異世界に勇者召喚されたと思ったら、異世界の侵略から地球を守る戦隊ヒーローになった件について。   作:グレン×グレン

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斬りどころがあれだったので、今回かなり長いです。


10話 深層領域

 

 

 

 

 そして光と浮遊感が身を包み、それが消えると、そこは自然な洞窟といった形の空間が広がっていた。

 

「ここが、トリアーチュル遺跡の後半……」

 

 雰囲気が一気に冷たくなり、弥左は投げナイフを構えながら周囲を見渡す。

 

 渡と宝珠もまた視線を向けるが、しかしすぐに自生していた植物に目を向ける。

 

「墜落天君、調べられる?」

 

「簡易的な魔法でよければ」

 

 すぐに頷き、渡は木の実に魔方陣を展開するとそれで何かを確認。

 

 そして頷くと、木の実を取り出して一粒口に含んだ。

 

「……確かに食用だ。石碑に書かれていた通りという事か」

 

「むぐむぐ。酒のつまみによさそうね、咲花さんも、何か食べとかないと持たないわよ?」

 

「え、あ、はい……」

 

 食べられると言われていても、こんなところに自生している植物を食べるのは割と怖い。

 

 だがしかし、平然と食べる渡と宝珠を見て何かリミッターが外れたのか、弥左も流されるままに食べてみる。

 

「……あ、意外と美味しい」

 

 なんとなく拍子抜けして、思わず弥左は肩の力が抜ける。

 

 そんな弥左の方に、宝珠はぽんと手を置いた。

 

「うん、そんな感じでちょっと肩の力を抜きなさい」

 

 慈しむ表情で、宝珠は弥左に微笑んだ。

 

「色々張り詰めちゃう気持ちも分かるけど、朧くんは地下を進んでるって事は生き残ってる上にどうにかする手段まで手に入れてるって事よ。だから、安心しすぎちゃいけないけど、不安になりすぎてもいけないわ」

 

「あ……」

 

 その言葉に、弥左は自分はかなり気負っていた事に気が付いた。

 

 実際、自分を助けた所為で奈落に堕ちたのだから、責任を感じるのは当然だ。そのうえ、更に難易度が高くなってくるだろうこの遺跡を潜り抜けるという事で、緊張もしていた。

 

 最下層だと思っていた場所の魔物を一蹴した二人に守られているから、むしろそちらに関しては守られているだけである以上気が楽だとも思っていたが、どうやら心配されていたらしい。

 

「ありがとうございます、先生」

 

「OKOK。先生これでも教師だからね、生徒のことを大事にしないとね―」

 

「八重垣先生、咲花!!」

 

 と、そこで渡が大声を上げた。

 

 渡の視線の先にあるのは、横穴だった。

 

 そして問題は、そこにあるものだった。

 

「……木くずに、金属片?」

 

 覗き込んでそのままの感想を口にする弥左の言う事は、半分ほど間違っている。

 

 確かに木くずはそうなのだが、金属の方は金属片という言い方は間違っている。

 

 そう、これは―

 

「雑な形状だけど、銃弾かしら?」

 

 一つを慎重に取りながら、宝珠が首を傾げる。

 

 そして周りを確認して、その光景に眉をしかめる。

 

 弥左も釣られて奥を見て、思わず絶句した。

 

 吐しゃ物や排泄物が散らばり、異臭を放つ空間が、そこにはあった。

 

 更に周囲の壁は奇妙にネジくれており、ところどころに弾丸の紛い物とでも形容するべき金属の塊が落ちている。

 

 そのある意味で酷い環境を見て、渡は何かに気が付いた。

 

「……おそらく、ミスで深層部にまで転移してしまった朧は、ここで籠城を試みたのだろうな」

 

 木くずは、横穴に魔獣が入らないようにする為の障害物として展開したのだろう。とっさの機転が利いている、褒めるべき判断だ。

 

 とはいえ、それは絶望的だろう。

 

 誰かが助けに来てくれる事を期待しながら、すぐに外に出ればそれで魔獣に襲われるかもしれない中でのそれだ。

 

 ましてやトイレなどもないところで、ただ震えて助けを求めるか、持ってきた保存食糧や水で上を凌いでいるかの二択ぐらいしかする事がない。

 

 精神的な苦痛は想像を絶するだろう。

 

 そして、もっと不安になるのは銃弾擬きだ。

 

 一ノ瀬朧は、火薬を大量に持っている。

 

