝田さんが見えたから」

「…………私はそこまで子供じゃない」

 

 恭二の答えに、詩乃が不満そうに呟いた。

 

「その気持ちはわかるけど、ああいう連中は何するかわからないよ? わざわざ先輩が連絡したってことは、今回が初めてじゃないんでしょ?」

「それは……そうだけど」

 

 実感の籠る恭二の言葉通り、今回のようなことは初めてではない。学校に報告しても、詩乃の学校での立場を考えたらアテにならないのだ。最近の詩乃は1人で帰路に就かないために、遠藤たちも近寄れなかったのだが。

 

「このまま立ち話もなんだし、近くの喫茶店に行かない? 奢るよ」

「……じゃあ、折角だし、ご馳走になろうかな」

 

 

 

 

 

 数分後、詩乃と恭二は喫茶店の奥まった席に向かい合って座り、頼んだミルクティーとコーヒーフロートが卓上に置かれていた。

 

「そうそう、聞いたよ、一昨日の話。大活躍だったんだって?」

「活躍ってほどじゃないよ。不確定要素と不安要素を排除しただけ」

「それ、十分凄いからね?」

 

 なんでもない様に言った詩乃の言葉に、恭二が苦笑いを浮かべた。

 

「それにしたって、あの『ベヒモス』を倒したんだから、もっと誇ってもいいと思うよ、僕は」

 

『ベヒモス』

 

 グロッケンが存在し、シノンやヴィントが基本的に活動している中央大陸ではなく、北大陸を根城にしているプレイヤーで、主にスコードロンの用心棒をしている。戦闘は得物である銃を戦略も戦術もなく撃ち続ける脳筋方式。正直これだけなら、さほど脅威にも有名にもならないだろう。だが、彼の持っている銃がそれを覆す。

 その銃の名は『GE・M134ミニガン』。ガトリングガンの一種で、生身で受けると痛みを感じる前に死ぬとされ、『無痛ガン』とすら言われる、激レアにカテゴリーされる銃である。

 毎分4000発という圧倒的連射速度を誇り、ちょっとした遮蔽物程度なら粉微塵にする威力がある。

 だが本体重量だけで18kgあり、駆動の為のバッテリー、その連射速度から大量の弾薬も所持しなければならず、どれだけSTRを伸ばしても過重ペナルティが不可避となる。現実では重量・反動から個人携帯・使用できる代物では無く、軍用ヘリなどに搭載される制圧射撃用の銃だ。

 あのスコードロンが予測時間より遅れていたのは、ペナルティを受けていたベヒモスに合わせていた為だ。そして、これほど圧倒的な武装持ちが居るなら、気の緩みもわかる。

 

 尤も、それを披露する前にシノンに撃ち殺されたわけだが。

 

「誇るって言っても、警戒範囲外からの狙撃で、だからね。別にベヒモスだったからって特別じゃないよ。正面戦闘になって倒せてたら別だけど」

「ちぇっ。余裕だなぁ、朝田さんは」

 

 ベヒモスはその装備の為、ソロ戦では遠くから狙い撃たれやすいなど弱点が多いが、反面、支援を得られる集団戦では短時間ながらも無類の強さを発揮し、本人も集団戦で死亡した事は今までなかったという。

 本格戦闘に入る前とはいえ、そんな大物を倒したにも関わらず、なんでもないように言った詩乃に、恭二がコーヒーフロートのアイスをスプーンで突きながら、拗ねたように呟いた。

 

 恭二は知らないが、実は詩乃/シノンはベヒモスと知り合いである。元々ヴィントがベヒモスと顔見知りであり、そこから顔を合わせたのだ。プレイ場所が違うので回数こそ多くないが、3人でトリオを組み、狩りに出たこともある。

 要は、あのスコードロンでシノンが姿を隠していたベヒモスを真っ先に警戒したのは、知っていた人物だったからだ。あくまで疑惑程度ではあったが、もしそうであった場合甚大な被害を受けるのは確定なのだから。その辺りも、詩乃が素直に誇れない理由である。

 フィールドで敵同士として出会ったら躊躇いなく戦うのはそれぞれが了承しているので、ベヒモス自身はシノンに倒されたことに悪感情はない。

だがやはり悔しさはあったらしく、本人からはヴィントを通じて

 

≪次は蜂の巣にする≫

 

 と宣戦布告をされている。

 

「………けど本当に凄いな、朝田さんは」

「え?」

 

 恭二が羨むような感情を滲ませながら、詩乃を見る。

 

