異世界に勇者召喚されたと思ったら、異世界の侵略から地球を守る戦隊ヒーローになった件について。   作:グレン×グレン

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朧墜落という悲劇から、二十日後……


6話 喪失と覚悟

 

 その事故の発生から二十日後、二年A組の生徒達は何とか生還した。

 

 騎士団も生徒達もかろうじて朧以外は生存。かなり下層部に転移した事で色々と苦戦したが、突然の難易度上昇で是なら、奇跡ともいえるだろう。

 

 だがしかし、それでも誰もがショックを受けていた。

 

 朧を敵視していた火山や水野すらショックを受けており、真白に至ってはショックのあまり意識を失い。目が覚めたのは城につく直前。

 

「………は、はは。あはは……」

 

 そして、その様子はもはや発狂寸前だった。

 

「真白っち、元気出して」

 

「真白……」

 

 真名や八代が気遣うが、それに反応する事もなく、虚ろな表情で乾いた笑い声を漏らすのみ。

 

 誰が見ても、ショックのあまり精神が崩壊しかけている。それほどまでに、宝幸真白はショックを受けていた。

 

 その光景に、真白が朧の事を本気で好きだったのだと誰もが分かる。

 

 殆どの者達は、沈痛な面持ちだった。

 

 そしてそんな中、一人だけつまらなさそうに鼻を鳴らし部屋へと戻ろうとしているのは、瀬間だった。

 

「……チッ。まさかあの糞にマジで惚れてやがるとはな。幻滅だぜ」

 

 心底真白に侮蔑の感情を浮かべながら、瀬間は苛立たし気に廊下を歩く。

 

 そして、その視線がある少年を捉えた。

 

 瀬間はその少年が沈んでいるのを見て、嘲笑を浮かべる。

 

「よぉ。お気に入りがくたばっちまって、ショックみたいだな?」

 

「瀬間。貴様が朧のことを嫌いなのは当然知っているが、死者をむやみに貶める発言はよせ」

 

 静かに敵意を向ける渡に、瀬間はしかし余裕の表情を見せる。

 

 何より、瀬間は不機嫌であると同時に気分が良かった。

 

「ハッ! 雑用係が一人死んだ程度で、どいつもこいつも落ち込みすぎなんだよ。雑魚が戦場で死ぬのは当然だろ?」

 

「実戦経験をつい先日つんだばかりのくせに、戦場を語るとは意外だな」

 

 渡はあくまで冷静に対応する。

 

 喬樹はそれが気に入らないが、しかしこれ以上の罵倒は避けるべきだと判断する。

 

 どうも、騎士団すら朧の死に責任を感じて悔やんでいるらしい。この調子では、王国の者達も同じような感想を抱くかもしれない。

 

 クラスメイトも屑の朧の死に同情している者が何人かいる。真白が筆頭だが、しかし助けられたらしい咲花弥左も相当ショックを受けていた。

 

 それに関して、喬樹は心から呆れ果てる。

 

 荷物持ち程度の役にしかたたない、うっとおしい根暗が死んだ程度で、誰も彼も騒ぎすぎなのだ。

 

 直ぐに変わりが見つけられる程度の男が死んだ程度で、なぜそこまで悲しむのかが理解できない。

 

 だが、まあ空気はある程度呼んでおくべきだろう。

 

 そう思い喬樹は通り過ぎようとするが、しかし渡はその背中に声をかける。

 

「……瀬間、一つだけ言っておく」

 

「あんだよ? まさか俺が殺したとでも思ってんのか?」

 

 そう振り返った次の瞬間―

 

「―もしそうだと確信しているなら、そも貴様は既に死んでいるぞ?」

 

 ―その一瞬、喬樹は一つだけ確信した。

 

「私が言いたいの一つだ。……貴様こそ真正の屑だと自覚しておけ」

 

 ―この男は、自分を本当に自分を殺す事ができる。

 

 気づけば、既に数分ほど経っていた。

 

 既に渡は歩き去っている。それにも気づく事ができなかった。

 

 喬樹は額の汗をぬぐい、それがとても冷たい事を自覚する。

 

「……クソ! 俺が屑だと? ざけんな、俺は、瀬間喬樹だぞ!?」

 

