異世界に勇者召喚されたと思ったら、異世界の侵略から地球を守る戦隊ヒーローになった件について。 作:グレン×グレン
1話 前代未聞の緊急事態
清栄学園二年A組が突如として教師二名と共に消え去ったこの事件は、当然のことだが全国どころから世界規模のニュースとなった。
文字通り一瞬で、光に包まれて消え去ったのだ。いやというほど目立つし、その光景が校内の監視カメラに写っていたからなおさら目立つ。
あまりに異形がかかわっていると判断されたことから、各勢力や日本が実名報道をできる限り避ける方向に圧力をかけていたが、しかしそれでもこの影響は大きいだろう。
そして当然のことだが、監視役として堕天使を派遣していた
「……冗談きついぞ、クソッタレ!!」
声を張り上げながら壁を殴りつけるのは、堕天使総督アザゼルだ。
近年日本で堕天使がらみのトラブルが続いていたことから、リチャード・西堂のことも一応気にはしていた。
堕天使の縄張りに近いところの学園に、14歳で現役の悪魔祓いになるような天才が、普通の生徒として転入したのだ。当然気になる。
なので、年代が近く近辺に住んでいた堕天使を一人送り込んでいたのだが、彼らもまた行方不明者になっていた。
「……アザゼル。教会から連絡が」
「マジか。あいつらがこっちに連絡してきたのかよ」
副総督であるシェムハザの言葉に、アザゼルは目を見開く。
大絶賛冷戦状態で、いつ戦争が勃発しても不思議ではない三大勢力。其の中でも、正義を定義する宗教の性質上もっともタカ派になりやすい教会がこちらに連絡をするとは意外だった。
もっとも、上層部やそもそも上の立場である天界は、最大の厄ネタがあるから戦争を自発的に仕掛けてくる可能性は低いと判断しているが。
それはともかく、シェムハザは眉間にしわを寄せながら首を振る。
「……とはいえいい返事ではありません。リチャード・西堂は休職中であり、当方は深く関与してないとのことです」
「休職中って、オイ」
ノリノリで悪魔や堕天使を殺しそうな年代が、休職中とはどういうことなのだろうか。
最近の若い者の気持ちはわからんなどと、歳を自覚するほかない感想を覚えながら、アザゼルはとりあえず思考を戻す。
「悪魔側はどうなんだよ。メフィストからなんか連絡は?」
三大勢力の一角である悪魔の行動も警戒するべきだ。
不幸中の幸いで、悪魔でありながら魔法使い団体の長を務めているメフィスト・フェレスとは懇意である。しかも幸運なことに、メフィストは現四大魔王とは比較的相性がいいらしい。
なので速攻で連絡して、悪魔側の対応をそれとなく教えてもらおうとしていたのだ。
「芳しくないですね。悪魔側はもちろん、各種神話勢力も今回の件で慌てているようです」
そのシェムハザの言葉に、アザエルは頭に手を当てて頭痛をこらえた。
あまりに想定外の事態だ。何か事が起こるにしても、こんな大騒ぎは想定外だ。
以前
仮にも修学旅行中の事故に見せかけた、あの事件の方がまだましだ。
授業開始直前に、一斉瞬間移動でもしたかのような消失事件。異形の存在を知っているものなら、誰もが異形の関与を疑うだろう。
へたに人間に異形は異能を広めれば、自分たちをまきこんで人間は滅びる。それほどまでに、人間の欲望は際限なく様々なものを肥大化させかねない。それが異形側の認識だ。
そんな中、こんな隠すことが困難なレベルで異能じみた真似をしでかしたのだ。下手人は異常というほかない。
「とにかくだ。その……墜落天だったか? 派遣した奴は発信機を持ってるんだな?」
「はい。それこそ冥界は愚か、アースガルズやオリュンポスに転移していたとしてもすぐにわかる特注品です。ほかにもいろいろ持たせております」
ややこしい任務だったので、それなりに装備は提供している。
当人の戦闘能力は中級相当だったのだが、リチャードが優秀な悪魔祓いだという評価だったので、念のために装備は厳重にしている。
というより、こうでもしないと使えない人工神器などを体のいいいいわけで持たせてテスターにしたという方が近い。