 イーンに火薬の存在を聞いた事が理由の一つだ。その恩恵で火薬の材料を大量に貰っており、爆弾を作成しようと試みていたところがあった。

 

 しかし、これは爆弾などというレベルではない。

 

 断言してもいい。朧は、銃を作ろうと試みたのだ。

 

「……墜落天君。一ノ瀬君が使える異能で、銃とか作れる?」

 

「簡易的な錬金術は教えましたので、可能不可能で言えば可能かと。弾薬の数を揃えるのには時間がかかりすぎます」

 

 にも関わらず、朧はまだ自分達よりも深いところに侵入している。

 

 それはつまり、彼は魔獣達を殺す事ができるだけの武器を作り出し、しかも相当数の弾薬を確保しているという事に他ならない。

 

 それをなすだけの錬金術の技量は、朧にはないはずなのにだ。

 

 何かが、明らかにおかしい。

 

「……まさか彼も神器持ちだった? いや、それならそもそも銃火器類を作る必要が薄いし……」

 

「一ノ瀬、お前、大丈夫なのか……?」

 

 何が起きているのかを考慮する宝珠。

 

 朧の心身を心配し、不安げな表情を浮かべる渡。

 

 そんな二人の様子をみて、しかし弥左はほっと息をついた。

 

「私は、そんな事はどうでもいいです」

 

 その言葉に振り向く二人の視線をまっすぐに受け止めて、弥左はほっとした表情で、落ちていた弾丸擬きを拾う。

 

「変わっちゃったのかもしれない。何かを持っているのかもしれない。だけど、それでも、一ノ瀬君は生きていてくれた。今は、それだけです」

 

 そう、それだけは変わらない。

 

 この極限状況か。人の精神が歪むのに十分すぎるものがあるだろう。

 

 だがしかし、それは仕方のない事だ。

 

 誰だって死にたくはないだろう。少なくとも、こんなところで誰にも知られずに死ぬのは避けたがるのが大半の人間だ。

 

 そして、変わってしまったからといって、朧が弥左を助けてくれた事実に変わりはない。

 

 伝えなければならない。助けてくれてありがとうと。

 

 謝らなければならない。その所為でこんな事になってしまった事を。

 

 その結果、変わってしまった朧がどう返答するか分からない。

 

 恨まれても、憎まれてもおかしくない。助けた事を後悔していると、そう言われてもおかしくない。

 

 だがしかし、朧を助け出すという根本的なところだけは変わらないのだ。そも、変える必要もなければ変える気もない。

 

 咲花弥左のすべては、再会して(そこ)からなのだから。

 

「急いで追いかけないと。一ノ瀬君は一人で頑張ってる。私達が、力になってあげないと」

 

 その言葉に、渡も宝珠もふと苦笑した。

 

「一般人に真理を言われてしまいましたね、八重垣先生」

 

「時々こういう事が起こったりするのよねぇ、墜落天君」

 

 そう言葉を交わし、2人は戦闘態勢をとる。

 

「………じゃ、先生先行するから墜落天君は咲花さんのフォローお願いねー」

 

「了解です。咲花、私達から離れすぎるなよ?」

 

「うん! 分かってる!! 足手まといの自覚はあるから!」

 

 そして、三人は足早に遺跡を攻略するべく進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリアーチュル遺跡深層部と形容するべき場所の探索を開始して、既に数日が過ぎた。

 

 進軍速度はそこそこだが、しかし順調とはいいがたがった。

 

 環境が非常に厄介だった。

 

 元より薄暗くなっており、その辺りが面倒だったのだが、そんなものはジャブですらなかった。

 

 足元が沼のようになっている階層では、滑りやすくなっている為弥左はもちろん宝珠ですらスッ転んで攻撃を喰らうところだった。

 

 常に大きな音が響いている階層では、聴覚が役に立たない事もあって常に周囲を見渡さないと気が気でなかった。

 

 逆にものすごく明るい階層もあったが、明るすぎて目を開けるのも一苦労。魔獣との戦闘は更に輪をかけて手こずった。

 

 更に極寒の階層では、「寝たら死ぬぞ!!」を本当にする羽目になった。

 

 逆に激熱の階層では、弥左が脱水症状を引き起こして一苦労。渡も軽い熱中症になった。

 

 非常に悪臭がする階層もあった。絶妙に吐しゃ物のにおいに近かった為、我慢できずに何回か吐いた。

 

 更に酷かったのは、精神攻撃をしてくる階層だ。血まみれになって死んでいる朧の姿を脳裏に映し出してくるという、悪質なトラップで冷静さを失いかけた。どうもその時点における最悪の想像を想起させる術があったらしい。

