ダンジョンでコミュを築くのは間違っているだろうか   作:FNBW

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信頼に答えなくてはならない、信用を得なくてはならない

 

「いやぁー、それにしても素晴らしいね! 会おうと思ったら本当に出くわしちゃうなんて!

やっぱりボク達はただならない絆で結ばれているんじゃないかなー、ふふふっ」

 

それからのヘスティアはすごかった。

 

寝不足の覚束ない足取りでベルに抱き着いて頬ずりしたりと、泥酔の酔っぱらいを超えた絡みの強さをしている。

 

素面で。

 

一晩明けたら顔を真っ赤にしていそうだ。

 

 

「ベル君、ベル君」

 

「あ、はい。何ですか?」

 

「あーん」

 

「……へあっ!?」

 

 

若いなぁ、とその光景を微笑ましく見る。

 

これまで自分にはそんな事など一瞬たりとも訪れなかったのだが、見ているとつい自分が年を取ったと思ってしまう。

 

羨ましいと欠片も思わないのは何故だろうか。

 

畏敬すべき主神への理性がガリガリ削れつつあるベルに声をかける。

 

――こっちでシルさんを探すから、後よろしく。

 

「トロウさん!? なんか達観していませんか!?」

 

 

シルさんやあの二人には悪いが、仕方がない。優先順位の問題だ。

 

俺が先にシルさんを探して、ベルと彼女が会えるように場を整えればいいか、と走ってその場を去った。

 

ベルが俺の名前を叫んでいたが聞かなかったことにした。

 

一人になり、先ほどと同じように女性が行きそうな露店を回る。

 

女性ものの服や下着にはベルを行かせるようにしていたが自分が行かざるを得ない。

 

数々の女性に白い目で見られながら衣類の露店も隈なく探す。

 

元々ベルと手分けして大半の露店を探し終えた後だったからか、すぐに闘技場まで探し切ってしまった。

 

すれ違ったか闘技場の中に入ったか。流石に中には入れないだろうな、と闘技場の外周をしばらくぶらついていると、辺りが騒がしくなった。

 

人の集まりができていて、近付くとギルドの制服を着た職員と象の意匠のついた服を着た調教師が屯していた。

 

 

「ミズイシさん? どうしてここに」

 

 

そこにはチュールさんの姿もあった。シルさんのことを聞こうとすると、横から別の職員が口を挟んだ。

 

 

「エイナの担当? 丁度良かった」

 

「いえ、彼はまだレベル1です。散らばったモンスターの掃討は無理ですよ」

 

「なら市民の誘導を」

 

「それなら…」

 

 

ほとんど話したことはないが、一目見てチュールさん以外のギルド職員がこの場に集結していることが分かった。

 

何かあったのは間違いない。面倒なことにならなければいいが。

 

チュールさんは咳ばらいを一度して、取り乱しましたと謝った。

 

 

「フィリア祭のモンスターが脱走しました。犯人は不明、モンスターの被害を大きくなる前に止めなくてはなりません。

それに加えて市民を避難させるために誘導も必要。でもどちらも人手不足で…」

 

 

――把握。で、俺は市民の避難誘導をしてほしい、と?

 

 

「お願いできますか。ミズイシさん」

 

 

了解、と短く答えた。

 

普段なら適当に理由を付けて断るのだが、ギルドや主催のファミリアと繋がりを作るには丁度良い。

 

何よりも。

 

『ボクらは、家族だろう?』

 

彼女に証明しなくてはならない。

 

背中のロッドを背負ったままなぞる。

 

 

そう言ってガネーシャファミリアの男たちの下へ向かおうと足を踏み出した。

 

その時だ。

 

 

「なるほどなー。ありがと兄ちゃん、聞く手間が省けたわー」

 

 

振り向くと赤毛の女性と金髪の少女が立っていた。

 

金髪の方はまだ子供だろうか。成人していない幼さが残った顔つきをしている。

 

 

「ア…アイズ・ヴァレンシュタイン!!」

 

 

ギルドの職員たちがざわめき出した。

 

有名人だろうか。首を傾げる。

 

 

「彼女のこと、知らないんですか? 名前も?」

 

 

二人の周りに職員が集まる中、チュールさんが小声で話しかけてきた。

 

 

「ヴァレンシュタイン氏はレベル5の凄腕冒険者です。逃げたモンスターの適正レベル的にはかなり心強い。

というかベル君から何も聞いてないんですか?」

 

 

初耳ですが?

 

どうやらベルと因縁があるようだ。ベルの幅広い女性関係に一抹の不安を感じるが、それは後で考えよう。

 

しかしなるほど、とりあえず脱走したモンスターは彼女に任せればいいらしい。

 

で、隣の赤毛は誰なんだ?

 

 

「主神のロキ様です。彼女も知らないんですか?」

 

 

――え、女?

 

あのロキが…女?

