姉弟と姉妹   作:長星浪漫

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第三話

 ダイヤの暴走も収まり無事ショーが始まった。

 大きなセイウチが水槽のへりに手をかけ体を持ち上げ右へ左へ行ったり来たりしたり、アザラシが見事なボールさばきを見せたり、何匹ものイルカが一糸乱れぬ動きを見せたり…海の動物たちの素晴らしいショーに四人は目を輝かせた。途中、イルカが二階建てビルくらいの高さにあるボールを尾びれではじいた時にボールが弾きとび誠の顔面にヒットしたが(愛は大爆笑だった)、ショーは観客の大歓声に包まれながら幕を閉じた。

 会場をあとにし、女子三人はショーの感想を言い合い、誠はその少し後ろを歩いた。黒澤姉妹がお花摘みにいったので二宮姉弟は近くで待つことにした。ボーッとしていると愛が誠に問いかけた。

 

「あの二人、なぜか見覚えがあるのよねぇ、誠はどう?」

「姉さんもそう思った?実は俺もなんだよ」

 

 二人であーでもない、こーでもないと記憶を探っていると近くの壁につけられていた一枚のポスターに目が止まる。

 

「あら、このポスターに描いてあるのって」

「動画で見た女の子たちだな」

 

 そのポスターは三津シーパラダイスの宣伝ポスターだった。しかもこのポスターは二宮姉弟が動画で見た地元のアイドルとコラボしたものだった。グレーがかった茶色の髪の女の子をセンターに八人の個性的な女の子が周りを囲んでいる。

 

「たしか名前は…えーっと?なんだったかしら?なんか水っぽい名前だったような?」

「『Aqours』だよ姉さん」

「そうそれ!」

「いって!」

 

 ナイス弟!とばかりに誠の背中を叩く愛。当然加減などしておらず誠はかなり痛そうだ。しかしそんなことは気にせず愛はそのポスターをまじまじ見る。

 

「すごかったわよねーあのPV!今度部活のPVも作ってみようかしら?」

「いてて…やめとけよ姉さん。思い付きでできることじゃないだろ」

「わかってるわよ、言ってみただけ!しっかしなんというか個性的な子ばっかりね!」

「…姉さんが言うんだ…」

「ん?」

「…」

 

 愛に睨まれ顔をそらす誠。愛はとりあえず一蹴りしてポスターに視線を戻す。

 

「九人とも可愛いけど、私はこの赤い髪のツインテールの子ね!推しメンバー?ていうのかしら?誠は?」

「推しっていうのかわからないけど…強いて言うならこの黒髪の人かな、大和撫子って感じで」

「あら~誠ったらそういうのが好みなのね?」

「………ん?」

 

 姉のからかいをスルーし、ポスターを見続けていた誠はふと自分達が話題に出したメンバー二人に対して妙な感覚を覚えた。

 

「どうしたのよ誠?」

「いや…この二人どこかで見たような気がするというか…」

「んん?…あれ?ホントだどこだっけ?」

 

 二人が頭を捻っているとお花摘みに行っていた二人が戻ってきた。

 

「ごめんなさい、遅くなりましたわ」

「愛さん!誠さん!あっちにも動物さんがいるみたいだから行ってみましょう!」

 

 戻ってきたダイヤとルビィ。頭の中をポスターの絵でいっぱいにしながら黒澤姉妹を見た二宮姉弟の中でバシッとピースがはまった。

 

「赤髪ツインテの可愛い子!!」

「黒髪ロングの大和撫子!!」

「「ぴぎゃ!?」」

 

 いきなり妙な呼ばれかたとともに指を指された黒澤姉妹はビックリして同じ叫び声をあげた。

 

 

 

 「ダイヤちゃんとルビィちゃんってアイドルだったのね!」

「はい、まぁ…」

 

 ダイヤとルビィがアイドルだとわかった愛は驚きで少し興奮しながら近くのベンチに座らせた二人に質問をぶつけていた。

 

「えっと、正確にはスクールアイドルでして…」

「スクールアイドル?学校でアイドルやるってこと?」

「はい、形式的には部活のようなものなんです」

「部活?そうなんだ!あれ?なんか伊豆にもそんなのがあったような?」

「いくつかあるな、前に調べたじゃないか」

「そうだったかしら?まぁいいわ、しっかし色んな部活があるものね~しかもルビィちゃんは衣装も作ってるんだ?すごいわね!」

「そ、それほどでも…」

「そうなんです!わたくしのルビィは本当にかわいくて素晴らしくて…!」

「お、お姉ちゃん!!」

 

 ここぞとばかりに妹を誉めようとするダイヤを慌てて制止する妹ルビィ。しかし、愛も同調する。

 

「わっかるわ~、ルビィちゃん可愛いもんね~」

「そうなんです!ほんともう、天使のようで…」

「お姉ちゃん!!」

 

 顔を真っ赤にして照れ怒るルビィ。それを見て本当にルビィのことをかわいいと思いながら悪のりする愛。100%ガチでルビィを誉めるダイヤ。ひたすら誉められ照れで火が出てしまいそうなルビィ。そんな三人を眺める誠は心から思った。