 

「……ねえ、この世界の術式って未発達なのが多い思ってたけど、衰退したの間違いなのかもしれないって、先生思うわ」

 

 なんとかその階層を突破してから、宝珠がそうぼやいたのも仕方ないだろう。

 

 明らかに高度な魔法技術によって作られていると思しきこの深層部。クリフォー×クライシスの基本文明どころか、下手な魔法使い組織並みの水準で魔法が運用されているとしか思えない。

 

「衰退した理由は何ででしょうか。あれだけの文明の衰退なら、それこそ歴史に残されてもおかしくないと思うのですが」

 

 渡の意見ももっともだ。

 

 ここまで優れた機能を持つ遺跡など、高度な魔法文明を持っていなければ不可能だろう。それが衰退した理由がわからない。

 

「……誰かが隠してる……とか? あ、ごめん、言ってみただけだから怒らないで」

 

 適当ぶっこいた弥左が、空気が変わったのを察してすぐに謝罪する。

 

 だがしかし、2人の脳裏には全く別の思惑があった。

 

(世界規模の文明をごまかすか。……エルル教クラスの宗教組織なら不可能ではないだろう)

 

(うっわぁー。エルルがもう、胡散臭すぎてマジ勘弁なんだけど)

 

 二人は同時にエルルに対する不信感を募らせながら、しかしそれを口には出さない。

 

 今重要なのは、そこでは断じてなかったからだ。

 

 そして、環境はともかく戦闘に関しては非常に楽という他ない。

 

 というより、むしろ表層部の底で戦った時の方が難易度が高かったのではないかと思う。

 

 そして、それがあくまで主観的なものでしかない事も、痛感していた。

 

 魔獣達は正真正銘、より強大になっていた。

 

 拳銃弾程度ならたやすく弾く表皮を持った魔獣達は、しかも複数体の群れで動く事が殆どだ。それも、場合によって挟み撃ちの状況になった事もある。

 

 本来ならもっと苦戦して、多少の手傷は負っていても不思議ではない。とくに弥左を庇い切れない可能性があった。

 

 だが、全員此処に至るまで無傷だった。

 

 と、いうより―

 

「あ、イノシシ発見」

 

 と、弥左が真っ先にそれに気づいて、素早くナイフを投げる。

 

 そしてナイフが消えたと常人なら感じるだろうその瞬間には、凄まじい音を立ててナイフがイノシシの眉間に突き刺さった。

 

 祇園で形容するならば、ストッ! でもドスッ! でもなく、ズドン!! が一番ぴったりだろう。

 

 投擲されたナイフの速度は音速を超え、ナイフそのものが祝才持ちが運用する事を前提として重量のあるものだった事もあり、最早ちょっとした大砲だ。

 

 狼の頭蓋骨は陥没し、脳漿が飛び散ってしまっている。

 

 その光景を見て、宝珠はうんうんと頷いた。

 

「咲花さん、強くなりすぎよねー」

 

「自分でもびっくりです。あ、久しぶりに新鮮なお肉が食べれるかも」

 

「訂正、強くなったというよりたくましくなったって先生思うなー」

 

 倒した魔獣の肉を食べる事すら考える弥左の姿に、宝珠はむしろちょっと引いている。

 

 この極限状況下ではたくましくならなければやってられないとは思う。

 

 思うのだが、たくましくなるのが少しばかり早すぎないだろうか?

 

「ほら、新鮮なお肉なら精が付きますし、すぐに血抜きしましょう! しっかり栄養とらないと、一ノ瀬君を助けに来ても足を引っ張るかもしれませんし!!」

 

「……なんというか、タフになったようだな、咲花よ」

 

 渡も苦笑する他ない。

 

 そして視線がお互いをとらえて、なんとなくお互いに首を傾げた。

 

「……強くなってるわよね、私達」

 

「一の実戦は百の訓練に勝る……とかいう類でもなさそうですな」

 

 そう、誰もが強くなっている。

 

 深層部に潜ってから既に数日。その間に、三人の身体能力は大幅に向上していた。

 

 膂力が、体力が、瞬発力が、反応速度が、全て上がっている。

 

 今の渡なら、上級クラスが相手でも、防戦を十分可能とするだろう。宝珠も、それに追随して戦えるだけの性能を発揮している。

 

 驚くべきは弥左だ。既に弥左の戦闘能力は、その二人の足を引っ張らないどころか援護ができるレベルにまで到達している。

 

