ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか   作:FNBW

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彼女の選択

 

「……え?」

 

 

燃え上がる炎を見て、少女が呆けた声を出した。

 

きっと信じられないものを見たような顔をしているのだろう。

 

俺も同じだった。

 

だがその力の篭る声を聞いて理解した。

 

生きていた。そして、来たのだ。

 

方向転換しようと互いにぶつかり合って動けないキラーアントを踏み、跳ぶ。

 

決死の形相でキラーアントを切り裂くベルが見えた。

 

 

「トロウさん!どうしてここに、入院してるはずじゃ!?」

 

 

成り行きだ、と短く答えてメイスを握り直す。

 

 

ベルの姿を確認して安心するが、既にベルの体は満身創痍でところどころ裂傷が見られた。

 

ここまで一直線に走ってきたのだろうか。

 

背中の杖が熱くなる。魔法名のペルソナを叫ぶが発動しない。

 

ベルと反応しているのか。

 

違う、ベルの使っているヘスティアナイフと反応しているのか。

 

上層で感じたあの熱は10層でベルが戦っていたから生じたのかもしれない。

 

ベルの来た通路側はもうキラーアントがいない。

 

少女を下ろす。

 

ベルが彼女の名前を叫んで駆け寄ってくる。

 

 

バックパックも下ろしベルにポーションを渡して、キラーアントの群れにメイスを振るう。

 

恩恵の乗った力で丁度中腰にあるキラーアントの頭は簡単に潰せた。そのまま横に薙いで死骸を群れの中に飛ばす。

 

もぐら叩きのようにたてに振るってキラーアントの胴体と頭を順番に叩き潰していく。

 

密集しすぎた末に行動不能に陥るのはモンスターらしい欠陥だ。

 

とはいえ時間をかけるほどに方向転換が終わりこちらに飛びかかってくるキラーアントが増えてきた。

 

 

「ファイアボルト!」

 

 

熱線のような速い爆炎がキラーアントを焼いた。

 

キラーアントが虫だからか火の効果は高いらしい。

 

この場においてこれほど頼もしい魔法はないに違いない。

 

 

 

 

戦いはすぐに終息した。

 

何度も硬いキラーアントを潰したからかメイスは曲がり、曲刀のようになってしまった。色の違う血液が気持ち悪い。

 

ルームには魔石が辺りに散らばるように落ちている。

 

回収すれば今日だけで借金返済の週ノルマは達成できるかもしれない。

 

腰を下ろして息を整える。

 

長く感じる戦いだったが、実際に流れた時間は30分程度だろう。

 

連続戦闘にしてはそれでも長い方だが、恩恵のお陰か、汗が流れる程度の疲労しか感じなかった。

 

いや、恩恵だけではないだろう。

 

横に同じく地面に倒れて大の字で息を切らしているベルを見て考えを改める。

 

ヘスティアの言う通り、どうやら俺とベルは相性が良いらしい、共に戦った時間は少ないが、驚くほど戦い方が噛み合う。

 

欲しいと思った場面に何度もベルのフォローがあったし、俺自身のベルに対するフォローも隙を埋められる程度には役に立っていた。

 

互いに近接戦闘をしているが、ベルの速さとフットワークの軽さが俺の大振りのゴリ押しと噛み合うようだ。

 

 

「助かった。ありがとう、ベル」

 

「間に合って良かったです。本当に、良かった…」

 

 

噛み締めるようにベルは言った。

 

そういえばベルはモンスターに襲われて祖父を亡くしたのだった。

 

その時のことを思い出しているのだろうか。

 

と、少女のことを忘れていた、俺から言いたいことが山ほどあるが、まずはベルに任せよう。

 

魔石を回収してくる、とベルに言い席を外した。

 

立ち上がってバックパックから魔石袋を取り出す。

 

なるべく遠い所から集めよう。

 

馬鹿とか間抜けとか涙ぐんだの少女の言葉はしっかり聞こえた。

 

そして泣きながらベルに抱き着いていた。

 

ベルは本当にいつか女性に刺されるかもしれないと思いました(感想)

 

ひとしきり泣いたのか、魔石を集め終わる頃には少女は落ち着いていた。

 

 

悪い話がある。

 

 

彼らにそう切り出した。

 

少なくとも自分が予想できるこれから。

 

ポーションを飲んで立ち上がれるまで回復した少女に言わなければならないことがあった。

 

カヌゥという男は間違いなく地上で、もしくは上層のどこかで待ち伏せている。

 

理由は――

 

「まだ私から金を巻き上げていないから…でしょうか」

 

 

頷いて肯定する。

 

複数人いたところを見るとまたダンジョン内で網を張っている可能性が高い。

 

だがここで時間を潰していると様子を見にこの場所にまた来るだろう。

 

どうするべきか…

 