其の中には高性能の発信機もある。それこそ次元の狭間でも位置がわかる優れものだ。
作ったはいいが金がかかりすぎて量産できず、とりあえずなんとなく適当に持たせたのだがそれは内緒だったりする。
「あれの発信反応が分かれば、すぐにでも助けに行けるわけだ。……にしてもまだわからねえのか?」
「なぜか観測班がパニックを起こしていましたからね。どうしたというのやら」
などと二人して首をひねっていると、そこに新たなる幹部が姿を現す。
「アザゼル、シェムハザ。……大変だぞ」
「「大変だ」」
まともな反応を言ってきたことで大変なことがわかってしまう。
神の子を見張るものの幹部の一人、アルマロス。
日本の戦隊もの、それも悪役に強いあこがれを抱き、部下や教え子に「グリィゴリィ」なる掛け声を徹底させる趣味人である。
その趣味人だが、アンチマジックなどの術式に第一人者でもある。なので魔法技術を利用した発信機の解析班としては最適なのだが。
「二人とも、深呼吸してよく聞くのだ」
「な、なんだ? まさか天界に転送されたなんていうんじゃねえだろうな?」
考えられる限りトップクラスにあり得ない場所を射てみたが、アルマロスは静かに首を振る。
そして―
「……確認された位置が異次元すぎる。清栄学園二年A組は、おそらく異世界に転送されたのである」
―すさまじすぎることを、嘘偽りなく言い切った。
そしてそのころ、渡は教師である八重垣宝珠と顔を突っつき合わせて小声で会話していた。
「……先生。もしかして異形側ですかな?」
「12の時に悪魔祓いの戦士育成機関をやめて、自主トレと黄金稼ぎの賞金稼ぎ以外は異形には関わってないわ。先生ただの公務員よ?」
「お言葉なのですが、日本は公務員の副業は禁止です」
若干ピントのずれたツッコミを入れるが、しかし状況はあまりにも悪い。
「……偉大なる勇者様。どうか我々を御救いください。さすれば唯一存在エルル様は、あらゆる加護と恩恵をくださるでしょう」
などとリチャードに跪いて懇願するのは、カーディナ・トップソウを名乗る、この世界唯一の宗教であるエルル教の教皇だそうだ。
この世界、などといっただけのことはあり、状況は一言で纏めるとシンプルである。
異世界に勇者召喚された。
どこのなろう小説だといわんばかりの展開だ。異世界の存在など、異形社会でも実在の可能性が時折言われるだけの机上の空論だというのに、まさか異世界を観測する前に異世界に来る羽目になるとは思わなかった。
ちなみに彼が説明してきたことはわかりやすかった。このあたり、教皇というだけあってポテンシャルはあるらしい。
一つ、リチャードごと自分たちを召喚したのは、唯一存在エルルであるということ。
一つ、この世界はクリフォー×クライシスと呼ばれている、二つの大陸が存在する世界だということ。
一つ、そして今いるのは光大陸および、その統一国家であるクリフォティア王国だということ。
一つ、もう片方の大陸である闇大陸から、断続的に魔獣が襲い掛かっているという苦難に巻き込まれているということ。
一つ、唯一存在エルルは、「精霊剣ストラキャリバーを振るえる勇者の祝祭を持つものを召喚する。彼が真に己の役目に目覚めたとき、この世界は新たなる段階へと至るだろう」という神託をつい先日下したこと。
一つ、その際エルルは「彼の周りにいる者たちもまた、その多くが優れた祝才を持っている英雄の素質有る者たちである」と伝えたこと。
一つ、祝才とはこの世界の特性であり、超人的な能力を発揮することができる、魔法を超える才能だということ。
一つ、この世界を救えば、唯一存在エルルはリチャード達を地球に返してくれるのかもしれない。
とまあ、ここまで丁寧に説明してくれた。
だが、それをうのみにするわけにはいかない。
そもそも近年のトレンドは、勇者を勝手に召喚する連中に碌なのはいないである。
さすがに創作物の定番を現実に当てはめるのもあれだが、一理ある。こちらの事情を斟酌せず、交渉も全くなしにいきなり召喚してきたのだ。しかも、クラス丸ごとである。
その唯一存在、かなり傲慢というか上から目線な気もする。