 明らかに異常なレベルの成長速度だ。まるで、「なんとしても朧を助ける」という強い決意に引っ張られているかのようだ。心の強さが、そのまま戦闘能力に直結したかのようだ。

 

 その時、宝珠はふと思い出す。

 

 深層部に行く為の魔法陣。その説明が書かれた石碑に、こんな文字が書かれていた。

 

 強き意思をもってして、生きて戦う覚悟を決めよ。ここから先、確固たる意志で脅威に立ち向かおうとする者たち以外が、生き残ること能わず。

 

 根性論かとばかり思っていたが、もしかすると、本当にこの世界では心の強さが身体能力を上昇させる異能があるのかもしれない。

 

「……なんてね。あるわけないか」

 

「どうしましたか、八重垣先生?」

 

 不思議そうに視線を向ける渡に、宝珠は手を振って流す。

 

 そして、とりあえず小休止として食事をとるべく、猪の解体を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……誰も経験がない事を試行錯誤でやった為獲れた肉は少なかった事をここに伝えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、感覚的に50層。最後の階層に到達した時、三人は見た。

 

 開けた空間に、辺りを見渡している白髪の少年がいる。

 

 見るからに剣呑そうな雰囲気を見せ、同時に一部の隙も見せていない。

 

 まるで歴戦の兵士を思わせるすごみが、彼には会った。

 

「チッ! 何かの仕掛けがねえと出れねえ仕組みにでもなってんのかよ」

 

 そう吐き捨てる少年の声は、荒っぽくなってはいたが、確かに彼だった。

 

「一ノ瀬!」

 

「一ノ瀬君!!」

 

 渡と宝珠が声を張り上げ、そしてその声に少年が反応する。

 

 真っ白になった髪に鋭い眼光。かつての面影などほとんど残されていなかった。すぐに分かれという方が無理だろう。

 

 だが、確かに彼は一ノ瀬朧だ。それを三人が理解できる。

 

「ぁあ……! いち、のせくん……」

 

 そして、弥左に至っては涙すら浮かべて震えていた。

 

 あと少しで死ぬところだった自分を助けてくれた少年。そして、それが遠因となって奈落の底へと堕ちていった少年。

 

「……墜落天、八重垣先生。……それに、咲花……?」

 

 三人の名前をつぶやいたことで、最早断定に到達する。

 

 ぽろぽろと涙をこぼして、弥左は一歩一歩前に出る。

 

 渡としても駆け寄って型の一つでも叩いてやりたいところだったが、しかしそれは自分の役目ではないと思い、再会の喜びを分かち合うことを譲ることに決める。

 

 まさしく感動の再開だ。これで二人の関係が幼馴染やすでに付き合っている恋人同士なら、まず間違いなく映画のラストシーンにできるだろう。

 

「ああ……なるほどな。そういう……ことか」

 

 朧は何事かつぶやきながら、一度階層の天井に視線を向ける。

 

 そして数秒後、ついに駆け出す一歩手前だった弥左に向けて、無造作に手を向け―

 

「咲花さん!!」

 

 その瞬間、宝珠は弥左の足を払って、転ばせる。

 

「ちょ、先生なにを―」

 

 明らかに空気が読めていない行動にツッコミを入れる渡だが、しかしその瞬間、爆発音とともに何かが渡の髪を散らした。

 

 そして、会談があった壁の部分が大きくはじける。

 

 そして、その轟音を発生させた物体は、朧の手にあった。

 

 無骨な筒。先端からは煙が出ており、さらに筒の周囲はわずかに魔法の残滓が確認できる。

 

 それに追って、渡はその正体が何なのかを理解した。

 

 マッチ程度の火を起こす魔法で火薬を炸裂させることで弾丸を発射する、簡易魔法で起動するタイプの銃だ。

 

 口径がみるだけでも下手な散弾銃を超える。火薬も大量に仕込まれているらしく、感覚的に判断して、ある程度の近距離なら対物狙撃銃クラスの威力を発揮するだろう。

 

 本当に銃を作っているということに驚くが、しかしそれ以上に驚くべきことがある。

 

 撃ったのだ。

 

 躊躇なく、遠慮なく、呵責なく。

 

 一ノ瀬朧は、助けに来た咲花弥左を躊躇なく打った。

 

「い、一ノ瀬……くん?」

 

「一ノ瀬君! いきなり何するの!?」

 

 呆然とする弥左をかばいながら、宝珠が大声を張り上げてたしなめる。

 

