インフィニット・ストラトス ~少女とクロガネ~   作:エヌ

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少女とクロガネ-2

来訪者を伝えるチャイム音が聞こえた。

 

予定にない来訪は今日で三回目である。その二回ともが警察であった。

 

俺はうんざりしながら立ち、玄関へ向かう。

 

「また警察ですか?お話しすることは…」

 

もうない-と言おうとしたときである。相手方が名乗りを入れた。

 

「いえ。国家IS運用委員会のものです。」

 

立っていたのは30代の男女である。

 

国家IS運用委員会とはその名の通りISの運用を監視する国家組織であった。

 

各企業のIS実験、解体他にも深くかかわっている。

 

と、なると警察から情報は向かっていないことになる。

 

既にあのトラックが運んでいたISの解体計画のコピーは手渡しているのだ。

 

「今回我々が調査したいのは解体計画ではありません。そちらは把握しています。」

 

おっと、彼らはどうやら心の中が読めるらしい。

 

「……では、何も出せませんが。」

 

俺は彼らを中に入れる。まだドリップコーヒーならあったはずである。

 

「恐れ入ります。」

 

彼らはサングラスを外し、部屋へと入っていった。

 

 

~~~

 

 

目を覚ました翌日に私はすべての検査を終えた。

 

あの女医さんはタケヤマさんというらしい。

 

結果はすべて問題ないという。

 

しかし私は顔に包帯を巻いたままだった。

 

「タケヤマさん。私はいつ帰れるんですか?」

 

病室に戻った私はそう聞いてみる。

 

「…明日、いろいろと説明して明後日にはできればだね。」

 

「説明ってことはお母さんも来るんですか?」

 

「まぁお母様のことも話すだろうね。」

 

お母さんのこと…?まぁよくわかんないけどいいか。

 

「あぁ、そうだ。タケヤマさん。私の子の腕輪なんですけど…」

 

「ん?それがどうしたんだい?」

 

「いえ、私こんなものつけてた記憶がないんです…」

 

そう、私はこんなものを持ってはいないというか腕輪なんて買ったことがない。

 

しかもただのプラスチックのリングではなく妙にメカメカしいのだ。

 

かっこいい時計のベルトみたいな。しかもピンク…蛍光系ではなく艶消し桜色みたいな色なのだ。

 

「だったら明日に警察やらが来るから話してみな。」

 

「あーそうなんですね。分かりました。」

 

話してるうちにナースさんが夕食を持ってきた。

 

夕食の配膳が終わるとタケヤマさんも一緒に出ていく。

 

「はぁ…お母さん心配してるよなぁ。」

 

味が少し薄い鯖味噌をつまみながらテレビの画面を見つめる。

 

『しかし驚きましたねぇ~世界初の男性IS適合者!』

 

「……は?」

 

思わず素っ頓狂な声が出た。男性のIS適合者?

 

いや、理解が追い付かない。

 

そもそもISは女にしか動かせないんじゃなかったのか?

 

そう考えていると「彼」の続報が続く。

 

「そんな彼ですが、IS学園への入学が確定しています。お姉さんの織斑千冬元日本代表も現在そこで教鞭をとっていますね。」

 

織斑千冬の弟…。ちょっとの動揺から抜けだした私は彼に同情を覚える。

 

織斑千冬といえば今の女尊男卑社会を作り出した原因の一つだ。そんな彼女の「弟」なのだ。

 

かなり気苦労するだろう。

 

「私も…そうだったからなぁ…」

 

忘れもしないあの三年間。小学五年生から中学一年生まで私はいじめを受けていた。

 

他の人は一定期間のグループ無視くらいだったけど、クラスカーストトップのアイツは女尊男卑の政治家の一人娘だけあって影響力は強かった。

 

織斑一夏。恐らく彼も陰湿ないじめや嫌がらせを受けていると思う。

 

「それにしても…IS学園か…」

 

私が落ちた…って…

 

「そういえば私高校入試どうするの…?」

 

病室で一人私はつぶやいた。

 

 