 

「僕が先に地上に出て、エイナさん(ギルド)に言うのはどうでしょう?」

 

 

とてもいい考えだ。

 

ベルはあいつらとは面識がないはず。

 

ただ、ベルの容姿はそれなりに目立つらしい、白髪はそこまで多くないのだろう。

 

フードで隠せば大丈夫だろうか。

 

 

「それなのですが、私に考えがあります」

 

 

二人して考え込んでいると、少女が手を上げてそう言った。

 

 

 

 

「よう、さっき振りだなぁ、おい?」

 

 

3層、人通りがまだ少ないダンジョンの表層で、獣人は待ち構えていた。

 

やはり待ち伏せていたか、と予想通りでも回避できなかったことに内心舌打った。

 

 

「待ちくたびれたぜ、あれから半日も何をしてたんだ、あぁ?」

 

 

粘着質な笑みを浮かべてはいるが、口調から相当苛ついていることがわかる。

 

 

「…アーデは、あの女はどこへやった?」

 

さぁ?

 

「……惚けると長生きできねぇぜ?」

 

明確な苛立ちを見せるカヌゥに構わず言葉をつなげた。

 

ゲドという男には言ったが、俺があの女を助けたのは団員を助けるためだ。

生きているにしても死んでいるにしても確認するために行く必要があった。

道を知っているのはあの女だけ、だから案内させた。

 

「…それで?」

 

10層でヘマをしてな。彼女を置いてくるしか生き延びる術がなかった。

 

 

声を聞きつけたのか、別の通路から彼と行動を共にする二人が現れる

 

姿が見えないと不安で仕方がなかったが、安心した。

 

おそらくこれで全員だろう。

 

 

「へぇ、いい度胸だな。お前の目の前にいるのはアーデの所属するファミリアの団員だぜ?」

 

それにまだ生きている、かもしれないだろう?

そして何よりも、先に不祥事を起こしたのはそちらだ。

 

「屁理屈を言うと寿命が縮まるぜ? ともあれ、俺たちはお前を殺す理由ができたわけだ」

 

 

ロッドを取り出す。

 

 

「3対1だ。勝てると思っているのか?」

 

残念だが3対2だ。

 

「何…?」

 

 

こちらの来た通路から足音が響いた。

 

 

「歩くのが早すぎるよ、トロウさん」

 

そこにいたのは白髪赤目のベルだった。

 

ベルを知らないのか、呆気に取られるカヌゥを見てにやりと笑う。

 

 

10層でベルはまだ死んでなかった。

間に合ったわけだな。

お前たちの到達階層はどうでもいいが、10層を一人で耐え続けたベルとキラーアントの大軍を一人で切り抜けた俺の二人相手に勝てると思ってるのか?」

 

完全に虚勢だが、あの場で逃げた時点で彼らの強さなどたかが知れている。

 

ついでとばかりに魔剣を抜いて見せてやる。

 

魔剣もまだ使えるという威嚇だ。

 

彼女から使い方も教わった。

 

これでも立ち向かってくるならば彼ら相手に使うつもりだ。

 

効果があったのか、三人は顔を青くしている。

 

 

「…引くぞ。アーデの行きつけを全て潰して金に換える」

 

見捨てるのか。

ベルみたいにまだ生きている可能性はあるぞ。

 

 

去っていく三人の背中に言葉を投げかけたが彼らは振り向くこともなく足早に去っていった。

 

 

――うまくいったな。

 

 

魔剣を鞘に納める。

 

これで彼らは真っ直ぐ地上へ向かうだろう。これで安心して外に出られる。

 

同時に、リリルカ・アーデという少女は死んだことになったはずだ。

 

 

「意外と役者肌なのですね、貴方は」

 

 

ベルがじっとりとした目付きでそう言った。

 

 

似たようなことを何度かやったから、と答えた。

 

それで、これからお前のことはなんと呼べばいいのか、

 

 

「リリでお願いします。トロウ様」

 

 

様付けは正直付けなくてもいいが、彼女が呼びたいならそれでいいか。

 

白髪に赤目のベルは何かを口ずさむと次の瞬間に別人になっていた。

 

リリルカ・アーデその人である。

 

彼女は魔法で姿を変えることができる。

 

ベルに姿を変えてもらって演技に協力してもらった。

 

フードで髪を隠したベルは少し前に地上に出て、今頃彼女の貸し出し金庫からお金や宝石を全て回収しているだろう。

 

彼女は死ななかったし、お金もカヌゥの手には渡らない。

 

良い筋書きだ。台本は彼女が作って、カヌゥは彼女に出し抜かれたことになる。

 

ソーマファミリアから報復が来るかどうかは、カヌゥが上に報告するかにかかっているが。

 

