ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか   作:FNBW

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信頼と信用の価値観

 

ギルドに登録してから四日が経った。

 

何度も何度もダンジョンに通い四日、ベルとはうまくやれていると思う。

 

今日は怪物祭(モンスターフィリア)の当日、朝から町はいつもと違う賑わいを見せている。

 

汲んできた水で顔を洗い、箒で教会の周りを掃除していると子供たちの楽し気な笑い声が聞こえてきた。

 

モンスターの祭と聞いて物騒な連想をしてしまうが、子供たちにとってはただのお祭りらしい。

 

外の掃除を終えて地下に戻ろうとすると、地下の掃除を終えたベルが出てきた。

 

 

「掃除は終わりました! ではダンジョンに行きましょう!」

 

 

了解、と短く答えて身支度に取り掛かる。

 

地下に入る前に、昨日着た服が干されているか確認した。

 

帰ったら毎日手もみで洗濯しなければならないのが面倒だが、今日の日差しだとしっかり乾きそうだ。

 

こちらの世界に来た時の黒のスーツ一式は教会地下の物入れに畳んでいれてある。こちらの服はやや肌触りが悪いがすぐに慣れるだろう。

 

 

少し長くなってきた髪は近い内に切らなくてはならないだろう。

 

教会地下で、ヒビの入った鏡を見て身なりを整え、防具を身に着けて最後にバックパックを背負う。

 

 

「今日は5階層から下に行きましょうか」

 

 

何度か聞かされているが6層にはウォーシャドウがいるらしい。

新米殺しと言われているとチュールさんが言っていた

 

 

「ウォーシャドウを倒して脱新米ですよ!」

 

 

西のメインストリートに出た頃、ベルが今日の予定を立てた。6層行きを頷いて同意する。

 

ベルはいつも以上に気合が入っているがどこか無理している気がする。

 

理由はわかっている。

 

おそらくヘスティアが拠点に帰って来ないからだろう。

 

自分は大して気にしていない。

 

彼女は神である。見た目相応の子供であれば自分も多少は気にするだろうが、大人よりも遥かに長い時を生きているのだ。

 

神が死傷すれば天界に送還され恩恵はなくなるらしい。

 

つまりはまだ恩恵があるのだから無事だということだ。

 

帰れない理由があるのだろう。

 

何か事件に巻き込まれているのでは、と考えてしまう。

 

ダンジョンに潜っている時に恩恵がなくなれば自分とベルの死は必然だろう。

 

もしも今日の夜に帰って来なければギルドに届け出ようと二人で相談して決めた。

 

何もなく帰ってくれると助かるのだが。

 

 

「おーいっ、待つニャそこの白髪頭ー!」

 

 

考え事をしているとベルが呼び止められた。

 

振り向くと豊饒の女主人の店先からあのキャットピープル(ネコ女)が手を振っていた。

 

 

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて、悪かったニャ」

 

 

ぺこりと頭を下げられてベルも釣られて頭を下げた。

 

 

「ちょっと面倒ニャこと頼みたいニャ。コレをあのおっちょこちょいに渡してほしいニャ」

 

 

そう言ってベルにがま口の財布を手渡した。

 

――話が見えないが。

 

困り顔のベルを横に口を開く。

 

ダンジョンへ潜るということは仕事なのだ。ちょっとした小間使いに使ってもらっては困る。

 

…あぁ、ベルには借りがあるのだろうか。勝手な真似をしてしまったかもしれない。

 

速攻で自己嫌悪する。口を出してしまってからでは遅い。

 

 

「アーニャ。それでは説明不足です。彼らも困っています」

 

 

二人して困っているとエルフが割り入った。

 

 

「リューはアホニャー。店番サボって祭り見に行ったシルに、忘れていった財布を届けて欲しいニャんて、そんニャこと話さずともわかることニャ。ニャア、白髪頭?」

 

「というわけです。言葉足らずで申し訳ありませんでした」

 

 

なるほど、そういうことか。

 

どうやらシルさんは休暇らしく、モンスターフィリアを見に行ったらしい。

 

曰く、モンスターフィリアとは闘技場でモンスターを調教する様を見せる催しらしい。だから檻に入れて移動していたのだろう。

 

 

「闘技場に繋がる東のメインストリートはすでに混雑しているはずですから、まずはそこに向かってください。

人波に付いていけば現地には労せず辿り着けます」

 

「わかりまし…あっ! トロウさん、どうしましょう?」

 

 