 

「平和だなぁ」

 

と。

 

 

 

 「ところでさ、このメンバーの一人なんだけど…」

 

 ルビィが頭から煙を出しそうだったので、頃合いと思った愛がもうひとつ気になることに話題を変える。

 

「この青っぽい髪のポニーの女の子、この子ってなんて名前?」

「果南さんですわね」

「もしかしてさ、名字は松浦?」

「ええ」

「近くでダイビングショップやってる?」

「そうです」

「やっぱり!」

「ご存じなんですか?」

「知り合いってほどではないんだけどね、何回かこっちの海にも潜りに来てたから」

「ああ!だからなんとなく見覚えがあったのか!」

「体つきがかなりきれいな人だったから覚えてるよ。あと記念?にハグされたしね」

「初めて会ったのは中学二年くらいの頃だったか?俺にもハグを迫ってきて困ったなぁ」

「誠ったらまだ春濁りの海が冷たい時期だってのに顔がめっちゃ赤かったもんね」

「…」

 

 無言で顔をそらす誠。しかし、誠の耳が当時を思い出したのか少し赤くなっていた。それを聞いていたダイヤは驚くやらあきれるやら

 

「果南さんったら本当に抱きつくのがお好きなんですわね」

「でも、高校入ってからすぐにあんまり来なくなったのよね、たまに見かけてもなんだか辛そうだったというか」

「でもこの前見た動画ではかなり楽しそうだったよね」

「多分松浦さんの抱えていたなにかが解決したんでしょうね、もしまた会うことがあったら聞いてみましょう」

 

 本当にお優しい方々ですわ、と内心ダイヤはほっこりした。なので、話の矛先が自分に切り替わった時完全に油断していた。

 

「そういえば、ダイヤちゃんも可愛かったわね」

「そうだね、姉さんとは正反対で大和撫子って感じで綺麗だった」

「…な?ほぇぃ?」

 

 謎の声をあげるダイヤ。

 

「初めはきつきつのお嬢様みたいな感じかと思ってたけど、こうして話してみると綺麗なだけじゃなくて可愛い面もあるわ」

「女性としてかなり魅力を感じるね」

「なっ…えと…」

 

 家の付き合いで両親の知り合いなどに同じことを言ってもらったことはある。だが、心の奥では社交辞令だと思っていたのでそこまで恥ずかしくなかったが、同世代で家の関わりがない、出会って間もない人物、しかも一人はさらに交流が少ない同世代の男の人に誉められてかなり困惑するダイヤ。

 

「そうなんです!ルビィのお姉ちゃんはすごいんです!」

「ルビィ!!」

 

 先程のダイヤのように大好きな姉を誉め始めるルビィをなんとか制止しようとするダイヤ。そんな光景を見守る二宮姉弟。

 

「本当に仲良しさんだねぇ」

「ピカリちゃんとこだまちゃん。ことりちゃんとこころ君とはまた違った感じだね」

「『仲良きことは美しきかな』だわ」

 

 

 

 「ところで…果南さんのことをご存じのようでしたが、お二人の部活というのはもしかして…」

「ダイビング部だよ」

「やはりそうでしたか」

 

 納得したように頷くダイヤ。四人は先程の場所から移動しフラミンゴなどがいる所を歩いていた。

 

「お二人とも体かなりガッチリしていらっしゃいますね」

「そう?まぁ筋力がある程度ないとダメだからね」

「毎日走ったり、筋トレしたり、専用のプールで実際に機材を背負って潜ったりするしな」

「すごいですね…」

 

 ルビィが目を輝かせて二人の体をまじまじと見つめる。

 

「ルビィ、あまり人の体を見つめるのは失礼ですわよ」

「ひゃっ、ごめんなさいぃ」

 

 自分がしていたことを姉の指摘で認識し赤くなって縮こまるルビィ。四人はそのままお土産が売っているスペースへ向かった。つくや否や愛のテンションがあがる。

 

「おお~!面白そうなものがいっぱいあるわねえ!」

「お土産買わなきゃな、えーっと、家族に部活のみんなに…」

「誠!このエビのぬいぐるみとかぴかり喜ぶんじゃない?」

 

 二宮姉弟がはしゃぐ一方で黒澤姉妹も盛り上がっていた。

 

「お姉ちゃん!このうちっちーの頭のクッション曜ちゃんのおうちにあったよ!」

「あら、可愛らしいですわね」

「うひゃあぁ!このチンアナゴのぬいぐるみも可愛い~」

「ルビィ?お金は足りますの?」

「え?え~っと……どっちも少し足りない…」

 

 落ち込むルビィ。もとの場所に戻そうとするのをそっと止めるダイヤ。

 

「仕方ないですわ。どちらか一つを選びなさい。足りない分はわたくしが出します」

「えぇ!?でも悪いよぉ…」

「わたくしに遠慮することはありません。ルビィはよく頑張っていますからね。ごほうびですわ」

「お姉ちゃん…うん!ありがとう!じゃあ、うちっちーのクッションにする!」

「わかりましたわ。自分の分だけでなく他の人の分も買いましょうね」

「うん!」

 