「ヘカートだけじゃなくサイレント・アサシンまで手に入れて。ステータスもあつらえたみたいにSTR優先だったし、僕から誘ったのに、完全に置いてかれちゃったね」

 

 L115の情報もすでに出回ったらしい。尤も、知れ渡らせるために、シノンも隠さず使い続けているのだが。

 遮蔽物越しだろうと構わず撃ち抜くヘカートⅡに、高い隠密性と狙撃能力を持つL115。どちらも強力なライフルだが、性格がまるで違う2つの銃。

 シノンがBoBでどちらを使うのか、はたまた全く違う銃を使うのか。他の出場者達は頭を捻るだろう。

 なにせ、第2回でも激レア銃を使っていたのだ。他にはないと断言できないのだから。

 

「AGI型じゃあ、よほどレア運がないと今のGGOじゃ通用しないよ。はぁ、ステ振り間違えたなぁ……」

 

 GGOには『筋力(STR)』『敏捷(AGI)』『耐久(VIT)』『器用(DEX)』『知力(INT)』『幸運(LUK)』の6つの『能力値(ステータス)』と数百種の『技能(スキル)』がある。他のレベル制ゲームであればレベルアップ毎に『職業』『種族』などに合わせて自動で上昇・取得するステータス・スキルを、GGOでは代わりにポイントを入手、それを各プレイヤーが自由に割り振り、伸ばしていく。

 曲者なのが『自由に』という点で、下位スキルを最大レベルまで上げることで取得可能になる上位派生スキルなどの例外を除き、スキルの取得にはポイント以外条件が無く、『ステータス構成・プレイスタイルと合わない』スキルも取得できてしまうのだ。間違って割り振る・取得してしまっても、諦めるしかない。

 

 『AGI型』は文字通り、敏捷(AGI)を優先的に上げたステータスタイプで、恭二が言っているのはそれをさらに極端にした一点特化タイプだ。

 GGOサービス開始から半年程は、このAGI型が主流だった。高い回避力と速射(連射速度ではなく、照準から予測円が安定するまでの時間)によって、他のステータスタイプを圧倒したのだ。

 

 さらにゼクシードが提唱した『AGI万能論』。

 

≪どんな強力な攻撃も当たらなければ意味は無い。こちらの攻撃のみが当たり、向こうの攻撃は全て回避する。それができるAGI型こそ万能で最強である≫

 

 ゼクシードが当時でも高名プレイヤーだったこともあり、GGOはAGI型で溢れた。

だが、命中率にもプラス補正が付く銃が次々に追加され、回避が思うようにいかなくなり、高性能銃が実装されてもそれらは高いSTR値を要求することが多く、STRを伸ばせていないAGI型は装備出来ない。軽量な高性能銃もあるが、そういったタイプは高レアに分類される傾向にあるため、簡単には手に入らない。

 

【AGI特化型はいずれGGOで通用しなくなる】

 

 『AGI万能論』を提唱しておきながらそれを否定したゼクシード。極論ではあるが、的外れではないのが今のGGOだ。

 当のゼクシードはSTR-VIT型であったが、『レア武器を入手した為にAGI型から転向した』『元々STR型で、流行をミスリードさせるために嘘情報を流した』と2つの意見があり、詩乃は後者の意見だと思っている。

 AGI型からSTR型に転向したとされる期間が、あまりに短すぎるからだ。その場合、STR型であるにも関わらずAGI型に偽装できたという、ゼクシードのプレイヤースキルの高さを示す事にもなるが。

 

 現在の主流はゼクシード同様、強力な武装を装備出来、相手からの攻撃に耐えるコンセプトのSTR-VIT型だ。AGI型は高いプレイヤースキルを要求するピーキータイプとなり、それを満たせない大勢がSTR型に狩られているのが現状である。勿論、そんな現状を物ともしない、闇風を始めとした実力派AGI型プレイヤーも多いとは言えないが存在する。

 その闇風がBoBで優勝した事で初心者(ニュービー)クラスのAGI型が一時増えたが、その多くが苦汁を舐め、手遅れになる前に別のステータスタイプに転向している。

 

 そんなGGOの現状故、恭二の愚痴も分からなくはない。しかし、恭二の言葉に詩乃は眉をひそめた。

 

「確かに、強い人達はレア装備持ってる人は多いよ。先輩だってそうだし。でも、レアどころか販売品のカスタムでやってる人達だっている。前回のBoB本大会だって、半分くらいはそういう人達だったんだから」

 

 加えて、シノンより順位が上の10人の中にもレア装備無しのプレイヤーが数人いる上に、優勝者の闇風も『キャリコ・M900A』というレアとは言えない銃をメインにしている。 