返事をしようとしたベルが慌ててこちらに聞いてくる。ダンジョンに行くつもりだったが、もしかするとシルさんを探すのに一日使うかもしれない。

 

断ればベルも嫌とは言わないだろうが、どうするか。

 

 

――団長はお前だ。

 

 

「う、うーん…」

 

 

意地悪な言い方だっただろうか。だが、こういう決断を迫られる時はおそらく何度もあるだろう。

 

言葉の責任を持ってほしい。もっと欲を言えば判断力を養ってほしい。

 

 

「ニャぁ、お兄さん。確かにダンジョンに行くのは大事ニャ。でも…」

 

 

部外者は黙っていてくれ。

 

 

考え込むベルを黙って待つ。どちらを選んでも従うつもりだ。

 

ヘスティアが帰って来ないという状況の為か、ベルはやや無理をしている。

 

モンスターフィリアでシルさんと遊ぶのもいい息抜きだと思う。

 

だが判断するのはベルだ。

 

おそらくベルは頼ってくれている彼女らと先に約束をしていた俺を天秤にかけているのだろう。

 

頼りにされて借りもあるのだ。俺がいなければ間違いなくダンジョンに行くのをやめてモンスターフィリアに向かっていただろう。

 

目を閉じて考え込んでいたベルはしばらくして口を開けた。

 

 

「すみません、トロウさん。シルさんには恩があるんです…」

 

 

――了解、もちろん俺も手伝う。二人で手分けした方が効率が良いだろう。

 

 

といっても、シルさんの髪の色はこのオラリオではそう珍しくはない。何か特徴はないか、とリューと呼ばれたエルフの方を向くと。

 

 

「おっさん! ちょっとこっち来いニャ!」

 

 

すごい剣幕でネコ女に首元を掴まれて店前まで連れて来られる。

 

すぐに彼女の手首を握って振り解こうとするがビクともしない。どういうことだ。

 

 

「おっさんがシルを見つけたんじゃ意味がないニャ!察するニャ! ミャーでも察したニャ!」

 

 

何を言ってるんだこの小娘は。

 

おっさんは違うときっちり否定しておく。

 

というか、さっきお兄さんと言ってただろう。

 

 

胸倉を掴んで揺すってくるネコ女に本気で抵抗しているが力で勝てず、その合間にエルフが再び割って入ってきた。

 

 

「シルはクラネルさんの事をいたく気に入っているのです。

だから可能であれば、クラネルさんがシルを見つけるのが理想、ということです」

 

 

気に入ってる…? ああ、そういうことだったか。

 

つまりコレか、と小指を立てて見せる。

 

二人とも小指を立てて見せて頷いた。

 

 

「であるので、ミズイシさんにはクラネルさんと一緒にシルを探してもらいます。

それであわよくば二人きりに。シルは紺色のローブを被って頭を隠しているのでそれを目印にしてください」

 

 

とりあえず一緒に行動して見つけることになった。見つけてからはベルに任せればいいか。

 

 

「ミズイシさん、これを」

 

 

エルフが掌サイズの麻袋を手渡した。

 

 

「迷惑料です。零細のファミリアなら一日ダンジョンに向かわなかっただけでも損失が出るでしょう。

これは、私からの気持ちということで」

 

 

中にはヴァリス金貨がぎっしりと詰まっていた。

 

 

――これは仕事ではない。

 

 

速攻で突き返した。

 

金をもらったら完全に仕事になる。

 

仕事ではないし仕事にしたくもない。

 

どうしてもと言うならば貸しにした方が無難だろう。

 

 

「貸し…ですか」

 

 

酒場でお酌でもしてもらいたい。

 

あの店高いしそうそう行かないが。

 

 

「分かったニャ」

 

 

お前は何もしなくていい。

 

 

「クソ生意気ニャおっさんニャ…」

 

 

またおっさんと言いやがった。その言葉忘れないからな。

 

 

「シルはさっき出かけたばっかだけど、このおっさんのせいで追い付けるかわからニャい」

 

「わ、わかりました。急ぎます」

 

 

効果有りとみたのか、おっさんを強調してくるクソネコ女。効果は抜群だ。

 

背負っているバックパックを顔面に投げつけてやるといとも容易く受け止められた。

 

にやりと笑う顔に軽く歯軋りして背中のメイス投げつけて躓かせた。

 

マジ切れして襲い掛かろうとしたが即座にエルフに組み付かれた。

 

 

「トロウさん。急いで見つけてダンジョンに向かいましょう! どっちもできるかもしれません」

 