彼女にそのリスクについて話すと、隠し財産を探し続けている内は報告しないと言っている。

 

彼の取り分がなくなるのを恐れてだろう。

 

そういう男であるということは数度話しただけの自分でも理解できるが。

 

まだ先の話だが間違いなくソーマファミリアから何かしらの接触はあると見ていいだろう。

 

その時あちらがどうしてくるか、まだわからない。

 

予測を立てるためにもソーマファミリアをもっと知らなくては。

 

新たな問題に今更ながら後悔しかけている。

 

 

「それよりもトロウ様、半日経ちましたが体力は残っていますか?」

 

それは問題ない。5層くらいなら何時間でも篭れる。

 

連戦は辛いが。

 

「すごい体力の持ち主ですね、貴方は」

 

そういう彼女は自分の体格よりも大きな荷物を持っている。

 

スキルの力によるものだが、見た目だけならば彼女の方が大したものだろう。

 

地上に向かって歩き出す。一応リリにはまたベルに変身してもらう。

 

地上に出て鉢合わせては意味がないからだ。

 

また別の誰かに変身して彼女は自分の痕跡を可能な限り消す必要がある。

 

生きていることが知れればヘスティアファミリアも危険に晒される可能性もあるだろう。

 

 

「…これで全て終わったのですね」

 

「安心するのはまだ早い。俺は団長の方針に従うが、俺らの主神はどうするか」

 

 

ヘスティアは自身の家族を傷付けた者を許さないだろう。

 

ヘスティアがギルドに突き出すと言うならば、ベルも俺も従う。

 

リリの命運は彼女に握られていると言っても過言ではない。

 

 

「…貴方はリリを許してくれるのですか?」

 

許すも何も、お前は何もしていないだろう?

 

「……へ?」

 

ベルは確かに危険な目にあった。

…が、死んでいない。

お前と関わろうとしたのもベルが自分で選んだことだ。

今回の結末、どう転んでもベルの自己責任だ。

 

「ベル様が危険な目に遭ってもなんとも思っていないのですか?」

 

そこまで深い仲じゃない。出会ってまだ数週間だからな。

 

「いいえ、そういう事ではありません。貴方はこんなことをしたリリを信用できるのですか?」

 

信用や信頼という問題じゃない。

俺は利益不利益でしか判断しない。

お前の存在は俺たちにとって利益になる。

ただそれだけだ。

 

「……そう、ですか」

 

 

彼女は残念そうな顔をした。

 

信用、信頼が欲しいというのはわかる。

 

だが彼女のそれはやがて依存になる。

 

今の彼女を見ると日本でチンピラをやっていた時のことを思い出す。

 

あの頃の俺も誰かを信じたい、信じてもらいたいと心の底で願っていたのだろう。

 

だから組に仇なす者は全て殺してきた。なんでもやってきたつもりだ。

 

それがそもそもの間違いだと今なら断言できる。

 

俺も依存していたのだろう。

 

それではいけないのだ。

 

 

地上に出てから、お前は自由だ。

そのまま逃げてもいい。

ベルはきっとギルドには何も言わないだろう。

辺りの地理や情勢は知らないが、金があるならオラリオから離れるのも悪くない。

選ぶのはベルでも俺でも他の誰でもない、お前自身だ。

後悔するなよ。

 

言いたいことだけ彼女に言って、先を歩く。

互いに無言になった。

 

それから彼女は地上に出てベルからお金を受け取り、去っていった。

 

少ししてからどうして他人のそんなことを気にする必要があったのか、と自己嫌悪に陥った。

 

 

 

 

二日経った。

 

 

脱走した結果ダンジョンに行っていることがバレてベッドに縛り付けられて二日目。

 

もしも次にダンジョンに行っていることが分かれば、ヘスティアファミリアは病院では診ないと言われたため、入院中は二度とダンジョンへ行けなくなってしまった。

 

逆に言うとダンジョン以外には外出ができるという事でもある。

 

完全に屁理屈だが。今のところ病院側は何も言ってこない。

 

残りの日数暇をすることになったが筋トレだけは病室内でしている。

 

そんなこんなで日が昇ってすぐの時分。

 

腹が減った、先日のキラーアントのお陰で少しだけだがお金にも余裕があることだし、豊饒の女主人に朝飯を食べに行こうか。

 

縛り付けられたベッドごと立ち上がって起き上がり、窓から外を眺めてそう考えていると、遠くで見覚えのある白髪が見えた。

 

今日も数多くの冒険者がバベルの門を通りダンジョンへと潜っていく。

 

それを眺めているとベルがダンジョンへ向かっているのが見えた。

 

門の近くで大きなバックパックを背負った誰かと対面している。

 

彼よりも小さな背中に大きすぎる荷物。

 

 

 

彼女は選んだ。そして、来たのだ。

 

 

 

 

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