~~~

 

 

「あのISについて?」

 

「えぇ。私共は新型第三世代機の研究開発という名目で貴企業からの各種申請を受けております。」

 

「その認識で間違いはない。」

 

「しかし、こちらで調査した所、不明瞭な点がありまして確認をいただきたいと。」

 

確かに、あのISは普通の第三世代開発計画とは打って変わっていた。

 

「……分かった。」

 

「ありがとうございます。では先ず、なぜあの機体は()()()()()I()S()だったのですか?」

 

「端的に言えば防御の為だ。絶対防御のその先の防御。さらなるパイロットの安全のためということになる。」

 

「なぜその傾向に?」

 

「……もともとウチ、四宮重工のIS開発プロジェクトは極秘裏に始まったものだ。マキナ計画と呼ばれていた。」

 

「マキナ計画…?」

 

「デウス・エクス・マキナにあやかったモノだ。最終目的とするのは…イメージ・インターフェイスを利用した瞬間移動。」

 

「瞬間移動…?」

 

いままで話していなかった男のほうが口を開いた。

 

「ああ。システム・オーバーライド。これが最終的な目的だったのだが…」

 

「だが?」

 

「あの日。すべてが変わった。」

 

私はあの日のことを思いだす。忘れるはずがない。ヤツが来た時のことだ。

 

 

~~~

 

 

「初めまして諸君。私の名はアイカワだ。このマキナ計画の主任かつコア・プログラマを兼任することになった。」

 

そういったのは白衣を着た20代後半の男。

 

「先ず、言っておく。初めからシステムオーバーライドの実現は考えるな。」

 

衝撃だった。これで奴への反感が生まれたのは確かだろう。俺たちマキナ計画のチームはソレを生み出すために集められてきたのだ。

 

「この予算、この人員では到底不可能だ。日本中のIS研究機関をフル活用すれば二十年後には可能になるかもしれんがな。」

 

「しかし、技術革命でそれを起こすために我々は!」

 

そう俺が奴に言った。

 

「お前、()()()()()()()()って言われないか?」

 

「は?」

 

「先ほどの閣議決定で技術開発を含め自衛隊向け新型機を開発することになった。」

 

空間投影型ディスプレイを起動し一機のISを映す。

 

「ペイン・キラー…?」

 

研究員の一人がつぶやいた。機体名も共に表示されていた。

 

「防御力がカナメとなる機体…つまりフルスキンISの再研究だ。」

 

 

~~~

 

「そこからですよ。我々が踏んだり蹴ったりだったのは。」

 

「研究はうまくいかなかったと…。」

 

「クソがッ!全部あのアイカワってやつのせいだ!挙句の果てに自殺しやがって!打鉄の後継機だってウチの機体になってたかもしれないんだ!」

 

「落ち着てください…!」

 

男が俺を諭した。ついつい感情的になってしまう。

 

悪い癖だった。ヤツから言わせれば想像力が足りない…というやつだ。

 

「すまない。取り乱した…」

 

「しかし、完全に失敗というわけではなかったんでしょう?」

 

女のほうが効いてくる。そこは見通しがついていたらしい。

 

「ああ。ペインキラーで用いられていた通電式相転移装甲。あれだけはいいデータを残したからな。」

 

「それで、その後の経過を詳しく話していただけますか?」

 

「ああ。とりあえずペインキラーは完成までして、待機状態への正常な移行も確認できた。」

 

「待機状態は桜色の腕輪…ですね?」

 

男が聞く。

 

「ああ。しかし実験がダメだった。予想以上の機体エラーを起こしたんだ。起動失敗なんて日常さ。一番適合率が高かったテストパイロットも30分と動かせなかった。」

 

「では実戦データの収集はしなかったものと?」

 

