ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか 作:FNBW
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「あ、起きましたよ。神様!」
気が付けば視線の先には空が広がっていた。
どうやら廃墟で眠っていたようだ。崩れた屋根から日の光が差し、眩しくて手で覆う。
身を起こして辺りを見回す。
ここは教会だろうか。崩れた十字架と鐘が寝かされていた長椅子の近くに転がっている。
頭を振って意識を覚醒させる。
少年の声が聞こえたがどこかへ行ったのか辺りには誰もいない。
と、どたどたと教会の地下から物音がする。
白い髪の少年と黒い髪の少女が地下から地上へ出てきた。
「ああ、青年! 無事そうで何よりだ!」
少女はこちらを見るや否や顔を近付けてくる。
その顔や成りからは考えられない凶悪なソレが目前に迫り、思わず距離を取った。
「警戒しなくてもいい、何もしてないさ! 第一、昨日の夜、キミが空から降って来たんじゃないか。むしろ何をされたんだい?」
黒髪のツインテールの少女は、遊女かと思わせる扇情的な服とアンバランスな背丈、顔つき、背丈に見合わぬ凶悪なソレ。
近付いてくるのを手で牽制しつつ、白髪の少年の方を見た。
なんとかしてくれ、と目で訴える。
「あはは…神様はちょっと、人との距離感が近いお方でして」
…神様?
「いかにも!」
少女が長椅子の上に立ち上がる。それでも自分の身長(190cm)よりも低いが、大味な乳房を文字通り震わせ胸を張った。目を逸らす。
「天界から下界へ降りてきた神ヘスティアとはボクのことさ」
…ヘスティア、俺に学がないだけかもしれないが、聞いたことのない神の名前だ。乳の神なのだろうか。
その神様とやらが何の用だ?
「さっきも言っただろう? キミの方からこの教会に落ちてきたんだ。
天井を突き破って。それに鐘も地面に落ちてきたからボクもベル君も近所の皆も起きてしまってね。
ちょっとした騒ぎになったんだよ」
落ちてきた…?
昨日何があったかを思い出そうとして。
自分が死んだことを思い出した。
慌てて服を捲って腹を確認する。
傷一つなかった。指もある。全身の傷がなくなっていた。
どういうことだ…?
「どうかしたのかい?」
「顔色が悪いですよ?」
二人は首を傾げている。
それを聞き流し、思考する。
不気味な老人と話したことを思い出す。
先ほど少女は下界へ降りてきたと言った。鵜呑みにするつもりはないが…
と、二人からの視線で我に返った。
「かなりの高さから落ちたみたいだけど、体に異常はないかい?」
異常か…どこも痛くはないが無一文のところで教会の損害賠償を請求される前にズラかろう。
全身が痛いと腰に手を当てながら廃墟の出口へ歩き出す。
「えぇ!? 大丈夫ですか!?」
このまま押し通せるか。
病院の場所を聞くべきかと出口の前で彼らの方へ向き直ると、少女がじっとりとした目つきでこちらを見上げていた。
「……キミ、オラリオは初めてかい?」
オラリオとは地名だろうか。
首を傾げると彼女は大きくため息を吐いた。
「どうやら、それすら知らないみたいだね。神に会うのも初めてじゃないかな?」
どう答えるべきか。
さっさと逃げるべきか?
「可能性の一つだが、キミはかなり遠くから転移させられてこの地に来たのかもしれないね」
記憶にない。
「その言葉は本当のようだね。良い事を教えて上げよう。神はヒトの嘘を見抜くことができる。たった今、君は体が痛いという嘘を吐いたね?」
腕を組んで少女は半眼になる。
露骨だとは自分で思うが演技が悪かっただろうか。
悪かったと観念して謝ると少女は頷いて笑みを見せた。
「よし、なら一つキミに質問をしよう。君はオラリオがどこにある都市なのか知らない。違うかい?」
知らない。外国だとは思ってはいるが。
「どうやらその言葉に偽りはないみたいだね。君は本気でオラリオという世界的に有名な都市を知らない、と」
世界的に有名?
そもそもここは日本ではないのか?
「僕は田舎からここに来たんですけど、それでもオラリオのことは旅人や商人たちから聞かない日はなかったほどです」
「もし良ければ話を聞かせてくれないかな? 情報交換という事で」
なし崩し的にだが、俺は彼女らに起こったことを話した。
□
「……それは異世界の可能性が高いね」
元いた場所、日本について少し話した。
彼女らからすれば信じられないことだろうが嘘を見抜けるのならば真実であると伝わるはずだ。
話が終わるとヘスティアという自称神様は顎に指を当てて考える仕草をして、そう答えた。
異世界か、あの老人の言っていた『次』というのがこの異世界のことなのだろうか。
老人のことは伝えなかった。
言えば信じてくれるだろうが、情報を全て話すのは得策ではない。
彼らはある程度こちらを信用してくれたのかこの世界のことを話してくれた。
オラリオという迷宮がある都市、バベルと言われる50階建ての塔。
ダンジョン、ファミリアとその主神。大まかな世の中のルール。
地下にはモンスターが生み出される迷宮が存在している。
超越存在である神は神威を放っており誰でも神だと分かるらしい。
そして人間の嘘を見抜くことができる、等。
「ところでキミの名前を聞いていないのだが、これも縁だ。お互い自己紹介といかないかな?」
トロウと短く答えた。
「ベル・クラネルです。14歳です! 今後ともよろしくお願いします、トロウさん!」
握手を求められ、応じる。
ベルとは10も離れているのか、自分の14の頃とは性格が180度違うな。真面目で礼儀正しそうな子だ。
しかし、言葉に違和感があった。
「改めて、ボクはヘスティア。神様だ! これからよろしく頼むよ! トロウ君!」
違和感がはっきりと理解できた。
これからとはどういうことだ。
まさか、と目を剥く。
「ああ! まだ何も言っていないというのになんという洞察力! トロウ君、今後とも、よろしく頼むよ!」
と、神は手を差し出してくる。
話を聞いているのか聞いていないのかどっちだ、と半眼になる。
まさかこのまま押し通そうとしているのでは。
悪徳的な勧誘と同じだ。
「教会を盛大にぶち壊してくれた分、ベル君と君の二人でダンジョンで稼ぐんだ。
大家さんから立ち退きを命じられたが、金さえあればなんとかなるさ! たぶん!」
手を差し出す右手とは反対の左手に借金の金額らしき数字の書かれた紙が見えた。
無一文の上に身分を証明する物もない、一人で路上生活をするか、一緒に借金を返済するかの二択らしい。
差し出された手を握り返すしか道はない。
>>コンゴトモヨロシク
してやったりという顔で神ヘスティアは唯一の団員であるベルと互いに親指を突き立てた。
こちらは中指を立てたくなった。
それからすぐに神ヘスティアは頭を抱えた。
トロウ・ミズイシ
Lv.1
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
《魔法》
【仮面(ペルソナ)】
・心の具現化
・任意発動
・アルカナにより形状変化
・詠唱式【―――】
《スキル》
【■:□:RANK 0】
・心の形、アルカナ
近々、神の宴へ行かなければならないというのに、ヘスティアは胃痛が始まる思いだった。