 そんな事をいちいち声を荒げねばならない程、喬樹は動揺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰かによる誤射ですって!?」

 

 事情を聴く為にイーンに詰め寄った宝珠は、その言葉に絶句した。

 

 朧が死んだのはショック以外の何物でもない。

 

 教師として、教え子が死んだ事にショックを受けるのは当然だ。本来自分が守るべき立場だった事も考えれば尚更である。

 

 だが、それ以上にこの衝撃は大きかった。

 

 誤射。つまりは、味方の手違いで朧は生死不明になったのだ。それも、ほぼ確実に死んだといえる状況だ。

 

「それで! いったい誰が誤射したんですか!?」

 

「それが、分からないのです」

 

 詰め寄る宝珠に、イーンは静かに首を振る。

 

「あの場の魔獣に魔法を使える者はいなかったので、誰かの魔法が当たってしまったのは間違いありません。ですが、乱戦状態故に誰が撃ったのか、そもそも撃った者が当ててしまった自覚があるのかすら……」

 

 苦し気にそう言うと、イーンは地面に膝と両手をつく。

 

 土下座の文化はこの異世界にもあったらしい。そんな感心をしてしまうのは、宝珠が動揺している証だろう。

 

 そして、気づけばイーンは涙すら流している。

 

「申し訳ありません! お預かりした教え子を、みすみす死なせてしまうなど……!」

 

 その後悔している事が明らかに分かる態度を示されては、宝珠はこれ以上責める事ができない。

 

 そもそも、自分に彼女を責める資格はないのだ。

 

 悪魔祓いとしての戦闘技術学んだ。賞金稼ぎとして小物とは言え異形を相手に戦った事もある。そして、教師という生徒を守る立場。

 

 しかし、自分はどの意味でも半端者だ。

 

 悪魔祓いとして生きていく自信を無くして背を向けた。賞金稼ぎも小銭稼ぎ程度で、正義感によるものではない。そして、教師としての立場がありながらも、余計なトラブルを生むと判断して、戦う事ができるのに前線に出なかった。

 

 ……イーンよりも、自分の方が責任は重いのかもしれない。

 

 少なくとも、全力を尽くしたであろうイーンより、理由はどうあれ戦えるのに戦わなかった自分の方が問題だろう。

 

「本当に申し訳ありません。エルル様のお告げとはいえ、やはり戦士でもない者を戦わせるような真似をしたのは―」

 

「イーンさん。それ以上はいけません」

 

 ―その言葉に、宝珠は振り返る。

 

 そこには、渡がいた。

 

 ……彼は、ある意味で自分以上にショックだろう。

 

 いじめから庇う目的があったとはいえ、朧と最も親しかったのは渡だ。

 

 そして、堕天使でありながら前線に出なかった渡もまた、宝珠と同じ意味で責任がある。

 

 だが、イーンに対して渡は労わる様な視線を注ぐ。

注ぐ。

 

「この世界の価値観で、エルルの否定に繋がる言葉は危険です。どこに耳があるか分からない以上、うかつな発言はしてはいけません」

 

 そう言うと、渡は静かにイーンの肩に手を置く。

 

「……イーンさんも疲れているでしょう。今日はもう、お休みください」

 

 そう労わりながら、渡は宝珠に視線を向ける。

 

 そこには、何かを伝えたい意思があったのを、宝珠は理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 咲花弥左は、一人で城内の中庭に出ていた。

 

 部屋に籠っていると、更に沈んでしまいそうだった。そうなれば、どんどん悪い方向に考えてしまいそうだった。

 

 一ノ瀬朧は、死んだとしか考えられない。

 

 少なく見積もっても数百メートルはあるだろう、奈落の穴に落ちたのだ。身体能力が大幅に向上している自分ですら助からないと断言できる。

 

 あの流れ弾ならぬ流れ魔法が誰によるものかは分からない。だが、あの吹き飛ばされた距離から判断して、自分を助けに奈落の淵にまで行かなければ、堕ちる事はなかったはずだ。

 

 そういう意味では、弥左の所為で死んだと取る事もできてしまう。

 

 墜落してからそこに激突するまでに、彼はそう認識したかもしれない。

 

「恨まれても、おかしくないよね」

 

 そうぽつりと呟いて、弥左はは首を振る。

 

