先に会場に行った“姉ちゃん先輩”こと二宮愛と黒澤ルビィは無事四人分の席を確保していた。
「しっかりショーが見れてかつ水しぶきがギリギリかからない!うん、完璧な場所だわ!ね、ルビィちゃん!」
「うゆ!」
愛とルビィはパチンと手を打ち合わせた。
「あとは誠が食べ物と飲み物を買ってくるだけね」
「え?頼んでましたっけ?」
「ううん、言わなくても誠はわかるわよ」
「そうなんですか?」
「弟だから当然よ!」
「そ、そういうものなん、ですね?」
理解できたようなできないような、そんな様子で首を傾げるルビィ。
「そういえばお姉ちゃんも遅いような…」
「まさか誠のやつ女の子に持たせてるんじゃないでしょうね!?」
不適な笑顔を見せながらビンタの素振りを始める愛。ルビィは二宮姉弟について疑問に思っていることがあった。
「愛さん」
「ん?なぁに?」
「えと、誠さんについてお聞きしたいことがあるんです」
「誠?…!まさか!?」
なにかを察した愛がわざとらしく手で口を覆う。そしてひそひそ声で囁いた。
「まさか、誠に恋しちゃった?」
「いえ、そうじゃないです」
考えていた質問のことで頭がいっぱいだったので愛の問いかけを頭で理解するより早く答えてしまった。
「…」
「…」
沈黙。そして、愛の言ったことをようやく理解したルビィは顔を一気に真っ赤にしてフォローをいれる。
「こ、こここ恋!?ち、ちちちち違います!あ、いや、嫌いとか嫌ってことじゃないんですよ?でも、違くて…うぅ~」
リンゴみたいに赤くなったほっぺたを両手で押さえ恥ずかしがるルビィ。そんなルビィをしばらく監察していた愛は「プフッ」と吹き出した。
「あはははははは!ごめんごめん!冗談よ冗談!でも、あんなに冷静な顔で否定されるとは…ぶふっ、ルビィちゃん、サイッコー!!」
「愛さん!もぉ~!!」
膨れっ面になるルビィ。愛は涙をふきながら謝る。
「ごめんごめん!でも、誠がフラれたみたいな感じだったからおもしろくて…ぶふっ、で?本当の質問はなに?」
「…」
まだ少し赤みがかった顔をしながら、ルビィは愛の顔をしっかり見つめる。
「あの、愛さんと誠さんって仲があんまり良くないんですか?」
「え?」
これまた予想外の質問に鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「え?どうしてそう思ったの?」
「えと…誠さんを蹴ったり叩いたりしてたので」
「あぁー…」
なるほど、と愛は納得した。
「あれはスキンシップみたいなものよ」
「え!?そうなんですか?」
驚くルビィ。ルビィの周りにも姉妹がいる友人は何人かいるが、殴る蹴るといったスキンシップは聞いたことがなかった。
「そうよ~、世の中にはそういうスキンシップもあるのよ。誠もちゃんと理解した上で蹴られたりしてるのよ」
「そうなんですかぁー…」
納得したルビィ。誠がこの場にいたら確実に不服申し立てていただろう。
(ふーむ…)
まさか、ルビィがここまですんなり自分の話を受け入れてしまうとは思っていなかった愛。スキンシップの話は嘘ではない。だが、このままでは誠がマゾと思われるか、もしかしたらルビィが仲良しのスキンシップの一貫として姉を蹴り始めるかもしれない。
(ここは少し修正しとくかな)
愛は修正案を考える。
「でも、これは私たちだから成立するスキンシップだから真似はしちゃダメよ?」
「あっ、はい。でも、話を聞いて思ったんですけど、お二人ってとても仲良しさんなんですね」
「え?まぁ、仲悪くはないけど…なんか改めて言われると照れるわね。男兄弟がいたらこんな感じなんじゃない?」
「そうなんですか、ルビィ、家族以外の男の人とあんまり関わることがなかったから、お姉ちゃんは家の事情で出会う機会は多かったけど…お兄ちゃんがいたらあんな感じなのかな?」