「いや、自衛隊のひよっこと打鉄相手に5回…全部負けたよ。」

 

「成程…その時のデータは?」

 

「ウチの研究室に保管してある。使いたきゃ使ってくれ。」

 

「……それでは最後の質問をよろしいですか?」

 

「ああ。」

 

「貴方は…ペインキラーのコアシステムを()()()()()()()()?」

 

「理解…だと?」

 

「はい。1から10まで完全に把握できるかという話です。」

 

「………無理だ。あくまで俺はサブ・プログラマだ。アイカワにしかあの機体の全貌は分からない。」

 

「そうですか…」

 

「…今の質問に何の意味があった?いくらアイツを運んでたトラックが人を引いたくらいでこんなにアンタらが動くわけがないだろう?」

 

俺は二人に向かって聞く。

 

「実は…()()()()()()()()()待機状態のペインキラーが確認されました。」

 

 

~~~

 

退院と言う扱いになった私は車に乗せられよくわからないビルへと連れられた。

 

一緒についてきたタケヤマさんによると、どうやらここで説明会というものをやるらしい。

 

指定された部屋に入るとスーツを着た男の人が三人いた。

 

しかしお母さんの姿は見えない。

 

「さ、椿。座んな」

 

タケヤマさんは口調は荒いがいい人というのがここ二日間の印象だった。

 

私が座ると男の人のうち一人が話始める。

 

「先ずは森本椿さん。回復して本当に良かった。私は警視庁のヤグルマです。」

 

「は、初めまして。」

 

そう答えるとヤグルマさんはタケヤマさんのほうへ一瞥し、話し始めた。

 

「森本さん。先ずは気をしっかり持ってほしい。お母様が…亡くなられた。」

 

「……え?」

 

何を言ってるんだこの人は。お母さんが…死んだ?

 

「嘘…!嘘ですよね!やだなぁ。私を騙そうったってそうはいきませんよ!刑事さんも人が悪いなぁ……ははっ………」

 

シンと静まり返る。

 

「嘘……ちがう………だって…だって!」

 

一気に力が抜けた。足が震える。手が震える。涙がにじみでる。

 

嘘だ。嘘。ウソ、嘘。うそ、うそでうそ。これは嘘。きっとあの扉の向こうでは母さんが笑顔で迎えてくれるはずだ。

 

母さんは優しくて、私の事応援してくれて、でもちょっと情緒不安定で………情緒不安定…?

 

「じゃあ、本当に……ッツ!!?」

 

本当にいないの?と言おうとしたとき、頭痛が走った。

 

「椿!大丈夫かい!」

 

タケヤマさんが近寄ってくれる。

 

「タケヤマ……さん。あ、頭が……包帯…包帯を……」

 

「包帯!ダメだ!今外すのは!」

 

そんな声も聞こえず私はタケヤマさんの手を振りほどいて顔を覆っている包帯を取り始める。

 

タケヤマさん以外の人はどうすればいいか分かっていないようだった。

 

 

包帯を取れ。自らを受け入れろ。運命からは逃れられない

 

 

頭にはそのワードが頭痛と共に響くのだ。

 

 

運命からは……逃れられない……

 

 

つぶやく。何度もつぶやく。そして包帯がすべて床に落ち、私は鏡を見た。

 

 

「嫌……イヤ……イヤぁァァァァ!!!」

 

 

私の顔には左の眼がしらから右の頬にかけ大きな傷が残っていた。

 

拒絶したかった。ひどい悪夢であってほしかった。

 

しかし頭ではより強く、響く。

 

 

運命からは逃れられない

 

 

運命からは逃れられない

 

 

運命からは逃れられない

 

 

 

自 ら を 受 け 入 れ ろ

 

 

「嫌……助けて…ペインキラー…」

 

私はそういった。聞き覚えのないペインキラーという名を。確かに言った。

 

愛おしい恋人を呼ぶように。確かに言ったのである。

 

 

 

 

 


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