 駄目だ。やはり悪い方向に考えてしまう。

 

 ここで自分が沈んでダメになったら、それこそ助けてくれた朧に悪い。

 

 自分ができる事なんて、今より強くなってこの世界を救う力になる事だけなのだ。それぐらいしなければ、朧の行動がそれこそ無駄だった事になってしまう。

 

 そう考えようとしながら、弥左は気分を切り替えようとして―

 

「……なんでそんなミスをしたのよ!!」

 

 ―宝珠のものと思われる大声を聞いて、思わずびくりと肩を震わせた。

 

 宝珠がこんな激情にかられた声を出したところなど、初めてだと思う。

 

 なんだなんだとこっそり覗き込んでみれば、宝珠は渡に詰め寄っていた。

 

 否、そんなレベルではない。

 

 宝珠は、渡の胸倉を掴んでいた。

 

 明らかにこれはあれではないかと思い、弥左は思わず割って入ろうとして―

 

「―一ノ瀬くんに敵意を向けている神器(セイクリッド・ギア)使いが、生徒達の中にいるなんて知ってたら、無理を言ってでも先生は付いて行ったのに!! 殺させなんてしなかったのに!!」

 

 ―その言葉に、弥左は凍り付いた。

 

 セイクリッド・ギア。直訳すれば、聖なる歯車といったところか。意訳すれば聖なる道具とでもいうのだろう。

 

 それが何なのかは分からない。

 

 だが、明らかにそんな言葉から連想できないような事が聞こえた。

 

 一ノ瀬朧。弥左の命の恩人。学園のマドンナの宝幸真白に好意を向けられている。

 

 しかし、学生としては不真面目極まりなく、挙句の果てに成績は良いというヘイトを稼ぎやすい為、結構毛嫌いされている。というか、一部の生徒はいじめ行為をしているほどだ。渡が庇っているのをよく見ている。

 

 正直自分も困った人だとは思うが、悪人ではないと思っていたので、とりあえず挨拶する程度の関係ではある。少なくともオタクであるという理由で嫌うほど、サブカルチャーに縁がないわけでもなかったからだ。

 

 とは言えその程度の関係なのに、彼は自分を助けてくれた。それは、彼の性根が善人である事の証明だろう。

 

 あの場で一番弱いのに、それでも誰かを助けようと行動できる。勇気がある、立派な少年だと思う。

 

 ……それが、殺された?

 

 あれは、誤射でなかったのか?

 

「……申し訳ありません、八重垣先生。下位レベルの神器だと油断し、警告で済ませたのは私の責任です」

 

 渡も痛みに堪える様な表情で、明らかに悔やんでいた。

 

 それに気づいて、宝珠も手を放す。

 

 だが、その表情は暗い。

 

「……下手人の正体は分からないの?」

 

「申し訳ありません。自分の担当外なので、神器感知の道具は持ってないんです」

 

「……神の子を見張る者(グリゴリ)の失態よ。敵対組織に任せてる教会の、それもドロップアウト組の先生が言う事じゃないけど」

 

 二人の会話は、専門用語が多くて半分も分からない。

 

 だが分かる事もある。

 

 少なくとも、2人とも裏の顔がある。それも、FBIとかKGBとかレベルの組織が関わっているのだろう。

 

 そして、その二人が知る何かを持つ者が、朧を突き落とした可能性がある。

 

「……墜落天君。先生、真剣に後悔しているわ」

 

「当然です。私も、慎重に動きすぎました」

 

 二人は後悔を顔に出しながら、しかし絶望はしていない。

 

 そこには、決意があった。覚悟があった。何かを決めた者特有の、強い意志があった。

 

「……トリアーチュル遺跡、だっけ? 一応この大陸の地図はこっそり手に入れたけど」

 

「食料に関しては問題ありません」

 

 二人の会話は、なんとなく何を考えているのかが分かった。

 

 そして、2人は頷いた。

 

「行くわよ。まずは、生死だけでも確認しないと」

 

「同感です。それに近くまで行けば、素行監視用の発信機が使えます」

 

 今なんか犯罪臭い言葉が出たが、そこは問題ない。

 

 問題は、2人が何をしようとしているかが分かった事だ。

 

 二人は、トリアーチュル遺跡に向かおうとしている。

 