 『強さにはレア武器が必要』という恭二の考えに、詩乃は賛同できなかった。

 

「…………ごめん、さすがに言い過ぎだったよ。でも、僕にはやっぱりレア武器は必要だよ。闇風や先輩みたいに自分に合ったスタイルも見つからないし、見つけてもAGI型じゃきっと活かせないし」

 

 だが、恭二も考えは変えなかった。すぐに反論しようとした詩乃だったが、自分が使ったレア武装を頭に思い浮かべてみた。

 

『PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ』

『アキュラシー・インターナショナル・L115A3』

『H&K・MP7』

『FN・P90』

 

 もう手元には無いが、『XM29 OICW』も激レアだ。レア所持に関しては、自分は何も言えないと自覚した詩乃だった。

 

「じゃあ、次のBoB、新川くんはエントリーしないの?」

「うん、やめておく。出ても無駄だから……」

 

 話を収束させるために詩乃が話題を変え、恭二は明確に答えを返した。

 恭二は第2回BoBで準決勝まで勝ち残っている。成長具合と戦い方次第で本大会出場も可能だと詩乃は思っていたが、本人が既に諦めていた。

 

「…………ねぇ、新川くん。前は断られたけど、今からでも、私達と組まない? 先輩も賛成してくれるよ、きっと」

 

 詩乃が恭二に提案を挙げた。伸び悩んでいるならば、自分達と組めば刺激になるのでは、と考えたのだ。AGI型であるヴィントを間近で見る事もできる。

 

「……いや、いいよ。僕なんかじゃ、ね」

 

 だが、恭二の答えはNO。実際は分からないが、詩乃の足手纏いにしかならないと考えている恭二に、その選択は選べなかった。

 

「そういえば、先輩はBoBどうするのか聞いてる?」

「本人的には出ない方向みたい。やっぱり気が乗らないって」

 

 ゼクシードがログインしなくなり、それなら、とばかりにBoBでの闇風との決着をGGOプレイヤー達に望まれているヴィント。

 だがそもそも自発的なPKを行わないヴィントにとって、BoBは参加する意義自体が見出せない。限定アイテムや賞金、『最強』という称号は魅力であり、出なかった時の風評の面倒さはあるが、それでも出場の決意に至るほどではなかった。

 

「…………そっか、出ないんだ」

「出ないと、何か問題あるの? あ、ひょっとしてヴィントに賭けようと思ってた?」

 

 少々落胆したような恭二に、詩乃が理由を問う。BoB本大会開始前にプレイヤー間で誰が優勝するかのトトカルチョが行われるので、それ関連かと冗談半分に言ってみた。

 

「その時は朝田さんに賭けるって、そうじゃないよ。僕の知り合いがBoBで1,2フィニッシュしたら僕も鼻が高いかな、って思っただけ」

 

 僕自身の功績じゃないのが情けないけどね、と恭二が自嘲するように話した。だが詩乃は今の恭二の言葉に、なにやら考え込む仕草を見せる。

 

「……そっちでなら、いけるかな」

「え?」

「ううん、こっちの話」

 

 強引に話を打ち切った詩乃が、ふと時計を見る。

 

「あ、ごめん。帰って夕飯作らなきゃ。ご馳走様、新川くん。今日はかっこよかったよ」

「いつも守ってあげられればいいんだけど……先輩の代わりに、僕が送り迎えしようか?」

「そこまで甘えられないよ。先輩だって道が同じだからってだけなんだから。それじゃ、またね新川くん」

「うん、またね朝田さん」

 

 席を立ち、店から出ていく詩乃の背中を、恭二は眩しそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校と駅の中間あたりにあるアパート。階段を上り、二階にある自分の部屋の前に着く。

 ドアの電子錠に暗証番号を入力し、金属鍵を差し込んでロックを外し、そのまま開ける。

部屋の中は灯りが点いておらず、詩乃が「ただいま」と呟くが、誰も応えない。いや、人の気配そのものがない。

 この部屋には、詩乃以外誰も住んでいない。祖父母と母親は東北にいるが、詩乃は1人で上京してきたのだ。

 

 5年前、小学5年生の詩乃は母親と共に、ある事件に巻き込まれた。

 

 

 

 そこで詩乃は、心に深すぎる傷を負った。

 

 

 

 その事件の後、詩乃は小学校では執拗ないじめ、中学校では徹底的な無視をされて過ごすことになった。

 さらに詩乃は、その事件によって『銃』に類する物を見るとパニック障害を起こすようになってしまった。今でこそ指鉄砲程度であればさほど動じなくなったが、かつては子供の玩具はおろか、テレビなどの画面を通してですら発作を引き起こす程だった。