 

 

駆け出したベルの後に続いた。

 

 

 

 

 

特徴は紺色のローブ。それから、女性が立ち止まりそうな露店はくまなく探すべきだろう。

 

 

 

足はベルの方が早いが、ある程度離れても俺の高身長だとベルは見つけやすく、白髪頭のベルを俺は見つけやすい。

 

メインストリートにいる以上ははぐれる心配はないだろう。

 

しばらくそうして探していると闘技場が近づいてきた。円形の巨大施設だ。

 

しかし、見つからない。すれ違っているのだろうか。

 

もしかすると闘技場の中に入っているかもしれない。観客席なら見回せば分かりやすそうだが、入場するのに金がかかるだろう。その場合はどうしたものか。

 

と、ベルの姿を目に入れつつ左右の確認をしていた時だった。

 

路地裏で紺色のローブが見えた。その人物は丁度角を曲がる瞬間で男性か女性かも分からなかった。だが紺色のローブを着ていた。

 

彼女よりも身長が高い気もするが、確認は必要だ。

 

 

人が誰も通っていない路地に入り角を曲がる。

 

その先に紺色のローブの人物が立ち止まっているのが見えた。

 

尾行がバレたのだろう。忍ぶ気もない、堂々と近寄ろう。

 

 

「……何か? 急いでいるのだけれど」

 

 

その姿を見た瞬間、脳が焦げ付くように意識が遠退いた。

 

ローブを着ていたのはやはり女性だった。

 

だがシルさんとは違う。彼女を超えた美貌の持ち主だった。

 

美しすぎる。

 

振り切れた美しさ、これは魔性なんてモノじゃない、毒に近い。

 

人違いでした、という言葉が出てこない、口を動かせない。

 

意識がどんどん遠退いて、視界が黒く染まり――

 

 

「あー! トロウ君じゃないか!」

 

 

彼女の声に引き戻された。

 

その声の方へ反射的に視線が行った。

 

黒髪ツインテールのロリ巨乳、ヘスティアがローブの女性の隣に立っていた。

 

先ほどまでの圧迫感はなくなり、頭も痛くない。

 

夢現から現実に引き戻された気分だ。

 

 

「こんなところで何してるんだい? それに君は…フレイヤじゃないか。奇遇だね」

 

 

フードの主に向かってヘスティアは微笑んだ。

 

フレイヤ…その名は知っている。ゲームなど、神話に出てくる女神だ。

 

こちらを向いたその神物は銀の髪をした大人の女性だった。シルさんではない。

 

人違いだった。すみません、と謝る。

 

「…誰と間違えたのかわからないけれど、彼女の言う通り、私はフレイヤ。ただの女神よ」

 

重ねて謝る。知り合いと勘違いした、と。

 

 

「……そう。ヘスティア、私はもう行くわ」

 

「そうかい? また時間があったら話そうか」

 

 

そう言ってフレイヤという神は踵を返し、路地の奥へ去っていく。

 

姿が見えなくなると全身から汗が噴き出た。

 

 

「…無事かい? あの距離でフレイヤを直視すれば大抵ああなるんだ。彼女は美の神だからね」

 

美の神…?

 

「魅了(チャーム)してしまうのさ。大衆は彼女がただそこにいるだけで勝手に魅了される。だからこそああして姿を見えないようにして、隠れるように移動するしかないんだと思う」

 

 

 

魅了という状態異常になったということか。

 

あまりいい気分じゃない、好きになるとかいう次元ではなく、彼女しか頭に入らないという思考を変えるような異常。恐ろしくも思う。

 

頭を振ってヘスティアに向き直る。

 

シルさんは見つからなかったが行方知れずだったヘスティアが見つかったのは良かった。

 

 

「あーごめんよ? ちょっと友神の家で野暮用ができちゃって…」

 

今は理由はとにかく、ベルと合流しよう。

 

元来た道に向かって歩き始める。

 

ヘスティアがそれに続こうとして、躓いた。

 

躓いた音が聞こえて反射的に手を伸ばした。

 

ギリギリ間に合った。

 

 

「ああ、すまないね。ちょっと安心しすぎたみたいだ」

 

 

うっかりしているな、などとは思わない。

 

どういうことだ、と彼女の顔を見ると化粧で隠しているが確かに目元に隈ができている。疲労による立ち眩みかもしれない。

 

神はその能力や権能を使わなければ、身体能力は人と大差ないということをベルから聞いている。

 