 おそらく、朧の生死を確認しようとしている。

 

 そして、それは自棄を起こした無謀な事でもないとも思われる。少なくとも、2人とも何らかの手段があるのだろう。

 

 だから―

 

「―待ってください、八重垣先生、墜落天君!!」

 

 ―弥左は、声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渡も宝珠も、自分達の迂闊さに内心で舌打ちした。

 

 あれだけイーンに誰が聞いているか分からないと言ったのに、自分達が近くに人がいる事に気づかなかった。

 

 それだけ動揺していたという事だが、しかしこれはまずい。

 

「咲花さん……」

 

 宝珠が言ったように、咲花弥左に聞かれてしまっていた。

 

 これはまずい。実にマズイ。

 

 どうやら会話の内容をかなり聞かれているようだ。どこまで聞かれていたかはともかく、こちらがトリーアチュル遺跡に向かおうとしているところは察されたと思っていい。

 

 確実の止められると、2人が思ったその時だった。

 

「……お願いします、先生。私も連れて行ってください」

 

 勢いよく頭を下げられてしまった。

 

 それに対して、渡は一瞬だけだが考える。

 

 朧は、弥左を助けに行って奈落の淵に近づいたところを、()()で転落した。少なくとも、そういう認識になっている。

 

 神器使いによる恐行の可能性は、あくまで可能性の段階だ。

 

 本当にやったのかは分からない。実際問題、人間を殺害するというのは意外と精神的ハードルがあるものだから、直接殺すような真似をする可能性は低いとも思っている。

 

 この場合の問題は、弥左が確実に責任を感じている雰囲気だった事だ。

 

「……咲花だったか。一応言うが、最初の方の会話を聞いているのなら、それは可能性段階で確証があるわけでは」

 

「違うの、墜落天君」

 

 渡の言葉を遮って、弥左は首を横に振る。

 

「……危ないのは分かってる。足手まといになるかもしれない。だけど……」

 

 見れば、弥左は震えていた。

 

 怖いのだろう。死の可能性を感じて、底より危険なところに行く事が。

 

 だがしかし、弥左は静かに決意を込めた表情になると、すぐさまナイフを引き抜いた。

 

 彼女は投擲手という祝才を持っている。なので、投擲用のナイフは常に携帯している。

 

 それで何をするつもりなのかと思ったが、弥左は一瞬で手を動かすと、髪を切り裂いた。

 

 そのまま風に乗って飛んでいく髪に一瞥もくれる事なく、弥左はまっすぐに渡達を見る。

 

「お願いします。私は、助けてくれた一ノ瀬君に恩返ししたいんです。……せめて、お墓にぐらい入れてあげないと……!」

 

 その決意には、感じ入るものがあった。

 

 そして、渡はなんとなく宝珠に視線を向ける。

 

「まあ、聞いている限りすぐに済むし、遺跡に入った事のある子がいるなら、それだけでもだいぶ楽ではあると先生は思うかな?」

 

「まあ確かに、その辺りの手段はないのですよね……」

 

 断る理由がない。それどころか、むしろ助かると言った方がいい。

 

 なので、折れるほかない。

 

「……分かった。ならすぐにいくぞ」

 

「え? 誰にも言わなくていいの?」

 

 渡の言葉に弥左がきょとんとするが、宝珠はそれに苦笑を浮かべる。

 

「先生達が今更戦えるって言ったって、信用なくしてややこしくなるだけだからね。それに渡君はややこしい事になるだけだから」

 

 そう言って、宝珠は弥左を引き寄せると、そのまま渡にしがみつく。

 

「え、え、え?」

 

「じゃ、叫んだりしないでね、咲花さん。……じゃ、ちょっとお願いするわね墜落天君」

 

 渡はすぐに理解すると、苦笑を浮かべながら速攻で動いた。

 

 ……前にも説明したが、墜落天渡は堕天使である。

 

 つまり―

 

「……では、一旦外に出るぞ」

 

 ―飛べるのだ。

 

「………先生、私、驚きすぎて大声が出ません」

 

「うん。普通に喋れるだけ根性あるわよ、咲花さんは」

 

 宝珠の意見には全面的に同意であった。

 




こっから少しずつ状況が変化していきます。

さあ、第一部も本番に差し掛かってまいりました!!
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