 

 詩乃が東京に出てきたのは、周囲の眼から逃れたかったことと、それ以上にあの場所に居続けては傷が癒えることはないと考えたからだった。

 

だが、詩乃の環境は高校に入学してすぐに逆戻りしてしまった。

 

 その事件の詳細が、学校中に暴露されたからだ。それをしたのは、遠藤とその取り巻きだ。

 かつて詩乃は、あの3人を友人と思っていた時期がある。事件のことを知らない場所で『友達になろう』と来てくれた人物達を詩乃は受け入れた。

 

 それが間違いだったと、詩乃は思い知ったが。

 

 

 遠藤達は詩乃と友達になりたかったのではなく、自分たちが好き勝手できるたまり場が欲しかっただけだったのだ。

 時が経つにつれて詩乃の部屋は遠藤たちの私物で溢れていき、酔って寝泊まりすることも頻繁にあった。

 数人の男を勝手に部屋に上げていた時に詩乃も真実に気付き、すぐに警察を呼び、偽りの友人関係は終わった。

 

 そして、その報復が詩乃の過去の暴露だった。

 

 学校で詩乃に近づく人間は、教師を含めてほとんどいなくなった。それでも声を掛けてくれるクラスメイトは居たが、遠藤達のこともあり、詩乃はできるかぎり関係を持とうとはしなかった。

 

 友人を得たいなんて弱い心が今の事態を招いた。自分を救えるのは自分だけ、必要なのは己の強さだけ。

 

【周りはすべて敵。自分を曇らせる敵。なら、私は1人でいい】

 

 そう詩乃は心に決めた。つもりだった。

 

【銃、好きなんですか?】

 

 恭二と出会い、GGOを知り、過去に怯える弱い自分と決別できる強さを身に着けようとした。

 

【いいかげんしつこい。俺、そこまでお前に恨まれることしたか?】

 

 GGOでヴィントと出会い、コンビを組むようになった。街を回り、Mobを狩り、逆に力及ばず両名揃って死亡したこともある。衝突も1度や2度ではなかった。だが、それも含めて、詩乃はとても楽しかった。

 とある件でヴィントとシノンは互いのリアルを知り、その縁で自身の氷を溶かされ、コンビ解消を打診された時も、詩乃はそれを了承しようとはしなかった。

 

 『1人でいい』

 

 結局これはただの強がりだったのだと、詩乃が自覚するのは時間の問題だった。

 

 そして詩乃は、ふと考えてしまった。

 

『自分は、ヴィントと対等なのだろうか』

 

 と。確かにソロで活動するよりも効率はよくなり、それはお互い様だ。だが、ヴィントを助けたことは何度もあるが、それ以上に救われた機会の方が多かった。いやそれ以前に、自分の助力が無くても、ヴィントは苦戦こそすれ、倒されることは無かったのではないか。

 

 1度、シノンはヴィントに直接聞いたことはある。

 

【いや、そうでなければコンビ組み続けてないだろ】

 

 答えはあっさりと返ってきた。望みの答えであり、嘘偽りではないだろう。それでも詩乃の気が晴れることはなかった。

 1度も(・・・)ヴィントを倒せていないのに(・・・・・・・・・・・・・)、そのヴィントの相棒を名乗れるのだろうか。少なくとも、詩乃にはそれができなかった。

 闇風のようにそもそも決着がついていなければ、また違ったのだろうが。

 

 そんな時に湧き出た、ヴィントのBoB出場の可能性。

 

 大きな大会、かつ真剣勝負の場で勝つことができれば、胸を張って『相棒』と名乗れる、そう詩乃は考えた。ヴィントがPvPを好まないことを知っている詩乃が出場を勧めるのは不自然のため、つい茶化してしまったのは悪手だったが、もはや後の祭り。

 どうにか引っ張り出せないかと悩んでいたが、そこに恭二がヴィントの出場を望んでいるという情報。

 知り合いからも望まれていると知れば、もしかしたら、と考えた詩乃。

 

 制服からリラックスできる部屋着に着替え、エアコンや加湿器のスイッチを入れるなど、ダイブ中の環境を整えていく。

 眼鏡を外し、代わりにアミュスフィアを装着、詩乃はベッドに横たわった。

 

「リンク・スタート」

 

 キーワードを呟き、詩乃は硝煙漂う世界へと飛び込む。

 

 

 部屋の壁には、幼い子供が描いたらしい1枚の絵が飾られていた。

 

 

 




なんで後半、放映時期を1クール毎に分けたのか……。

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