 

日本ではむしろ知らない人が少ないくらいに知名度のある名前だ。

 

神が出てくるゲームではフレイヤ以上に必ずといってもいいくらいに出てくる。

 

悪戯者(トリックスター)の代名詞、悪神という認識を持っている。

 

男神だったはずだが。

 

 

「なぁんか、めちゃくちゃ失礼な言葉が聞こえたなぁ? 女に見えないんかなぁ、なんでかなぁ?」

 

 

糸目をかっ開いて件の神がこちらを睨んだ。咄嗟に目を背けた。

 

聞かれてしまったようだ、こちらの認識している通りの神ロキならば、目を付けられたくない相手なのだが。

 

とりあえず何か返答しなくては、と彼女の方に向き直る。

 

改めて見てもその胸は平坦であった。女だとは声で分かるが。

 

 

――すごい…関西弁ですね。

 

 

「関西? なんやソレ?」

 

 

苦しすぎる、どうすれば。

 

 

「ロキ様! ヴァレンシュタイン氏が先に行きましたよ! いいのですか!」

 

「おっと、アイズたーーーん!」

 

 

両手を上げてヴァレンシュタインさんの下に走っていくトリックスター。

 

覚えておこう。女だと。あと関西弁。

 

神ロキの姿が見えなくなってからチュールさんはため息を吐いた。

 

 

「神ロキは女性的なコンプレックスをひどく気にしています。…さっきの言葉は彼女じゃなくても怒りますけどね?」

 

 

そこに触れたつもりはなかったのだが。俺以外にはわかるはずもなし。

 

とはいえ…ウチの主神と出会ったら喧嘩になりそうだ。

 

天地の差、というのはこれのことだろう。ヘスティアは話す度に揺れるから非常に目に毒だ。

 

 

「そういえば、ヘスティア様とは先ほど出会いましたよ。ベル君と一緒に」

 

 

既に会っていたのか。おそらくシルさんを探している時に会ったのだろう。

 

ちゃんと祭を満喫しているだろうか。

 

 

「ええ、しっかり楽しんでいましたよ。人探しもしているみたいでしたが」

 

 

二人はデートしながらシルさんを探しているらしい。修羅場になりそうな予感がする。

 

そうだ、彼女にもシルさんを探してもらおう。

 

 

「見てませんねぇ。ベル君が探しているヒューマンの女性と同じですか?」

 

 

そうだと答える。

 

見つけたら教えてもらいたい。避難誘導中に自分が見つければそれでいいが。

 

 

「会えば声をかけますが、こんな状況ですので期待はしないでくださいね」

 

 

とりあえずチュールさんの手を借りられることになった。貸しを作れたと思ったがこれで相殺だろうか。

 

話を終えたあたりでガネーシャファミリアの調教師が避難誘導の招集を行った。

 

ギルドの職員たちが急ぎ足で集まる中、俺とチュールさんも向かった。

 

 

 

それからしばらく経ち、闘技場の正面玄関。

 

あらかた人は出て行ったが、足の遅い老人がまだ取り残されていたりと避難は終わっていない。

 

そしてシルさんは見つからなかった、流石にもう闘技場の中にはいないだろう。

 

中にいたとすれば先に誘導されて避難していたか、別門から出たか。

 

脱走したモンスターの被害にあっていなければいいのだが。

 

ベルとヘスティアも心配だ。進んでモンスターと戦いでもしなければ、今頃は他の避難している市民と一緒に安全な場所に行っているだろう。

 

日本であれば携帯などで連絡がとれるのだが、ないと不便に感じてしまう。

 

このまま問題なく避難が終わればいいのだが。

 

と、不安を覚えた時のこと。

 

ぐらり、と地面が揺れ始めた。

 

立っていられないほどの揺れの強さ、市民の悲鳴と倒れる人が周りで見える。

 

揺れが長い…このまま揺れが続くと闘技場はともかく周辺の家が倒壊する可能性がある。

 

まともに走れないほどの揺れだがこの場を離れようと手を使いながら歩く。

 

その時、爆発音と同時に近くの石畳が割れ、長い蔓のような物が生えてきた。

 

闘技場の一角を破壊して土煙と共に天高く昇ったそれを見て唖然とする。

 

 

なんだあれは、モンスターなのか?