「誠のこと?なんだかルビィちゃんやけに誠のこと気にするわね、入り口のことまだ気にしてるの?」
「あ、いえ、その事はずっと気にしてても逆に失礼だと思ったのでもうあまり気にしていません。ただ、とても優しかったので、お兄ちゃんがいたらこんな感じかな?…そう思ったんです」
少しほっぺを赤くするルビィ。自分が言ったことに照れているようだ。
(キュン…)
もじもじ、ソワソワするルビィを見てときめく愛。思わず抱き寄せる。
「わっ、あ、愛さん?」
「ほんっと可愛いわ!」
「むきゅう」
結構スタイルがいい二宮姉。思いきり抱き締められると結構息苦しい。それに気づいた愛が慌ててルビィを放す。
「ごめん!でも、私に妹がいたらルビィちゃんみたいな子がいいわね」
「うゆっ、ル、ルビィみたいな…ですか?」
「うん!誠よりよっぽど可愛いもの」
「で、でもルビィは…」
「ん?」
「泣き虫で人見知りでいつもオドオドしてて…」
「優しくて思いやりがあって努力家さんで、ダイヤお姉ちゃんが大好き?」
「ふぇっ!?」
自分の言葉を引き取られ、しかも誉められた上に姉に対する自分の感情も言い当てられ、思わず声をあげるルビィ。愛はニカッと笑った。
「私もお姉ちゃん歴は長いからね、少しくらいなら兄弟姉妹のことはわかるつもりよ?クラゲの時に誠に気を遣ってくれたりしたでしょ?」
「そんなつもりはなかったですけど…」
「それでも、ルビィちゃんは優しいと思うわよ?初めて出会った誠に驚いて叫んじゃうほど男の人に耐性がなかったのに誠と二人で写真撮ってくれたんだから」
「はうぅ~、で、でもお姉ちゃんが好きっていうのはどうして?」
「それは簡単ね、だってルビィちゃん『おねいちゃぁぁ~ん』って叫んでたから」
「びぎいぃぃ~~!!」
恥ずかしさのあまり顔を両手で押さえるルビィ。愛はその手をそっと握る。
「とにかく、ルビィちゃんは十分素敵な妹よ!」
「ふぇぇ」
顔から火が出そうなほど真っ赤っかになりながらゆっくりと顔をあげるルビィ。そんなルビィをまっすぐ見つめる愛。
「あと、いきなりなんだけど、ルビィちゃん」
「は、はい?」
「ルビィちゃんさ、なにか不安を感じてない?」
「え…」
「何となくなんだけどダイヤちゃんを見るときたまにどこか不安そうな、寂しそうな顔に見えるんだよね」
「…そうですか?」
「違った?ならごめんね私の勘違いか」
「…いえ、その通りです」
ルビィは心にある“不安”をぽつりぽつりと話始めた。
「実はお姉ちゃんが卒業したら東京の大学にいっちゃうんです」
「それが寂しいの?」
「………はい」
寂しい。耳にすると余計にその感情を意識してしまう。ルビィは姉から大学のことを聞いた時は、心配させまいと笑顔で「頑張ってね」と言ったものの、心の中では今にも泣き出しそうだった。
生まれた時からずっと一緒にいた。二年前の事であんまり話せないときもずっと思っていた。近くにいるのが当たり前の存在。そんな存在がもうすぐ自分から離れていってしまう。友人や先輩はいるが、血を分けた姉妹が自分から離れていくのは想像を絶するものだ。
「こんなんじゃダメってわかってるんです。でも、お姉ちゃんがそばにいなくなるかと思うと…不安で…寂しくて…」
俯いて唇を噛むルビィ。その目にはうっすら涙が浮かんでいる。自分の気持ちをさらけ出すと同時にずっと封じていた感情も涌き出てきてしまっていた。ルビィは必死に笑顔を作る。
「えへっ…ごめんなさい。こんな話嫌ですよね」
「離れたりしないよ」
「え?」
唐突な愛の言葉に首をかしげるルビィ。愛はルビィを真っ直ぐに見据え頭を撫でる。
「どんなに距離が離れても、遠くに行っても、ちゃんと繋がってる。繋がろうとさえすれば絶対に繋がれるわ」
「愛さん…」
「私なんか時間も越えて繋がっちゃったけどね」
「へ?時間?」
「ふふ…気にしないで」
少し寂しそうな、それでいて嬉しそうでもある複雑な表情を見せながらルビィを抱き締める。