「それに先生、気になるけど、この世界って神権政治に近いわよね」
「確かに。クリフォティア国国王陛下があの場で立っていますからね」
と、ちらりと二人は視線を向けると、国王陛下らしい初老の男性はにこりと笑った。
どうやら人柄は良いようだが、普通国王が出てくる以上、もう少し何らかの態度的なものがあるだろう。
どうやらこの世界、唯一存在エルルは文字通り絶対的な存在らしい。
うかつにエルルを批判するようなことがあれば、その時点で殺されかねない。理不尽に対して文句を言ったりしないのは、2人がそれを理解しているからである。
帰還のあてどころか、逃げれる場所すらわかってないのにそんなことをするわけにはいかない。すれば速攻で、詰む。
そして、問題はとても大きい。
「……八重垣先生。リチャードは、信徒ですよね」
「ロザリオ持ってるのは知ってるわよ。経験則だけど、先生はあの子信心深いと思ってるわ」
そう、問題はそこだ。
聖書の教えは一神教である。宗教とは善と正義を定義する場合が大半である。そして古来より、宗教の違いは殺し合いになるほどの食い違いである。
リチャードは信徒であり、信心の敵を滅ぼす悪魔祓いである。排他的な思考に陥りやすい環境で生きてきたことは言うまでもない。
動揺しているほかの生徒たちはそれがわかっていない。そも日本人という、信仰というものを重要視しないものが多く、宗教そのものに深入りしたがらないものが過半数を示すお国柄では、この問題に気づきづらい。
「ふざけるな異教徒」などとリチャードが言わないか、心臓が止まるぐらい不安である。
「……これも、主の御遺志かな」
リチャードはそういうと、カーディナの手を取った。
そして、静かに苦笑しながら頷く。
「安心してください。理不尽にさいなまれる人々の味方であるのが、今の
「おお……、勇者さまの慈悲深さに感謝を!!」
カーディナは目からぽろぽろと涙をこぼしながら、その手をつかんでうつむき震える。
「おお、カッコいいな、西堂」
「流石は西堂だな」
「リチャードくん、カッコいい!!」
「西堂君、私は君のような生徒を教えることができて感無量です……っ」
生徒たちから感心する声を響かせ、さらには教師である中荷闇すら感動の涙を流す。
「だったら俺たちもやっちまおうぜ!」
「確かにな。西堂だけに任せるわけにはいかねえよ!!」
「勇者の仲間たちとカ、なんか燃えるしな!!」
中にはそんな声すら響いてくる。
其の声を聴きながら、渡と宝珠は口の中に苦いものを感じ始めていた。
この状況下ではバラバラに動くわけにはいかないだろう。一致団結するのはいいことだ。
だが、人々の脅威となっている魔獣達の猛威に対抗するとは、すなわち魔獣達との殺し合いである。
殺し合いというのは、命を自らの手で奪うことだ。そして、命を奪われることを了承するということだ。
そんな非日常にある程度はかかわっていた渡と宝珠は、しかしここで「ダメだ」ということができないでいた。
うかつにそんなことを言い出してもややこしくなる。さっきも書いたが、この唯一存在エルル最高という価値観に染まった社会でエルルの意思に背く真似をすれば、下手すれば公開処刑だ。
中級堕天使と悪魔祓い落第生。いかに勇者リチャードの後ろ盾があっても、心ともないにもほどがある。
「ああ、一致団結して世界を救う生徒たち……! 私はいま、猛烈に感動している!!」
中荷闇は役に立たない。どうもこの男、夢見がちだったらしい。
どうにもこうにも情勢が血なまぐさい方向に進む中、二人は静かに生徒たちの陰に隠れながら、顔を見合わせる。
「先生手詰まりなんだけど、どうする」
「通信機はつながりません。発信機は機能していますから、神の子を見張るものから救援部隊が来てくれる可能性を……宝くじ一枚が一等を当たるような気分で祈るしかないですね」
事実上手詰まり確定。希望の光すら見えない。
その事実に、渡と宝珠は同時にため息をついた。
いきなり不安な展開になってきましたが、その不安はきっと的中することでしょう。
ただし、これはまだ序盤も序盤でございます。