 だが、その叱責にたいして朧は顔をしかめるのみだ。

 

「ハッ! 笑わせるなよ偽物共が。あいつらがこんなところまで来れるわけがねえ。墜落天ならワンチャンあるかもだが、そもそも最下層は霧があって入れないんだろうが。物理的にこれない以上、てめえらは全員偽物だ。さすがは地獄じみた遺跡だな。記憶をもとに化けるとは、いい趣味してるじゃねえか」

 

 その言葉で、大体全員が察することができた。

 

 どうやら、渡たちを、魔物が遺跡の影響で化けていると勘違いしているらしい。

 

 そもそも渡が飛べることを知らない以上、まさかあの穴から直接降下して最下層まで下りたなど考え突くわけがない。

 

 訳がないのだが―

 

「さ、作戦タイム!!」

 

 そういって宝珠が弥左を引っ張りながら渡に詰め追った。

 

「……飛ぶ方法があるって教えときなさいよ。これ、いまさら言ったって聞いてくれないわよ?」

 

「手品に使える程度の魔法しか教えてなかったもので。申し訳ありません……っ」

 

 本当にない。申し開きの余地がない。

 

「つっても遠慮なくぶっ放すとか、どんだけビフォーアフターしてんのよ。揉まれすぎでしょ、ここに」

 

 げんなりした表情を宝珠が浮かべるのも仕方がない。

 

 いろんな意味で跡形がない。宝珠の知る一ノ瀬朧は、もっとダウナー系で騒がないタイプだった。

 

 それが、明かにオラオラ系の感じになって、しかも偽物だと思っているからとは言え躊躇なく抜き打ちで射殺を試みる始末。

 

 単刀直入に言って変わり果てている。この変貌はさすがに想定外だった。

 

「……まあ、三人そろって縁はあるから、有効だわなぁ」

 

 朧はそう吐き捨てるようにいう。

 

 そう、朧にとって三人はそれぞれそれなりに重要だ。

 

 いろいろと面倒くさいことをさせてくるが、真剣に朧のことを気遣い、瀬間達からかばってくれた墜落天渡。

 

 教師としてきちんと対応し、生徒たちのことをなんだかんだで考えてくれる八重垣宝珠。

 

 そして、自分が助けて救った少女、咲花弥左。

 

 総合的に見て、身内とまではいわないが、あの場のメンツの中ではそれなりに優しい感情を向けてくれていた者たちだ。

 

 もしかすれば、本当に助けに来たがっているかもしれないだろう。それぐらいはわかる。

 

 変わり果てた朧だが、だからこそ、三人が心から嬉しそうな表情で自分を見つけてくれた時、心のどこかで嬉しかった。

 

 それは、立ち向かうことを決めたときにあり得ないと切って捨てた幻想だったからだ。

 

 ………だからこそ、許せない。

 

 大事だったものを汚された。心の弱さをつつかれた。

 

 ならばやることは一つ。目の前の偽物を完膚なきまでに滅ぼし、ふざけたことをしてくれたツケを祓わせてやることのみ。

 

「念仏は唱え終わったか? ならさっさと死にやがれ!」

 

 そう言い放ち、朧は即座に新しい銃を召喚。

 

 今度は二丁同時に構え、速攻で発射する。

 

 その殺意がありありと込められた攻撃が襲い掛かり―

 

「致し方ないか」

 

「そうねー。これ、話聞いてくれる気なさそうだし」

 

 光の剣が、それをあっさりと弾き飛ばした。

 

「……はぁ!?」

 

 思わず唖然となる朧の目の前で、渡と宝珠が光の剣を構えながら、静かに一歩踏み出す。

 

 残念だが、説得は困難だ。

 

 そもそも話を聞く気がない相手に、会話を行う事そのものが不可能に近い。

 

 何より朧は頭に血が上っている。是では冷静な判断など不可能だろう。

 

 古今東西、こういう手合いの対処方法は決まっている。

 

「……とりあえず、拳骨一発叩き込むわ。覚悟しなさい?」

 

「話を聞かんから悪いのだ。いや、私にも責は多大にあるのだがな」

 

「そういうとこまでらしいってのが、腹立つんだよ、糞がぁ!!」

 

 その言葉と共に、救出されるべき者と救出に来た者は、激戦を勃発させた。

 

 




ありふれ要素は本当に序盤だけなので、できるだけ早く切り上げたいところ。

ちなみにこれはトリアーチュル遺跡のラストバトルではありません。ここからさらに状況が変わります。
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