彼女はその精神こそ人間よりも遥かに成熟しているだろうが、肉体は年相応だ。

 

一体何があったのか。

 

 

――俺(眷属)たちに言えないことなのか。

 

 

「違うんだ!本当になんでもないんだ!」

 

 

慌てたようにヘスティアは取り繕うがその目をずっと見ていると、諦めたようにため息を吐いた。

 

 

「どうにも弱いね…。トロウ君、手を出してくれないかい?」

 

 

ヘスティアが背中に背負っていた布巻を剥がすと、黒い棒が顔を出した。

 

 

「杖さ。君がボクの眷属になった時、ステイタスに魔法があっただろう?

どんな魔法か分からないけれど、杖があれば安定して魔法を発動することができる…と聞いた。

刃物と並行して作ったからデザインには目を瞑ってくれ!」

 

 

ヘファイストスの奴が、と愚痴を始めた。

 

 

まさか自分たちの武器を作っていたのか。

徹夜で? 四日間も?

 

「そうとも。と言っても、ボクの友神がほとんどやって、ボクはただ鍛冶場に立って見様見真似で打ち込むだけだったけどね」

 

 

それでも素人と熟練者がやるのでは疲労の溜まり方が違うだろう。

 

ベルは分かる。会って間もないが彼女がベルに気があることは分かりやすい。

だが、どうして…

 

 

――どうして俺まで?

 

 

会ってまだ数日、彼女と面と向かって過ごしたのはたった一日だ。

 

そんな相手にどうしてそこまでする。

 

嘘を言っているようには見えない、本気で俺の武器をベルの武器と同じくらいに苦労して作ったのだろう。

 

何か裏があるのか、それだけダンジョン探索に力を入れろということなのか。

 

俺の言葉にヘスティアは眉をひそめた。どうしてそんなことを聞くのか本気で分からないようだ。

 

俺にはそれが理解できない。

 

 

「ボクらは、家族だろう?」

 

 

家族、その言葉に胸が痛くなる。

 

初めて聞いたわけじゃない、日本でも家族と言ってくれる仲間はいた。

 

だが、家族と言ってくれた彼らが自分を殺したのだ。

 

裏切られた。その果てに殺された。

 

彼らから見て自分は都合のいい男だったのだろう。

 

同志に体を縛られ滅多刺し。

 

それが、自分の、日本での最期だった。

 

だからこそ、俺は人を信じるなんて反吐が出るくらいに嫌いだ。

 

利害を見て互いにメリットのある関係を作るのは社会の鉄則で、そこには信じる心など必要ない。

 

彼女は人格者だ。神だから神格者と言うのだろうか。

 

家族だと、期待してくれている内は答えなくてはならない。

 

人が信じられない自分なりのケジメや礼を尽くさなくてはならない。

 

 

「トロウ君。教会で渡したかったけれど、今、受け取ってくれるかい?」

 

 

手に取ってそれを見つめた。

 

黒いロッドは血管のような青い筋がいくつも入っている。装飾は何もなく、先端にも何も付いていない本当に棒切れのような外観。

 

綺麗で、力強いと思った。

 

ひやりとした感触が手に伝わる。

 

 

「ボクは、神だ。神はダンジョンへは入れない。できることは眷属(こども)たちを見守ることだけ。

他の神はどうなのか知らないけど、ボクは君たちを家族だと思っているよ。だから、せめて家族のためにできることはないかと考えた。

こんな小娘みたいなボクだけど」

 

 

隈のできた顔でにやりと悪戯っ子のような笑みを見せた。

 

 

「君の事、信頼したいからさ」

 

 

―――。

 

 

……重い。

 

「あれ!? おかしいな、君なら余裕で持てると思ったんだけど! むしろボクがここまで持ってくるのがかなり辛かったんだけど!」

 

 

そうじゃない、と言おうかと思ったが止めた。

 

この重みに答えられるようにしないとな、と心の中で思った。

 

ダンジョン内で背中に差していたメイスの位置にロッドを差し込んだ。

 

長さは丁度メイスと同じくらい。両手でも片手でも振るうことができる。

 

 

>>ありがとう

 

「んんっ! 今なんて? 今の言葉もう一度言ってくれないかい!?」

 

 

 

ふら付くヘスティアに手を貸しつつ路地を出た。

 

柔和な笑みを見せる彼女の顔を、俺は直視できなかった。

 

これをもらう資格など、やはり俺にはないのだから。

 

 

 

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