 仲良くお土産を選ぶ二人をじっと見つめる愛。そこに誠が話しかける.。

 

「姉さん。こころ君にはこれなんてどう?…姉さん?」

「…」

 

 返答がないので愛の方を見る誠。愛は上目使いでやけにしおらしくしながら手にもった少し高いクッキーをちらつかせる。

 

「誠~これ、私に買って?」

 

 渾身のおねだり!しかし、結果はわかっていた。

 

「は?どうしたの?自分で買えよ?」

「せい」

「あいだぁ!!」

 

 弟のそっけない反応にとりあえず蹴りをいれる愛。誠は何がなんだかわからず姉から少し距離をとった。

 

 

 

 各々お土産を購入し入り口へ戻ってきた。

 

「楽しかったわね!」

「ええ、とても楽しい時間でしたわ」

「クラゲが綺麗だった」

「はい!それにおそろいのお土産も買いましたしね!」

 

 うちっちーの顔面クッションを左手に抱えながらルビィは右手に持ったキーホルダーを示した。先程の売店で思い出にと四人で同じものを買った。5㎝くらいの三津シーパラダイスのマスコットキャラクターうちっちーがついている。他の三人もキーホルダーを出す。

 

「いい思い出になりましたわ」

「二人だけじゃ味わえなかった時間だったわね」

「俺の記憶に深く刻まれたよ(物理的なダメージとともに…)」

「ルビィも楽しかったです!」

 

 そのあとも四人は今日の話でしばらく盛り上がった。そして、とうとう帰りの時間がきた。

 

「じゃあそろそろ帰るわね」

 

 バスが来たのでバスに向かう二宮姉弟。黒澤姉妹は千歌の家に用があったのでここでお別れだ。ルビィが二人の手を握る。

 

「あの!今日は楽しかったです!また内浦に遊びに来てくださいね!」

「もちろんよ!ルビィちゃんも伊豆に来てね!一緒にダイビングしましょ」

「ル、ルビィにもできますか?」

「もちろん!私がちゃんと教えてあげるわ!」

「は、はい!」

「ふふ、最後にハグさせて!」

「きゃあ」

 

 ルビィを抱き締める愛。その様子を見つめるダイヤを少しハラハラしながら見る誠。その視線に気づき微笑むダイヤ。

 

「大丈夫ですわよ?もう取り乱しません」

「…ならよかった」

「今日は楽しかったですわ」

「僕も」

「まぁ、出会いはその…特殊でしたけど…」

「それは忘れよう?」

 

 痛みを思い出したのかもう痛くないはずの頬を押さえる誠。

 

「ふふふ、そうですわね、わたくしもまたお二人にお会いできることを楽しみにしていますわ」

「その時は出会い頭はやめてね?」

「わ、わかってますわ!」

 

 恥ずかしさで少し赤くなるダイヤ。

 二宮姉弟がバスに乗り込む。

 

「じゃあ、また!」

「うん!また!」

「じゃあ」

「また、ですわ」

 

 最後に別れの挨拶を交わしバスが出発する。そのバスが見えなくなるまで黒澤姉妹は手をふった。完全に見えなくなった時、ダイヤがルビィの方を見た。

 

「…寂しいのですか?」

 

 ルビィの横顔が少しそう見えた。しかし、ダイヤの方を振り向いたルビィの顔には最高の笑顔が浮かんでいた。

 

「ううん!お姉ちゃん、『繋がろうと思えば繋がれる』んだよ!」

「ルビィ…」

 

 いつになく前向きな様子のルビィを見て驚くダイヤ。しかし、その驚きは嬉しさになってダイヤの心を満たした。

 

「それでは千歌さんの所へ行きましょうか」

「お、お姉ちゃん」

「ルビィ?」

 

 千歌の家へ向かおうと歩き出したダイヤに対しルビィはその場を動かなかった。ダイヤがどうしたのか?と心配しているとルビィはおずおずと手を差し出した。

 

「その…少しだけでいいから…手、繋いで…?」

「!!ルビィ…!」

 

 ダイヤの中でどんな感情が渦巻いたかは言うまでもないだろう。少し震えているルビィの手をダイヤはしっかりと握り返す。

 

「うふふ、本当にルビィは甘えん坊ですわね」

「…えへへ」

 

 繋いだ手の温もりを感じながら、ダイヤとルビィは今日のことを話し合いながら千歌の家へと歩いていった。




作中に出てくる場面や商品は一度行った三津シーパラダイスの記憶をなんとか思い出して書いたのですが、いくつか実在しないお土産を書いているかもしれません。
チンアナゴの大きなぬいぐるみはありました。かなりかわいかったです。
この小説では、「ラブライブサンシャイン」の黒澤姉妹と「あまんちゅ」の二宮姉弟の姉妹・姉弟の仲良しな感じを出したいと思って書きました。ちゃんと仲良しを表現できていたらと思います。
これで最終話だす。ここまで読んでいただきありがとうございます。

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