 

 

「き――きゃああああああああっ!?」

 

 

誰かの叫び声で我に返る。

 

蔓だか蛇だか分からないが、地面から生えている以上この場を離れれば脅威ではないだろう。

 

路地に入り、身を隠す。自分の他にも何人もの市民が同じ路地を通っていた。

 

死に物狂い、という言葉が合うほど必死に、時に誰かとぶつかりながら我先へと逃げている。

 

大きな打撃音がモンスターの方からして、路地から顔だけを出した。

 

逃げ遅れた市民たちを守るように二人の褐色の少女がモンスターと相対していた。

 

武器がないのか、モンスターに有効打を与えられていないように見える。

 

まだ逃げ遅れた市民たちも残っている。避難させなくては。

 

 

「「レフィーヤ!?」」

 

 

叫ぶ声に釣られて目をやると、いつの間にか戦闘に加わっていたエルフの少女の腹を地面から生えた触手が貫いていた。

 

モンスターはエルフの少女を投げ飛ばし、喀血した少女が宙を舞った。

 

路地を飛び出した。

 

落下地点までの距離を滑るように走って、地面に叩きつけられる直前に少女を受け止めた。

 

年端も行かないエルフの少女だった。浅い呼吸で息をするのも辛いのがわかる。

 

咳と共に黒い血の塊が少女の服に落ちた。傷が臓器にまで達している証拠だ。

 

――致命傷だ。

 

すぐに止血、臓器の修繕を施さなくては確実に命に係わるだろう。

 

抱き上げる手に力が抜けるが、恩恵を持った冒険者ならばまだ助かるはずだ。

 

これまでの常識と比較するべきではない。

 

再び指に力を込めた。

 

 

「逃げ……」

 

 

エルフの少女の声を聞いた時には遅かった。

 

もう一体(・・・・)の触手による横薙ぎ、避け切れない。

 

愚かなことをしたと思った。敵の懐に入り込んで何をしり込みしているのか。

 

少女があまりに重傷だったから?

 

敵が増えるのは予想外だった?

 

言い訳にならない。

 

俺にできることは一つ、少女に横薙ぎが当たらないようにかばうことだけだった。

 

 

 瞬間、体が砕けるような激痛が駆け巡った。

 

 

痛みで体から発する音が聞こえなかったのは運が良かったに違いない。

 

もしも体の骨が砕ける音を聞いていれば、心までも砕けていた。

 

白くぼやけた視界で、意識が定まらない。

 

どうやら建物の壁にぶつかって背中と頭を打ち付けたらしい。

 

うめき声を出す前に口から血反吐がゆっくりと垂れてきた。

 

狭くなっていく視界の中でエルフの少女が地面を這いながらこちらに向かって来るのが見えた。

 

自分も死にかけているというのに歯を食いしばって必死に何かこちらに向かって話しかけている。

 

逃げて、と言っているのだろうか。

 

それを見て自分がとても悪いことをした気分になった。

 

どうしてこんなバカな真似をしたのか。

 

日本にいた頃の自分ならさっさとこの場を離れていたはずだ。

 

自分の実力(神の恩恵)を過信していたか、それともヘスティアの言葉を意識しすぎたか。

 

ようやく血を吐き出し終え、呼吸を始める。一度息を吸うだけで全身を焼き尽くすような痛みが体に響いた。再び喀血する。

 

しきりに暗転する意識の中で、自分とエルフの少女を黒い影が覆った。

 

縦に伸びた触手は容易くエルフと俺の場所まで圧し潰すだろう。

 

立ち上がることはできない、避けることはできない。

 

二体のモンスターに阻まれ二人の褐色の少女も、間に合わない。

 

闘技場の壁を蹴って最速で飛来する金髪の少女も、間に合わない。

 

ここに、命運は決した。

 

ああ、もう死ぬのか。

 

諦めるように、目蓋を閉じ――

 

 

『君の事、信頼したいからさ』

 

 

まだ早いと目を見開いた。

 

瞬間。辺りの景色が、色が、凍った。

 

時の流れが凍結し、固まる。そんな感覚。

 

潰れるより先に自分が死んだのか、そんな間抜けた想像をする。

 

全てが止まった色のない世界で、青い蝶が目の前を通り抜けた。

 

目で追うと同時に気が付いた。

 

ヘスティアからもらった棒切れ(ロッド)が自分のすぐ近くに落ちている。

 

青い蝶はロッドの上に止まり、溶けるように消えていった。

 

僅かに残る意識を、集中させた。

 

立ち上がれない、避けられない。

 

ならば、できることは一つだけだろう。

 

這うように手を伸ばす。

 

魔力はない。

 

詠唱も知らない。

 

だが、できる。

 

 

「――ぺ」

 

 

――手を伸ばす。

 

体から激痛が走る。

 

抜き取るもの(対価)など何もないというのに。

 

残り僅かな意識が沈んでいく。

 

 

「――ル」

 

――手を伸ばす。

 

口から喀血する。

 

呪いのような言葉を吐き出す。

 

意識が消える、その前に。

 

 

「――ソ」

 

 

――握り締める。

 

もはや感覚など残っていない。

 

あるのはこれから訪れる明確な死のイメージ。

 

一度死んだのだ、死の感覚くらい覚えている。

 

それは避けられないことだと、身を以て知っている。

 

目蓋が降りる寸前、螺旋階段(ベルベットルーム)が見えた気がした。

 

 

「―――」

 

 

最後に、自分はなんと叫んだのか。

 

虚脱感を最後に、意識は途絶える。

 

空気を震わす獣のような産声がとても遠くで聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

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