「それにね?ルビィちゃんは“寂しい”って思うことをダメだって言うけどね?そんなことないわ、大切な人が自分から離れちゃうんだもん。寂しくて当たり前」
「愛さん…」
「むしろそう思えることは素敵なことなんだから!それに繋がろうと思えばいつだって繋がれる。だからルビィちゃん、“不安”なんて感じる必要はないのよ」
「…はい!」
完全に不安がなくなったかというと正直わからない。でも少なくともさっきよりも考え方が前向きになったような、少し心が軽くなったような気がする。ルビィはまだ少し涙を残しながらも満面の笑顔になった。それを見た愛もつられて笑う。
「しっかし、ホントルビィちゃんは可愛いわ!」
「うゆ…でもそういう愛さんこそ可愛いじゃないですか」
「そんなことないわよ、私なんかがさつだし」
「そんなことないことないです!」
「え?ルビィちゃん??」
ルビィのスイッチが入った。
「愛さんは可愛いです!おめめぱっちりだし、ツインテ似合ってますし、大人っぽいし…」
「ちょっ、ルビィちゃん?」
「気さくだし、髪きれいだし…」
「ちょっ…ヤメ…」
だんだん赤くなっていく愛。それを見て無意識にヒートアップするルビィはトドメの一撃。
「お胸も大きいし!」
「にゃ~ーーーーーーーー!!」
トドメを受けた愛は羞恥の絶叫をあげた。
「ごめんなさい、でも愛さんが可愛いってことを伝えたくて…」
「う、うん…大丈夫。ちょっと誉められまくることになれてなかっただけだから」
手で顔をあおぎながら火照りを冷ます愛を少し潤んだ上目使いで見上げるルビィ。端から見るととてもほほえましい光景だった。
「しかし、誠やうちの後輩ちゃんたちにすらここまで誉められたことはなかったわね」
誠に誉められたとしても少し気持ち悪いが…
愛はルビィを自分の肩に引き寄せ撫でる。
「本当に妹がほしくなっちゃうわね」
「うゆゆ、ルビィも愛さんみたいなお姉ちゃんがもう一人ほしいかも…なんて…」
ぱしゃぁ…
「え?」
「あ」
何かが地面に落ちる音がしてそちらに目を向けるとジュースをこぼしたダイヤがまるで人形のように生気がない顔でカタカタ震えていた。
「ル、ルビィ…?」
「お姉ちゃん…?どうしたの…?」
この時点ではダイヤがどうしたのか見当もつかないルビィ。その間にもダイヤの暴走(妄想)は加速していく。
「ま、まままままさか、愛さんの方がわたくしより、好きなの…??わた、わたくしは姉として頼りない?ピ、ピギッ」
「お、おおおおおおお姉ちゃん!!落ち着いて!そんなことないから!ルビィの一番はいつだって…いつだってお姉ちゃんだからぁ!!」
ルビィの心からの叫びがダイヤの胸に突き刺さる。
「ル、ルビィ~!!」
「お、お姉ちゃん…!」
ダイヤがいつものようにルビィを抱き締め甘やかす。それをただ呆然と眺める二宮姉弟。黒澤姉妹を見ていた愛は思わず吹き出す。
「ふふっ、本当に仲がいいわねぇ~」
「姉さん、見てるのもいいけど、もうすぐショーが始まるぞ、とりあえず俺は新しい飲み物買ってくる」
「お願いね、誠のオゴリで♥」
「…後で姉さんからは請求するからな」
「聞こえないわ~」
大事な所は耳を塞ぐ愛。いつも通りの姉の反応にため息をつく誠。新しい飲み物を買いにいこうとした誠の耳に愛の誰に言うでもない呟きが聞こえてきた。
「しかし、あそこまでのスキンシップは私には無理ねぇ」
「…」
思わず目の前のダイヤのように自分にまとわりつく姉を想像してしまった誠はブルッと体を震わせた。
「気持ち悪…」
「聞こえてるわよ?」
「あっ…」
本日何発目かのパンチが誠のボディーにめり込んだ。
読んだいただきありがとうございます。
次が最終話です。流れはなんとなくきまっているのですが、“結”に悩んでいます。再来週までには頑張って書き上げますので読んでいただけたら嬉しいです